ワークエンゲージメントの意味とは?高める7つの方法まで徹底解説
働き方
自社で働き方改革を進める際に、テレワークやフレックスタイムなどの多様なワークスタイルを提供するだけでは、十分な効果が期待できるとは限りません。働き方改革では、従業員のワークエンゲージメントを高めることが大切です。
働き方改革を任された責任者の中には、ワークエンゲージメントという言葉を最近になって知った方もいるのではないでしょうか。この記事では、ワークエンゲージメントの意味や高めるメリットなどを解説します。
具体的な方法や効果の測定方法も併せて解説するので、働き方改革の実現に向けて役立ててください。
目次
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントを直訳すると「Work」には仕事、「engagement」には愛着心の意味があります。直訳すると仕事への愛着心となりますが、意味はそれだけではありません。まずは、ワークエンゲージメントの意味から理解を深めていきましょう。
エンゲージメントに関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
■仕事に対するポジティブな感情
ワークエンゲージメントとは、仕事に対してどれだけポジティブで充実した心理状態であるかを示す尺度です。労働者が持続的にどのような感情を抱くかで、自身の健康や業務効率に影響するとされています。
この概念は、2002年に提唱者であるオランダのウィルマー・B・シャウフェリ教授によって確立されました。日本では、2018年に厚生労働省の「平成30年度版労働経済の分析」でも言及されています。
資料によると、労働者の健康増進と業務効率向上を同時に実現するためには、ワークエンゲージメントが着目すべき有用な概念だと結論付けています。
■「活力」「熱意」「没頭」で構成される概念
ワークエンゲージメントは、次の3つの要素で構成されています。
活力 |
|
熱意 |
|
没頭 |
|
ワークエンゲージメントが高い状態とは、3つの要素がすべて満たされていることを示しています。一つでも満たされていない要素があると、健康や業務効率に何らかの影響をおよぼす可能性があります。
そのため、ワークエンゲージメントを高めるためには、すべての要素にアプローチすることが大切です。
ワークエンゲージメントを高める4つのメリット
従業員のワークエンゲージメントを高めると、企業にさまざまなメリットをもたらすとされています。働き方改革に着手する前にメリットを把握し、自社にとって適切なアプローチ方法を探ってみてください。
ここからは、ワークエンゲージメントを高めるメリットを4つ解説します。
■1.従業員のメンタルヘルスケア
従業員のワークエンゲージメントが高まると、メンタルヘルスケア対策になります。企業では定期的なストレスチェックが義務化されていますが、不調を早期発見できても、根本的な問題がなくならない限りは解決に至りません。
従業員が活力や熱意に満ちていると、ストレスそのものの発生をおさえられるため、不調の予防が可能です。もし、一時的に不調を抱えても活力があるため、高い回復力を期待できます。
メンタルヘルスの問題が解消されると、従業員が充足感を持って働けるようになり、組織の活性化にもつながるでしょう。
オフィス環境のストレスに関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
■2.仕事の生産性向上
ワークエンゲージメントが高い従業員は仕事への意欲が強いため、生産性の向上が期待できます。
熱意を持って仕事に取り組むとアイデアが創出されやすくなり、新たな商品やサービスでビジネスチャンスを獲得する機会に恵まれるでしょう。ワークエンゲージメントが高まるとチャレンジ精神が旺盛になるため、プレゼンで成約を勝ち取るケースも増えるかもしれません。
従業員の仕事への充実感が高まると労働生産性が向上し、企業の業績アップにつながります。
生産性を向上できるオフィス環境に関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
■3.会社の離職率の低下
従業員のワークエンゲージメントが高まると、自社の離職率をおさえられます。厚生労働省の「令和2年雇用動向調査」では、令和2年の離職率が入職率を上回ったことがわかりました。
入職率 | 13.9% |
離職率 | 14.2% |
離職率は、多くの企業が抱える課題の一つです。仕事で幸福感を得られると組織への愛着も高まり、業務内容が原因の離職につながりにくくなるためです。
■4.顧客満足度の向上
従業員のワークエンゲージメントの高さは、顧客満足度にも良い影響をおよぼします。熱意を持って仕事に取り組む従業員が増えると、より質の高いサービスや商品を提供できるようになるためです。
また、熱意のある従業員に対しては、顧客が抱く印象も変わります。顧客が生き生きと仕事をする従業員を見ると、信頼や安心感を抱き、印象アップにつながるでしょう。
厚生労働省の「平成30年度版労働経済の分析」では、従業員のワークエンゲージメントが高い企業ほど顧客満足度が上昇していることがわかっています。
ワークエンゲージメントスコア | 顧客満足度が上昇した企業の割合 |
6 | 38.6% |
5 | 38.5% |
4 | 35.6% |
3 | 31.2% |
2以下 | 29.3% |
※スコアの数値が高いほどワークエンゲージメントが高いことを示しています。
