ワーク・ライフ・バランスとは?取り組み例やメリットを徹底解説
働き方
近年、ワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組む企業が増えています。
ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは、従業員が働きやすい環境を実現するだけでなく、企業にもさまざまなメリットをもたらします。この記事では、ワーク・ライフ・バランスの意味やメリット、具体的な取り組み方法などを解説します。
目次
ワーク・ライフ・バランスとは
政府が働き方改革を推進していることもあり、多くの企業で働き方や労働環境を見直そうという動きが高まっています。
働き方改革に関する議論の中でたびたび登場する言葉が「ワーク・ライフ・バランス」です。ワーク・ライフ・バランスと働き方改革は、非常に深い関係にあります。
ここではワーク・ライフ・バランスとはなにかを解説します。
■仕事と生活の調和
ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活を調和させるといった概念です。仕事だけに重きを置くのではなく、家庭や育児などプライベートの充実も目指すというものです。
ワーク・ライフ・バランスの概念は、1980年代のアメリカで誕生しました。当時のアメリカではすでに女性の社会進出が一般的になっており、仕事と家庭を両立させるための支援策として始まった「ワークファミリーバランス」が起源だとされています。
日本で普及し始めたのは、1990年代以降です。従来の日本では定年まで一つの企業に勤め、仕事に重きを置く生き方が主流でした。
しかし、男女雇用機会均等法の施行や女性の社会進出などのさまざまな要因が重なり、性別に関係なく仕事以外のことに重きを置く生き方が注目を集めるようになったのです。
■ワーク・ライフ・インテグレーションとの違い
近年ワーク・ライフ・バランスのほかに、ワーク・ライフ・インテグレーションという概念が登場しています。ワーク・ライフ・インテグレーションとは、仕事と生活の両方を人生の構成要素と捉え、個々にとって良好な形で統合し、充実させようという概念です。
ワーク・ライフ・インテグレーションとワーク・ライフ・バランスは、どちらも仕事と生活を調和させるという意味では同じです。しかし、ワーク・ライフ・バランスの場合、「仕事のために生活の時間を削る」「育児のために仕事の時間を減らす」など、仕事と生活のいずれかに偏りが生じてしまいます。
一方のワーク・ライフ・インテグレーションは、仕事と生活を線引きせず、一体化させながら人生を充実させようというものです。
ワーク・ライフ・バランスが注目されている背景
日本ではここ数年の間に、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みがより注目されるようになりました。それには次のような理由があります。
■働き方やライフスタイルの変化
働き方改革関連法案の施行によって、働き方やライフスタイルが変化したこともワーク・ライフ・バランスが注目されている理由の一つになっています。
働き方改革とは、労働者一人ひとりの事情に応じた働き方を自身で選べるような環境を整備するための改革です。
2019年4月1日から、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など、働き方改革関連法案が順次施行されています。
政府主導で推進される働き方改革にともない、よりフレキシブルな働き方を選べるよう、多くの企業が働き方を見直し始めています。
■深刻な労働者不足
近年日本では少子高齢化により、多くの業界で深刻な労働者不足に陥っています。労働者不足になると、従業員一人当たりに割り当てられる仕事量が増えるため、個人に大きな負担がかかります。
負担がかかり、従業員の心身のバランスが崩れると、休職や離職する人が増えます。さらに企業の生産性が低下し、業績悪化につながるおそれもあるでしょう。
そこで従業員への負担を軽減するために、労働環境を改善しようとワーク・ライフ・バランスに取り組む企業が増えています。
■共働き世帯の増加
従来の日本では、夫が働いて妻が専業主婦として家庭や地域での役割を担うのが一般的な考え方でした。
しかし、近年は共働きの世帯が増加※しています。令和3年の調査では、共働き世帯1,247万世帯と増加傾向にありました。一方、いわゆる「サラリーマンの夫と専業主婦」の世帯は減少傾向にあり、世帯全体としても共働きが増えていることが伺えます。
共働きにより、家事や育児に時間を取るのが難しい家庭も増加しています。そこで子育てや介護を理由に休職、離職する人を防ごうと、ワーク・ライフ・バランスを推進する企業が増えています。
