【事例あり】森林環境譲与税をわかりやすく解説|国産材を活用したおすすめ家具も紹介
サステナブル・SDGs
日本の森林は、現在手入れ不足の傾向にあります。手入れ不足の森林は荒廃が進んでしまうため、深刻な課題となっています。そこで日本の森林環境を保全するため、森林環境譲与税が創設されました。
本記事では、森林環境譲与税の概要や仕組み、背景、森林環境譲与税の使途や具体的な取り組み事例などを紹介します。森林環境譲与税を活用し、日本の森林環境における持続可能な発展を実現しましょう。
目次
森林環境譲与税の概要
森林環境譲与税は、森林環境の保全のために国から都道府県や市区町村へ譲与される税金です。詳しい概要を解説します。
◾️森林環境譲与税とは
森林環境譲与税とは、森林の適正な管理や保全を推進するために設けられた税金です。
2019年3月、国会で「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立しました。これを受け、「森林環境譲与税」と「森林環境税」が創設されました。
「森林環境税」は、国内に住居のある納税義務者に対し、2024年より課税されることになった国税です。この「森林環境税」の税収全額が、「森林環境譲与税」として、国から都道府県や市町村へ譲与される仕組みです。
譲与された税金は、都道府県や市町村が、森林の適正管理や保全と発展のための取り組みに活用します。なお、譲与は2019年より行われています。
◾️背景と目的
森林環境譲与税の目的は、森林の環境保全と適切な管理を促進するための資金提供です。譲与を受けた都道府県や市区町村は、森林環境譲与税を活用して森林環境保護や発展を図ります。また、SDGsの目標達成に向けた地球温暖化対策や、近年増加傾向にある災害防止に対する財源の確保のためにも活用されます。
日本の森林は、国土面積の約7割を占めています。環境保全や防災、水の浄化などさまざまな場面で、森林は国民の暮らしを支えてきました。この貴重な森林を保護し、持続可能な発展をさせていくためには、適正な管理と整備が必要です。
例えば、適度に間伐をすることで樹木の成長を促し、土砂崩れや洪水の発生を防げます。倒木による自然災害も抑制し、樹木の下で草木も生息しやすくなるでしょう。草木が生息しやすくなると栄養豊富な土壌へのサイクルが保全され、さらに森林が丈夫に育つ好循環が生まれます。
しかし、現状では間伐に必要な人材は減少傾向にあります。林業全体の担い手不足は深刻な問題です。森林は、手入れや整備をしなければ荒廃してしまいますが、林業の採算性の低下や所有者不明の森林の顕在化、林業従事者の高齢化による担い手不足により、手入れ不足の森林が増えています。
このままでは日本の森林が衰退していく恐れがあるため、森林整備の新たな財源として森林環境譲与税の譲与が始まりました。
◾️主な使途
森林環境譲与税の使途については、国民が負担している税金であるため、何らかの方法で公表しなければならないとされています。おもな使途は、森林整備、人材育成、木材利用、普及啓発、二酸化炭素の排出量削減などです。
具体的には、森林の適度な間伐をする人材確保、水源の涵養や多様な生物の保全保護、森林の周辺地域の過疎化によって所有者がわからなくなってしまった森林の管理などに使われます。
また、林業従事者の不足や高齢化による問題を解決するため、林業の普及活動や啓蒙活動、現場技能者の育成や指導にも使われています。森林経営管理制度によって管理体制をシステム化したり、従事者や地元住民へ意識調査を行ったりする際にも活用されます。
なお、森林環境贈与税は、林業従事者や直接森林と関わる人にだけ使われるものではありません。地域の住民に向けた「木育」や植樹イベント、木材製品の普及、公共施設の木質化など、森林から生み出された木材を広く活用できるよう利用促進する取り組みも重要な使途です。
◾️森林環境税との違い
森林環境税は、納税義務者に対して課される税金であり、国民が国に対して支払う国税です。一方、森林環境譲与税は森林環境税の税収の全額を、国が都道府県や市区町村へ譲与するものです。
森林環境税は森林環境譲与税と同時期に、森林の環境保護や持続可能な利用を促進するために導入されました。なお、森林環境税は2024年から課税が開始されています。
◾️仕組み
2019年に始まった森林環境譲与税は、市有人工林面積と林業就業者数・住民人口などの基準から算出された指数をもとに、予算額を分配して譲与されています。
