多様性のある働き方とは?企業が導入するメリットや課題、取り組み例を紹介
働き方

近年、働く人のニーズの変化やダイバーシティの推進などにより、多様性のある働き方を導入する企業が増えています。一口に多様性のある働き方と言っても、テレワークや時短勤務などさまざまです。
この記事では、多様性のある働き方の種類や企業が導入するメリットを中心に解説します。多様性のある働き方を実現するための取り組み例も併せて解説するので、自社で導入する際の参考にしてください。
目次
多様性のある働き方とは

多様性のある働き方とは、すべての働く人がワーク・ライフ・バランスを実現するために、個々の状況に応じて自身が望むスタイルで働くことです。これは、国が主導して推進している働き方改革の目的とも共通点があります。
厚生労働省の公式サイトで示されている働き方改革の目的は、次のとおりです。
「働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」
※出典元:厚生労働省「「働き方改革」の実現に向けて」
近年は、時代の流れとともに働く人のニーズやライフスタイルが変化しています。昭和の時代に比べると、結婚・出産を経ても働き続ける女性や家事・育児に積極的に参加する男性も増えている状況です。
人々がプライベートと仕事を両立させるためには、働き方を工夫する必要があります。例えば子育て期間中は短時間勤務で働く、フレックスタイムを利用して労働時間を調整するなどです。
オフィス出社に限定した働き方だけでは、プライベートな事情によって離職を選択せざるを得ない従業員が出てくる可能性もあります。働く人がワーク・ライフ・バランスを実現するためには、企業が多様性のある働き方を用意し、従業員に提供する必要があります。
多様性のある働き方の導入状況

近年、テレワークをはじめとするオフィス出社以外の働き方を提供する企業が増えています。さまざまな働き方がある中、ここでは一例としてテレワークとフレックスタイムの導入状況をご紹介します。
■テレワークの導入率は50%超
総務省が公表した「令和4年通信利用動向調査の結果」によると、2022年の調査時点でテレワークを導入している企業の割合は50%を超えています。
導入状況 | 2022年 | 2021年 | 2020年 |
導入している | 51.7% | 51.9% | 47.5% |
今後導入予定がある | 3.5% | 5.5% | 44.7% |
導入していないし、具体的な導入予定もない | 47.5% | 10.7% | 41.9% |
導入率は2020年に比べて数ポイント上昇しているものの、2021年からはほとんど変化がない状況です。また、導入目的として最も割合が高かったのは、新型コロナウイルス感染症対策の87.4%でした。
導入目的 | 2022年 | 2021年 |
新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため | 87.4% | 90.5% |
非常時(地震、台風、大雪、新型コロナウイルス以外の感染症の流行など)の事業継続に備えて | 33.5% | 31.1% |
勤務者の移動時間の短縮・混雑回避 | 30.3% | 37.0% |
勤務者のワーク・ライフ・バランスの向上 | 28.8% | 27.9% |
業務の効率性(生産性)の向上 | 26.3% | 27.6% |
2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、一時的に導入率が増えましたが、行動制限の緩和にともなって徐々に減少傾向にあります。2022年は、「勤務者のワーク・ライフ・バランス」を目的とした導入率が増加しました。
新型コロナウイルス感染症拡大が収束の兆しを見せるなか「原則出社」に回帰する企業も増えてきていますが、従業員のニーズに対応するために、オフィス出社以外の働き方を導入する動きもあるようです。
※出典元:総務省「令和4年通信利用動向調査の結果」
■フレックスタイムの導入率は9.5%
厚生労働省が公表した「労働時間制度の現状等について」によると、2021年の調査時点でフレックスタイムを導入している企業の割合は9.5%でした。
導入率 | 割合 |
2021年 | 9.5% |
2020年 | 9.3% |
2019年 | 8.2% |
2018年 | 7.8% |
2017年 | 7.9% |
過去5年間の導入率は、年々上昇傾向にあります。フレックスタイムには、従業員が労働すべき時間を定める清算期間が存在します。働き方改革では清算期間が見直され、上限が1カ月から3カ月に拡大されました。
※出典元:厚生労働省「労働時間制度の現状等について」
多様性のある働き方を導入する企業が増えている背景

