自治体における働き方改革の現状と課題|取り組み事例を紹介

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自治体における働き方改革の現状と課題|取り組み事例を紹介

2018年には、労働基準法や労働安全衛生法などを含む働き方関連法が成立しました。これを受け、2019年4月からは、時間外労働の上限規制や年次有給休暇5日の取得義務化などが順次施行されています。

働き方改革は、民間企業に限定した取り組みではありません。政府は自治体の働き方改革も推進しています。職員の労働環境を改善し、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、各自治体でも働き方改革に取り組む必要もあります。

しかし、自治体ではさまざまな理由により、民間企業に比べて働き方改革が進んでいないのが現状です。そこでこの記事では、自治体における働き方の現状や改善に向けた取り組み事例をご紹介します。

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自治体における働き方の現状

働き方改革に取り組む際には、ほかの自治体の現状を確認しておくことも大切です。現状を確認しておけば、本市がどのような状況にあるかを把握できます。ここからは公的機関や民間企業のデータをもとに、自治体における働き方改革の現状をご紹介します。

 

◾️DX化に遅れがある

自治体の働き方改革においては、DX化の遅れが一つ大きな特徴と言えます。

働き方改革に取り組むにあたって、DX化の推進は外せない要素の一つです。すでに大手をはじめとする多くの企業では、ペーパーレス化やICTツールの導入などのさまざまな取り組みを推進しています。

DX化を推進するためには高額な費用が必要なケースも少なくありません。しかし、自治体の予算は限られており、DX化を推進する費用を確保しづらい側面があります。また、DX人材の不足やアナログ文化が根強いことも要因です。公務という業務の特性や、新システム・ツールの導入がうまくいかなかった場合に日常が滞ってしまう可能性への懸念なども、DX化を阻んでいる原因と言えるでしょう。

自治体は非効率な現状の改善に向けて、チャレンジ意識が育ちにくい環境にあるため、新たな業務フローやツールの導入への抵抗感も強いのが現状です。

 

◾️働き方の自由度が低い

自治体では、官僚的な組織構造や法律で定められた業務プロセスなどがあるため、柔軟な働き方を導入しにくい状況があります。

例えば、リモートワークやフレックスタイム制の導入には、セキュリティの問題や職員の業務評価基準の見直しが必要となりますが、業務の特性や法規的な面から対応への難易度は高く、すぐに導入することはできません。さらに、労働組合との協議が必要な場合も多いことも障壁となっています。

多様な働き方の導入が難しいことが、働き方改革が進まない理由の一つと言えるでしょう。

 

◾️1on1やメンターなどサポート体制の整備が不十分

自治体の働き方改革が進まない理由の一つに、1on1やメンター制度など、職員個々のキャリアや業務の進捗をサポートする体制が十分に整っていない点が挙げられます。

1on1(1on1ミーティング)は部下の育成支援を目的として、上司と部下が1対1で行う面談です。メンター制度は、直属の上司とは別に、新人や若手社員に先輩社員が相談役としてつく仕組みです。

1on1やメンター制度は、職員の成長やモチベーション向上に寄与する重要な手段ですが、自治体では、これらの取り組みが十分に実施されていないのが現状です。

 

◾️育児休業の取得率は民間企業よりも高い

総務省の「地方公務員における働き方改革に係る状況」によると、令和4年度に新たに育児休暇を取得した男性職員の取得率は31.8%だったことがわかっています。男性への育児休業の取得が推進されている中、前年度から12.3ポイント増加しています。

女性職員の取得率は100.3%※1で、育児休業を希望するすべての女性が取得できている状況です。

※出典元:総務省「地方公務員における働き方改革に係る状況」

※1 取得率は、調査年度中に新たに育児休業が取得可能となった職員数に対する調査年度中の新規取得者数(調査年度以前に取得可能となって、調査年度中に新たに育児休業を取得した者を含む割合。このため、取得率が100%を超えることがある。

一方で厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、民間企業における育児休業の取得率は男性が24.2%、女性が86.7%でした。取得率は両者とも前回調査から増加しているものの、地方公務員に比べて低いことがわかります。

※出典元:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」

 

◾️テレワークは実施されていないケースが多い

総務省の「地方公共団体におけるテレワークの推進について」によると、地方公共団体における令和5年10月1日現在のテレワークの導入率は61.6%だったことがわかっています。

 テレワークを導入しない理由の上位は、「多くの職員がテレワークになじまない窓口業務等に従事している(76.4%)」「 情報セキュリティの確保に不安がある(70.0%)」です。

※出典元:総務省「地方公共団体におけるテレワークの推進について」

テレワークに関しては、自治体よりも民間企業の方が実施率が高い傾向にあります。コロナ禍を契機に普及したことが要因の一つです。特に従業員の人数が多い企業ほど高い傾向にあります。しかし、新型コロナウイルスが5類感染症に移行し、情勢が落ち着いたことを受け近年はオフィス回帰の動きが加速化しており、テレワークの実施率が下がっている状況でもあります。

