インクルージョンとは?事例や実行ポイントまでわかりやすく解説
働き方
近年のビジネスにおいてインクルージョンという考え方を聞くようになりました。インクルージョンは、会社に所属する従業員が、その属性に関わらず一体となって働いていくために必要な考え方です。これからの企業が働き方や事業における価値観を広げ、成長していくためには必要な考え方と言えます。
しかし、実践のためにはインクルージョンに対する具体的な知識や、全社的な理解を踏まえたうえでの試みが欠かせません。この記事では、インクルージョンを実践するために把握しておきたい言葉の意味や事例、実行や推進のやり方を解説します。
目次
インクルージョンが広まった背景
ビジネスでインクルージョンが注目されるようになった背景には、人口減少への対応や他社との差別化といった事情も関係しています。従業員の属性を問わずに活躍できる環境づくりを目指すことは、これからの企業には欠かせないものと言えるでしょう。
もともとのインクルージョンは、1980年代のヨーロッパで生まれた社会政策の概念です。社会的に弱い人々が、格差や差別によって福祉や権利とのつながりから外れてしまう社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)が社会問題の一つでした。
そうした社会的排除を受ける人々も社会に参加できるようにする試みとして生まれた考え方が社会的包括(ソーシャル・インクルージョン)、今日の日本のビジネスで用いられるインクルージョンのはじまりです。
日本でのインクルージョンは、教育分野からはじまりました。障がいのある子どもとそれ以外の子どもが垣根なく学び、個々人の個性や適正を認めていくという考え方はやがてビジネスシーンにも波及します。
インクルージョンとは
ビジネスシーンにおけるインクルージョンは、「国籍や性別、障がいの有無に関わらず、多様な人がお互いを認め合って働いている状態」を意味します。人それぞれの違いを否定せず、個性を生かしていくことがインクルージョンには欠かせません。
インクルージョンという言葉の単語としての意味は、包括や包含です。企業という主体が、多様な人の属性を否定せずに包み込んで、一体となって働いている様子をイメージすると良いでしょう。なお、多様性といえば、広義には多くの人がイメージしやすい国籍や性別があげられますが、狭義では宗教や価値観なども含まれます。国籍や性別が同じでも、他人や仕事に対する考え方はまさに十人十色ですが、いずれも尊重しあって理解を深めれば一体感を持って働くことが可能になります。
■ダイバーシティとの違い
ダイバーシティは多様性を意味する言葉で、ビジネスシーンにおいては多様な属性の人の採用を目指す考え方です。ダイバーシティは雇用時に、インクルージョンは雇用後に求められるという違いがあります。
たとえば、「女性の雇用」という課題をダイバーシティとインクルージョンのそれぞれ観点から見てみることでその違いは明らかにできます。ダイバーシティにおいては、男性の雇用が多かった会社が、これまでよりも女性の雇用を増やし、多様性の増加を目指します。
一方、インクルージョンにおいては、雇用によって増加した女性が活躍できる環境を整える社内的な取り組みとなっています。多様な人を雇用したあと、その人々をどのように活かすのかを考えることが、インクルージョンでは必須であると言えるでしょう。
ダイバーシティについては、こちらの記事で詳しく解説しています。インクルージョンとともに、これからの企業にとって重要な考え方となるため、こちらもあわせてご覧ください。
ダイバーシティとはなにか簡単に解説|基本から推進のポイントまで
■ノーマライゼーションとの違い
ノーマライゼーションは障がいの有無に関わらず、当たり前にすごせる社会を目指すための考え方です。インクルージョンは障がい者といった属性に限定せず、あらゆる人が多様性を認められ、活躍できる環境を目指すという違いがあります。
ノーマライゼーションには正規化や正常化といった意味合いがあります。障がい者とそれ以外の人々の差異を提示し、差別や排除をなくしていこうとする考えに基づいています。
こうした取り組みがインクルージョンの土台を作り、より社会的な包括性を向上させた考え方としてインクルージョンを生むことにつながりました。インクルージョンにおいては、障がい者という限定をつけずに取り組む必要があります。
インクルージョンの重要性
