東京にオフィスを移転するメリットや課題とは?地方移転と比較して解説
オフィス移転

近年は、東京や地方に本社機能を移転または分散する企業が増えています。東京と地方の両方にメリットがあるため、どちらに移転するか迷っている企業や担当者も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、東京と地方に移転するメリットと課題をそれぞれ解説します。
また、拠点を複数構える場合は、場所に関わらずBCP対策になります。BCP対策とは災害が発生した際に、事業を継続できる体制を整備することです。
企業がBCP対策に取り組むべき理由や実行する際のポイントは、こちらの記事で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
東京にオフィスを構える最大の理由とは

大手企業の多くは、東京に本社を構えているケースがほとんどです。東京に本社を構える理由には、人口密集地ならではのさまざまな要素が関係しています。国土交通省の「企業向けアンケート調査結果(速報)」によると、東京に本社を構える理由として、「企業・取引先等の集積」が56%、「都市間交通の利便性」が45%であることがわかっています。
【本社事業所を東京に立地する要因・経緯に関するアンケート】
理由 | 割合 |
企業・取引先等の集積 | 56% |
都市間交通の利便性(空港、新幹線、高速道路等) | 45% |
歴史的経緯(創業地等) | 42% |
人口の集積・市場規模の大きさ | 41% |
優秀な人材獲得の優位性 | 37% |
安定した採用人数確保の優位性 | 34% |
自社の他拠点へのアクセス | 26% |
従業員の居住環境 | 26% |
官公庁・自治体へのアクセス | 21% |
都市の魅力・ブランド力の高さ | 21% |
国際拠点としての位置づけ | 8% |
大学・研究機関へのアクセス | 5% |
物流拠点へのアクセス | 5% |
自然災害リスクの低さ | 3% |
また、「企業・取引先等の集積」と回答した企業では、建設業や情報通信業が多い傾向にあります。
業種 | 割合 |
建設業 | 78% |
製造業 | 47% |
情報通信業 | 72% |
卸売業・小売業 | 52% |
不動産業・物品賃貸業 | 57% |
学術研究・専門・技術サービス業 | 57% |
その他 | 49% |
オフィスを東京に移転するメリット

東京は多くの人や企業が集まっているため、本社を移転するとさまざまなメリットがあります。上手くブランディングできない、ビジネスチャンスが少ないなどの課題を抱えている企業は、東京に移転することで解決に近づく可能性があります。
■企業ブランドを強化できる
本社を東京に移転するメリットの一つは、企業ブランドの向上が期待できることです。東京は、誰もが知る日本の首都です。行政をはじめとする中枢機能が集中しており、さまざまな分野において日本の中心的な役割を担っています。
高度な都市機能を備えた場所にオフィスがあるという事実は、企業にとって一種のステータスともいえます。特に23区内のような有名エリアにオフィスがあると、社会的信用が高まるなど企業ブランドの強化が期待できます。
■ビジネスチャンスが広がる
企業が東京にオフィスを構えるメリットの一つは、ビジネスチャンスが広がることです。東京はほかの地域に比べて人口が密集しており、市場規模も大きいため、潜在的な顧客に出会う機会も増えます。特に23区内は経済が集中しているため、ビジネスチャンスに恵まれる可能性は他の地域より高いでしょう。
また、人口が集中する東京には、企業で働く社会人だけでなく、就職を控えた学生も多い傾向にあります。進学や就職を機に上京する人も多く、それだけ優秀な人材が集まりやすいというわけです。東京に移転すると人材市場の母数が増えるため、優秀な人材を獲得しやすくなるかもしれません。
■拠点が集中していることで利便性が高くなる
東京にオフィスを移転すると、同業者や取引先とコミュニケーションが取りやすくなります。地方にオフィスがある場合、東京の業者や取引先と物理的な距離があるため、対面でのコミュニケーションが容易ではありません。
電車や地下鉄などの交通網が発達しており、業者や取引先と行き来しやすくなるため、地方に比べて利便性が格段に向上します。
また、東京には幅広いタイプの賃貸オフィスが多く、自社の希望に沿った物件も見つけやすくなります。地方に比べてさまざまな面で利便性が高いのは、多くの企業が集中している東京ならではのメリットです。
オフィスを東京に移転する際の課題

