ダイバーシティマネジメントをわかりやすく解説|メリットや事例とは
働き方
多様性の尊重が重視されている現代社会において、ダイバーシティマネジメントという取り組みが注目を集めています。ダイバーシティマネジメントは社会の潮流だけでなく、会社の成長のためにも重要な要素です。
この記事では、ダイバーシティマネジメントを実施するために必要な基礎知識や、メリットと実施事例を解説します。多様性を尊重する社会のなかで役割を果たし、安定した成長を実現するためにも、ダイバーシティマネジメントを取り入れる準備をしましょう。
目次
ダイバーシティマネジメントとは
ダイバーシティマネジメントとは、多様性を尊重し、異なる属性や価値観を持つ人材を積極的に取り入れ、会社の成長を促す取り組みです。
多様性とは、人種や性別、年齢、障がいの有無など、それぞれが持つ独自の属性や背景を指します。これらの違いがあることで、それぞれが持つ視点やアイデアが異なるため、多様性がある環境では、新しいアイデアや視点が生まれることがあります。
ダイバーシティマネジメントでは、個々の多様性を尊重し、さまざまな人材を採用・活用することで会社の成長を目指します。従業員一人ひとりが持つ能力を最大限に引き出すことができ、生産性の向上や、企業文化の向上などの効果も期待されています。
ダイバーシティマネジメントの4つのメリット
ダイバーシティマネジメントの推進によって企業が得られるメリットは、次の4つが代表的なものです。
- 人材確保に役立つ
- イノベーションが生まれやすくなる
- 会社のイメージアップが期待できる
- 経営リスクが軽減される
それぞれの詳細を順番に解説します。
■人材確保に役立つ
ダイバーシティマネジメントでは、これまで除外していた属性や労働条件の人が雇用の対象になることで、多様な人材を確保できます。
これまでなら条件が合わず不採用となった人材も採用の対象となる可能性があるため、結果として組織は多様な人材を取り入れることができます。
2023年現在、日本は人口減少傾向にあり、労働人口の確保が企業にとって大きな課題となっています。これからの時代に適した人材確保をおこなっていくためにも、ダイバーシティマネジメントは欠かせない取り組みです。
■イノベーションが生まれやすくなる
ダイバーシティマネジメントによって多様な人材が集まることで、これまでとは違う視点が生まれ、イノベーションが生まれやすくなります。
企業におけるイノベーションとは、新しいアイデアや技術、プロセス、製品、サービスなどの導入を意味する言葉です。イノベーションで競争力を高め、市場の需要や顧客のニーズを満たすことを目的としています。
イノベーションは、企業の成長や生産性向上、利益の増加につながる重要な要素です。現在の社風からは生まれにくいアイデアをダイバーシティマネジメントによって取り込むことができれば、新しい製品やサービスの開発で利益向上を狙えます。
ダイバーシティマネジメントは、単なる人材確保の手段ではなく、イノベーションを通じて会社の業績や価値の向上を期待できる取り組みでもあります。
■会社のイメージアップが期待できる
ダイバーシティマネジメントに取り組むことで、多様性を尊重している会社としてイメージアップにつながるため、自社のブランディング戦略としても活用できます。
多様性を受け入れる姿勢は、社会に対してもポジティブな影響を与え、顧客に対しても好感度を高めることができるでしょう。多様性を重視するブランディングが成功すれば、優秀な人材やイメージの良い取引先を求める企業の意識を引くことにつながります。
ダイバーシティマネジメントを通じたブランディング戦略を実施し、将来的にも選ばれる会社を育て上げることを考えてみましょう。
■経営リスクが軽減される
ダイバーシティマネジメントによって多様性のある価値観が会社に浸透することで、古い価値観はアップデートされ、時代にそぐわない考えが原因となって経営が窮地に追い込まれるというリスクが軽減されます。
たとえば、旧態依然とした偏見や差別意識に基づく発言や施策が原因で「炎上」するケースが増えています。もちろん偏見や差別意識に基づくリスクは社外だけでなく、社内にも発生します。特定の人に対する偏見や差別が蔓延すると不和が生まれ、生産性に直結することもあります。
古い価値観を改めて多様性を認めることは、活躍できる人を増やすと同時に、コミュニケーションにまつわるリスクも低下させられます。女性は昇格しにくいという慣習がある場合は、これを改めてリスクを削減させましょう。
また、従業員の意見やアイデアを多様な視点から受け入れられるようにすることで経営戦略の幅も広がり、企業の競争力の向上が期待されます。競争力の低下した会社は生き残りにくくなってしまうため、企業経営の面でもリスク対策につながります。
ダイバーシティマネジメントが重要視される背景