※出典元:東京都「テレワーク実施率調査結果 3月」

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自治体の働き方改革が進まない理由

自治体における一部の働き方は、民間企業よりも遅れているのが現状です。自治体の働き方改革が進まない要因には、組織文化や慣習面による理由と公務という業務の特性が起因する理由が関係していると考えられます。

 

◾️競争原理が働かず、保守的な組織文化がある

働き方改革を推進するためには、組織文化の見直しも必要です。しかし、自治体では従来の働き方に対する固定観念が強く、新たな考え方に転換しづらい側面があります。

民間企業の場合、時代に合わせて考え方を変えていかなければ利益が低下し、倒産という事態にもなりかねません。一方の自治体はたとえ非効率なやり方であっても、民間企業のように倒産する事態には発展しないため、問題視されにくい側面があります。

多くの自治体では、未だ長年の慣習や伝統に基づいた保守的な組織文化が根強く残っており、変化を受け入れるのが難しいケースが多いのが現状です。

 

◾️成果を反映しにくい給与体系

日本は、長らく終身雇用制度が続いており、年齢や社歴に応じて給与が上がるのが一般的でした。しかし、時代の流れとともに終身雇用制度が崩壊しつつあります。

近年は、ジョブ型雇用制度を採用する企業が増えています。ジョブ型雇用制度は職務や役割で評価するため、モチベーションアップにつながりやすい雇用システムです。一方で従来型の雇用システムは、個人の業績が給与や賞与に反映しづらい側面があります。

部署間や個別競争も起きづらいことから、業績アップに向けて、新たなアイデアや革新的な取り組みへのモチベーションを感じにくいのが現状です。そのため、従来型の雇用システムがベースとなっている自治体では、働き方改革に積極性がない傾向にあります。

◾️大幅な業務変更が難しい

自治体で働き方改革が進まない大きな理由は、公務という業務の特性です。自治体の業務には法的な縛りがあり、業務プロセスも複雑化しているケースがほとんどです。

新たな働き方を導入するためには、大規模な業務プロセスの見直しが必要になります。しかし、業務プロセスの見直しには時間と労力がかかるため、改革が進まない原因となっています。

大幅に業務を見直す際には、ハード面とソフト面の両方を整備しなければなりません。仮にDX化の一環としてツールを導入しハード面を整備できても、それを活用できるような業務プロセスを改善するソフト面への対応が難しいのが現状です。

◾️労働基準法の適用範囲に制限がある

政府は働き方改革を推進するために、働き方改革関連法を制定しました。働き方改革関連法には、労働基準法が含まれています。自治体の働き方改革を阻んでいる原因の一つは、労働基準法の適用範囲です。

労働基準法の適用範囲には、さまざまな制限があります。労働基準法第36条では、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働に関するルールが定められています。地方公務員の場合、第36条の適用対象ではあるものの、残業時間の上限に関しては対象外です。

また、労働基準法の適用範囲は、公務員の種類によっても違いがあります。現業公務員や行政執行法人に勤務する公務員には、労働基準法が適用されます。一方で、地方公務員の適用範囲は限定的です。

【職場運用の見直し】働き方改革に取り組んだ自治体の事例

自治体は、民間企業に比べて働き方改革が進まないと言われています。しかし、働き方改革に取り組み、職員が働きやすい環境を実現した自治体もあります。

ここからは働き方改革の一環として、オフィス運用の見直しに取り組んだ自治体の事例をご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

 

◾️滋賀県近江八幡市

滋賀県近江八幡市では、働き方改革の効果を職員や市民に可視化し、変革の必要性を共有することを目的に、一部の部署にパイロットオフィスを設置しました。パイロットオフィスは新プロジェクトやプロセスを試験的に導入し、本格化する前に効果や課題を把握することを目的としたオフィスです。

まずは「すぐに出来ること」として、文書の削減や脇机の廃止、固定席の廃止などに取り組みました。パイロットオフィスには業務内容に応じて席を選べるよう、窓口対応席や集中席、ファミレス席などの複数の席を設置しています。

近江八幡市ではパイロットオフィスの運用によって課題を洗い出し、新庁舎整備に反映する予定です。なお、パイロットオフィスのメリットや具体的な取り組み例などは、こちらの記事で紹介しているのでぜひチェックしてみてください。

パイロットオフィスとは?意味や実践するメリット、具体的な取り組み例などを紹介

 

◾️東京都狛江市

東京都狛江市では、職員の意識変革や職員間のコミュニケーションの活性化を目的に、庁舎4階執務室の一部のオフィス運用を見直しました。具体的な取り組み内容は、フリーアドレス化と打ち合わせスペースの設置です。