東京にオフィスを移転すると、人口や経済が集中している場所だからこその課題があります。メリットとのバランスを考慮し、本当に東京に移転すべきか慎重に検討しましょう。
■賃料が高額になりやすい
東京は地方に比べて賃料が高い傾向にあるため、移転すると毎月の出費が高額になることを覚悟しておきましょう。特に23区内のような都心部の場合は、狭いオフィスでも賃料が高額に設定されているケースも珍しくありません。
都心部にオフィスを構えたほうが、企業ブランディングの向上やビジネスチャンスが広がる可能性が高いでしょう。しかし、移転後すぐに事業が安定するとは限らないため、高額な賃料に耐えられるかを慎重に検討する必要があります。
■従業員によっては転居が必要になる
移転先によっては、現在の場所からの転居が必要になる従業員もいるかもしれません。従業員のなかには、現在の場所が気に入っている人や転居が面倒だと考える人も出てくる可能性があります。東京への移転が会社への不満につながるおそれもあるため、移転先を決める際には通勤が難しくなる従業員のことを考慮して検討するようにしましょう。
また、本社機能の分散によって転勤扱いとなる場合、従業員の引越し費用は企業負担にするケースもあります。転居先との距離が遠く、転居が必要な従業員数が多いほど引越し費用は高額になりやすいため、オフィス移転にかかるコストの一項目に入れておく必要があります。併せて、就業規則も確認しておきましょう。
東京は、地方と比べて居住における物価も高くなります。給与アップや手当を含めたコスト増も加味し、最終的に東京に移転するかを検討するようにしましょう。
オフィスを東京から地方に移転するメリット

近年は、東京から地方にオフィスを移転する企業が増えています。経済産業省の「地方移転に関する動向調査結果」によると、回答があった680社のうち、18.4%の125社が実際に地方に移転していることがわかっています。
■ランニングコストを軽減できる
地方は東京に比べて地価が安い傾向にあるため、さまざまなランニングコストを軽減できます。地方への移転で軽減が期待できるおもなランニングコストは、次のとおりです。
- 賃料
- 駐車場代
- 交通費
- 人件費 など
たとえば東京と同じ賃料でも、地方ではより広いオフィスを借りられる可能性もあります。
■補助金や税金の優遇が受けられる
移転先によっては補助金や税金の優遇制度が設けられており、移転コストのサポートを受けられます。政府や自治体は地方に企業招致を図るために、さまざまな支援を実施しています。
たとえば厚生労働省の雇用促進税制の場合、東京23区からの移転で一定の要件を満たすと、地方拠点で本社機能に携わる従業員が増えるごとに、一人当たり最大90万円の税額控除を受けることが可能です。
※出典元:厚生労働省「雇用促進税制」
広島県の「ずっと広島県」の場合、一定の要件を満たすと、移転にともなう初期費用最大1億円をサポートしてもらえます。本社機能を広島県に移転する場合は、企業だけでなく、従業員の転居サポートなども受けられます。
※出典元:広島県「ずっと広島県」
オフィスを地方に移転する際の課題

