【インタビュー】株式会社アイシン福井「食堂を起点に始まる社内改革~食堂リニューアルプロジェクト~」
インタビュー
1983年に創業した株式会社アイシン福井。自動車用部品であるトルクコンバータ、クラッチなどオートマチックトランスミッション用部品の生産を通じ、創業以来お客様からの高い評価を受けるとともに車社会の発展に貢献されています。
今回は、2024年8月にかけて行った同社の食堂リニューアルについて、同社人材開発部 人材活躍推進室 北川里実様にインタビューを行いました。
社員の働き方や意識の改革を促す、機能的な食堂へ
早速ですが、貴社の事業内容と、ミッションや将来の方向性について教えていただけますか。
当社は福井県越前市にあり、自動車用オートマチックトランスミッション(A/T)部品、ハイブリッドトランスミッション部品、電動駆動ユニット(eAxle)部品の開発、製造、および販売を行っています。主要製品は世界中の多くの車両メーカーに採用搭載されているトルクコンバータやA/T部品などです。
自動車業界は現在、100年に一度の大変革期(電動化)と言われています。
グローバルで新興メーカーが台頭しつつある中で、競合に打ち勝つ競争力を高めていくために、社員一人一人が従来にない発想で価値を生み出し、また企業として地域と共に発展していくことで、お客様の期待に応えることができ、自己の成長と働きがいを感じられる会社を目指しています。
ありがとうございます。では、今回の食堂リニューアルのきっかけについてお伺いできますでしょうか。
先程申し上げた通り、自動車業界では、電動化が進んでいます。その中で私たちが発展し続けるためには、今までの仕事のやり方、考え方も変えて、事業競争力を上げていく必要があります。
そのためにも社員がみんなで新しい価値、今までにない発想を生み出すために、会社として様々な場所や機会を新たに作っていかなければなりません。それを推進させるためのきっかけとして、社員食堂をリニューアルすることにしました。
実は食堂は設置から年数が経っていて改修の予定は先々にあったのですが、この変化というのは喫緊の課題ということで、スケジュールを前倒しして実現させました。
今までは昼食のための食堂でしたが、リニューアルによって打合せや1on1などコミュニケーションの場として活用したいという想いがありました。
勤務される皆様が一番集う食堂に変化を取り入れて、社内全体に波及していこうということですね。この食堂は常時使えるようにしているのでしょうか。
はい。常時使っていただけるような設計としました。
昼休みの1時間だけでなく、より多様な活用ができるのではないかと考え、いつでも使える空間づくりを目指しました。
縦横斜めで会話ができるテーブルや、対面ではなく90度で1on1のしやすいテーブル、座り込まなくてもちょっとした会話ができるよう売店横にはカフェのようなハイテーブル、リラックス効果のあるグリーンなど、全体として機能的でありながら、和むような雰囲気にしています。
人材採用面においても、働き方が変化・多様化していく中で、若い方々に選んでいただける会社にしていく必要があり、食堂リニューアルはそのための環境づくりの1つでもありました。
リニューアル以前は昼の時間でしかこの食堂は使用していなかったということでしょうか。
基本的にはそうですね。
昼食の時間以外で使用するようになったきっかけは、実はコロナでした。コロナの影響で分散して仕事をしなければならず、会議室や食堂での業務も可能にしたことで、社員が食堂も仕事場の1つとして考えるようになったのだと思います。
但しコロナの時は、距離を置いて個人ワーク時に使用することがほとんどでした。
コミュニケーションを促すレイアウトと什器
コミュニケーションや1on1をしやすくするためにこだわった点があれば教えていただきたいです。
まずは食事の面で言うと、1人でゆっくり食べたい、邪魔されないで食べたいという意見が一定数あり、1人席を部分的に用意しています。
それ以外の場所は、1on1で話しやすいように対面ではなくそれぞれ90度向いて座れるテーブルを増やしました。スクエアのテーブルは幅120cmあり、食事のためだけで考えるとかなり広いですが、ゆったり本音で1on1がくつろいで話せるようにということで、このサイズにしています。
一部の椅子にもこだわりがあって、スクエアのテーブル席はクッション性のある座面を使用し、心地よく対話に集中できるように配慮しています。食堂の座面は汚れにくく、ふき取りやすい樹脂や木製を採用するのが一般的ですが、それだと硬さを感じて長居できないですからね。背もたれの感覚も含めとても好評です。
食事だけにフォーカスすると、着座率などの効率を考えがちですが、ゆっくり話ができるような工夫もしている言うことですね。
