インナーブランディングとは?事例や進め方をわかりやすく解説
オフィスレイアウト・デザイン・設計
インナーブランディングをおこなうと、従業員が自社に強い愛着を持つことができたり、従業員に企業理念が深く浸透し、さまざまなメリットがあります。さらにモチベーションや全体的な生産性をアップさせることで、企業価値向上につながります。
本記事では、インナーブランディングの基本的なことから、意味やメリット、事例まで詳しく解説します。
インナーブランディングを実践する際に押さえておきたいポイントや、気になる疑問とその回答も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
インナーブランディングとは
社内の従業員へ向けたブランディング活動であるインナーブランディングの目的は企業の理念やビジョン、価値観を従業員へ浸透させることです。「インターナルブランディング」とも呼ばれます。ブランディングとして社外向けの「アウターブランディング」に力を入れている企業は多いですが、企業の成長にとってはインナーブランディングも重要な施策と言えます。
「アウターブランディング」は、社外の顧客や消費者向けのブランディングです。企業イメージやブランドの魅力を伝える発信で、他社との差別化やファンを獲得することなどが目的です。このアウターブランディングは、従業員が理念やビジョンを明確に持った状態で行ってこそ、一貫性のあるメッセージや企業イメージを発信できるものとなります。そのため、ブランディング活動を成功させるには、まずインナーブランディングが重要です。
インナーブランディング・インターナルブランディングと似た言葉に「インターナルマーケティング」「インナーマーケティング」があります。同じ意味で扱われることが多いですが、厳密には異なります。マーケティングは、対象の気持ちやニーズを理解してサービスや製品を提供する仕組みを作ることであり、ブランディングより広い意味を持ちます。そしてブランディングは、マーケティングによってニーズの把握ができた後に進める施策です。
さまざまなブランディング活動がありますが、本記事では社内の従業員に向けて企業理念やビジョン、価値観を浸透させるインナーブランディングの事例や実践のポイントなどを取り上げていきます。
インターナルブランディングに関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
インナーブランディングの4つのメリット
インナーブランディングのおもなメリットは次のとおりです。
- 従業員のエンゲージメントアップ
- 仕事の生産性アップ
- 企業のブランドイメージアップ
- 優秀な人材の確保
メリットを理解して計画を立てれば、より効果的なインナーブランディングができるでしょう。それぞれ詳しく解説します。
■従業員のエンゲージメントアップ
インナーブランディングによって理念やビジョンが浸透することで、従業員は企業に対し愛着や共感を持ちやすくなります。これは企業理念やビジョン、仕事への理解度が深まるためです。
エンゲージメントとは、従業員が自社に対して愛着心や思い入れの気持ちを持つことです。エンゲージメントが高まれば、従業員のモチベーションが向上し、業績アップにつながります。たとえば、企業や仕事に対して誇りを持つ、仕事に対する積極性や熱意が高まる、課題を自ら発見・解決するようになるなど、企業と自身の成長に向けて活発な動きが見られるようになるでしょう。
また、同じ理念やビジョンを持つことで企業と従業員の意識のズレがなくなり、理解不足による誤解や不満、疑問などが解消され、仕事への不安が減ります。ビジョンを実現するために企業に貢献したいという意欲が増すことで、モチベーションもアップするでしょう。
エンゲージメントに関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
■仕事の生産性アップ
従業員の間で企業理念やビジョンが共有されると、社内に強い連帯感が生まれます。ビジョン実現のために部署を超えてお互いが助け合う機会が増え、協力体制の強化による生産性アップにもつながるでしょう。
また、従業員全員が同じ方向を向いて仕事に取り組むと、共通目的と目的への道筋が共有できている状態になり、一人ひとりが「企業としての目的を達成するために今何をすべきか」を判断できるようになります。すると、おのおのが優先的に取り組むべきタスクを見極めて処理できるようになるため、業務効率や生産性向上につながります。
■企業のブランドイメージアップ
