ファシリティマネジメントとは?メリットや具体例をわかりやすく解説
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企業経営の効率化や改善に関連するキーワードの一つに、ファシリティマネジメントがあります。
人材、物資、お金…これら3つは代表的な経営資源として知られています。このうち「物資」には経営のための施設や設備、オフィスなどが含まれているため、コスト削減や生産性向上、CSR(企業の社会的責任)などの企業の改善に関わる課題の対象にもなっています。
ファシリティマネジメントはこうした「物資」の課題に関連して注目されていますが、具体的にはどのようなことをおこなうのでしょうか。この記事では、ファシリティマネジメントの概要やおこなうことのメリット、施策の具体例をご紹介します。
目次
ファシリティマネジメントとは
ファシリティマネジメントとは、経営にかかわる土地や施設、設備といった固定資産(=ファシリティ)を総合的に企画、管理、活用(=マネジメント)することです。
ファシリティ(facility)は本来、設備や施設、器用さなどの意味を持ち、ビジネスにおいては上に挙げたような「物資」を表現する言葉となっています。具体的にどのようなマネジメントがおこなわれていくか、活用の要点はどこにあるのかを解説していきます。
■従来の施設管理との違い
ファシリティマネジメントと似た言葉に「施設管理」があります。どちらも物資に対する施策を示す言葉ですが、その内容は大きく異なります。
一番大きな違いは、その目的です。施設管理は施設の維持・保全を、ファシリティマネジメントは施設運営の効率化を目的としています。
ファシリティマネジメント | 施設管理 | |
目的 | 施設運営の効率化 | 施設の維持・保全 |
管理の対象 | 施設そのもの 施設の経営戦略 施設の固定資産 施設の環境 |
施設そのもの |
関連する部署 | 複数の部署を横断 | 施設管理部署 |
実施に必要な知識 | 不動産や設備・機器の維持管理知識 | 不動産、財務、経営、情報、環境、心理、人間工学 |
運営の最適化を目的とするため、施設という物資そのものだけでなく運営の方針、経営戦略などを包括的に関わることになります。従来の施設管理が総務など施設管理部署内で収まる仕事であることに対し、ファシリティマネジメントは部署や分野を横断した取り組みとなります。
たとえば、企業の所有物である設備が破損したとします。従来の施設管理であれば、担当部署が修繕・買い替えをおこないます。関わる部署は担当部署のみとなるため、「壊れたものを元に戻す」という維持・保全以上の視点は持たれません。
一方、ファシリティマネジメントでは経営的・長期的な視点から現状よりも最適化できる方法がないかを探ります。「購入費用やランニングコストがおさえられる方法はないか」「そもそもその設備は必要なのか」などを、複数の部署を横断して総合的に判断することになります。
■ファシリティマネジメントの重要性
物資の効率化とコストの適正化の面から事業を支えるファシリティマネジメントは、企業にとって重要な基盤です。人事、ICT、財務とともに4大経営基盤の一つであると考えられており、生産性の高い企業経営のためには欠かせない施策であると言えます。
工場やオフィスなどのファシリティが企業にとって最適な状態で管理されていることで、従業員や利用者がより効率的・快適に設備を活用できるようになり、不要なコストが可視化されることで費用をおさえることもできます。
ファシリティマネジメントのメリット
ファシリティマネジメントを実際の施設運営に取り入れるとどのようなメリットが得られるのでしょうか。
この項目では、ファシリティマネジメントの適切な実施によるメリットを、4つピックアップしてご紹介します。
- 施設に関わるコスト削減
- 資産価値の低下を抑制
- 施設や設備利用者の生産性の向上
- 社会貢献
それぞれのメリットの詳細を、順番に見ていきましょう。
■施設に関わるコスト削減
ファシリティマネジメントで最新の設備や機器の導入をおこなえば、業務効率やランニングコストの改善による費用削減が見込めます。また、オフィスレイアウトの見直しでスペースを有効活用すれば、レンタルしている建物や面積をおさえて賃料を減らすことも可能です。