2020年には、「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が一部改正され、2020年度から2024年度までの森林環境譲与税が前倒しで増額されることが決まりました。
2024年度からは国内に住所のある個人に対し、国税として森林環境税が課税されます。徴収額は、個人の住民税均等割と併せて一人年額1,000円です。この税収の全額が、国によって森林環境譲与税として都道府県・市町村へ譲与される仕組みです。
各自治体は適正な活用が担保されるよう、森林環境譲与税の使途については自治体のホームページや広報などでその使途を公表しなければなりません。
【ローカルSDGs推進】森林環境譲与税の活用事例
国産の木材を積極的に使用すれば、木材の消費を促し、日本の林業を循環させられます。自治体で什器や備品などを購入する際に国産材を選択すれば、森林環境譲与税を活用してコストを削減できるとともに、日本の林業を活性化できます。
このような考えのもと、ローカルSDGsを推進している事例を見ていきましょう。
◾️愛知県名古屋市
森林資源を活用しながら都市と地方が支え合う取り組みを行った、愛知県名古屋市の事例をご紹介します。
背景
2030年のSDGs達成に向けて、環境・経済・社会の統合的向上による社会課題の解決が広く求められています。それを受け、地域の資源を活かした自立・分散型の社会の形成と、都市と地方が補完し支え合う、持続可能な地域循環共生社会の重要性が高まっています。
このような背景のなか、愛知県名古屋市と長野県木祖村は、森林資源を活用しながら都市と地方が支え合うことを目的として、令和4年6月に協定を締結しました。
協定では、木祖村内における森林整備や木材の利用促進に、両自治体が協力して取り組むことを定めています。
取り組み内容
「森づくり事業」として、長野県木祖村内の森林3haを木曽川源流の里「名古屋市・木祖村交流の森」に設定し、整備しました。
市民が水源の涵養、生物多様性の保全等の環境問題について学習できる市民向けバスツアーも実施しています。
木材の利用促進事業として、間伐材を使用した製品やサービスの開発などを通じて「脱プラスチック」や環境保全に関する市民の意識向上を図るモデル事業も実施しました。
成果
「名古屋市・木祖村交流の森」における森林整備は令和4年度に開始されています。令和5年度からは、名古屋市民を対象にバスツアーを企画しました。バスツアーでは、植栽や育樹等の作業を通じた生物多様性の保全や、水源の重要性をはじめとする環境学習を行うとともに、木祖村の地域活性化を図る取り組みが行われています。
これらの取り組みを通じて、森林資源の消費地である都市と生産地である山村の人的・物的交流の促進も期待されています。
【森林経営管理制度に基づく取り組み】森林環境譲与税の活用事例
森林経営管理制度に基づく取り組みで、森林環境譲与税を活用している事例をご紹介します。
◾️山形県山形市
手入れ不足となっている森林の適正管理に取り組んだ、山形県山形市の事例を紹介します。
背景
山形市では、森林所有者の高齢化や不在村化などによって、適切な管理が行われていない森林が増加しているため、森林環境譲与税を財源とした森林経営管理制度による森林整備を推進することになりました。
意向調査は、市内森林を一定の区域に分け、優先順位を付けて取り組んでいくこととしています。
取り組み内容
モデル地区での取り組みとして、経営管理権集積計画を策定した森林のうち、民間事業者へ再委託できなかった森林11haの森林整備を実施しました。
優先順位1位地区では、隣接地との合意形成を図るため、リモートセンシング技術を活用した森林境界確認を実施しています。
市に委託意向のある所有者の人工林79haについては、林業経営に適した森林と適さない森林、また、受託の可否についてゾーニングを実施し、所有者の同意を得て集積計画を策定しました。この際、詳細な森林情報を活用し、林野庁が開発した森林ゾーニング支援ツール「もりぞん」を用いてゾーニングが行われました。
成果
これらの取り組みは、手入れ不足森林の適正な管理に繋がっています。事業を進める上での課題や検討事項については、市や森林・林業関係団体等で構成される山形市森林経営管理推進会議において、都度協議しながら進めていくこととしています。