近年、多様性のある働き方を導入する企業が増えています。その背景には、働く人のニーズの変化や少子高齢化にともなう労働人口の減少などが深く関係しています。
■働く人のニーズが変化しているため
多様性のある働き方を導入する企業が増えている理由の一つは、時代とともに働く人のニーズが変化しているためです。終身雇用制度や年功序列賃金制度が浸透していた頃は、入社後は定年まで一つの企業で勤め上げるのが一般的でした。
当時は、プライベートよりも仕事に重きが置かれる傾向がありました。しかし、近年は人々の価値観が年齢や勤続年数を重視するスタイルから、プライベートとの調和も重視するスタイルに変化しつつあります。人々はライフ・ワーク・バランスを実現するために、個々のライフスタイルに合わせた働き方を求めるようになりました。
■人材を確保するため
少子高齢化にともなって労働人口が減少する中、企業が人材を確保するためには多様性のある働き方に対応する必要性が出てきています。総務省の「情報通信白書令和4年版」によると、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けているのが現状です。
※出典元:総務省「情報通信白書令和4年版」
生産年齢人口の減少は今後も続き、社会や経済に悪影響を及ぼすことが懸念されています。人手不足が深刻化する中で、企業が成長し続けるためには限られた人材を上手く活用していく必要があります。
企業が多様性のある働き方を用意することで、個々の事情によって就業を躊躇っていた層へのアプローチにもつながるでしょう。また、企業で働く従業員が介護や出産・育児など、私生活に変化が生じた際にも柔軟に対応できるようになることで、離職防止も期待できます。
■ダイバーシティを推進するため
企業が少子高齢化やグローバル化に対応するためには、ダイバーシティを推進する必要性が出てきています。ダイバーシティとは、さまざまな属性を持つ人が組織や集団で共存している状態を指します。
企業がさまざまな属性を持つ人材を採用し、個々の能力を活かすためには、多様性のある働き方ができる環境整備が必要です。なお、ダイバーシティの概要や重要視される背景、企業の取り組み事例などは、こちらの記事で詳しく紹介しています。
多様性のある働き方を実現するための取り組み例

従業員がワーク・ライフ・バランスを実現するためには、企業がさまざまな働き方を提供することが必要です。多様性のある働き方は多岐にわたりますが、ここでは取り組みの一例をご紹介します。
■テレワークの導入
テレワークはICTを活用し、時間や場所を有効活用できる柔軟な働き方です。インターネット環境があればオフィス以外でも働けるため、自宅やカフェといったさまざまな場所で仕事をすることができます。
テレワークは、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に導入する企業が急激に増えました。育児中や介護中の従業員の場合、働き方がオフィス出社だけでは仕事と両立できず、離職を選択せざるを得ない可能性もあります。テレワークは時間や場所に縛られない働き方なので、個別の事情を抱える従業員も働き続けられるため、離職防止が期待できます。
■ワーケーションの導入
ワーケーションとは、観光地やリゾート地などで休暇を楽しみながら仕事もする働き方です。時間や場所に縛られない働き方という意味では、テレワークの発展型とも言えるでしょう。観光庁も推進しており、多くの企業が注目しています。
ワーケーションには、業務型と休暇型の2種類があります。業務型は働く場所が限定されないものの、仕事が主体のタイプです。一方の休暇型は休暇が主体の働き方で、福利厚生の一環として取り入れられるケースが多い傾向にあります。
休暇型の場合、有給休暇の取得推進にもつながるでしょう。なお、ワーケーションのメリットや課題などは、こちらの記事で紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
ワーケーションのメリットとは?効果や導入時の課題と対策を解説
■フレックスタイムの導入
フレックスタイムとは一定期間において、従業員が始業時間と終業時間を自由に決められる制度です。基本的には、必ず出社が必要なコアタイムと労働時間を調整できるフレキシブルタイムで構成されています。
中には、コアタイムが存在しないフルフレックスやスーパーフレックスも存在します。フレックスタイムは出退勤の時間を調整できるため、子どもの送り迎えや自身の通院などの事情に応じて働くことが可能です。なお、フレックスタイムの詳細はこちらの記事で紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
フレックス制度とは|制度の仕組みやデメリット・導入する際のポイントを総まとめ
フレックスタイム制とは?コアタイムの意味や遅刻・早退・欠勤の扱い方
【インタビュー】株式会社Helpfeel「フルリモート・フルフレックス:働き方の実態とその魅力」
■時短勤務や時差出勤の導入
多様性のある働き方を導入する際には、時短勤務や時差出勤を検討する余地があります。時短勤務は、フルタイムよりも短い時間で働ける制度です。企業の中には育児休暇明けの従業員を対象に、時短勤務を選択できる制度を導入しているところもあります。
時差出勤は、始業時間をずらして出勤できる制度です。多くの企業は始業時間がほとんど変わらないため、通勤時の公共交通機関は混雑しやすい傾向にあります。始業時間を数時間遅く設定すれば、従業員は通勤ラッシュを避けられるため、ストレス軽減につながるでしょう。
■副業制度の導入
働き方は、本業として企業に勤務するだけではありません。従業員に副業を認め、企業とは別の場所で働くことを提供することも多様性のある働き方の導入の一つです。従来は、副業を禁止する企業が多い傾向にありました。
しかし、近年では働き方改革の影響により、企業間で副業を解禁する動きが出てきています。企業が副業制度を導入することで、従業員に収入アップやスキルアップなどの機会を提供できるメリットがあります。
また企業にとっては、従業員が副業で得たスキルやコネクションを社内に還元して活かすことで、業績や生産性の向上に寄与するというメリットも期待できます。
企業が多様性のある働き方を導入するメリット