打ち合わせスペースは、外部用一つと内部用二つが設けられました。横断的なコミュニケーションを実現するために、固定席ゾーンとフリーアドレスゾーンの間に打ち合わせスペースを設置し、ワークスペースの改善も実施しています。 

外部から市役所のネットワークにアクセスできるPCを100台導入し、テレワークをスタートさせました。

【新たな働き方の導入】働き方改革に取り組んだ自治体の事例

フレックスタイム制をはじめとする新たな働き方は、民間企業に比べて遅れをとっているのが現状です。このような状況の中、働き方改革の一環として新たな働き方を導入した自治体もあります。

 

◾️奈良県

奈良県では職員が能力を十分に発揮し、高い士気を持って効率的に勤務できる環境を整備し、公務能率の向上および仕事と家庭生活の両立を推進することを目的として、平成29年度からフレックスタイム制を導入しました。

フレックスタイム制の導入にあたって勤怠管理システムを導入し、申請から勤務時間の割り振り変更、出勤簿への反映までを一元管理しています。令和3年度で約830人、令和4年度11月末時点で470人がフレックスタイム制を利用しました。

在宅勤務との併用を認めることで、職員一人ひとりの業務や生活に応じた働き方を促進しています。なお、フレックスタイム制を導入するメリットや課題などは、こちらの記事で紹介しています。

フレックスタイム制とは?コアタイムの意味や遅刻・早退・欠勤の扱い方

 

◾️北海道登別市

北海道登別市ではどこでも働ける職場を目指し、消防士や保育士を除く正規職員を対象にテレワークを導入しました。テレワークの導入にあたって、公用スマホやリモートアクセスシステム、チャットツールなどを導入して環境を整備しています。

テレワークは、妊娠時の出産休暇前に活用された事例もあります。導入後の調査では、管理職が積極的にテレワークを活用している部署の活用率が高いこともわかりました。テレワークを進めたことで、より一層ペーパーレス化が進みました。

ペーパーレス化により、管理部門のフロアに設置しているコピー機の印刷量が半減しています。テレワークを機に公用スマホを導入したことで、電話の取り次ぎ業務の削減やコミュニケーションの円滑化にもつながっています。

【長時間労働の是正】働き方改革に取り組んだ自治体の事例

自治体によっては、長時間労働を課題に抱えているにも関わらず、改善が進まないところもあります。長時間労働を改善したい場合は、横浜市や座間市の取り組みが参考になります。

 

◾️神奈川県横浜市

神奈川県横浜市では、「中期4か年計画」で月80時間・年720時間を超える超過勤務者ゼロという目標値を掲げ、長時間労働の是正に取り組んでいます。超過勤務者が発生した場合は、その要因分析や是正に向けた取り組み計画を記載した報告書を作成し、区局長から副市長に報告する仕組みを作りました。

取り組む際には総務局長通知を発出し、すべての職員が「上限時間は必ず遵守するものである」と認識すること、責任職は「上限時間を超えた超過勤務命令を絶対にしない」という強い意志も持つべきことを徹底しました。

勤務時間の管理には、各執務室に設置されたタイムカードを活用しています。申請し忘れを防ぐために夕礼を実施し、上司への報告が事後にならないよう徹底しました。

 

◾️神奈川県座間市

神奈川県座間市では時間外勤務縮減に向けた要因を整理・分析・検証するために、毎月所属長に「時間外勤務状況報告書」の提出を求め、管理職を含むすべての職員の時間外勤務状況を把握することにしました。

時間外勤務の時間・月数の上限を設定する際に、職員課長名で所属長宛てに文書を発出しています。毎月の時間外勤務実績を入力した際に、上限を超えているケースが一目でわかるよう、表計算ソフトに関数を設定しました。

各職員の前年度の時間外勤務状況についても、システムから抽出できる仕組みを整備しています。整理・分析・検証のサイクルを回し続けることで、年度途中でも時間外勤務縮減対策につなげられると期待されています。

まとめ:実態を把握して自治体の働き方改革を推進しよう

自治体の働き方改革は、民間企業に比べて進んでいない傾向にあります。その背景には、保守的な組織文化や従来型の雇用システム、労働基準法の適用範囲、公務特有の業務内容などが深く関係しています。

少子高齢化によって労働人口が減少する中、自治体でも職員の離職を防ぐ取り組みが必要です。働き方改革に取り組む際には、まずは課題を把握し、何を改善すべきかを検討することが大切です。

職員が働きやすいオフィス環境が必要な場合は、レイアウトを変更する方法もあります。自治体の働き方改革でオフィスのレイアウトを見直す際には、ぜひアイリスチトセにご相談ください。豊富な実績をもとに、自治体に適したプランをご提案させていただきます。

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