地方にオフィスを移転すると、これまでは問題なく進んでいたことに支障が出る可能性があります。特に人材の確保を強化している企業や営業活動を主軸としている企業は、地方に移転しても事業運営に影響が出ないかを慎重に検討するようにしましょう。
■人材の確保が難しくなる
労働人口は東京のような人口密集地に集中しているため、地方に移転すると人材の確保が難しくなる可能性があります。総務省統計局の「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約」では、2022年の一都三県の就業者はほかの地域に比べて圧倒的に多いことがわかっています。
地域 | 就業者数 |
北海道 | 260万人 |
東北 | 446万人 |
南関東 | 2,077万人 |
北関東・甲信 | 510万人 |
北陸 | 271万人 |
東海 | 813万人 |
近畿 | 1,063万人 |
中国 | 374万人 |
四国 | 186万人 |
九州 | 648万人 |
沖縄 | 75万人 |
※出典元:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約」
オフィスへの出社が必要な従業員は地方への移住が必要になるため、優秀な人材の流出につながるおそれもあるのが現状です。しかし、リモートワークを採用することで、地方に拠点を置きながらも広域で人材採用を行えるようにもなります。拠点の移動とともに「新しい働き方」についてもあわせて検討してみると良いでしょう。
また一方で、これまでに首都圏ではアプローチできなかった、地方の人材の採用も期待できる側面もあります。
■営業活動に支障が出る可能性がある
地方にオフィスを移転すると取引先との物理的な距離が生じるため、対面での営業活動が難しくなる可能性があります。東京にオフィスがある場合は、多くの企業が集まるエリアで営業活動ができるメリットがあります。
一方で地方に移転した場合、取引先から対面でのやり取りを求められたときに、交通費と時間をかけて駆けつけなければなりません。対応に遅れが出れば取引先の機嫌を損ね、取引中止にもなりかねません。
地方に移転する際には、業務に支障を来すおそれがある一部の部署や職種は東京に残す、オンラインでのコミュニケーションをとれるようにする、などの対策が必要です。
東京・地方への移転に成功した企業の事例
最後に、東京または地方への移転に成功した企業の事例をご紹介します。
■【本社機能の一部を地方に分散】合同会社DMM.com

合同会社DMM.comは、取引先と対面でやり取りする頻度が高い部門を首都圏に残し、
本社機能の一部を地方に分散しました。これまではヘルプデスクを東京本社に設置し、集中管理していました。
しかし、本社機能の分散を機に、地方事業所での集中管理に変更し、移転にともなって業務に支障が出ないような工夫が施されています。また、本社機能を分散させることで、BCP対策としてのリスクマネジメントにも役立っています。
地方への移転に成功した合同会社DMM.comのインタビュー内容は、こちらの記事で確認できるので、ぜひチェックしてみてください。
【インタビュー】合同会社DMM.com 「エリアをまたいだメンバーで行うオフィス改装プロジェクト」
■福島コンピューターシステム株式会社

福島県郡山市のリーディングカンパニーである福島コンピューターシステム株式会社は、2022年12月~2023年6月にかけて本社3フロアを改装しました。福島コンピューターシステム株式会社では、新型コロナウイルス感染症拡大を機に、フリーアドレスやABWといったワークスタイルの導入が議論されるようになりました。
リモートワークのために設備とシステムを導入し、すべての従業員がフルリモートで働ける環境を整備しています。また、オフィスの近くにサテライトオフィスを設置し、従業員が働く場所を選べるスタイルも導入しました。
フルリモートの導入で大きく変化したのは、人材採用です。求職者からリモートワークへのニーズが高く、フルリモートで働ける福島コンピューターシステム株式会社が増えました。東京からの移転ではないものの、地方に本社を置く企業が働き方を変化させたことで、ロケーションを意識しない採用が実現できるようになりました。
福島コンピューターシステム株式会社のインタビュー内容は、こちらの記事で確認できるので、ぜひチェックしてみてください。
【インタビュー】福島コンピューターシステム株式会社「オフィス改装は人への投資 ~自由な働き方がもたらすリクルート効果とは~」
まとめ:移転する際には課題を補える対策を考えておくことが大切

近年は、地方にオフィスを移転する企業が増えています。同時に、地方から東京への移転を検討している企業も少なくありません。しかし、東京や地方への移転にはそれぞれメリットがある一方で、いくつかの課題もあるのが現状です。
移転後に従業員や事業に影響する課題がある場合は、それを補える対策を考えておくことが大切です。特に従業員の転居が必要になると不満を持ち、離職につながるおそれもあるため、オフィスの移転先を決める際には慎重に検討するようにしましょう。