従業員全員が企業のビジョンや価値観をしっかり理解していると、営業先との商談や顧客への販促イベント、企業SNSなどで情報発信する際に正しくブランドイメージを伝えられます。
また、企業に対して愛着心や誇りを持っているため、ブランドイメージを壊すような行動をすることなく、熱心かつていねいに伝える姿勢を見せられるでしょう。そんな従業員の姿勢は顧客からの好印象や満足度にもつながります。
自社に愛着があると、従業員が自ら積極的に社外へ情報発信をしてくれる可能性も高くなります。そのため、インナーブランディングは効果的なアウターブランディングにもつながる施策です。
■優秀な人材の確保
企業へのエンゲージメントが高まると、従業員の定着率が向上します。これは従業員が企業の理念やビジョンに共感して愛着心を持つことで、その企業で働くこと自体にやりがいや達成感を感じて離職しにくくなるためです。
戦力になる人材が定着すれば、新しく入ってきた従業員に対しても質の高い指導が行えるようになるでしょう。すると教育体制の強化ができます。教育体制が強化されると組織全体の戦力が上がり、長期的な好循環へつながるでしょう。
また、採用では企業が目指す方向性やビジョン、価値観を正しく伝えられるため、企業に合った人材を採用しやすくなります。
インナーブランディングの事例
インナーブランディングを成功させるために重要なのは、自社ではどのような取り組みが有効かを考えることです。ここではインナーブランディングの事例を紹介するので、施策検討の参考にしてみてください。
■社内報・社内ポータルサイトで情報発信
社内報や社内のポータルサイトを利用すれば、企業の現状共有から経営者・従業員のトピックスまで幅広い情報を発信できます。
たとえば、従業員の日々の気付きが書かれた日報をもとに社内報を作り、全従業員に配布する取り組みを行っている会社では、経営者と従業員の相互理解が深まりました。この企業では、社内報によって企業全体の業務が可視化され、従業員一人ひとりが「自分の責任は何か、その責任をどう果たせば良いのか」を考えるきっかけとなり、企業のビジョン実現に対する自主的な行動を促しています。
このように、社内報や社内のポータルサイトを活用すれば従業員全員へ情報が届けられます。そのため、部署を超えた企業全体での情報共有ができるだけでなく、作成するときに現場の最新情報も吸い上げられるというメリットがあります。
■社内イベントで従業員のつながり強化
創立記念パーティーや表彰式、研修旅行など、社内イベントなら日常業務とは違う形でコミュニケーションができます。イベントのテーマに企業として伝えたいものを盛り込み、従業員が楽しめるように企画すれば、従業員同士のつながりが強化されるとともに自然な形で情報が伝わるでしょう。
たとえば、役員と従業員が一つのチームとなり、新規事業案や課題解決案を提案する合宿を実施している会社では、この合宿によって新しく複数の子会社を設立することとなり、多くの利益を上げています。役員と従業員がチームとなる合宿であるため、従業員は役員の視点を間近で学ぶことができ、社内情報や会社を取り巻く状況への理解を深めることに寄与したのです。
社内懇親会などのイベントも有効ですが、業務と関係の浅いイベントの場合、参加を強制すると逆にモチベーションを下げてしまうこともあるため注意しましょう。また、イベント開催時は感染対策も十分考慮する必要があります。
■クレドで企業としての考えを浸透
クレドとは、ラテン語で「信条」や「約束」を表す言葉です。企業の価値観や理念を小さなカードなどに記載し、従業員に配布する方法として知られています。いつでも企業の価値観や理念を見返せるため、仕事の判断で迷ったときに利用してもらうと良いでしょう。
クレドを作る際の注意点は、企業の活動内容と異なった文言を盛り込まないようにすることです。企業の目的やビジョンへの思いが強すぎると、実践が難しい高過ぎる理想や、実際の企業イメージとかけ離れた文言でクレドを作成してしまう可能性があります。
しかし、従業員が実践できないクレドでは意味がありません。それどころか「企業はこのようなクレドを掲げているのに、実際は異なる」と悪いイメージを与える恐れもあります。
そのため、クレドは企業の根本理念を伝えながらも従業員にとってわかりやすく、実践にうつしやすいものにしましょう。たとえば、世界に誇る洗練されたサービスで顧客満足度の高いホテルでは、「お客様への心のこもったおもてなしと、快適さを提供すること」というシンプルでわかりやすいメッセージをクレドに規定しています。
■ワークショップで意識改革
対話や共同作業のワークショップをおこない、従業員自らが考える形で企業への理解を深めてもらう方法もあります。
