パイロットオフィスとは?意味や実践するメリット、具体的な取り組み例などを紹介
オフィスレイアウト・デザイン・設計
近年は、働き方改革に取り組む企業が増えています。働き方改革を実現するためには、新たな働き方やICTツールの導入などのさまざまな方法があります。しかし、一度に導入するには時間やコストがかかりがちです。
現場では従業員が混乱し、なかなか定着しない可能性もあります。このような懸念を払拭するには、パイロットオフィスと呼ばれる方法を導入するのも一つの方法です。この記事では、パイロットオフィスの概要や取り組みによって期待できる効果を解説します。
他社の成功事例を参考にすると、自社でのパイロットオフィスをイメージしやすくなります。後半では自治体の成功事例も併せて紹介するので、自社で取り組む際に役立ててください。
目次
パイロットオフィスとは
パイロットオフィスとは、新たなプロジェクトやプロセスを試験的に導入し、本格的な実行に入る前に課題などを把握することを目的としたオフィスのことです。パイロットには「試験的な」という意味があり、主にビジネスの文脈で使用されている用語の一つです。
パイロットオフィスは、会社全体の働き方を転換させるための有効な手段となります。
新たなプロジェクトやプロセスを導入する際には、さまざまなリスクがあります。パイロットオフィスはリスクを最小限におさえつつ、新たなアイデアや技術を実際の作業環境でテストできるため、近年は導入する企業が増えています。
パイロットオフィスの実践で期待できる効果
近年、パイロットオフィスに取り組む企業が増えています。その背景には、自社が抱える課題を解決できる可能性があることが深く関係しています。
◾️課題の特定と対策に役立つ
パイロットオフィスの導入は、課題の特定と対策を検討する際に役立ちます。オフィス改革を実施する場合、必ずしも効果が出るとは限らず、新たな課題が発見される可能性もあります。
より効果的なオフィス改革を実現するためには、課題を特定し、適切な対策を検討することが大切です。自社にパイロットオフィスを設置してテスト運用すれば、本格的な実行の前に効果や課題を検証しやすくなります。
たとえばオープンスペースを導入する場合、周囲の雑音が気になり、業務に集中できない従業員が出てくるかもしれません。このような課題が特定できると、個室ブースや集中エリアの設置によって対策が可能になります。
◾️コストの削減につながる
企業が利益を拡大させるためには、コスト削減が必要です。しかし、オフィス改革を実施する際には、規模に応じたコストがかかります。大規模でスタートした場合、課題を解決するために多くのコストが必要になる可能性があります。
パイロットオフィスは、コストをおさえたオフィス改革の実施が可能です。基本的に、パイロットオフィスは小規模でスタートします。たとえば、一部の部署や一部のエリアなどです。
小規模でスタートし、早期に課題を解決することで、将来的な修正や再設計にかかるコストの削減につながります。小規模で様子を見ながら運用すると、拡大可能かどうかの判断がしやすくなります。
◾️従業員に浸透しやすくなる
パイロットオフィスは、一部の部署やエリアなどの小規模でスタートするのが一般的です。一部の従業員が新たな取り組みに慣れた後、徐々に拡大していくことで、社内に浸透しやすくなります。
新たなプロジェクトやプロセスを導入する場合、一度に運用を変更すると、社内に浸透するまでに時間がかかりやすい側面があります。従業員は、環境の変化に対応する必要があるためです。
パイロットオフィスは小規模で始められるため、従業員への浸透度を見極めることが可能です。従業員の反応を見ながら運用していくことで、効果や課題を検証でき、浸透しやすい状況をつくれます。
◾️働きやすい職場環境を実現できる
従業員が働きやすい職場環境を実現するためには、パイロットオフィスが効果的です。近年は働き方に対する価値観の多様化により、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えています。