【企業側】ワーク・ライフ・バランスの取り組みで得られるメリット
ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは従業員だけでなく、離職率の低下や生産性の向上など、企業側にもさまざまなメリットをもたらします。
■離職率の低下
企業がワーク・ライフ・バランスに取り組むと、従業員の労働環境が改善されるため、離職率の低下が期待できます。
たとえば育児休暇や介護休暇が取りやすい施策を講じると、離職せずに働き続けることが可能です。
育児や介護に直面しても働き続けられる環境があれば、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながります。
■生産性の向上
働きやすい環境が整備されると従業員の働く意欲が高まり、生産性の向上が期待できます。
厚生労働省の「平成29年版労働経済の分析」では、ワーク・ライフ・バランスの取り組みについて、国や自治体から表彰を受けている企業ほど、売上が向上していることがわかっています。
取り組みの有無 | 売上増加 | 売上減少 |
あり | 52.6% | 34.4% |
なし | 49.3% | 37.0% |
生産性を向上させるためには、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めることが大切です。企業の業績アップのためにも、ワーク・ライフ・バランスに取り組んでみましょう。
■企業イメージの向上
ワーク・ライフ・バランスに取り組むと、ステークホルダーに従業員を大切にする企業という印象を与えるため、企業のイメージがアップする可能性があります。
企業イメージは、人材市場にも大きな影響を与えます。就職活動中の学生や転職希望者に良いイメージを与えると、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
【従業員側】ワーク・ライフ・バランスの取り組みで得られるメリット
ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは働き方改革の一環になるため、従業員の労働環境の改善につながります。
■働き続けやすくなる
企業がワーク・ライフ・バランスの推進に取り組むと、仕事と家庭を両立しやすくなります。
仕事を続けながら育児や介護もしやすくなるため、家庭の事情で働けなくなるといった事態を防ぐことが可能です。
ワーク・ライフ・バランスを実現できれば働き方の選択肢が増えるため、離職しなくても働き続けられるようになります。
■健康維持を期待できる
企業がワーク・ライフ・バランスに取り組むと、従業員が仕事と家庭の調和を取れるようになるため、心身の健康維持を期待できます。
残業や休日出勤などによって従業員が長時間労働を強いられると、健康への悪影響が懸念されます。
また、実際に長時間労働の改善を希望している従業員も多いようです。
厚生労働省の「平成27年版労働経済の分析」で仕事の時間の増減希望を調査したところ、「もっと減らしたい」「あと少し減らしたい」と回答した人が約40%※だったことが分かっています。
ワーク・ライフ・バランスへの取り組みで長時間労働が減ると、従業員の健康増進に寄与するだけでなく、従業員のニーズを満たすことも可能です。
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■プライベートに充てる時間が増える
従業員がワーク・ライフ・バランスを実現できると、仕事と生活の調和がとれるようになるため、プライベートに充てる時間が増えます。
その結果、地域活動への参加したり、スキルアップのための勉強時間が増えたりと、充実した時間を過ごせるようになるでしょう。
生活の質が上がって気持ちに余裕ができると、仕事に対する意欲のアップにつながる可能性もあります。
ワーク・ライフ・バランスの取り組み例
ここからはワーク・ライフ・バランスの取り組み例をご紹介します。自社で取り組めそうなものがあれば検討してみてください。
■長時間労働の是正
働き方改革に伴う労働基準法改正により、時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間に定められました。2021年4月からは中小企業にも適用されているため、長時間労働の是正に向けた取り組みが必要です。
残業や休日出勤などの長時間労働を削減することは、ワーク・ライフ・バランスの実現につながります。しかし、時間外労働の禁止を呼びかけるだけでは、改善されないケースも多いのが現状です。