ダイバーシティマネジメントは社会の変化を受けて重要視されるようになった取り組みであるため、その背景の理解を進めることが実施の大きな助けとなります。
ダイバーシティマネジメントが重要視される背景のうち、代表的なものは次の3つです。
- 人材不足
- 競争先のグローバル化
- 消費者による会社を評価する視点の変化
それぞれの詳細を順番に解説します。
■人材不足
現代日本は、少子高齢化により人材確保が難しくなり続けています。加えてライフワークバランス(仕事とプライベートのバランスを取ること)への意識の高まりから、テレワークやフレックスタイム制など多様な働き方を認める企業への転職が増加しています。
このため、年功序列を重視するような社風を持つ企業では、人材の不足や流出が起こりやすい傾向にあります。このような中で、ダイバーシティマネジメントは採用の枠を広げ、人材不足を解消するための方法として注目されています。
ダイバーシティマネジメントの推進でこれまでの人事・採用の慣例を改めて採用の枠を広げられれば、より幅広い人材の獲得につながるため、人材不足の解消を望めます。
また、既存従業員にもワーク・ライフ・バランスを意識できる多様な働き方を認めることができれば、定着率の向上も望めます。
■競争先のグローバル化
20世紀の日本は内需重視型の経済で成長を遂げていましたが、現在は海外の企業とも経済関係を結ぶグローバル化が進んでいます。また、日本は人口減少にともない市場も縮小傾向にあるため、国内だけでビジネスを展開すると企業の生き残りそのものが難しくなります。
このためグローバル化に適応しようとすればビジネスのターゲットは海外まで広がり、競争相手には日本の企業だけでなく海外の企業も加わることになります。しかし国ごとの風習や価値観を知らないと、現地のニーズに合わせたビジネスが展開できません。
たとえば、食品販売では海外展開をしようとすると宗教上のタブーの回避が求められます。豚肉など戒律で禁止されることのある材料が入った食品は、地域によっては販売が難しくなるからです。食品加工の方法も現地のルールや法律で定められていれば、それに従うことになります。
多様な人材を抱え、価値観の理解を広げるダイバーシティマネジメントは、企業のグローバル展開において、現地のニーズや文化に合わせた商品開発やマーケティング戦略の策定に役立つことが期待されています。
■消費者による会社を評価する視点の変化
消費者は、商品やサービスの品質だけでなく、企業の社会的責任(CSR)や多様性への配慮についても評価するようになってきています。このような視点の変化に対応するには、ダイバーシティマネジメントによる意識のアップデートは不可欠と言えます。
これまでと同じようなメッセージを消費者に発信しても、特定の人への配慮が足りないといった評価を受けることもあります。たとえば意図したことではなくても、特定の対象者に限定したメッセージ内容になってしまった場合、他の人から見れば「自分たちは排除された」と受け取ってしまうこともあるでしょう。
万が一、メッセージが誤って受け取られてしまうと、消費者や就職志望者などに悪い印象を与えるなど、思わぬ結果を招いてしまうかもしれません。こうしたリスクを低減させるために、ダイバーシティマネジメントで従業員の多様性への理解度を高めていくことが求められています。
ダイバーシティマネジメントの具体的な事例
ダイバーシティマネジメントは重要な取り組みであるため、具体的な事例を参考に実務に取り入れていくようにしましょう。
■仕事と家庭を両立できる支援体制の構築
産休や育休中のキャリア支援や女性従業員向けの育成プログラムの実施で、女性の管理職の比率を上昇させる取り組みをおこなう企業もあります。女性の管理職比率が課題である日本企業にとって、有効な選択肢の一つです。
日本では、育児や介護など家庭内のことは女性が主体で担っていることが多いため、仕事との両立に悩んでいる人は多い傾向にあります。また、男性の場合、性別を理由に育休を取れないケースも見受けられます。
こうした状況には、ダイバーシティマネジメントの観点でメスを入れることができます。
企業は仕事と家庭を両立できる環境を整え、性別によらず仕事と家庭を両立でき、長期的なキャリア形成を助けることが求められています。
男女に限定しない育児休暇や介護休暇の取得支援、通信教育の提供、フレックスタイム制度の導入などを進めるようにしましょう。これらの取り組みにより、女性従業員が働きやすくなり、男性も育児に参加しやすくなります。
仕事と家庭を両立できる企業であれば、離職率の低下も望めます。育児や家庭を理由に優秀な人材を手放すこともなくなるため、企業にとっても重要な施策です。
■働き方改革の推進
シェアオフィスやワーケーションを導入して従業員が働く場所を自由に場所を選択できるようにする、裁量労働制を検討するなど、働きやすい環境を整える取り組みを進める企業も多数あります。
