テレワークは廃止すべき?企業の動向や継続するためのポイントを解説
働き方
近年コロナ禍の影響を受け、テレワークを導入した企業が増えました。しかし、感染症の流行状況が少しずつ好転してきているため、テレワークの廃止を検討している企業も多いようです。
テレワークの廃止を検討する際は、テレワークを導入した企業の現状や廃止による影響を把握しておくことが大切です。安易に廃止にしてしまうと、企業や従業員にネガティブな影響をもたらす可能性もあります。
この記事では、テレワークを導入した企業の現状や廃止理由を解説します。廃止による影響や廃止または継続の判断ポイントも解説するので、自社での方針を固める際に役立ててください。
目次
テレワークを導入した企業の現状
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、テレワークの導入を余儀なくされた企業も少なくありませんでした。状況が落ち着きつくにつれ、企業としてテレワークの廃止を進める流れもありますが、一方で従業員側からは継続を求める声も多いようです。
■テレワーク実施率は減少傾向にある
公益財団法人日本生産性本部の「第12回働く人の意識調査」によると、2023年1月は2020年5月に比べ、すべての規模の企業でテレワークの実施率が減少していることがわかっています。
年月 | 全体 | 従業員100名以下 | 従業員101~1,000名 | 従業員1,001名以上 |
2020年5月 | 31.5% | 22.5% | 33.0% | 50.0% |
2020年7月 | 20.2% | 14.2% | 17.7% | 35.4% |
2020年10月 | 18.9% | 11.4% | 21.1% | 32.4% |
2021年1月 | 22.0% | 14.4% | 21.6% | 38.6% |
2021年4月 | 19.2% | 11.5% | 19.8% | 36.0% |
2021年7月 | 20.4% | 14.9% | 22.2% | 34.7% |
2021年10月 | 22.7% | 14.3% | 29.4% | 37.0% |
2022年1月 | 18.5% | 11.1% | 22.0% | 29.8% |
2022年4月 | 20.0% | 11.1% | 25.3% | 33.7% |
2022年7月 | 16.2% | 10.4% | 17.6% | 27.9% |
2022年10月 | 17.2% | 11.5% | 18.7% | 30.0% |
2023年1月 | 16.8% | 12.9% | 13.2% | 34.0% |
※出典:公益財団法人日本生産性本部「第12回働く人の意識調査」
全体では14.7ポイント、従業員101~1,000名の企業では19.8ポイント減少しています。従業員1,001名以上の企業では2020年7月以降30%程度を維持しているものの、2020年5月に比べて16ポイント減少しています。
■継続を望む従業員は多い
公益財団法人日本生産性本部の「第12回働く人の意識調査」では、テレワーク実施企業の従業員を対象にした調査も実施しています。「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対し、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した従業員の割合は84.9%でした。(2023年1月)
項目 | 割合 |
そう思う | 45.4% |
どちらかと言えばそう思う | 39.5% |
どちらかと言えばそう思わない | 9.7% |
そう思わない | 5.4% |
※出典:公益財団法人日本生産性本部「第12回働く人の意識調査」
2020年5月の62.7%に比べると、2023年1月は20%上昇しています。テレワークの継続を望む従業員は多いため、本当に廃止するかを自社で十分に検討する必要があります。
テレワーク廃止に踏み切る企業の理由
感染症対策としてテレワークを導入した企業のなかには、すでに廃止を決断したケースもあります。廃止の決断に至った理由には、テレワークによるさまざまな課題が大きく影響しています。
■感染症に対する暫定措置だったため
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年4月には1回目の緊急事態宣言が発令されました。同時期には感染症拡大の防止を目的として、国や自治体が企業にテレワークの実施を推奨しています。
