2030年問題を乗り越える!経営への影響や具体的な対策を紹介
サステナブル・SDGs
企業が今後対策するべき社会問題として「2030年問題」がよくあげられるようになりました。
本記事では、2030年問題の概要と企業経営への影響、各企業が取るべき対策について詳しく解説します。2030年問題対策に使用できる補助金や助成金も記載していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
2030年問題とは
2030年問題とは何かをまずはおさえておきましょう。
■高齢化や人口減少による社会問題
2030年問題とは、高齢化や人口減少により顕在化すると考えられている、労働や社会保障など複数の領域でおきる社会問題の総称です。2030年には日本人口の3分の1が65歳以上になると予想され、合わせて出生率の低下による15歳から64歳の生産年齢人口の減少も懸念されています。
2030年問題によって、具体的には次のような問題が起こると考えられています。
- 労働力不足による経済成長の鈍化
- 年金制度や保険料など社会保障への影響
- 医療・介護分野の負担増 など
企業経営にも大きく影響する問題であり、企業にとっては早期対策が求められる事案でもあります。
■2025年・2040年問題もある
2030年問題と密接に関連する問題には、「2025年問題」「2040年問題」があげられます。
2025年問題は、第1次ベビーブームの団塊の世代(1950年以前に生まれた方)が、すべて後期高齢者になることに伴う問題です。人口の約18%にあたる約2,180万人が75歳以上となり、いっそう超高齢化社会が進むと予測されています。
1974年以前に生まれた第2次ベビーブーム世代が65歳以上の高齢者となる問題が、2040年問題です。65歳以上の人口が約35%を占め、少子化による人口減少がさらに進むと予想されることから、日本の経済は2040年代以降マイナス成長になると考えられています。
いずれの問題も少子高齢化社会に起因しており、社会保障費の増大や医療・福祉分野の人材不足など、深刻な問題が起こる可能性は否めません。2030年問題同様、企業としては具体的な対策を講じる必要があります。
2030年問題による経営への4つの影響
2030年問題で起こりうる経営上の問題は、次の4点です。
- 人手不足の深刻化
- 人材確保の難易度の上昇
- 人件費の負担増
- 機会損失と顧客離れ
それぞれを詳しく説明します。
■人手不足の深刻化
2030年問題によって、深刻な人手不足が予想されています。
生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに減少が続いています。65歳定年とする企業では退職に新規雇用が追いつかず、従業員が不足する可能性が懸念されるでしょう。とくに、医療・介護の業界は利用者が増加傾向となるため、人手不足が深刻化すると予想されます。
また、人手不足となると従業員一名当たりの労働負担が増え、業務の質や進捗への影響も否めません。負担が大きくなると従業員のモチベーションが下がり、離職してしまうケースも考えられます。
■人材確保の難易度の上昇
生産年齢人口の減少に伴い社会全体で労働力が不足しているため、人材確保の難易度は年々上昇しています。
求職者から考えると売り手市場であり、より良い条件を提示する企業に応募が集中するのは当然の結果です。とは言え、人材不足解消のために十分なプロセスを踏まずに採用した場合、業務内容や職場環境とのミスマッチによる離職の増加も懸念されます。
人材確保が難しくなると、新たな採用方法を取り入れる必要も出てくるでしょう。そうなると、採用担当者を中心とした一部の従業員に負担を強いることとなってしまいます。
■人件費の負担増
労働力不足で売り手市場となると、求職者はより良い条件の企業に応募するようになります。人材確保のために他の企業より好条件を提示すると、その分人件費が増加し、ゆくゆくは経営に影響を与えかねません。
また、高齢者の増加による社会保険料の引き上げが実施されると、企業の費用負担がさらに増加することも考えられます。
優秀な人材確保には、給与や福利厚生を充実させて他社との差別化を図ることが有効です。ただし、その分企業の経営コストが増加するという懸念もあるため、予算を踏まえた戦略を立てる必要があります。
■機会損失と顧客離れ
従業員の不足による、機会損失と顧客離れも考えられます。
自社の製品やサービスに需要があったとしても、営業や販売スタッフが十分でなければ販売の機会を失い、売上につなげることが難しくなります。商品をブラッシュアップするプログラムや開発部門、販売後のカスタマーサービス部門などで人材不足が発生すると、顧客満足度が低下して他社製品へ流れてしまうケースが出てくるかもしれません。
従業員不足は製品やサービスの質を悪化させ、ひいては収益悪化・業績悪化をもたらします。高品質のサービスを維持するためには、人材リソースの確保が重要と言えます。
2030年問題に備えて企業が検討すべき対策
2030年が来るまで、それほど時間は残されていません。2030年問題に備えるため、企業は次にあげる対策の検討が求められます。
- 定年延長による人材の維持
- 雇用枠の拡大
- DXによる業務効率化の推進
- 従業員のスキルアップ支援