顧客満足度は企業イメージの良し悪しにも影響しかねないため、従業員のワークエンゲージメントを高めることが大切です。
ワークエンゲージメントを高める具体的な方法
教育制度や人事評価制度の見直し、コミュニケーションの活性化によって従業員のワークエンゲージメントを高められます。ここからは、ワークエンゲージメントを高める具体的な方法を解説します。
■参加型討議を開催
日頃抱えている悩みや課題について、従業員同士が解決策を出しあえる場を提供しましょう。
ディスカッションの場を設ける際のポイントは、参加者からの人望があり、聞き上手な人を進行役に立てることです。そうすれば、参加者も意見を出しやすい雰囲気になります。
テーマによっては進行が上手く進まないケースも考えられるため、事前にアンケート調査を実施し、内容をまとめておくと良いでしょう。テーマやグループのメンバーを変更するなど、その場だけのディスカッションでは終わらないような工夫も必要です。
■ジョブ・クラフティングの研修
従業員のワークエンゲージメントを高めるためには、ジョブ・クラフティングの研修を実施するのも効果的です。ジョブ・クラフティングとは認知面や行動面を変える工夫を試みることで、仕事に対する関わり方を良い方向に導いていく手法です。
具体的には、スケジュール管理方法の提案やToDoリストの共有などです。研修は全2回で、それぞれ一定期間後にメールフォローをおこないます。研修のおもな内容と流れは、次のとおりです。
流れ | 内容 |
1.講義 |
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2.事例を用いたワーク |
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3.ジョブクラフティング計画作り |
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4.計画カード作り |
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事例を用いたワークでは仕事で行き詰っていることに対し、どのようにすればより前向きになれるかを参加者が考えます。事例は、参加者の特性やニーズに適したものを準備するとより効果的です。
計画カード作りでは、今後1ヶ月間に実践するジョブ・クラフティング計画を立案します。内容は何を・いつ・どこでおこなうかまでを詳細に記載すると、実践しやすくなります。
■継続的にCREWプログラムをおこなう
CREWプログラムでは、従業員同士が敬意をもって接することで、より働きやすい職場環境を作ることが目的です。CREWは、Civility(礼節、丁寧さ)、Respect(敬意)and Engagement(エンゲージメント)in the Workplace(職場)の略称になります。
2005年にアメリカで開発され、病院やコールセンターなどのさまざまな職場で活用されているプログラムです。
実施方法は、決められたテーマに沿って従業員同士で対話するだけ。テーマを決める際には、お互いを知ることや敬意、尊敬について考えられるものにしましょう。
たとえば、「仕事で大事にしていることは何か」「職場で大切にされていると感じるのはどのようなときか」などです。プログラムは一回きりではなく、継続的におこないましょう。
■メンター制度で従業員のサポート
メンター制度とは新入社員や若手社員に対して、年齢や勤続年数が近い従業員をサポート役に配置する制度です。
サポート役には、直属の上司以外を選びましょう。そうすることで客観的なサポートがおこなえるだけでなく、社内で新たな人間関係が生まれるかもしれません。
厚生労働省が公表した「新規学卒就職者の離職状況」では、令和2年度における就職後3年以内の離職率は31.2%~55.0%だったことがわかっています。
学歴 | 就職後3年以内の離職率 |
中学 | 55.0% |
高校 | 36.9% |
短大など | 41.4% |
大学 | 31.2% |
業種別では離職率が60%を超えたところもあり、決して低くないのが現状です。
メンター制度では立場や部署が異なる従業員とコミュニケーションが取りやすくなるため、人間関係が理由の離職をおさえられる可能性もあります。また、制度を導入することでサポートを受ける従業員だけでなく、メンターとなる従業員の成長も期待できます。
■仕事の自動化を推進
仕事の自動化を推進すると、従業員のワークエンゲージメントを高められる可能性があります。従業員の中には、日常の業務量を負担に感じているケースも多いかもしれません。
仕事を自動化すると業務効率がアップし、従業員の負担軽減につながります。自動化のおもな方法は、次のとおりです。
- Excelのマクロ
- VBA
- RPAツールの導入 など
RPAはRobotic Process Automationの略語で、AI技術によって定型作業をロボットが自動化するツールです。すでに多くの分野で導入されており、人手不足の解消に役立てられています。
■人事評価制度の見直し
従業員が適切に評価されていないと感じると、モチベーションの低下につながり、ワークエンゲージメントを高めることが難しくなります。既存の人事評価制度を見直して従業員の努力が正当に評価されるようになると、ワークエンゲージメントが高まる可能性があります。
制度を見直すポイントは、上司による恣意的な評価を一切排除することです。しかし、職種によっては営業職のように目に見える成果を出せないケースもあります。