近年のサービス業においては、一定のターゲット層を狙うと流行りに左右されやすくなり、提供と消費のサイクルが短くなりがちな状況となっています。単一の価値観に基づくモノカルチャーなサービスでは勝負のしにくい時代であるのは否めません。
価値観に幅がなければ流行に対する理解が追いつかず、提供と消費のサイクルにおいて周回遅れを喫する可能性もあるでしょう。一方でインクルージョンを実践した多様な価値観が存在する環境であれば、流行の理解とイノベーションへつながりやすくなります。
加えて、仕事そのものに対する価値観の多様化に対応するためにもインクルージョンは重要です。近年の求職者や労働者は働き方の多様性や、個性や能力の発揮しやすさを重視していることも多くあります。
インクルージョンで多様性のある環境を達成できていれば求職者の関心を集め、現在の従業員が満足することで離職率をおさえることにもつながります。
インクルージョンの推進で期待できる4つのメリット
インクルージョンの推進で期待できるメリットのうち、代表的なものは次の4つです。
- 従業員の生産性向上
- イノベーションの創出
- 離職率の改善・低下
- 新規人材の確保で優位
それぞれの詳細を、順番に解説します。
■メリット1.従業員の生産性向上
インクルージョンの推進により生産性の向上を望むことができます。会社における肯定感やエンゲージメント(会社への愛着、信頼)の高まりから力を発揮しやすくなり、従業員一人ひとりがのびのびと働くことができるようになるでしょう。
個々人の個性を認め、その個性を活かすことのできる仕事の枠組み作りが重要です。会社全体で生産性を底上げすることを目指しましょう。
エンゲージメントについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。従業員の働きやすさを推進するための参考としてみてください。
■メリット2.イノベーションの創出
インクルージョンの推進はイノベーションの実現性を向上させます。多様な価値観をもった人が集まることで、これまでと違った視点で物事を分析できるようになるためです。
インクルージョンを実行する前は社内に存在しなかった価値観が会社そのものを見つめなおすことによって、想定していなかった分野での新規事業の立ち上げもありえます。既存事業の成長と新規事業の可能性の両面で、インクルージョンは重要な役割を果たします。
■メリット3.離職率の改善・低下
多種多様な価値観が認められることで、従業員の離職率を改善させる効果も期待できます。従業員が自分の個性や働き方を認められ「この会社は良い会社だ」「ここで働いていきたい」と思えれば、離職率は自然と低下していきます。
インクルージョンでは従業員一人ひとりを尊重し、仕事や労働環境に意見が反映させることも大切です。活躍の実感や働きやすさの改善はモチベーションの向上につながり、これからもこの会社で働きたいという気持ちを高めることができます。
■メリット4.新規人材の確保で優位
インクルージョンは人材確保の面で大きな優位を生みます。就職者、転職者は働きやすい会社や自分が活躍できる会社に強く注目していることに加え、多様な働き方の提示でこれまで採用できなかった属性の人からも注目を得ることができます。
従業員が働きやすい職場だと、口コミなどを通じて会社のイメージアップにもつながります。近年は口コミサイトなどを利用し、従業員の会社に対する評判を調べてから職探しをする人も少なくありません。
多様な人が関心を持っている状態、会社が良いイメージを持たれている状態で新規人材を募集できれば、インクルージョンの導入前よりも人材を確保しやすくなるでしょう。
インクルージョンを導入する際のポイント
社会的な意義やメリットのあるインクルージョンの取り組みですが、制度や環境の整備ができていなかったり、十分な理解が得られないまま導入を進めると、インクルージョンの意義や導入の意図がわからない人との摩擦の原因ともなってしまいます。
新しい試みには既存の従業員の理解が必要です。多様な人を取り込むためのインクルージョンが、かえって拒否反応を生まないように、次のポイントをおさえて導入するようにしましょう。
- 社内制度の見直しと変更をおこなう
- 会社全体で取り組む
- 発言しやすい環境を作る
- オフィス環境・空間への配慮も必要
- 中長期的な視野で取り組む
それぞれのポイントを解説します。
■社内制度の見直しと変更をおこなう
インクルージョンの実現には、会社の制度をインクルージョンの意義に沿ったものに変える必要があります。目標だけを掲げても、制度としてインクルージョンの考えを取り込めなければ実現は難しいかもしれません。導入と推進には具体性を持たせましょう。