多様性のある働き方の導入は、従業員だけでなく企業にもさまざまなメリットをもたらします。
■求職者へのアピールポイントになる
企業が多様性のある働き方を導入すると、求職者に魅力的に映るため、人材市場で有利に働く可能性があります。近年、人材市場では多様性のある働き方を導入している企業へのニーズが高まっている状況です。
一般社団法人人材サービス産業協議会の調査では、テレワーク可能求人への応募数が増加傾向にあることがわかっています。新型コロナウイルス感染症拡大以降は、テレワーク可能求人への応募数が5倍以上になりました。
※出典元:一般社団法人人材サービス産業協議会「テレワーク導入で採用力&定着率UP」
柔軟な働き方ができる企業は人材市場でアピールポイントになるため、応募者が増加し、優秀な人材の確保が期待できるでしょう。
フルリモート・フルフレックスの導入で採用面でプラスとなった企業へのインタビューはこちら
■定着率の向上につながる
オフィス出社以外の働き方を選択できる企業は、定着率が向上する可能性があります。オフィス出社は、時間と場所に縛られる働き方です。育児や介護などの個別の事情がある従業員の場合、働き方がオフィス出社だけでは仕事を続けられないかもしれません。
働き方の選択肢が狭いことが理由で離職する従業員が増えると、定着率が低下してしまいます。企業が多様な働き方を用意していれば従業員の選択肢が増えるため、離職を防ぎ、定着率の向上が期待できます。
■生産性の向上が期待できる
企業が柔軟な働き方に対応すると、従業員は働きやすい場所で仕事ができるようになるため、業務効率が高まって生産性の向上につながります。例えば自宅でのテレワークを導入した場合、従業員は通勤時間を削減できます。
通勤ラッシュによるストレスも軽減されるため、集中して仕事に取り組める環境を実現できるでしょう。また、従業員が業務内容や気分に応じて働く場所を選べるようになると、業務の効率性を高められます。
■オフィスのコスト削減につながる
テレワークをはじめとするオフィス出社以外の働き方を増やすと、オフィスの運営に関わるコストの削減が期待できます。多様性のある働き方の導入によってオフィスへの出社率が減ると、広いワークスペースが不要になります。
新たな働き方の導入を機にオフィスを縮小すれば、賃料の削減につながるでしょう。また、従業員がオフィス以外のさまざまな場所で仕事をするようになれば、電気代や交通費を削減できるため、その分別の費用に充てることも可能です。
企業が多様性のある働き方を導入する際の課題