一つのオフィスに大勢の従業員が出勤して働く、という従来の働き方以外の選択肢を従業員に与えられれば生産性の向上も見込めます。従業員が「働きやすい会社だ」と好印象を抱くことで定着率の上昇も期待できるでしょう。
また、キャリア採用の推進で多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、組織に新たな価値をもたらすことを目指す会社も増えています。新卒採用だけに注力するのではなく、積極的に中途採用を推し進める施策も有効な働き方改革です。
■採用枠の拡大
女性や高齢者など多様な人材を積極的に採用し、より多くの人の活躍を目指す企業も多くあります。また、外国人やLGBTQの人も採用し、これまで目を向けてこなかった価値観を取り入れることでビジネスの範囲拡大に生かしています。
採用枠の拡大において重要なポイントは、学歴や職歴はもちろん、人種や性別にとらわれることなく実力を評価することです。これまでよりも幅広い人材を取り入れ、一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出せれば、これまでよりも高い生産性で企業を経営できるでしょう。
■従業員に働き方の選択権を付与
人事によって決められた働き方ではなく、従業員一人ひとりが自分に合った働き方を選択できるような体制づくりを検討してみましょう。
具体的な事例では、時間や場所で区切られた9つの働き方パターンを設定し、従業員が自由に選択できるようにした会社があります。曜日ごとに在宅勤務の有無や勤務時間の調整が可能であり、自分に合った働き方を実現できるようになっています。
このような働き方を実現できれば、従業員は仕事とプライベートのバランスをとりやすくなり、ストレスを軽減できます。
また、育児や介護など、ライフステージに合わせた働き方ができることで、女性や高齢者など、多様な人材を採用できるでしょう。ダイバーシティマネジメントにおいては、従業員に働き方の選択権を与えることが重要なポイントであり、企業にとっても、従業員にとっても、Win-Winの状況を作り出せます。
■ITによる業務の簡略化・標準化
ITの活用で業務の簡略化・標準化ができれば、人材育成やミスマッチの解消につながります。実際に、工業系の会社が専用の運搬機器を活用して体格や体力差による負担を軽減した事例があります。
加えて、光の点灯や文字変換アプリにより、障がい者への的確な伝達を可能にすることや、熟練者の判断基準や技術をITによる分析・代替でカバーし、熟練者以外でも業務を可能にしました。
現代では技術によって多くの人が働きやすい環境を作ることができます。ダイバーシティマネジメントと同時にIT化を進めましょう。
ダイバーシティマネジメントを進める際のポイント
ダイバーシティマネジメントを実施する際には次のポイントへの留意が重要です。
- 施策の目的を明確にする
- 社内制度の見直しもおこなう
- 従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
- 会社のビジョンを従業員に浸透させる
- 民間の研修制度の活用も検討する
それぞれの詳細を順番に解説します。
■施策の目的を明確にする
自社にとってダイバーシティマネジメントがなぜ必要なのかを分析し、目的を明確にすることが重要です。企業文化の変革が目的か、人材の多様性を取り入れることで新たなビジネスチャンスを生み出すことが目的か、などねらいにより具体的な施策も変わってくるためです。
目的を明確にすれば、ダイバーシティマネジメントの実施に対する意識を高め、取り組みを成功に導くことができます。また、従業員に取り組みを丸投げせず、経営層も主体的に取り組むことが大切です。
経営層と従業員の全社的な姿勢で、ダイバーシティマネジメントに必要な組織体制の整備や、教育・研修の実施などを進めていきましょう。
■社内制度の見直しもおこなう
ダイバーシティマネジメントを進めるにあたっては、従業員の多様性に配慮した施策を実施するだけでなく、社内制度の見直しも重要です。働き方の多様化に対応するために、人事評価や支援制度の見直しが必要となります。
人事評価では従業員の成果を公平に評価するために、評価基準の見直しや改定をおこないましょう。また、子育てや介護の支援制度も新たに作成する必要があります。
こうした施策により従業員が自分らしい働き方を選択しやすくなれば、多様性を受け入れる企業文化を育むきっかけにもなります。
■従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
多様性を尊重し、より良い職場環境を作るためには、従業員同士のコミュニケーションが欠かせません。特に、異なるバックグラウンドを持つ人々が集まっている場合、コミュニケーションをとることで相互理解が深まり、仕事がスムーズに進むようになります。
