カーボンプライシングとはなにかわかりやすく解説!日本の現状や今後は?

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カーボンプライシングとはなにかわかりやすく解説!日本の現状や今後は?

脱炭素への取り組みを検討する中で、カーボンプライシングという言葉を目にすることもあるかと思います。

この記事では、カーボンプライシングの概要と疑問点、現状と今後の動向について解説します。オフィスで取り入れられる脱炭素への取り組みも紹介していますので、企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。

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カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、炭素を含む温室効果ガスに価格をつける仕組みのことです。

温室効果ガスに価格をつけ、炭素を排出する企業や団体に対して排出量に見合った金銭的負担を求める政策手法となります。

気候変動の主因と考えられている温室効果ガスの排出量に価格をつけることで、排出者が自発的に排出を減らすような行動変容を促す目的として導入されています。

【2023年】カーボンプライシングの現状

2023年3月現在における、世界各国や日本のカーボンプライシングへの取り組みの状況を見ていきます。

 

■世界のカーボンプライシングの現状

欧州連合(EU)では、世界に先駆けて2005年より排出量取引制度である「欧州連合域内排出量取引(EU-ETS)」が導入されました。発電・石油精製・製鉄・セメント事業を対象に実施され、2030年までに排出枠の年間削減率を、現在の1.74%から2.2%まで引き上げる政策を採っています。

中国は、2019年時点でエネルギー起源の炭素排出量が世界一多い国で、世界全体の約30%を占めています。その中国でも2020年9月の国連総会において、2060年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて、差し引きゼロにする取り組み)を達成するよう努力すると表明しました。現在は石炭・火力発電業者のみ規制対象ですが、今後カーボンニュートラル達成に向けて対象事業者の拡大を検討するとしています。

フィンランドは世界初の炭素税導入国です。1990年から導入された炭素税による税収は、税収減少の一部を補填するために利用されています。

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■日本のカーボンプライシングの現状

2020年現在、CO2換算で11.5億トンの温室効果ガスが排出されています。前年比で5.1%減、2013年と比較すると18.4%減となっています。

2012年12月より「地球温暖化対策のための税(温対税)」が導入されました。2021年に発表された「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%減」「2050年までにカーボンニュートラル達成」という目標へ着実に近付いていると言えるでしょう。

国だけではなく、自治体独自で取り組まれている排出量取引制度もあります。東京都では2010年より「総量削減義務と排出量取引制度」が実施され、2019年までの第2計画期間において、対象事業所すべてで総量削減義務を達成しました。また、カーボンクレジットの市場取引の実証や、経済産業省主導で「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」(カーボンニュートラルの達成を目指す企業や団体が、新たな仕組みを作るための実践の場)の設立なども進められています。

2023年より「排出量取引制度」と「炭素賦課金」を段階的に導入すると発表されており、日本におけるカーボンプライシングへの取り組みは、今後加速していくと考えられます。

カーボンプライシングの種類と特徴

カーボンプライシングの手法は、大きく2種類に分けられます。

  • 明示的カーボンプライシング
  • 暗示的カーボンプライシング

それぞれの中に具体的な手法がいくつかあるため、その種類や特徴を順に紹介していきます。

 

■明示的カーボンプライシング

明示的カーボンプライシングは、排出される炭素量に対して直接値段をつける方法となります。具体的な手法は、次の2点です。

  • 炭素税
  • 排出量取引制度

炭素税

温室効果ガスの排出量に対して課税する手法が、炭素税です。炭素税は企業や一般市民など、温室効果ガスを排出するすべての方に対しての課税であり、排出量に比例した税額となります。

たとえば化石燃料であれば、燃やすと温室効果ガスが発生します。その排出量に応じた炭素税を輸入時に輸入業者がまとめて支払い、それを販売価格に反映させることで幅広く負担を求めることも可能です。

既存の税制との親和性が高く、コストをかけずに導入できるという課税側のメリットもあります。

 

排出量取引制度

排出量取引制度は、各排出者において一定期間における温室効果ガスの排出量の上限を決め、その枠内で排出量を取引できるという手法です。制度に参加している排出者同士、排出枠を取引できるのが特徴です。

たとえば、決められた排出量の上限を超えてしまう排出者は、上限を超えていない他の排出者の枠を買い取ることが可能となります。

決められた排出量の枠内で取引すると、全体では排出量の上限を超えないため、総量の削減が実現できます。

 

■暗示的カーボンプライシング

暗示的カーボンプライシングは、間接的に炭素の排出量をおさえるため、エネルギーの消費量に対して負担する手法です。具体的には、次が当てはまります。

  • エネルギー課税
  • 固定価格買取制度
  • 炭素国境調整措置
  • クレジット取引
  • 補助金や税制の優遇

エネルギー課税

省エネルギーに対する取り組みや、再生可能エネルギーの利用を進めてもらうための仕組みが、エネルギー課税です。

化石燃料を例にあげると、原料の輸入時・製造所からの出荷時点・消費者への供給時点の3カ所で、エネルギーに対する課税がなされています。そのため最終的な価格が上昇し、他のエネルギー利用への誘導へと促す効果があります。