- 多様な働き方や制度を用意
- 女性活躍推進
それぞれを詳しく説明します。
■定年延長による人材の維持
定年の延長により、高齢者の雇用を維持して人材を確保することが可能です。
令和3年に「高年齢者雇用安定法」の一部が改定され、次のいずれかの措置を講じる規定となりました。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に「事業主自らが実施する社会貢献事業」「事業主が委託・出資する団体がおこなう社会貢献事業」のいずれかに従事できる制度の導入
これらの導入により、シニア層の経験・スキル・人脈を活かした人材確保が可能となります。嘱託社員制度を採用すれば、よりフレキシブルな雇用体制の構築も期待できます。
定年の延長で人材を維持しつつ、ノウハウや知識を次世代へ継承することで、企業全体の成長も望めるでしょう。
※参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~(厚生労働省)
■雇用枠の拡大
生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加を踏まえ、新規雇用で高齢者を採用するのも一つの方法です。労働意欲の高い高齢者は多く、70歳以降でも働きたいと考える方は8割にのぼるとのデータもあります。
※出典元:2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について
高齢者のスキルや経験を生かせる職場を提供して積極的に採用するのも、人材確保としては有効な手段でしょう。
また、多様な人材を受け入れるダイバーシティの考え方を取り入れ、年齢だけにとどまらず性別や国籍を超えた雇用を検討するのも、企業の将来を考えると検討すべき課題と言えるでしょう。
ダイバーシティの詳細に関しては、次の記事もぜひ参考にしてください。
ダイバーシティとはなにか簡単に解説|基本から推進のポイントまで
■DXによる業務効率化の推進
人手不足による従業員の負担軽減のため、オフィスのDX化を推進するのも一案です。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称であり、デジタル技術によって業務に変革を起こし、生産性向上や作業効率を向上させることを意味します。
オフィスのDX化には、次の手順を踏んで進めていきます。
- DX推進の課題と目的を明確にし、導入意義を社内に周知する
- 必要なツールやシステムを導入する
- 必要に応じて社内体制を見直す
導入後は効果検証を繰り返し、内容のブラッシュアップを図るのも重要です。効果が見えるまでにはある程度時間がかかり、中長期的な取り組みとなるのを念頭に置いて進めることが求められるでしょう。
オフィスのDX化に関しては、次の記事に詳細がありますので参考にしてください。
オフィスをDX化するべき4つの理由|成功させる秘訣や補助金制度を解説
■従業員のスキルアップ支援
従業員個人のスキルアップに関して、企業が支援する体制を取ることも大切です。
生産年齢人口が減少するのは事実であり、将来的に従業員の確保が難しくなるのは容易に想像できます。そこで従業員個人のスキルアップを促し、一人ひとりのパフォーマンス向上を図ることで、企業全体の成長が期待できます。
また、企業が必要とする知識やスキルを、従業員に「リスキリング」として新たに取得してもらう取り組みも有効です。外部講師によるセミナーや研修の開催や、スキルレベルの高い従業員による勉強会の開催などを企業主導でサポートし、企業全体のレベルアップを図るのも重要となるでしょう。
■多様な働き方や制度を用意
企業側で多様な働き方や制度を用意することで、従業員のエンゲージメントを向上させる効果があります。
多様な働き方や制度の具体例としては、次の取り組みがあげられます。
- 休業・休暇制度の充実(育児・介護・有休など)
- 勤務時間の見直し(フレックスタイム制・時短勤務・変形労働制など)
- 勤務場所の見直し(テレワーク・リモートワーク・ワーケーション・サテライトオフィスなど) など
こういった制度の導入で、これまで育児や介護など生活スタイルの変化で離職せざるを得なかった従業員の確保が可能となります。また、これまでの勤務体制では働けなかった層に対してアプローチが可能となり、雇用力のアップにもつなげられるでしょう。
ワークスタイルに適したオフィス環境の見直しも必要
上記にある多様な働き方に対応するため、オフィス環境の見直しも求められます。
特にテレワークやリモートワークの導入で、これまでのようなオフィス環境では不便な点が出てくる可能性も考えられるでしょう。これからの運用方法に合ったオフィスレイアウトに変更する、場合によっては移転や縮小も視野に入れるのも必要です。具体的な施策としては、次の例が考えられます。
- Web会議に対応できるテレキューブや個室ブースを導入する
- 執務スペース以外にも、休憩所やミーティングスペースといった目的別の専用スペースを確保する
- 固定席をなくしフリーアドレスやABWを採用する など
業務スタイルの変化に合わせたオフィス家具や照明器具などの入れ替えも、作業の効率化や従業員のエンゲージメント向上には効果的でしょう。