働きづらい職場環境の場合、より良い場所を求めて離職する従業員が出てくる可能性もあります。従業員の離職を低減し、定着率を高めるためには、オフィス改革が必要です。パイロットオフィスを設置すると、そこで働く従業員が社内で注目されるようになります。
従業員は、オフィスが良い方向に向かっていることを知ることで、働く意識が変化する可能性があります。働きやすい職場環境が構築されることで従業員の満足度が高まり、離職の低減につながるでしょう。
◾️社内コミュニケーションが活性化する
オフィスにパイロットオフィスを設置すると、社内コミュニケーションを活性化させる効果が期待できます。
従業員同士の距離が近いため、コミュニケーションが発生しやすい状況になります。特にコミュニケーションが重視されるチーム作業では、パイロットオフィスの設置によって情報共有や意思決定までのプロセスがスムーズに進むでしょう。
また、パイロットオフィスは、パイロットオフィス以外の場所で働く従業員のコミュニケーションにも影響を与えます。パイロットオフィスがきっかけとなり、働き方の違いや意識の変化などについて意見を交わすようなコミュニケーションが発生します。
パイロットオフィスの具体的な取り組み例
一口にパイロットオフィスといっても、さまざまな取り組み方法があります。パイロットオフィスの具体的な取り組み例は、次のとおりです。
- 新たな働き方の導入
- フリーアドレス制の導入
- ペーパーレス化の促進
- 新たなシステムの導入
- 健康経営への取り組み
それでは、パイロットオフィスの具体的な取り組み例を見ていきましょう。
◾️新たな働き方の導入
パイロットオフィスの具体的な取り組み例の一つは、新たな働き方の導入です。近年は、オフィス出社以外のさまざまな働き方へのニーズが高まっています。その背景には、働き方に対する価値観の多様化や働き方改革などが関係しています。
しかし、新たな働き方の導入は、決して容易ではありません。従業員がオフィス以外の場所で働くようになれば、勤怠管理が難しくなります。従業員の出社率が減れば、ワークスペースの見直しも必要です。
すべての従業員に新たな働き方を導入すると、社内で混乱が起きる可能性もあります。まずは一部の従業員で新たな働き方を試行し、効果や課題を検証することで、社内全体に上手く移行できるようになります。
◾️フリーアドレス制の導入
ワークスペースにフリーアドレス制を導入すると、コミュニケーション不足の課題の解決につながる可能性があります。固定席の場合、従業員の席が固定されているため、部署やチームを超えたコミュニケーションが発生しにくい側面があります。
フリーアドレス制を導入すると、毎日席が変わるため、部署やチームを超えたコミュニケーションが発生しやすくなるでしょう。まずは小規模で導入し、徐々に拡大していくことで、社内全体のコミュニケーションの活性化が期待できます。
また、新たな働き方を導入する場合、従業員の出社率が減るため、広いワークスペースが不要になります。ワークスペース全体をフリーアドレス制に移行した後は、オフィススペースを省スペース化し、コスト削減を図るのも一つの手です。
◾️ペーパーレス化の促進
近年は、ペーパーレス化を図る企業が増えています。ペーパーレス化を図ると、保管スペースや印刷代などのコスト削減につながるためです。パイロットオフィスは、ペーパーレス化を促進する際の取り組みとして適しています。
一度にすべての書類をペーパーレス化すると、従業員が急激な変化に対応できず、社内で混乱が起きる可能性があります。たとえば、デジタルツールに慣れていない従業員が必要な書類を上手く探せない、社外に持ち出して良い書類がよくわからないなどです。
ペーパーレス化にともなう社内での混乱を防ぐためには、小規模でスタートすることがポイントです。最初はペーパーレス化の対象を絞り、段階的に進めていくと、従業員も変化に対応しやすくなるでしょう。
◾️新たなシステムの導入
デジタル技術が進化し続けている今、ビジネスシーンでもさまざまなシステムが活用されています。たとえば会議予約システムや共有スペースの利用状況をリアルタイムで把握するセンサー、コミュニケーションを助けるためのデジタルツールなどです。