リニューアル前は、長いテーブルと椅子が一辺倒に並んでいました。レイアウトからして食べることだけが目的の場所でしたね。今回、喫食効率は落ちますがひとり一人の距離感も広げ、ゆっくり会話できる場としました。
【改装前の食堂の様子】
【改装後の食堂の様子】
雰囲気もガラリと変わって、社員の意識は変わりましたか。
改装が終わった後、社員に5段階評価で満足度アンケート調査を行ったのですが、全体の満足度は4点や5点が結構多く、多くの方が満足されているようです。エリア分けをしたことにより1人で座りたい方は1人用のところに座りますし、3、4人で座りたい方は大きなテーブルのところに座ります。この選択肢が増えたことも、高評価につながっているように感じます。
画一的なものではなく、その時の用途や自分の気分で選べるというのが良いですね。
【実際のアンケート結果】
行きたくなる食堂を目指して
他に重要視された部分はございますか。
このリニューアルのテーマが、「社員が足を運びたくなるような食堂」でした。わかりやすく言うと自慢したくなる食堂です。
もちろん採用戦略の外向けの部分でもあるのですが、中で勤める社員のエンゲージメントや帰属意識を高めたい。社員がどういう環境だったらこの会社をより好きになってくれるか、心地よく感じていただけるかなど、そういった点を重視して設計していただきました。
また、廃材からリサイクルした壁紙や卵の殻を使用した箸を採用しているのですが、社員が直接触れることで、SDGsへの意識も会社全体で高めていきたいと考えています。
ファシリティはハード面だと思うのですが、ソフト面でも何か人を惹き付けるような仕掛けがあればお伺いしたいです。
食堂イベントですね。イベントはたくさん企画しています。
いくら環境を整えても、来ていただけなければ意味が無いですしね。お弁当を持ってきている社員にも足を運ぶきっかけを作りたいということで、まずは惹きつけられる食事を提供できないか、食堂の運営業者と打ち合わせをしながらイベントを開催しています。
土用の丑の日にうなぎを提供したり、有名チェーン店の丼・全国ご当地ラーメンフェア、クリスマスイベントをしたり、また、地元福井県(地域)に貢献したいということで、県内で有名なケーキ屋さんのケーキを、会社側で一部負担することで格安で提供したこともあります。
これらのような取り組みで、まずは食堂に来ていただき、魅力を感じていただきたいという願いを込めて、試行錯誤しながら今も継続して行っています。
ありがとうございます。
話が変わりますが、アイリスチトセを本プロジェクトのパートナーとして選定いただいた理由を教えていただけますか。
食堂リニューアルを今年度に実施すると決めたのが今年の年明けくらいでして、当時5社にお声掛けしてコンペをさせていただきました。社内で話し合い、バリエーシュン豊かで自社製品が多いこと、図面やコンセプト、見積など総合的に判断して決めました。
そして、営業の方の熱心さに惚れたのも理由の1つではありますね。営業の方だけでなくデザイナーの方も来られて、いろいろなところを見て、測って、写真を撮ってと、とても活き活きしているその姿に惹かれました。
デザイナーさんが実際に見に来てくださっていたかそうでないかなどの、温度感の違いも大きかったのではないかと思いますね。
些細な事でも我々は悩んでしまうのですが、現状をよく見ていただいているので「デザイナーさんはどう思いますか?」みたいに聞きやすいといいますか。
実はこの食堂を大々的にリニューアルする前に、本社工場食堂の一角をリニューアルしたのですが、その時にもアイリスチトセさんにお願いして、その際の熱意、一生懸命さも印象的でした。
やはり法人営業というものは、結局のところ人と人との繋がりの部分が大きいと思っていまして、お言葉にありました熱意は、社員のエンゲージメントの高さとリンクしていると感じています。リニューアル後の食堂も、自分の働いているところの食事が美味しくて、自由に使えて、行きたくなる空間になれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上につながっていくものと思います。
そうですね。社員のお子さんやインターンシップ生が来てくださった際に食堂の印象が良いのは、些細なことですが、社員も嬉しいと思います。
そのちょっとしたことの積み重ねが、エンゲージメントの向上につながっていくと思っていまして、リニューアルして本当によかったと思いますね。
「食事を取るための場所」から「機能的で魅力的な食堂」へのリニューアルは、食堂としての質を高めるだけでなく、社員を惹きつける場所となり、社員の心の変化をもたらすきっかけにもなる場所であると、今回のインタビューを通して感じました。
魅力ある食堂で仲間と共に食事を楽しみ、働き、気づいたら会社がもっと好きになっている。そんな人が1人でも増えたらいいなと思いました。本日はありがとうございました。