たとえば、育児や介護をしながら働きたいという人がいる場合に、労働時間での評価は公平さを欠く場合があります。そうした人が活躍するためには、働けば働くほど評価するのではなく、むしろサポートのため休暇を取りやすくする制度に変える必要があるでしょう。
多様な人を活躍させる、という目標を持つ以上は、評価制度なども多様化する必要があります。評価制度が一律的だと、その制度に適合した人しか活躍しにくい環境となってしまいます。インクルージョンが掲げる多様な人の活躍を意識して、評価基準や休暇の仕組みなどの社内制度を再検討することが大切です。
■会社全体で取り組む
インクルージョンの導入と推進には、管理職や従業員など、社内での立場によらず会社全体で取り組み、意識を変えていくことが欠かせません。
一部の人のみがインクルージョンを受け入れていても、固定観念にこだわって働く人のグループでは多様性を認めた働き方ができなくなってしまいます。会社全体で、インクルージョンには何が必要かを意識していくための教育を進めていくことが大切です。
たとえば、障がい者雇用においてはどのような配慮が必要な人がいるのか、どのような配慮は不要なのかを知るための勉強会を開催すれば、双方が働きやすい環境を作っていくことにつながります。介護や育児においても同様です。
重要なことは、想定可能な問題や対策を会社全体で共有しておくことであると言えるでしょう。
インクルージョン推進の流れ
インクルージョンの推進する際は、次のステップを踏むとよいでしょう。
- 経営レベルでのビジョンの提示・方針の策定
- 推進チームや監査体制など組織の構築
- 制度やルールの策定・改定による環境整備
- 勉強会や管理職の教育・育成などで意識と行動の改革
- アンケートやヒアリングで進捗の確認と継続的な改善
こうしたステップを踏むなかで見つかった課題や問題を拾い上げて、継続的に推進を進めていくことも重要です。全社的に意見を求め、他社事例などを参考にしながら改善のループを回していきましょう。
■発言しやすい環境を作る
多様な価値観を拾い上げるため、従業員が誰でも発言しやすい、意見を表明しやすい環境を作ることが大切です。業務に直結するコミュニケーション以外にも、インフォーマルコミュニケーション(カジュアルな雑談)ができると理想的です。
仕事以外の話をして緊張をほぐしながら働くことができれば、ストレスの改善だけでなく、社内の人間関係を良好にするなど、意見や新しいアイデアを生む効果が期待できます。
インフォーマルコミュニケーションは、インクルージョンに欠かせない多様な価値観を表に出す機会となります。自由に話せるスペースの設置や、従業員同士のイスが近いデスク配置で、話しやすい環境づくりをおこないましょう。
インフォーマルコミュニケーションについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。インクルージョンの実現のため、ぜひあわせてご覧ください。
インフォーマルコミュニケーションを社内に生みだそう!必要性から活用事例まで
■オフィス環境・空間への配慮も必要
インクルージョンにおいてはオフィス環境や空間への配慮も必要です。身体的障がいに対応するバリアフリー化などがまず想像されるかもしれませんが、特定の層だけをターゲットにしたオフィスではなく、誰もが使いやすい空間づくりをおこなうことが大切です。
たとえば、身長差や男女の身体特徴によって最適な椅子やテーブルの最適な高さは異なります。普段から使用するデスクのサイズが合わなければ、不便さから生産性を落としてしまう可能性があります。
こうした問題への対策には、上下昇降テーブルや調整ストロークの大きい椅子などを導入することで対応ができるようになります。高さや形状などが異なるさまざまな家具を設置しておき、個々人が使いやすいものを選べるようにする方法もあります。
アイリスチトセの電動昇降デスク「DSDシリーズ」
上下昇降テーブルをお探しの方は、アイリスチトセの電動昇降デスク「DSDシリーズ」をご検討ください。上下昇降デスクは、スタンディングワークも可能です。
電動昇降デスク「DSDシリーズ」には一人用デスクから三人用のブーメランタイプデスク、4人用の連結タイプのデスクがあります。
アイリスチトセの回転椅子「VIGOR Series」
調整ストロークの大きい椅子をお探しの方は、アイリスチトセの回転椅子「VIGOR Series」をご検討ください。「VIGOR Series」はガスシリンダーによる上下昇降機能や座面の奥行きを調節できるシートスライドなど、多彩な機能を搭載しています。