【ドローンレーザーによる計測】森林環境譲与税の活用事例
森林環境譲与税によって、ドローンレーザーによる計測を実施した事例をご紹介します。
◾️新潟県上越市
新潟県上越市では、ドローンレーザー計測を活用したスマート林業にも取り組んでいます。スマート林業と森林経営管理制度を活用した事例を見ていきましょう。
背景
新潟県上越市では、管理の行き届いていない私有林の適正な管理を促進するため、森林環境譲与税を財源に森林経営管理制度を活用して、計画的に森林整備を進めることになりました。
取り組み内容
取り組み内容としては、市町村経営管理事業と経営管理権集積計画の作成を行いました。令和2年度から取り組みを開始した1地区では、令和4年度から森林整備に着手し、全区域を5か年計画で間伐を進める予定です。
令和4年度は、取り組みを開始した1地区の河沢で間伐を実施しました。令和4年度から取り組みを開始した3地区の森林所有者に対しては、森林経営管理制度に関する説明会を開催し、意向調査を実施しています。また、経営管理権集積計画に関する説明会を開催して同意取得に取り組み、集積計画を作成しました。
この事業では、ドローンによる航空レーザー計測および地形・森林資源情報の解析が実施されています。ドローンレーザー計測によって森林境界を明確化し、集積計画の同意取得にも活用しています。このような先端技術を活用した「スマート林業」への取り組みも行われました。
成果
市町村経営管理事業については、間伐により、地域の人々から「スギ林の見通しがよくなり、山が綺麗になった」との声が寄せられています。
【地域林政アドバイザー雇用】森林環境譲与税の活用事例
森林環境譲与税によって、地域林政アドバイザーを雇用した活用事例をご紹介します。
◾️宮城県加美町
手入れ不足の森林を管理するため、情報整備と経験豊富なアドバイザーを雇用した宮城県加美町の事例を紹介します。
背景
宮城県加美町では、手入れの行き届いていない森林が多く存在することから、森林経営管理制度の取り組みを進めていく必要性に迫られていました。
しかし、町のマンパワー不足が問題となっていたため、人手不足の状況を考慮し、知識と経験のある人材の雇用によって取り組みの推進につなげる必要がありました。
取り組み内容
令和2年度には、宮崎西川北地区の森林所有者55名を対象とした意向調査を実施しました。意向調査の結果をもとに、所有者12名の森林経営管理権集積計画の作成に着手しています。
また、業務を継続的に進めていくための体制整備として、新たに地域林政アドバイザー(役場職員OB)を1名雇用しました。
成果
意向調査の情報を森林のクラウドシステムに反映させることで、紙だけでなくデータでも情報管理ができるようになりました。
意向調査結果の反映図を色で塗りつぶす形だけではなく、地番や林小班の情報を明記することによって、一目で情報を把握できるようになり、集積計画の検討もしやすくなっています。
また、県の伴走支援を取り入れたことにより、集積計画策定までの一連のスケジュールが把握できるようになりました。一連のスケジュール把握によって取り組みへのサイクルが明確になったため、継続した集積計画策定への業務推進につながっています。
【再造林支援】森林環境譲与税の活用事例
再造林支援を行った森林環境譲与税の活用事例をご紹介します。
◾️鹿児島県
森林環境譲与税を財源に、不採算人工林を目標林型へと再造林した鹿児島県の事例を紹介します。
背景
鹿児島県では、市町村が経営管理権を設定する「不採算人工林」を、公益的機能を重視した森林へと誘導する必要がありました。
しかし、林業専門職員が不足している市町村では、専門的技術を用いた調査は困難であるという問題がありました。そのため、簡易な林況の把握や目標林型に向けた施業方法などの判断技術を開発する必要がありました。
取り組み内容
令和元年から5年度までの取り組みとして、不採算人工林を植生調査によって類型化し、目標林型を設定しました。また、目標林型に誘導するための施業方法についても検討しました。
その後、種子の供給源が乏しい森林において、広葉樹苗の低密度植栽とその効果を検証しました。
成果
市町村による不採算人工林の整備が促進され、適切に管理された森林の増加が見込まれています。
【木材利活用の促進】森林環境譲与税の活用事例
森林環境譲与税を財源に、木材利活用の促進を行った事例をご紹介します。
◾️和歌山県有田川町