不要なコストの削減は、企業の収支バランスを正常とするために欠かせないものです。代表的なコスト削減として、人員のリストラや派遣社員の利用など人件費に関わるものが挙げられることが多いですが、施設管理費も人件費に次ぐ固定費となっているため、ファシリティマネジメントによるコスト削減は有効な選択肢となります。
ファシリティマネジメントによって固定資産などの施設の管理を適正化すると、結果としてコスト削減につながります。既存の施設や設備の要・不要を見直すことで維持費による出費をスリム化し、資金に余裕のある経営を目指せるようになります。
■資産価値の低下を抑制
ファシリティマネジメントは施設・設備の廃止でコスト削減を狙うだけのものではなく、適切な管理・運営で固定資産の資産価値の低下を抑制する施策としての側面も持ちます。
施設や設備などの固定資産は新築時から常に資産価値が減少し続けるものです。自然に経年劣化をしてしまう以上は価値の低下は避けられませんが、劣化は定期的なメンテナンスや改築で補うことで最小限におさえることができます。
劣化をおさえることができれば同時に資産価値の低下率もおさえられ、施設・設備もより長く使えるようになります。
固定資産の価値を維持するだけでなく、区画整理やレイアウトの変更で生まれた空きスペースや建物をテナントとして貸し出し、収益化をおこなうことも可能です。物資を削ってコストを削減するだけでなく、既存の物資の適切な活用もファシリティマネジメントのアプローチの一つとなっています。
■施設や設備利用者の生産性の向上
メンテナンスなどのファシリティマネジメントの施策で施設や設備の使い勝手を改善すれば、これまで施設や設備を使っていた従業員の労働環境を改善し、生産性の向上につなげることも可能です。
オフィスの動線が従業員が行動しやすいレイアウトとなっている、使用頻度の高い設備が最新のものとなっていて使いやすい、などの改善をおこなうと業務効率の向上が見込めます。
また、空きスペースに休憩スペースやミーティングスペースを設けると従業員同士もコミュニケーションを取りやすくなり、意思疎通の円滑化も期待できます。
ファシリティマネジメントは物資だけでなく、物資に関連して働くヒトにも影響を及ぼすことのできる施策です。従業員に良い影響を与え、生産性の向上を見込める施策を考えましょう。
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■社会貢献
施設・設備の環境負荷や省エネ性、排出するゴミなどの見直しを通じて社会貢献ができます。環境に優しい設備の導入は地域環境への配慮や省エネにつながり、施設運営や生産の見直しなどでゴミを削減すればそれだけ地域社会への負担を減らすことにつながります。
企業は自社の利益だけでなく、CSR(企業の社会的責任)を果たすことも求められています。株主や従業員、顧客や取引先だけでなく、施設・設備の所在する地域社会やその住民も含めたステークホルダー(利害関係者)に対する貢献が必要です。
上記の他にも、自社にしかできない社会貢献があれば検討してみましょう。ファシリティマネジメントによる経営の見直しは、経済活動にともなう環境負荷の整理と密接に関連しています。
ファシリティマネジメントの4つの具体例
ファシリティマネジメントは部署横断的な試みのため、複雑かつ広範な導入になるだろうと取り組みにハードルを感じてしまうかもしれません。まずはこの考えを実施するためには何をおこなえば良いのか、具体的な行動を把握しましょう。
ファシリティマネジメント実施における具体的な行動のうち、代表的なものは次の4つとなります。
- 施設や設備の定期メンテナンス
- 省エネ化
- 防災・セキュリティの強化
- オフィスの移転・レイアウト変更
それぞれの詳細と、個別の効果を解説します。
■施設や設備の定期メンテナンス
従来型の施設管理と同様に、定期的なメンテナンスも同様におこなう必要があります。また、ファシリティマネジメントの考え方では「物資の維持」という施設管理の考えに加え、劣化や疲労の放置による資産低下や、故障や破損による業務の停止・遅延を防ぐことも目的の一つとなります。