 

固定価格買取制度

固定価格買取制度は、電気事業者に再生可能エネルギー由来の電気を、一定価格で買い取ってもらう仕組みです。たとえば、太陽光発電の電力買い取りがこれに当たります。

再生可能エネルギーを導入するイニシャルコストは、固定価格買取制度によって回収を早めるメリットがあるため、導入促進が期待できます。

なお、太陽光発電に置ける電力の買い取り期間は、導入から10年間と定められていることに注意が必要です。

 

炭素国境調整措置

炭素国境調整措置は、新興国など温室効果ガスの価格が低い国で作られた製品を輸入する際に、自国との価格差を事業者に負担してもらう仕組みです。

たとえば、国際的な競争力のある製品では、炭素税の負担が少ない国で作られたものと比較して、価格的に不利となる可能性が高くなるでしょう。

それを防ぐため、輸入時の水際で炭素課金をおこない、価格差を是正します。国内産業の保護とともに、温室効果ガス対策の緩い国へ製造拠点を移して、大量の温室効果ガスを排出することのないようにする目的もあります。

 

クレジット取引

クレジット取引とは、温室効果ガスの削減価値をクレジット化して取り引きできるようにする仕組みです。

温室効果ガスの削減・吸収された量をクレジット化し、排出量の多い排出者がクレジットを購入することで削減・吸収に関する事業拡大費用の捻出と、相対的な温室効果ガス削減の効果が見込めます。

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補助金や税金の優遇

補助金や税金の優遇で、脱炭素への取り組みを促すという手法もあります。

2022年度には、次の制度が予算化されていました。

  • 地域脱炭素移行・再エネ推進交付金:意欲的な脱炭素の取り組みをおこなう地方公共団体に対して交付金を支払う
  • 地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業:災害・停電時に、公共施設へエネルギー供給可能な再エネ設備の導入を支援する
  • 民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業:民間企業などによる自家消費型・地産地消型の再エネ導入を促進し、補助金を出す など

2023年2月現在、2023年度の予算はまだ出ていませんが、2022年度と同時内容の予算案が出されています。

 

■インターナルカーボンプライシング

インターナルカーボンプライシングは、政府が導入するものとは別に、企業が温室効果ガス排出量をおさえる目的で導入するものです。

企業が自主的に温室効果ガスに価格をつけ、自社の排出量の価値を見える化して脱炭素経営に生かします。

温室効果ガスの排出量に対して、つけている価格が上がると企業の脱炭素化への取り組みが強まっていると判断され、企業の社会的価値の向上にも寄与します。

企業ができる脱炭素の取り組み

世界的な環境問題の高まりを受け、企業や団体も脱炭素への取り組みを求められています。脱炭素問題など環境保全に取り組むことは、企業に課せられた社会的責任とも言えるでしょう。また、環境問題に取り組むことは企業にとっても、ブランドイメージの向上やコスト削減などさまざまな効果が期待できます。

ここでは、自社のオフィス内でも実行できる、脱炭素化への取り組みをご紹介します。

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■再生可能エネルギーへの切り替え

オフィスの電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えることで、脱炭素化を推進できます。

環境庁が展開する再エネ電気プランを利用すれば、次のメリットが得られます。

  • 契約を切り替えるだけで再生可能エネルギーの利用が可能
  • 温室効果ガス排出量は実質ゼロ
  • 条件によって環境省からの補助金がある
  • 企業の社会的貢献のアピール効果 など

また、自社ビルであれば屋上の空きスペースに、太陽光発電の設備を導入するのも一つの方法です。

固定価格買取期間は売電でイニシャルコスト回収、期間が切れたあとは自社ビルの電力購入の削減効果が見込めます。また、2023年以降に予測されている電気代の高騰にも備えられ、コスト削減としても有効な施策と言えるでしょう。

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■従業員のオフィス滞在時間の削減

オフィス内の電力消費をおさえるため、従業員のオフィス滞在時間を減らすという施策も有効です。

  • テレワーク・リモートワークの推進
  • ノー残業デーの設定
  • 終業時の空調停止 など

上記の対策によって無駄な電力消費が削減でき、ひいては発電で使用される温室効果ガス排出をおさえることが可能です。

就業時間内でも「エレベーターを極力使わない」「エアコンの設定温度変更」「席を離れる際はパソコンを切る」など、光熱費の削減に勤めるとより効果的です。

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■省エネできるオフィスへの設備投資・移転

自社ビルで既存のオフィスを利用し続ける場合、省エネ効果の高い空調や照明に変更するのも、脱炭素経営には効果があります。空調の効果を高めるため断熱性の高いガラスやカーテンに変える、外壁を遮熱効果のある塗料で塗り替えるなどの施策も合わせてとるようにすると良いでしょう。