地元産材を活用して林業就業者の移住施設を整備した、和歌山県有田川町の事例を紹介します。
背景
和歌山県有田川町では、地域の農林業の維持発展のため、担い手確保が差し迫った重要な課題でした。
地域の事業者からは働き手の移住施設不足が雇用の壁となっているとの声が上げられており、地元産材を活用した移住施設整備を行うこととなりました。
取り組み内容
有田川町では、森林環境譲与税を活用して、民有林の森林整備への支援、林業を担う人材の育成、公共施設の内装木質化や地域材を活用した新築住宅への補助に取り組んでいます。
また、誕生祝い品および成人祝い品としての木製品の贈呈などを通じた普及啓発活動の取り組みによって、町民の森林・林業に 対する関心を高めていく方針です。
移住就業支援拠点施設の整備に当たっては、地元産材を活用し、床材をはじめとする内装および家具の木質化を実施しました。
この施設は、林業の担い手を確保するため、すぐに移り住めるように季節雇用やインターンシップの短期宿泊・長期賃貸を食事付きで提供する施設として整備しています。
成果
令和6年1月現在、林業就業者が2名入居、季節雇用やインターンシップなどでの宿泊のほか、地域の人々にも多数利用されています。
森林環境譲与税に関するアイリスチトセの取り組み
アイリスチトセでは、国産材を使用した家具を製造・販売することで、日本の森林における循環型社会の実現と林業の活性化に貢献しています。
◾️アイリスチトセの取り組み
アイリスチトセでは、10年以上前から自治体の要望に沿って国産材を学校用家具に活用している経験があります。安全、安心かつ耐久性が求められる学校用家具製造で培ってきたノウハウは、官公庁、自治体、オフィス、医療施設用の家具の設計にも活かされています。
森林環境譲与税に関連する取り組みとして、自然資源の持続的な利用を目的に、管理された森林で生産された木材を使用して規格に沿って製品化した「FSC 認証取得製品」を積極的に開発しています。
また、商品開発の段階で部材全てをリサイクルに回すことを前提として設計。部材を材質ごとに分別、再利用できる仕様にすることで、サーキュラーエコノミーを実現させる製品の開発も進めています。
◾️国産材を活用した家具
国産材を活用した家具の例をご紹介します。国産材を使用することで日本の林業の活性化も支援します。
デスク
アイリスチトセでは、国産材を活用したデスクやテーブル、フラップテーブル、スクールセット(学校用机とイスのセット)などを製造・販売している他、ニーズに応じて造作するオリジナル家具として、受付カウンターテーブルや展示棚、靴箱などもあります。
国産材を活用したデスクやテーブルを導入することで、日本の森林における循環型社会の実現に貢献できます。
ミーティングチェア
国産材ミーティングチェアにはさまざまなデザインが揃っています。国産材を活用した木のぬくもり溢れる造作ベンチや造作ボックスシートの製造・販売も行っています。
チェアなど什器や備品を国産材の製品にすれば、森林環境譲与税を活用してコストカットできるとともに、国産材の消費を促進し、日本の林業を循環させることができます。
パーティション
オフィスで数多く使用するパーティションを国産材にすれば、多くの国産材を使用することになり、日本の林業の発展に寄与できます。
森林環境譲与税を活用するとともに、普段パーティションを目にする人々にも国産材の良さや森林環境への関心を持ってもらうきっかけになるかもしれません。
書庫
アイリスチトセでは、書庫や棚の天板や扉にも国産材を使ったものがあります。たとえ小さなものでも、多くの人が国産材を取り入れる意識を持てば、日本の林業が活性化し、森林環境の保護・保全と循環型社会の実現につながります。
まとめ:国産材を使用して日本の森林における循環型社会を実現しよう
2024年から始まった森林環境税は、税収の全額が森林環境譲与税として都道府県や市区町村に譲与され、森林環境の保護・保全、林業の持続可能な発展のためなどに使われます。
日本の林業を活性化し、森林における循環型社会を実現するためには、国産材を活用することが大切です。国産材の消費が促進されれば、林業の活性化によって人手不足や整備不足の問題が解消され、適正な整備をされた森林は健やかに成長し、森林環境の保護と林業の持続可能な発展が可能になります。
国産材を使用した製品を取り入れ、森林環境譲与税を活用するとともに、日本の森林における循環型社会を実現しましょう。