それ以降、感染症に対する暫定的な措置として、テレワークを導入した企業も増えました。緊急事態宣言発令前後では、テレワークの導入率が急激に高まっています。総務省の「令和3年情報通信白書」によると、1回目の緊急事態宣言発令時には、テレワークの実施率が3倍以上に上昇したことがわかっています。
期間(2020年) | 全体 | 大企業 | 中小企業 |
3月2日~3月8日 | 17.6% | 33.7% | 14.1% |
3月27日~4月5日 | 25.3% | 48.0% | 20.9% |
4月23日~5月14日 | 55.9% | 83.3% | 50.9% |
5月28日~6月9日 | 56.4% | 83.0% | 51.2% |
※出典:総務省「令和3年情報通信白書」
新型コロナウイルス感染症は一時期よりも感染者数が減少、第5類感染症への移行も決まっています。状況が落ち着き始めたことから、あくまでも感染症の対策として一時的にテレワークを導入していた多くの企業で、従来の「オフィスに出社するワークスタイル」に戻す動きがあります。
■コミュニケーション不足を解消するため
テレワーク導入後、従業員同士が直接顔を合わせる機会が減ったことを起因とした、コミュニケーション不足を課題に抱える企業が増えました。厚生労働省の「テレワークを巡る現状について」でも、コミュニケーション不足の課題が浮き彫りになっています。
テレワークの課題 ※数値が高い順に第5位まで |
割合 |
自分で自分の時間を管理すること | 42.8% |
仕事とプライベートの区別がつかないこと | 40.4% |
運動不足になること | 38.4% |
上司・部下・同僚とコミュニケーションがとりにくいこと | 37.7% |
テレワーク/リモートワークできる仕事には限界があること | 34.2% |
コミュニケーション不足は、業務効率や生産性の低下につながる可能性があります。社内のコミュニケーション不足を解消するために、テレワークの廃止に踏み切る企業もあります。
社内コミュニケーションを活性化する方法とは|課題に対する解決策も紹介
■従業員のエンゲージメント低下が懸念されるため
テレワークは企業との物理的・心理的距離感が生じやすいため、従業員のエンゲージメントが維持できない可能性があります。エンゲージメントとは、企業に対する愛着心や思い入れのことです。
近年、価値観の多様化や少子化による労働者不足により、企業では従業員のエンゲージメントが注目されるようになりました。従業員のエンゲージメントが高められると、生産性や定着率の向上が期待でき、企業にとって軽視できない要素です。
■従業員の平等性を維持するため
テレワークは職種によって向き不向きがあるため、すべての従業員に適用できるとは限りません。たとえばお客様と対面でやりとりをするような営業職や販売職はテレワークには不向きです。
さまざまな職種を抱える企業では、テレワークができない職種もあるため、不満を感じている従業員もいるかもしれません。また、自宅ではテレワークに必要な環境が整備されておらず、断念せざるを得ない従業員がいる可能性もあります。従業員の平等性を維持するために、テレワークを廃止する動きもあります。
■生産性の低下が懸念されるため
テレワークの課題には、仕事とプライベートを区別しづらいことがあげられます。特に自宅の場合は生活スペースの一角で仕事をするため、公私の切り替えが難しく、生産性の低下につながる可能性があります。
さらに、テレワークはオフィスのような業務環境が作れず、チームメンバーの状況が把握しにくいなど、管理面でも影響が出やすくなることがあります。そのため、テレワークはオフィスに出社する場合に比べ、生産性が低下しやすい傾向にあります。
以上のような理由により、テレワークの廃止を判断する企業もあります。
テレワークの廃止による影響
テレワークを導入したもののさまざまな課題に直面し、廃止に動いた企業も少なくないという現状はすでにお伝えしました。しかし、廃止することによって新たな課題が生じる可能性もあるため、対策を考えておく必要があります。
■離職率の上昇につながる可能性がある
前述したとおり、公益財団法人日本生産性本部の「第12回働く人の意識調査」では、テレワークの継続を望む従業員が多いことがわかっています。
※出展:公益財団法人日本生産性本部「第12回働く人の意識調査」
テレワークに働きやすさを感じていた従業員は、廃止によって離職を選択する可能性もあります。多くの企業が労働者不足に課題を抱える現在、従業員の離職は避けたい事項の一つです。テレワークの廃止に伴う離職率の上昇は、優秀な人材を手放すリスクにつながるkとおもあるため、企業は従業員の声を聞くことも大切です。
■ワーク・ライフ・バランスを崩す要因になり得る