このようなケースも考慮し、仕事に対する態度や意欲も評価できる制度を構築しましょう。すべての職種を対等に評価できる人事評価には、360度評価があります。
360度評価は、上司や同僚などのさまざまな立場の関係者が評価をおこなう制度です。上司からの一方的な評価を避け、多面的な評価がおこなえます。
■職場で思いやり行動
従業員のワークエンゲージメントを高める方法として、思いやり行動を取り入れてみましょう。思いやり行動とは職場で困っている人や忙しそうにしている人に対し、自発的なサポートを誘発するプログラムです。
従業員同士がサポートし合えるため、人間関係の改善が期待できます。思いやり行動では、まずグループワークで話し合い、困っている人に対してサポートできる内容をまとめた後に実践します。
2週間程度経った後にもう一度グループワークの機会を設け、実践した結果や考察などを話し合うことが大切です。
ワークエンゲージメントの測定方法
さまざまな方法を試した後は、従業員のワークエンゲージメントがどのように変化したかを検証することが大切です。ここからは、ワークエンゲージメントの測定方法を解説します。
■UWES
ワークエンゲージメントの測定方法の一つは、UWESです。UWESはUtrecht Work Engagement Scalesの略称で、ワークエンゲージメントの要素である活力・没頭・熱意に対する質問に回答してもらう形式です。
UWESの質問は、全部で17項目あります。
要素 | 質問項目 |
活力 |
|
没頭 |
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熱意 |
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本来は17の質問項目で構成されていますが、9項目で構成される短縮版もあります。
■MBI-GS
MBI-GSはMaslach Burnout Inventory-General Surveyの略称で、UWESのようにワークエンゲージメント自体ではなく、バーンアウトを測定する方法です。バーンアウトとは「燃え尽き症候群」とも言われ、仕事へのやる気が枯渇する状態です。
疲労感・シニシズム・職務効力感の3つの要素に対する質問をし、どれだけバーンアウトしているかを測定します。各要素の質問項目は、次のとおりです。
要素 | 質問項目 |
疲労感 |
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シニシズム |
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職務効力感 |
|
バーンアウトはワークエンゲージメントの対極の意味のため、この測定結果が低いとワークエンゲージメントが高いと判断できます。
■OLBI
OLBIはOldenburg Burnout Inventoryの略称で、MBI-GSと同様にバーンアウトの状態を測定する方法です。質問内容は疲弊と離脱の2要素で、数値化して判断します。
各要素の質問項目の例は、次のとおりです。
要素 | 質問項目の例 |
疲弊 |
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離脱 |
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測定結果の数値が低いほど、ワークエンゲージメントが高いことがわかります。
ワークエンゲージメントに関するよくある疑問
最後に、ワークエンゲージメントに関するよくある質問をご紹介します。
■日本のワークエンゲージメントは低い?
日本のワークエンゲージメントの実態を把握する資料として、厚生労働省の「平成30年度版労働経済の分析」内のコラムをご紹介します。コラムでは16か国を調査した結果、日本のワークエンゲージメントが最も低いことが示されています。
日本では終身雇用制度が根強く残っており、長期雇用を前提とした企業文化があります。そのため、従業員に雇用さえされていれば気楽に働けるという思いを抱かせ、自発性や熱意の消失につながっていると考えられています。その結果、諸外国に比べてワークエンゲージメントが低いのが現状です。
■高年収の方がワークエンゲージメントは高いか
厚生労働省の「平成30年度版労働経済の分析」内のコラムでは、年代別のワークエンゲージメントスコアが公表されています。39歳以下では、年収が高いほうがワークエンゲージメントが高いです。
しかし、年収が上がりやすい40代や50代でも、ワークエンゲージメントが決して高いわけではありません。そのため、高年収ほどワークエンゲージメントが高いとは、一概に言えないのが現状です。
財政状況によって人件費が上げられない企業でも、職場環境や人事評価の見直しなどにより、ワークエンゲージメントを改善できる可能性は十分にあります。
まとめ:まずは従業員の悩みやニーズを把握することが大切
従業員のワークエンゲージメントを高めると、生産性の向上や離職率の低下など、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。ワークエンゲージメントを高める方法は複数ありますが、まずは従業員の悩みやニーズを把握することが大切です。
たとえば日常の業務量への不満が多い場合は、自動化ツールを導入して業務効率化を図ると良いでしょう。思いやり行動を取り入れると、業務の負担軽減や良好な人間関係の構築にもつながります。
アンケート調査で実態を把握し、自社に適した方法で従業員のワークエンゲージメントを高めましょう。