回転椅子「VIGOR Series」は豊富な標準機能に加え、複数のサイズやハイスツール仕様などのバリエーションがあり、さまざまな需要にこたえられます。
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■中長期的な視野で取り組む
インクルージョンは中長期的な視野で取り組むべき施策となっています。制度変更は申請から承認まで時間がかかる場合があり、意識改革による結果もすぐに現れるとは限りません。
また、単一価値観的に運営されてきた会社ではインクルージョンの取り組みになじめなかったり、実行した施策によっては従業員から反発が起きる場合もあります。
しかし、強いて多様性を取り下げることで得られるものは多くはありません。多様性の重要性を理解してもらうような働きかけを続けつつ、実行したインクルージョン施策の結果を分析し、改善を継続することが大切です。
インクルージョンの取り組み事例
インクルージョンを具体的に推進していくには何をすれば良いのでしょうか。この項目では、取り組み事例で多く見られる施策をご紹介します。
■イベントやセミナーによる意識改革
インクルージョンそのものへの理解を深めるため、イベントを開催して会社全体に重要性を訴えかけていきましょう。イベントの例にはランチ会やディスカッション、セミナーなどがあります。
従業員側だけでなく、管理職や経営者層も含めた啓蒙活動が大切です。教育や意見交換の現場を設けて、指導を受ける側、指導をする側どちらにも学びが得られます。
また、テーマやターゲットを絞ってイベントをおこなう場合もあります。育児中や介護中などの従業員同士での交流を実施し、当事者で交わされた意見を導入の取り組みに取り入れることができます。従業員同士の交流が、インクルージョンの促進やコミュニティの形成の面でも有効です。
■新しい働き方の導入
従来どおりの働き方だけでなく、テレワークなどの新しい働き方を導入することで多様性を増加させる試みもインクルージョンにつながります。
新しい働き方には、先ほど言及したテレワークを含め次のような例があります。
- 就労時間の時短やテレワーク
- 副業の容認
- オフィスのフリーアドレス化
- 雇用する人材の枠を拡大(海外の人やシニア層など)
働き方を増やすことで、これまで採用の対象にならなかった人を採用できます。新しい働き方で従業員の多様性を増すことができれば、その新たな視点からインクルージョンをさらに推進できるでしょう。
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■育児・介護のサポート体制の強化
性別によらず育休や産休の推進や日数の拡大、介護休暇の取得の推進など、家庭の事情に関係なく仕事を続けやすくすることがインクルージョンの推進につながります。
男性であっても育休・産休を取りやすくするほか、子どもの保育園探しなど子育てに関するサポートをおこなっている企業も増加しています。
■適材適所でのキャリアプランニング
年齢や社歴に関係なく人材配置を実行することで、従業員の個々の強みを活かせるようになります。個々人の強みを自己認知させる研修をおこなう、強みを伸ばせるキャリアプランを会社側から提示する、などで従業員の成長を促すことを意識しましょう。
単一的なキャリア観のもとでは、育児・介護や属性からキャリアを諦めるケースは少なくありませんでした。多様なキャリアのルートの提示で、より多くの人が活躍できる会社、イノベーションの生まれる会社を目指しましょう。
また、こうした事例に加えて、オフィスのデザインが特定の属性に偏って向けられていないかどうかをチェックしましょう。働きやすいオフィス空間を実現するためには、身長や男女の身体的特徴に対応しやすい椅子やテーブルを用意することや、特定の層が好むインテリア内装に寄りすぎず、多様な社員がストレスなく働けるデザインなどの配慮も大切です。
まとめ:インクルージョンで新しい価値観と成長を実現
多様な働き方を掲げるインクルージョンの実践で、さまざまな価値観を会社に取り入れ、生産性の向上やイノベーションを狙うことができます。人の属性に関わらず、個人個人が活躍できるための制度や環境を作ることが大切です。
インクルージョンの導入には、これまでの固定観念を変える必要があります。会社という大きな組織を変えることになるため、オフィス空間や従業員の考え方など、会社全体での改革を意識しましょう。