たとえば、「どのようにすれば従業員一人ひとりが、自分らしく成長をできるだろうか?」といった疑問を解決するワークショップを月に1回開催している企業では、従業員自らが「やりたい」と思う仕事の割合が40%から80%へと倍増したことに伴い、売上が増加し、経営者と従業員のコミュニケーションが活性化しました。
ワークショップでは、経営者のビジョンや企業のミッション、ブランドイメージや提供しているサービス・製品に対して自由に意見を交換することで、従業員が自社ブランドを「自分ごと」として捉えやすくなるでしょう。
これまでのブランドイメージや企業の資産を棚卸しする「過去の整理」や、自社の強み・市場でのポジションなどを把握するための「現在の分析」、これからどうしたいかといった「未来の想像」についてワークショップをおこなうと効果的です。
■オフィスのレイアウト変更で働き方まで改善
オフィスのデザインによって企業としてのコンセプトを示すこともできます。たとえば、オフィス内にコーポレートカラーを配色する、従業員の目に入る場所にブランドメッセージを掲示するなどが効果的です。
レイアウトの変更で、従業員同士が連携しやすいようにするのも生産性アップにつながります。たとえば、打ち合わせスペースの設置やフリーアドレス制を取り入れるなど、コミュニケーションの活性化を図れば、従業員同士の相互理解が深まり、協力体制が生まれやすくなるでしょう。
また、オフィスは従業員にとって長い時間を過ごす場所であるため、おしゃれで快適なオフィスなら従業員の満足度が高まります。従業員の満足度が高まれば、企業への信頼感や愛着心もわきやすく、エンゲージメントの向上につながります。
オフィスレイアウトに関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
インナーブランディングを実践するポイント
インナーブランディングを成功させるため、実践する際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
■予算の確保
どのような施策でも、新しいことを始めるときにはコストがかかります。インナーブランディングで考えておくべきコストは次のとおりです。
- 会議や社内イベント、打ち合わせなどにかかる人的な費用
- ブランディングに必要な制作物・ツールなどの導入費用
- ウェブサイトやメルマガ・SNSなどの運用費
- オフィスのレイアウト変更費
- 専門ノウハウを外部から提供してもらう場合の費用
予算が十分にないと、オフィスのレイアウトやデザイン変更といった高額になりやすい施策は実行しにくくなります。自社にとって効果的な施策が実行できないと、インナーブランディングを成功させることが難しくなってしまうため、予算の確保は重要です。
■内容の明確化
企業理念やビジョン、目指すゴールやブランドコンセプトなどは明確化し、具体的な言葉や数値を使うなどしてわかりやすい形で伝えることが重要です。従業員に伝えたいことが曖昧では、共通した価値観やビジョンを抱いてもらえません。従業員に共通した価値観やビジョンを抱いてもらえなければ、企業や自社ブランドへの愛着心を持ってもらえず、エンゲージメントを高めるのも難しくなります。
たとえば、実現の可能性が低いビジョンや厳しすぎる目標設定、曖昧な経営理念などでは共感が得られず、かえって企業への不信感や反発を招く恐れもあります。
インナーブランディングを成功させるためには、従業員一人ひとりに内容を理解してもらうだけでなく、そのビジョンに共感し、行動してもらわなければなりません。そのため、一方的な価値観の押し付けになることなく、自社への愛着心を持ってもらえるようなわかりやすい施策にして伝えていく必要があります。場合によっては価値観やビジョンを再定義することも必要です。
■中長期的に取り組む
インナーブランディングの効果はすぐに現れないため、中長期的な視野で計画的に取り組む必要があります。従業員全員に浸透させることを急いで、深く納得できていないまま経営目標を覚えてもらったり社訓を暗記してもらったりするだけでは成果につながりません。
定期的な従業員へのアンケートや、業績・採用コスト・定着率などの具体的な数字の調査によって、効果測定や施策の評価をおこないましょう。その都度、必要に応じて問題点を改善しながら進めていくことが大切です。
実践と改善によって作られた仕組みを習慣化することで浸透・定着していきます。そのため中長期的な目線を持ち、企業文化を育むつもりで取り組むと良いでしょう。
【Q&A】インナーブランディングの疑問
インナーブランディングを検討する際によく疑問に上がる点を解説します。
■インナーブランディングが特に必要な企業の特徴とは?