ライフスタイルや価値観の変化などにより、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えています。テレワークは従業員にとって通勤時間が減り、柔軟な働き方ができるといったメリットがあります。
テレワークが実施されている期間は通勤そのものの負担が軽減されただけでなく、これまで通勤時間に充てていた時間を家事や育児、趣味に充てることもでき、プライベートの時間が確保しやすく、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい環境でした。テレワークが廃止されるとオフィスに出社する必要があります。通勤時間が発生し、その結果、従業員のワーク・ライフ・バランスを崩してしまう可能性があります。
ワーク・ライフ・バランスとは?取り組み例やメリットを徹底解説
■オフィス環境の整備が必要になる
テレワークを機に従業員同士のミーティングや取引先との商談などをオンラインで行うようになった企業も多いでしょう。出社を前提の働き方に変更したとしても、Web会議やオンライン商談は変わらず行っていくということであれば、オフィスにオンラインワークに適した環境を整備する必要があります。
Web会議などのオンラインワークをおこなうには集中ブースの設置やパーテーションを使ったワークスペースなど、周囲の視線や音を気にせず業務できる環境が大切です。整備方法やオフィス状況によりかかる費用は異なりますが、社員全員が不自由なくオンラインワークができる環境を整えるにはそれなりの費用がかかるでしょう。
オフィスによっては新たに業務環境の整備が必要となり、その分の費用が上乗せされる可能性があります。
オフィスに「集中ブース」を設置するメリットとは?設置方法やおすすめブースもご紹介
■BCP対策の見直しが必要になる
テレワークは万が一災害が発生しても事業を継続できるため、BCP対策として有効です。BCP対策とは緊急事態に遭遇したときに、被害を最小限におさえつつ、事業が継続できるように何らかの対策を策定する、リスクマネジメントの一つです。
たとえば、地震が発生して公共交通機関が利用できず出社できなくなっても、従業員はテレワークで仕事をすることが可能です。しかし、テレワークを廃止するとBCP対策の一つがなくなるため、見直しが必要になります。
BCP対策の策定方法や実行する際のポイントは、こちらの記事で詳しく紹介しています。策定・運用の方法は6つのステップわけて解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
テレワークの廃止・継続の判断ポイント
テレワークを廃止すると、離職率の上昇や従業員のワーク・ライフ・バランスを崩す要因になる可能性があります。そのため、廃止か継続かを決める際には、生産性や労働管理の状況を把握することが大切です。
■テレワーク環境の整備状況
テレワークで仕事をするには、デバイスやインターネット回線などの環境整備が不可欠です。自身で環境整備が難しい従業員には、企業からデバイスやWi-Fiルーターの貸し出しも必要です。
また、従業員が社外のさまざまな場所で働くため、セキュリティレベルを確認し、状況に応じて構築しなければなりません。テレワーク環境が不十分な場合は、今後もコストをかけて改善していく必要があります。費用対効果が見合わなければ、テレワークの廃止を検討する余地があります。
自宅のテレワーク環境を整備するポイント|快適に過ごせるレイアウトやアイテムもご紹介
■従業員のモチベーションや生産性の状況
テレワーク環境を快適と思う従業員がいる一方、ストレスを感じる従業員も少なくありません。たとえばコミュニケーションが十分にとれない、監視ツールによって働きにくいといったことがその一例です。監視状況によっては従業員との信頼関係を損ない、エンゲージメントの低下につながるかもしれません。
過度なストレスは、従業員のモチベーションや生産性を低下させる原因になります。オフィスに出社しているときと比べ、テレワークによってモチベーションや生産性が低下しているようであれば、廃止を検討する必要があります。
■労働管理の状況
テレワークの課題の一つは、従業員の勤務状況を把握しづらいことです。オフィスへの出社に比べて時間外労働を続けやすい環境になってしまい、オーバーワークにつながる可能性も指摘されています。
時間外労働が増えると従業員の負担が大きくなるだけでなく、人件費も上昇します。オーバーワークの防止策がなければ状況は改善されないため、企業側は労働管理をきちんとすることが大切です。労働管理を適切にできていないようであれば、テレワーク廃止の検討が必要かもしれません。
テレワークを継続する際のポイント