オフィスで新たなシステムを導入する際には、パイロットオフィスの取り組みが効果的です。新たなシステムを導入する場合、従業員が便利になる一方で、十分な効果を得られるまでには時間がかかりやすい側面があります。
システムを使いこなすためには、従業員が慣れる必要があるためです。パイロットオフィスで先行導入すると、効果を検証できます。従業員の反応を見ながら運用していくことで、効果的な導入の実現につながるでしょう。
◾️健康経営への取り組み
健康経営とは従業員の健康を経営課題と捉え、戦略的に管理や維持を実践することです。パイロットオフィスで健康経営を試験的に導入し、徐々に拡大していくのも一つの手です。
健康経営の取り組みの一環としては、スタンディングワーク向けのオフィス家具を導入する、リフレッシュルームを設置するなどの方法があります。健康経営に積極的に取り組むことで、従業員の生活習慣病リスク値の改善に成功した企業もあるようです。
また、働き方改革と健康経営は密接に関係しており、企業には両者の実現が求められています。従業員の健康に配慮した家具やスペースを導入すると、働き方改革と健康経営を両立できるでしょう。
健康経営に関する取り組みには、スタンディングワークの導入やリフレッシュルームの設置のほか、オフィスカフェの設置などがあります。詳細はこちらの記事で紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
パイロットオフィスの取り組みを成功させるポイント
パイロットオフィスは、小規模でスタートするのが基本です。小規模でスタートすることで効果を検証しやすく、課題の早期発見につながります。しかし、小規模で始めても必ず成功するとは限りません。パイロットオフィスを成功させるためには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。
◾️働き方に応じた設備を導入する
新たな働き方を導入する場合は、その働き方に応じた設備を準備してからスタートしましょう。従業員が快適に働ける環境は、働き方によって異なります。たとえば、オープンスペースでは周囲の雑音が気になりやすい側面があります。
このような環境では、個人ワークやWeb会議に集中できない従業員が出てくる可能性もあるでしょう。ワークスペースの一角に集中ブースを設置すると、静かな環境が必要な業務にも対応しやすくなります。
また、従業員の生産性を向上させるためには、業務内容や気分に応じて働く場所を選べる環境をつくることも大切です。スペース内にファミレス席やスタンディングデスクを設置すると、働く場所を選べるため、生産性の向上につながります。
◾️ICTツールを導入する
パイロットオフィスの取り組みを成功させるポイントの一つは、ICTツールを導入することです。ICTツールを導入し、従業員が活用することで、環境の変化にも対応しやすくなるためです。
新たな働き方を導入すると、従業員はさまざまな場所で働くようになるため、コミュニケーションが取りづらい側面があります。コミュニケーション不足は、情報の共有や伝達に支障を来し、大きなミスにつながりかねません。
業務を円滑に遂行するためには、従業員同士の適切なコミュニケーションが必要です。チャットツールやWeb会議システムを導入すると、離れた場所の従業員同士がやり取りできるため、コミュニケーション不足の解消につながります。
パイロットオフィスを実践する際の注意点
自社でパイロットオフィスを実践すると、働きやすい職場環境の実現や社内コミュニケーションの活性化など、さまざまな効果が期待できます。その一方でいくつか注意点があるため、事前に対策を検討しておく必要もあります。
◾️目的を設定する
パイロットオフィスを実践する場合、目的を明確にしておく必要があります。たとえば社内コミュニケーションを活性化させたい、柔軟な働き方を実現したい、組織の適応力を向上させたいなどです。
目的が曖昧な場合、運用途中で方向性がブレやすく、十分な効果が得られない可能性があります。まずは、自社が抱える課題を把握しましょう。課題を把握した上で、どのような施策を講じれば解消できそうかを検討します。