従業員の入れ替わりが多い企業は、特にインナーブランディングに力を入れた方が良いでしょう。このような企業では、企業の理念や価値観が浸透する前に従業員が入れ替わってしまうからです。
また、幅広い事業を展開している企業にとっても効果的です。企業が持つイメージの代表的な事業以外で働く従業員は、企業への愛着や、やりがいを持ちにくい可能性があるからです。社外へアピールしている企業理念との関係性が薄い業務に携わる従業員にも企業理念やビジョンを理解・共感してもらえれば、企業への愛着ややりがいを持ってもらえるでしょう。そのためには、インナーブランディングが有効です。
吸収や合併をした企業も同様です。元々価値観が違う従業員が一緒に働くことになるため、企業への愛着や、やりがいを持ちにくい可能性があります。そのためインナーブランディングで同じ価値観を共有し、企業内で足並み揃えて働ける環境を整えることが大切です。
このような企業でインナーブランディングをしない場合、企業に対して不満や誤解が生じたり、モチベーションが低下したりする恐れがあります。退職者の増加や生産性・業績のダウンなどにつながる可能性もあるでしょう。
■自社に適した施策を相談したいときは?
インナーブランディングのコンサルタントをメイン業務にしている企業や、相談できそうな人が在籍しているメンターサービスを利用しましょう。
専門家のノウハウがあれば、的確な状況分析と方向性の検討ができ、浸透させるためのシナリオ策定や展開ロードマップ、推進体制の立ち上げもスムーズにおこなえます。
たとえば、インナーブランディングを得意とするコンサルティング会社では次のようなステップで効率的にワークを進めていきます。
- 自社の現状分析(アンケート・ヒアリング)で社内課題を洗い出す
- 重要課題を明確化し、活動の方向性を検討する
- 重点施策の内容を設計する
- 効果と取り組みやすさの観点から施策実施の順番を決めたシナリオを作る
- 社内へ展開するための推進体制を立ち上げる
- 行動や継続促進施策の詳細設計と実行をする
- インナーブランディングの効果を社外へもアピールする
業務の現場で判断基準となる行動の指針「クレド」の開発や、行動計画を検討するワークショップの実施、継続的な行動を促進するグッドジョブアワードやアイデアコンテストのようなイベント開催などについても、専門家のサポートがあれば効率的かつ自社にとって有効なものを進めていけるでしょう。
同様に、オフィスのレイアウト変更であれば、移転やレイアウト変更を専門とする業者へ相談するのがおすすめです。オフィスは企業のブランドイメージや在り方を表すものでもあるため、インナーブランディングを意識したレイアウト変更について相談できる業者を選びましょう。
■インナーブランディングの効率的な学び方は?
インナーブランディングに関する書籍は多く発行されています。書籍を読んでみることから始め、さらに深く学ぶならインナーブランディングに関するセミナーや講座を受ける方法があります。
公開セミナーや講座だけでなく、eラーニングや動画講座を利用して詳しく学ぶ方法もあります。また、研修講師を企業へ派遣しているコンサルティング会社もあるので、自社で研修を実施してもらうのもよいでしょう。社内でインナーブランディングを主導する人が知識を身に付けておくと、迷わずに計画を作成し、実行できます。
まとめ:インナーブランディングで企業価値向上のための好循環を生み出そう
インナーブランディングは、従業員に対して企業の理念やビジョン、価値観を共有し、理解を深め、共感や愛着心を持って行動してもらうための活動です。
従業員が自社やブランドへ愛着を持つことは、企業への満足度やモチベーションを高め、離職率の低下・ブランドのイメージアップ・優秀な人材の確保・生産性の向上などにつながります。
また、インナーブランディングの施策によって社内のコミュニケーションが活性化すれば、部署を超えた協力体制の構築や、質の高い教育体制を整えることも可能です。
同じビジョンや目的を共有することで企業と従業員が一丸となり、全体的な企業価値を向上させられるため、インナーブランディングを通じて、企業がより発展していくための長期的な好循環を生むことができるでしょう。改めてインナーブランディングの施策を見直してみてはいかがでしょうか。