現在テナントビルに入居している場合、環境に配慮した「ZEB(Net Zero Energy Building、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」のオフィスに移転するのを検討しても良いかもしれません。脱炭素に配慮されたオフィスに移転する方が、既存のオフィスに手を加えるより短期間で費用対効果を見込める可能性があります。

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カーボンプライシングの導入に関する懸念点

カーボンプライシングの導入はメリット面も多いですが、デメリットとなる可能性のある懸念点もあります。

  • 企業への負担増
  • 企業の海外流出の可能性
  • CO2の排出量が減少する保証なし

それぞれについて詳しく見ていきます。

 

■企業への負担増

カーボンプライシングによって、税金やクレジット、設備投資などの費用負担が増える可能性が考えられます。

これまで通りのエネルギー消費方法では、カーボンプライシングで課税された分だけ負担が増えてしまいます。金銭的な負担増で企業自体の資金繰りに影響が出てしまい、脱炭素へ取り組むための投資ができなくなる懸念も出てくるでしょう。

排出量がおさえられなければ資金負担が増えることから、生産コストの増大が販売価格にも転嫁されて、製品の競争力低下を招く可能性も否めません。

 

■企業の海外流出の可能性

カーボンプライシングは、世界各国すべてで導入されているわけではありません。また、世界的に統一された基準もないのが現状です。そのため、炭素税やエネルギー課税の有無、税率は国によって負担金額が異なることも大いに考えられます。

たとえば日本よりカーボンプライシングの負担が少ない国の企業で作られる製品は、日本と比較して価格的に有利となる可能性は高くなるでしょう。

結果的に、日本よりカーボンプライシングの負担が少ない地域にある企業のほうが、資金を潤沢に持つことになることも考えられます。カーボンプライシングのない国へ日本の企業が進出してしまうと、国内の製造業が弱体化する懸念も出てきます。

 

■CO2の排出量が減少する保証なし

上記の海外流出と関係するのですが、企業がカーボンプライシングの負担が少ない地域に移動するだけでは、温室効果ガスの排出量はおさえられません。

排出量をおさえる取り組みがなければ、世界で排出されるトータルの温室効果ガスの量は変わらないこととなります。仮に、排出規制のない国で製造すれば規制がないため、むしろ排出量が増えてしまう悪循環を生むことも考えられるでしょう。

カーボンプライシングでよくある疑問

カーボンプライシングの取り組みを推進するにあたって、次のような疑問点がよく見られます。

 

■カーボンプライシングは実際に広まっているのか

1990年にフィンランドが導入した炭素税からカーボンプライシングの導入が始まり、スウェーデン・ノルウェー・デンマークといった北欧の国を中心に広がっていきました。

世界銀行の調べでは、2022年4月現在でカーボンプライシングを導入している国と地域は68に上り、世界全体の温室効果ガス排出量の23%をカバーしています。

現在まで右肩上がりに導入が進んでおり、今後も世界的に広まることが予想されます。

 

■徴収された炭素税の使い道は?

日本国内での税収は、年間で2,623億円程度と見込まれています。この税収を活用して、次にあげる温室効果ガス排出抑制の施策が実施されるとしています。

  • 省エネルギー対策
  • 再生可能エネルギー普及
  • 化石燃料のクリーン化・効率化 など

※参考:「地球温暖化対策のための税」について(FAQ)

 

■炭素価格の今後の推移は?

「パリ協定(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度におさえる努力をする)」の実現を見越し、炭素価格は上昇傾向です。

国際エネルギー機関が2020年に出したデータによると、先進国における炭素価格は2025年に63ドル、2040年に140ドルとなると予測されています。

当然、日本も例外ではありません。「2050年カーボンニュートラル宣言(2050年までに温室効果ガスの排出量と除去・吸収量をプラスマイナスでゼロにする取り組み)」に向けて、取引の需要が高まっています。現状では需要に供給が追いついていないことから、今後も上層傾向が続くと予想されています。

まとめ:カーボンプライシングへの取り組みは今後強化される

環境問題を考える上で、企業における脱炭素への取り組みは重要視されます。世界的に脱炭素の動きが活発となっている現状において、カーボンプライシングへの取り組みはますます進められると予想されます。

脱炭素への取り組みは、オフィス内のちょっとしたところからでも始めることが可能です。少しずつでも取り組んでいけるよう、従業員が前向きに取り組めるような仕組み作りが必要となるでしょう。

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