メンテナンスに費用はかかりますが、施設と設備が長持ちすれば新しく導入する費用や大きな修理費用をかける必要はありません。メンテナンス費用の方が安く済む場合ならば、最終的に支払うコストはより少ないものとなります。
固定資産の種類に応じ、3ヶ月に1回、半年に1回というように、定期的なメンテナンスを欠かさないようにしましょう。
■省エネ化
使用している施設と設備に改善の余地があれば、同じ物資を使い続けるだけでなく、最新の物資への更新もファシリティマネジメントでは重要です。特に、CSR・コスト面に利点のある省エネ化はその代表的なものです。
施設や設備の更新の際には、施設の壁は断熱や防湿効果のあるものを選び、照明や空調、社用車などの各種機材は省エネ性能の高いものを採用しましょう。社用車は単に燃費のよい車だけでなくEV車、ハイブリッド車に変更することも選択肢に入ります。
光熱費や燃料費などランニングコストの削減とCSRの推進による社会貢献を兼ねて、省エネ化を進めましょう。
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■防災・セキュリティの強化
人的なトラブルや自然災害などのイレギュラーは企業に大きなダメージをあたえかねないリスクとなっています。資産の損失リスクを下げるためには、防災やセキュリティの強化が欠かせません。
施設は耐震性や耐火性が高い構造とすることを検討しましょう。施設だけでなく、それに関わる従業員の保護も重要な要素です。避難経路の確保や防災訓練もファシリティマネジメントの一環と言えます。
物的財産や知的財産の盗難や損失は、セキュリティ面でのリスクの一つです。防犯カメラや入退室管理、金庫や来客スペースを区切るパーティションなどの物理的対策はもちろん、社用コンピュータにウィルス対策を施すなどのサイバー被害対策も欠かせません。
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■オフィスの移転・レイアウト変更
オフィス移転やレイアウトの変更をおこない、従業員同士が連携して働きやすい環境を作ることで生産性を向上させましょう。
たとえば、オフィスの移転によって分散していた拠点を一つに統合することで、電話やメール越しでは越えられない物理的な壁を取り払うことにつながります。
また、同じオフィスでもレイアウトの変更で利用のしやすい動線を確保する、従業員同士のコミュニケーションを取りやすくできます。コミュニケーションやリフレッシュのスペースを確保することで従業員同士の交流の促進も期待できるでしょう。
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ファシリティマネジメントを実施するポイント
ファシリティマネジメントは次のポイントをおさえることでより効果的に実施できます。
- 3つのレベルで計画
- ファシリティマネジメントのサービスを利用
- 有資格者をプロジェクトに加える
- PDCAを回す
それぞれのポイントを解説します。
■3つのレベルで計画
ファシリティマネジメントは経営のトップから末端まで全社的に取り組むことで効果を発揮するものとなっています。それぞれのレベルにおいてファシリティマネジメントを計画することが重要です。
次の3つのレベル順で計画を進めていきましょう。
- 経営レベル
- 管理レベル
- 日常業務レベル
経営レベルでは、ファシリティマネジメント全体の方向性を決めます。ファシリティマネジメントによって実現する目的と目標を定め、プロジェクトの予算や工程を設定しましょう。
次の管理レベルで、経営レベルにおいて決められた方向性を実現するための具体案を検討します。経営最適化のために新規導入する施設・設備・資材や関連する業者への依頼など、ファシリティマネジメントを実施するために必要なものの選定をおこないます。
日常業務レベルでは、管理レベルで決まった具体案を、誰がどのような形で日常業務としておこなうのかを検討します。各担当部署がメンテナンスや清掃など実働をおこなうため、ファシリティマネジメントの施策を普段の業務から実施していけるよう調整していきましょう。
■ファシリティマネジメントのサービスを利用
専門的にファシリティマネジメントをサポートしてくれるコンサルティング業者などのサービスを利用することで、より効率的に施策を進めることができます。