コミュニケーション不足が課題の場合は、フリーアドレス制の導入やチャットツールの導入が効果的です。多様な働き方へのニーズが高い場合は、テレワークやハイブリッドワークなどの導入を検討しましょう。
◾️従業員の声を反映する
目的を達成するためには、従業員の協力が不可欠です。パイロットオフィスは経営層だけでなく、従業員を巻き込んで取り組む必要があるためです。従業員の中には、環境が変わることに納得しない人もいるかもしれません。
実践する際には、従業員に目的やメリットなどをきちんと説明し、理解を得ておきましょう。実際にどのような取り組みを進めていくかは、経営層や一部の部署だけで決めないことがポイントです。
課題を把握する段階から、現場で働く従業員の意見を聞くことも大切です。従業員の意見を聞くことで、経営層や一部の部署だけでは把握しきれなかった課題が浮き彫りになることもあります。パイロットオフィスに従業員のニーズが反映されれば、満足度も高まるでしょう。
◾️PDCAサイクルを回す
パイロットオフィスは、あくまでも試験的な導入です。まずは一部の部署やエリアなどの小規模でスタートし、段階的に拡大していくことが前提です。導入後、新たな課題が発見されることもあります。
課題が発見された場合は対策を講じ、上手く運用できるよう改善していくようにしましょう。パイロットオフィスは継続し、課題を改善していくことで高い効果が見込まれる取り組みです。
そのため、導入後は実践と改善を繰り返していくことが大切です。PDCAサイクルを回すことで、新たなトラブルやニーズにも柔軟に対応しやすくなるでしょう。
パイロットオフィスに成功した事例
初めてパイロットオフィスを導入する場合、自社での運用をイメージしづらいかもしれません。運用をイメージしやすくするためには、成功事例を参考にするのも一つの手です。ここからは、パイロットオフィスの成功事例を紹介します。
◾️滋賀県近江八幡市
滋賀県近江八幡市は、市役所本庁の一部の部署にパイロットオフィスを設置しました。パイロットオフィスを設置した目的は、オフィス改革の効果を従業員や市民に可視化し、変革の必要性を共有することです。
また、パイロットオフィスでの課題を洗い出し、新庁舎の整備に反映させることも目的としています。3課合同窓口には、窓口での手続き時間を短縮するために「クイック窓口」を設置しました。
ワークスペースには集中席やビッグテーブル席、ファミレス席などを設置し、従業員が業務内容に応じて席を選べるようにしています。窓側に設置されたハイカウンター席は、スタンディングワークや立ちミーティングにも対応できます。
◾️神奈川県相模原市
神奈川県相模原市では新たなオフィスモデルとして、市役所本庁舎にパイロットオフィスを設置しました。この取り組みから得た知見やノウハウを活かし、オフィス改革の取り組みを推進する予定です。
ワークスペースには、立ち作業・立ちミーティングエリア、Webミーティングスペースなどの複数のエリアを設置しています。Webミーティングスペースにはファミレス席を設置し、簡易的な打ち合わせにも対応できるようにしています。
執務席は、グループアドレスタイプのフリーアドレス制を導入しました。グループアドレスタイプは、部署やチームごとに自由席のエリアが決められているため、連携が取りやすい点がメリットの一つです。
まとめ:パイロットオフィスを設置してオフィス改革を実現しよう
近年は、パイロットオフィスを導入する企業が増えています。パイロットオフィスは小規模でスタートできるため、効果や課題を検証しやすい側面があります。早期に課題を解決することで、将来的な修正や再設計にかかるコストの削減につなげることも可能です。
パイロットオフィスには、さまざまな取り組み方法があります。具体的な取り組み例は、新たな働き方の導入やフリーアドレス制の導入などです。働き方に応じた設備やICTツールを準備しておくと、取り組みを成功できる可能性が高まります。
新たな働き方を導入する場合、働き方に応じたワークスペースの見直しも必要です。ワークスペースのレイアウトを変更する際には、ぜひアイリスチトセにご相談ください。グループの総合力を生かし、自社に適したプランを提案させていただきます。