有効な手段としては、ノー残業デーや勤務間インターバル制度の導入などがあります。勤務間インターバル制度とは就業後、翌日の出社までに一定時間以上の休息時間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間の確保につなげる取り組みです。
勤務間インターバル制度を導入するとプライベートな時間を確保できるため、ワーク・ライフ・バランスの実現につながります。
■育児休暇や介護休暇の取得推進
育児や介護などのライフステージに直面した際に、やむを得ず離職を選択する従業員も少なくありません。
離職は優秀な人材の流出につながりかねないため、企業では育児休暇や介護休暇の整備が必要です。
休暇を整備する際は取得しやすくするだけでなく、復職をサポートできる体制を構築しましょう。
また、近年は男性の育児休暇を推進する動きも加速化しています。企業には性別に関係なく、育児休暇や介護休暇が取得しやすい環境作りが求められています。
■多様な働き方の導入
一人でも多くの従業員がより長い期間働き続けるには、企業側が多様な働き方を提供する必要があります。テレワークやフレックスタイム、短時間勤務制度などです。
従業員が働き方を選べるようになれば、子育てや介護など個人的な事情による離職を防げる可能性があります。
また、従業員が快適に働ける環境を実現するために、オフィスのレイアウトや機能を見直すのも良いでしょう。たとえばオフィス内にリフレッシュスペースを設置すれば、従業員が気分転換できるため、集中力や生産性の向上が期待できます。
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■福利厚生の見直し
従業員のワーク・ライフ・バランスを実現するために、福利厚生を充実させる方法もあります。福利厚生の施策例は、次のとおりです。
- フィットネスジムの割引
- 資格取得支援
- 宿泊や旅行補助の拡大
- ベビーシッターサービスの割引 など
福利厚生を見直す際は現行の施策を把握し、利用状況を調査しましょう。利用が少ない施策は、従業員のニーズを満たす内容に変更すると、ワーク・ライフ・バランスの実現に寄与できる可能性が高まります。
国の支援制度の活用も検討しよう
ワーク・ライフ・バランスの取り組み内容によっては、高額なコストがかかるケースもあります。
コストがネックになる場合は、国の支援制度を活用するのも手段の一つです。ここからは、おもな国の支援制度をご紹介します。
なお、支援制度の詳細は、Webサイトなどで最新情報をご確認ください。
■【厚生労働省】仕事と家庭の両立支援プランナーのサポート
厚生労働省では、従業員が育児や介護を理由に離職することなく働き続けられるよう、専門家が企業を訪問し、無料でアドバイスするサポートをおこなっています。
サポートは、育児復帰支援プランと介護支援プランの2種類です。
サポートプラン | 内容 |
育児復帰支援プラン | 育児休暇の取得および取得後の職場復帰をサポートするためのプラン |
介護支援プラン | 従業員が仕事と介護を両立できるようサポートするためのプラン |
サポートを希望する場合は、厚生労働省の公式サイトからの申し込みが必要です。
「仕事と家庭の両立支援プランナー」の支援を希望する事業主の方へ
■【厚生労働省】両立支援等助成金
厚生労働省では、従業員が育児や介護と仕事を両立できる仕組みを導入した場合などに、助成金を支給する制度を設けています。この制度には、出産時両立支援コースや育児休業等支援コース、不妊治療両立支援コース、介護離職防止支援コースがあります。
たとえば育児休業等支援コースの場合、育児休暇取得時に28万5,000円が支給されます。育児復帰支援プランを策定・導入し、プランに沿って円滑な育児休暇や復職支援に取り組んだ場合は、育児休暇取得時と同様の金額が支給されます。
まとめ:ワーク・ライフ・バランスの取り組みは働き方改革につながる
労働者不足や共働き世帯の増加などを背景に、従業員のワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みをおこなう企業が増えています。同時に、政府主導で働き方改革も推進されています。
ワーク・ライフ・バランスに取り組む際には、従業員が働きやすい環境を目指す働き方改革を意識して進めることが大切です。
また、従業員が快適だと感じる労働環境は、経営陣だけでは判断できない可能性があります。従業員にヒアリングして実態を把握し、ニーズを満たす内容を踏まえたうえで、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組みましょう。