具体的なファシリティマネジメントの施策を自社人員だけでおこなうと、費用はかからないものの業務負担が増え生産性が低下してしまう可能性も否定できません。
オフィスのメンテナンスやレイアウトの変更などの改修は、それをメイン業務としている業者へ委託し、ICTツールで作業の効率化や人件費の削減を図りましょう。
■有資格者をプロジェクトに加える
業界団体によって定められた有資格者をプロジェクトに加えることで、自社の事情を踏まえた効果的なファシリティマネジメント計画を建ててもらえます。
この資格を認定ファシリティーマネジャーと言い、最低3年以上のファシリティマネジメント実務経験と資格試験への合格によって取得が認められています。
認定ファシリティーマネジャーは経験と知識を持ったスペシャリストなので、過不足のない適切なファシリティマネジメントに取り組むことができます。ファシリティマネジメントのサービス利用時には、資格者の有無も注意すると良いでしょう。
■PDCAを回す
はじめに計画した施策が自社にとって最適とは限りません。1回の計画や実施で終わらせるのではなく、PDCAサイクルを回して継続的におこなっていくことが重要です。
PDCAサイクルとは
品質管理など業務管理における継続的な改善方法の一つに、PDCAサイクルというものがあります。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)の頭文字に由来する名称であり、実際にそれらの行動を繰り返すことで業務内容の洗練を目指すものとなっています。
具体的には次のような順番で業務を進めていくことになります。
- 計画(Plan)
- 実行(Do)
- 評価(Check)
- 改善(Action)
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まずはファシリティマネジメントの計画を立てて実行しましょう。その結果を評価し、問題点を見つけ出します。その問題点に対し最初の計画に沿うような改善をおこない、次の計画に活かすことでサイクルが完成します。
このPCDAサイクルを繰り返すことで問題点を浮き彫りにし、継続的な改善をおこなうことが大切です。最適なファシリティマネジメントを実施するために、PDCAサイクルで施策を洗練させましょう。
ファシリティマネジメントに関するよくあるQ&A
ファシリティマネジメントを実施する際によく疑問にあがる点をご紹介します。
- どれだけの費用対効果が期待できるか
- ファシリティマネジメント向けの支援や補助はあるか
■どれだけの費用対効果が期待できるか
企業の現状や実行する施策の内容で変化してしまうため、一概に説明はできません。ライフサイクルコストを把握したうえでの、長期的な視点での試算が必要です。
ライフサイクルコストとは、建物や設備などの導入計画から、解体までを考慮した費用です。ファシリティマネジメントの実施で新設備を導入する際には、更新前の旧型品を維持して使い続けた場合と、新品の導入費とランニングコストの比較が大切です。
省エネ化を図った場合には、年単位でのランニングコスト差などが更新費用と維持費用、機材の寿命に見合っているかどうかを考えましょう。
■ファシリティマネジメント向けの支援や補助はあるか
ITツールの導入に関する補助金や中小企業・小規模事業者を対象とした専門家の派遣などの支援があります。
支援や補助は国からのものだけでなく、都道府県や市区町村ごとに支援や補助が実施されている場合もあります。企業の本拠地がある最寄りの役所で確認してみましょう。
まとめ:ファシリティマネジメントでコスト削減と生産性向上を実現しよう
ファシリティマネジメントは、従来の施設管理にはなかった経営の視点を取り入れ、施設・設備などの固定資産の活用を進めていく施策です。実施によって物資を維持するだけでなく、コスト削減や資産価値の維持、従業員の生産性向上を試みることで業績に好影響を与え、企業に求められる社会貢献への責任を果たすことにもつながります。
コスト削減と言えば人件費の削減、となりがちですが、ファシリティマネジメントでは施設・設備の見直しを通じてコスト削減だけでなく、生産性の向上も試みることができます。ファシリティマネジメントを通じ、より働きやすく効率的な企業を実現しましょう。