テレワーク環境の整備や労働管理の状況によっては、継続を判断するのも選択肢の一つです。労働環境の見直しやテレワーク教育の実施をすると、今後も快適なテレワーク環境を維持することが可能です。
■労働環境を見直す
今後もテレワークを継続するなら、個別の事情がある場合でも働き続けられるよう、従業員に寄り添った労働環境を整備しましょう。育児や介護などのライフステージを迎えた従業員は、オフィスに出社する働き方では働き続けることが難しくなり、離職を決断するかもしれません。
しかし、テレワークという働き方があることで、従業員はキャリアを継続できる可能性があります。また、テレワークを完全に廃止せず、ハイブリッドワークの導入も検討してみましょう。
■ツールやシステムを見直す
テレワークの課題には、コミュニケーション不足や勤怠管理の難しさなどがあげられます。今後もテレワークを滞りなく運用するには、ツールやシステムを見直すのも効果的です。
コミュニケーションが不足してしまうのは、テレワーク向けのツールを上手く使いこなせないことに原因があることも。ツールが使いやすくなると、オンラインでのコミュニケーションが活性化され、テレワークの課題の解消につながる可能性があります。また、従業員同士の心理的距離感を縮めるには、雑談専用のチャットルームを作るといった方法もあります。
■テレワーク教育を実施する
ITスキルは、従業員によって異なります。オフィス出社が当然だった年齢層の従業員のなかには、テレワークに慣れない人もいるかもしれません。テレワークに慣れてもらうためにも、テレワーク教育を実施しましょう。
ツールの使い方やコミュニケーション方法などを学ぶ機会があると、テレワークへの抵抗感が薄れるかもしれません。社内で研修を実施する人材を確保できない場合は、外部の専門家に相談するのも選択肢の一つです。
■コワーキングオフィスやシェアオフィスの活用
テレワークは、時間と場所にとらわれない働き方です。そのため、従業員がテレワークする場所を自宅に限定するのではなく、サードプレイスオフィスのように、企業側でほかに働ける場所を準備する方法もあります。働く場所の選択肢を増やす方法は、自宅での環境整備が難しい場合にも有効です。
サードプレイスオフィスとは、自宅やオフィス以外で心地良く働ける場所のことです。たとえば、コワーキングスペースやシェアオフィスを活用するのも良いでしょう。企業がテレワークで働ける場所を複数提供することで、より効率的に生産性高く働ける可能性があります。
■ハイブリッドワークの導入を検討する
テレワークを継続する場合は、ハイブリッドワークの導入を検討してみましょう。ハイブリッドワークとは、オフィスへの出社とテレワークを組み合わせた働き方のことです。個別の事情や業務内容に合わせて働く場所を選べるため、従業員の働き方の選択肢が広がります。
こちらの記事では、ハイブリッドワークのメリットやデメリットなどを解説しています。従業員の満足度向上や離職率の低下につながる可能性もあるため、テレワークの継続を判断する際にチェックしてみてください。
テレワークを廃止する際のポイント
テレワークの継続を望む人も多いのが現状では、オフィスに出社することにストレスを感じる従業員もいるでしょう。そのため、廃止を決断する際には、従業員が出社のメリットを感じられるようなオフィス環境の改善を検討することも大切です。
たとえば、仕事中に気分転換できるリフレッシュスペースを設置する、などが挙げられます。また、従業員自身がオフィス内での働き方を選べるようなシステムの導入も良いでしょう。従来のように固定席で業務を行うのではなく、仕事の内容や気分に応じて働く場所を変えられるABWのようなワークスタイルです。リフレッシュスペースだけでなく、さまざまなタイプのワークスペースを設置し、従業員のオフィスでの働き方の自由度を高めることで出社へのハードルを下げられる可能性があります。
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アイリスグループのオフィスの見学も承っておりますので、テレワークの廃止を機にオフィス環境の改善を検討されている企業様はぜひご相談ください。
まとめ:継続または廃止を決断する前に従業員の声を聞くことが大切
テレワークの廃止に踏み切る企業が多い一方で、継続を望む従業員は多い傾向にあります。企業側の独断で廃止に踏み切った場合、離職率の上昇やワーク・ライフ・バランスを崩す要因になりかねません。
テレワークの継続または廃止を決断する際には、アンケートなどで従業員の声に耳を傾けることも大切です。やむを得ず廃止の決断に至ったときには、従業員に理由をきちんと説明し、理解を得るようにしましょう。