多様性のある働き方を導入する際には、課題を把握しておくことも大切です。課題に直面すると運用に支障を来す可能性もあるため、導入前に何らかの対策を検討しておきましょう。
■定着までに時間がかかりやすい
新たな働き方を導入しても、すぐに社内に定着するとは限りません。従業員のニーズに沿っていない働き方の場合は、利用率が高まらない可能性もあります。例えばフレックスタイムを希望している従業員が多いにも関わらず、ワーケーションを導入するケースです。
新たな働き方を導入する際には、経営層や一部の部署だけで決めるのではなく、従業員のニーズも把握しておくことが大切です。また、運用後に新たな課題が見つかることもあります。課題は見つかった段階で速やかに対策を検討し、改善していくようにしましょう。
■管理職への負担が大きい
多様性のある働き方の導入は、管理者への負担増加につながる可能性があります。従業員の働き方が変化すると、上司はこれまでのように部下の労働時間や有給休暇の取得状況などの把握が難しくなるためです。
時短勤務で労働時間が限られる部下を抱えている上司は、残った仕事を代わりにこなさなければならないこともあるでしょう。働き方の選択肢が多いほど従業員の管理が複雑化しやすいため、業務の割り振りをはじめとする労働環境の見直しも必要です。
■多様な働き方に対応できる環境整備が必要
従来の環境では、多様性のある働き方に対応できるとは限りません。例えば上司は部下の管理が難しくなるため、従来の人事評価制度では適切に人事評価できなくなる可能性があります。オフィス以外の場所で従業員が働くようになれば、セキュリティ面への懸念もあります。
そのため、多様性のある働き方を導入する際には既存の環境を把握し、必要に応じて見直すようにしましょう。また、さまざまな働き方に対応するためには、勤怠管理システムをはじめとするICTツールの導入も必要です。
企業が多様性のある働き方を導入する際のポイント

多様性のある働き方をスムーズに導入するためには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。ポイントをおさえておけば、導入後に発生する可能性がある課題の対策にもなります。
■労働環境を整備する
まずは多様性のある働き方に対応できるよう、労働環境を見直しましょう。既存の労働環境のままでは、多様性のある働き方に対応しきれないケースもあります。例えば、業務負担が多い従業員は選択できる働き方が限られます。
時短勤務を選択した従業員の業務がほかの従業員の負担になり、働き方を選択しづらい状況が発生することもあるでしょう。さまざまな状況を想定し、すべての従業員が働きやすい環境を整備することが大切です。
■ICTツールを導入する
オフィス出社以外の働き方に対応するためには、ICTツールが不可欠です。例えばさまざまな場所で働く従業員同士がコミュニケーションを取る際には、ビジネスチャットやWeb会議ツールが役立ちます。
上司が部下の業務の進捗状況を把握する際にはタスク管理ツール、従業員の勤務状況を把握する際には勤怠管理システムがあると便利です。同時に、従業員が働く場所に関わらず、どこでも資料を共有できるよう、社内のペーパーレス化も図りましょう。
■ワークスペースを見直す
多様性のある働き方を導入する際には、ワークスペースの見直しも必要です。ワークスペースの見直しは、自社が抱える課題や目的に応じて検討することがポイントです。例えば、オフィス出社する従業員のコミュニケーションを活性化したい場合は、フリーアドレスを導入するのも良いでしょう。
日常的に従業員の出社率が減る場合は、賃料や電気代などを削減するために、オフィスを縮小する方法もあります。適したワークスペースの環境は、企業ごとに異なります。アイリスチトセでは企業に適したプランをご提案させていただいておりますので、ワークスペースを見直す際にはぜひご相談ください。
まとめ:企業には多様性のある働き方の導入が求められている

多様性のある働き方が求められている背景には、働く人のニーズの変化や少子高齢化にともなう人手不足などが関係しています。新型コロナウイルス感染症拡大により、テレワークの導入率が一時的に増えたものの、5類への移行を機にオフィス回帰する動きも少なからずあります。
しかし、今後も労働人口の不足が続くと予測されている中、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増える可能性もあります。多様性のある働き方は求職者からのニーズも高いため、企業が成長し続けていくためには働き方の選択肢を増やし、人材を確保することが必要です。
多様性のある働き方を導入する際には、ワークスペースをはじめとするオフィス環境を見直しましょう。オフィスはステークホルダーが訪れるため、印象が良ければ企業ブランドの向上が期待できます。
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