コミュニケーションを取るためには、オフィス環境にも工夫が必要です。ミーティングスペースやリフレッシュスペースを確保し、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい場所を作りましょう。
たとえばパーテーションを撤去することで、相手の表情や仕草が見えやすくなり、コミュニケーションがスムーズにおこなえるようになることもあります。
オフィス環境の整備だけでなく、コミュニケーションを促進するイベントなどを設け、さまざまな性質を持つ従業員同士が交流を深める機会を増やしていきましょう。
社内コミュニケーションを活性化する方法とは|課題に対する解決策も紹介
■会社のビジョンを従業員に浸透させる
ダイバーシティマネジメントを推進するには、明確なビジョンが浸透していないと、従業員間での共通認識の不足がコミュニケーションや施策の障害になることがあります。ビジョンの共有と浸透で、全社的に取り組むことが大切です。
ビジョンを浸透させるには、会社側から従業員への積極的な情報発信が必要です。社内報や社内SNSなどを活用し、従業員にダイバーシティマネジメントの理念を広く共有するよう努めましょう。
また、従業員が理解しやすい形でビジョンを提示することも大切です。たとえば、ビジョンをキャッチフレーズやコンセプトにまとめ、社内ポスターや社内動画といった媒体でアピールすると、浸透しやすくなります。
■民間の研修制度の活用も検討する
ダイバーシティマネジメントを進めるにあたり、民間の研修制度の活用は重要なポイントです。従業員に対して、多様性に関する知識やスキルを身につける機会の提供で、企業内のダイバーシティに対する理解と受容を深められます。
また、管理職向けの研修を利用すれば、ダイバーシティマネジメントを踏まえたうえで発揮すべきリーダーシップやコミュニケーションスキルの向上にもつながるでしょう。
自社で研修プログラムを作ることもできますが、ダイバーシティマネジメントについて専門的な知識を持った民間の研修制度を活用したほうが、より効率的にノウハウを取り入れることができます。
ダイバーシティマネジメントに関するQ&A
ダイバーシティマネジメントに関して、実務者からよくあげられる疑問点を、Q&A方式でご紹介します。発生する可能性の高い疑問点の答えを知り、よりスムーズに施策を進めていきましょう。
■ダイバーシティやインクルージョンとなにが違うのか?
ダイバーシティと類似した考え方に、インクルージョンというものがあります。インクルージョンとは包括や包含を意味する言葉であり、多様な人材が受け入れられ、活躍ができている状態のことを指します。
多様性を受け入れた状態で個々の強みを活かそうとすることが重要であるとして、社会の変化による企業体質の変革を、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という考え方のもとに推進する企業も少なくはありません。
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■ダイバーシティマネジメントの課題は?
人によっては急激な社会の変化に対応できない、ということもありえます。多様な価値観や考え方を受け入れられず、ハラスメントを発生させてしまう従業員の存在に注意が必要です。
ダイバーシティマネジメントの施策は段階的におこない、従業員の意見やフィードバックの収集も大切です。価値観同士の衝突で不和が生まれることを防ぐためにも、全社的な理解がある状態へ到達できるような実施をおこないましょう。
■ダイバーシティマネジメントのための国の支援はあるか?
厚生労働省がダイバーシティ経営の診断ツールを公表しているため、利用を検討してみましょう。チェックシートで、自社のダイバーシティマネジメント実施状況や、今後の施策に必要な取り組みなどを可視化できます。
また、従業員の育児や介護を手助けするためには、 厚生労働省が用意する両立支援等助成金や育児・介護雇用安定等助成金などの制度を利用することができます。
※出典:厚生労働省「ダイバーシティ経営実践のための各種支援ツール」 / 日本政策金融公庫「経営情報 No.372(PDF)」
まとめ:ダイバーシティマネジメントを進めて安定した企業経営を
近年の社会の変化によって、企業にはダイバーシティマネジメントの推進が強く求められています。多様性への配慮は社会的責任を果たすだけでなく、グローバル化に伴う事業展開やイノベーションにもつながる施策となるでしょう。
ダイバーシティマネジメントは、過去の事例に学びつつ、従業員の満足度を高められる施策をおこなうことが大切です。理念だけを先行させるのではなく、全社的な理解と取り組みが欠かせません。
ダイバーシティマネジメントを経営に取り込むことができれば、経営リスクの低減や競争力の強化も望めます。変化し続ける社会の中で企業も成長を続けていくためには、多様性に関する施策を着実に進めていきましょう。