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ABW型オフィスの導入で働き方改革!導入する流れから企業事例まで
■女性活躍推進
雇用枠拡大につながる部分として、女性の活躍を推進するところも重要な要素です。
政府の取り組みとしても、1985年の「男女雇用機会均等法」の制定や2022年には「女性活躍推進法」の改定など、女性の社会進出を後押しする動きがありました。また、経団連による「上場企業の役員に占める女性の比率を2030年までに30%以上にする目標」も掲げられており、女性の働きやすい職場作りが企業には求められています。
なお、女性が働きやすい環境作りについては次の記事で詳細を解説しています。ぜひ参考にしてください。
2030年問題への対策で活用できる国の支援
先ほどあげた2030年問題に備えて企業が取るべき対策については、次にあげる国からの支援が利用可能です。
- 厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」
- 厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」
- 経済産業省「IT導入補助金」
それぞれ、詳しく説明します。
■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」
働き方改革推進支援助成金は、働き方改革に取り組む中小企業に向けた助成金です。助成金のコースは、2023年度では次の5種類です。
- 適用猶予業種等対応コース
- 労働時間短縮・年休促進支援コース
- 勤務間インターバル導入コース
- 労働時間適正管理推進コース
- 団体推進コース
事業対象者・対象となる取り組みによって、支給額上限がそれぞれ異なります。また、年度によって制度の詳細が変更される可能性があるため、最新の情報を厚生労働省のサイトで確認するようにしましょう。
■厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」
65歳超雇用推進助成金は、65歳以上への定年引き上げや高齢者の雇用管理制度の整備などをおこなう事業主に対して助成されるものです。2023年度では、次の3コースが利用可能です。
- 65歳超継続雇用促進コース:「65歳以上への定年引き上げ」「定年の廃止」「66歳以上の継続雇用制度の導入」「他社による継続雇用制度の導入」のいずれかを実施した事業主に対して助成
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース:高齢者向けの雇用管理制度の整備などにかかる措置を実施した事業主に対して助成
- 高年齢者無期雇用転換コース:50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成
いずれのコースも、取り組みの内容によって助成金額は異なります。内容変更の可能性もありますので、申請前に各都道府県の申請窓口へ問い合わせておくのが賢明です。
■経済産業省「IT導入補助金」
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者がITツール(ソフト本体・クラウドサービスなど)の導入費用を支援する補助金です。補助対象枠は次のとおりで、内容によって最大金額は異なります。
- 通常枠(A・B類型):自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助
- セキュリティ対策推進枠:サイバーインシデントにより事業継続困難となることの回避、サイバー攻撃被害や生産性向上を阻害するリスクを低減するための支援
- デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型):会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの導入費用、それらを機能させるハードウェアの導入費用の支援
- デジタル化基盤導入枠(商流一括インボイス対応類型):インボイス制度対応のITツール(受発注ソフト)の導入支援
- デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型):複数の中小企業・小規模事業者の連携による地域DXの実現、複数社へのITツールの導入を支援
2023年度は、事務局のサイトが前期と後期で変更となっています。今後も変更されることが考えられますので、最新の情報をサイトにて確認しておくようにしましょう。
※参考:IT導入補助金
まとめ:2030年問題の企業への影響を理解して体制を整えよう
2030年問題は、65歳の人口が日本の3分の1となり社会保障や人材不足の問題が顕在化することを指します。企業においては人材確保が困難となり、生産性の低下や人件費の負担増など、企業経営にも大きく影響する問題です。
これらの問題に備えるため、企業としては高齢者・女性・外国人などの雇用による労働力の確保、多様な働き方への対応、社内のDX化など具体的な対策が必要不可欠です。
2030年以降も生産年齢人口の減少が進み、労働力の確保が企業における喫緊の課題となります。企業としても具体的な対策を早急に打ち出し、今後予想される社会変化への対応をこれまで以上に求められるでしょう。