教育の世界から見たオンラインの可能性

Interview

所在地 大阪府大阪市
クライアント 株式会社ワオ・コーポレーション
業種 教育
完成年月 2021年4月

2021年4月に、学校法人を設立して「ワオ高等学校(通信制高校)」を開校した株式会社ワオ・コーポレーション様が、学校設立に続き、オンラインでの学びの新規事業を立ち上げるに際し、大阪市内にオフィス兼撮影スタジオの事務所を構えたことについて、新規事業の担当者でワオ高校の副校長である平田強様にお話を伺いました。

「コロナ禍だから」ではないオンライン授業での学び推進

ワオ高等学校はオンラインで学ぶ通信制高校とお聞きしています。
新型コロナウイルスの感染拡大により学校教育がオンラインになるなど教育のカタチが変わろうとしていますが、どのような利点があるのでしょうか。

ワオ・コーポレーションは、創業者の西澤が難波にある予備校を借りて学校の枠を超えた「切磋琢磨する学びの場」を提供する学習塾「能開センター」として誕生しました。その後、この学びの場を展開していく中、個別最適化のニーズが高まり「個別指導Axis」として全国に拠点を展開するようになりました。

また、全国どこに住んでいても優秀な大学生の指導を受けることができるように、オンラインによる先生と生徒をマッチングする「Axisオンライン」の教育サービスもはじめました。オンラインでの学びでは、時差を活用することで海外に住まれている方にも帰国後を想定した学びが提供できるなど、学ぶ場所や時間に関係なく教育サービスを提供できるようになりました。

一方、受験指導をしている中で、高校進学への意識の変化を感じるようになりました。
高校進学といえば、全日制の普通科に行く人が多いのですが、今は17人に1人が通信制高校に進学する時代になってきています。昔は不登校などを理由に通信制高校を選択する人が多かったのですが、普通科に進学した人がちょっと違うと思い転編入学をしたり、中3のときの進路先としてはじめから通信制高校を選択して進学したりする高校生が増えてきています。

その背景の1つに、株式会社が学校を作ることができるようになったり、異業種から教育に参入したりするようになってきたことで、魅力的なコンテンツを持つ様々な通信制高校が増加したことがあげられます。
このように義務教育ではない高校では、様々な選択肢が広がってきています。

そのような中、ワオ高校では、後に授業の進め方についてお話しますが、教養探究として「哲学」「科学」「経済」を学びの真ん中におき、その学びを通して各自の考えや意見について議論することで、世の中で自立するときに活きる視点や考え方を身につけられる学びを提供しています。

この学びでは多様な人との議論が大切になってきます。オンラインでの学びだと、住んでいる場所に関係なく全国どこに住んでいても同じ学校に入学して仲間と共に学ぶことが可能です。また、個人の活動内容のあわせて学ぶ時間を選択し、学びたいことに集中できる通信制高校は、同じ時間割で学ぶといったことからも解放されます。

こうして教育の世界でも「時間と場所」から解放されることで新たな可能性が広がりはじめています。
これがオンラインの利点と言えるでしょう。

では、コロナ禍だから変えたということではなく、元々の創業時から教育理念をオンラインで進化させていったということですね。

そうですね。コロナによって場所や時間に対する考え方が変わってきましたが、学びにおける「オンライン」の可能性についてもっとはやく検討しておければよかった、というのが本音です。

ICTやオンラインを活用した学びには様々なものがありますよね。
予備校や塾の先生の映像が流れるパターンもありますし、スマートフォン上に問題が出てきて回答を選択するものもありますし、コロナで脚光をあびたzoomで授業をするというパターンも出てきました。しかし、これらに共通して言えることは、オンラインによる学びが「サブ」であって、リアルを「補完するもの」としての位置づけであるという考え方ではないでしょうか。

我々は、それを逆にしました。
オンラインファーストで考える、つまり、オンラインが「メイン」であって、リアルが「サブ」。
そうすることで、今まで見えていなかったことが見えてきます。

高校で例えると、多くの人は地元の公立高校や私立高校へ進学します。すると、地元特有の価値観や習慣に囲まれることになります。大阪でいうと、土曜日になるとみんなが吉本新喜劇を見ることが当たり前という価値観がありますよね。

確かにおっしゃる通りです。新喜劇、見ていました!

これからグローバルな時代になろうとしているのに、同じ価値観の人が集まって新しいものが生み出せるのでしょうか。多様性が求められている中、同じ価値観の人同士が集まる場で議論するより、多様な価値観をもった人同士で議論する方が、考え方に広がりが生まれます。だから、全国の様々な地域で住んでいる人に集まってほしい。そして、様々な価値観に触れて多様性を持ってもらいたい。

では、どのようにすれば、多様な価値観をもった人同士の議論が深まるのでしょうか。それには「コミュニケーションのカタチ」そのものから考えていく必要がありました。
全国の人が議論するために「オンライン」が必須であるため、「オンラインを補完するものとしてリアルがある」という発想に立つ必要がありました。

コミュニケーションの形が変わる

オンラインをメインとする場合、コミュニケーションのカタチはどのように変わるのでしょうか。

デジタルネイティブの高校生にとって、LINEやTwitterなどのSNSのように「テキスト」でコミュニケーションをとることは、生活の中に深く浸透しています。この「テキスト」によるコミュニケーションが軸になるように考えました。

議論をするにしても、先ほどお話させていただいた我々の教養探究のようにキチンとテーマがあれば、それについて自分なりの意見を書きこんだり、コメントに対して「いいね」を押したり、自分の意見を返信で書くことができます。こうしたやり取りもコミュニケーションの1つです。

例えば、遺伝子組み換え食品について、賛成か反対かの意思表示をしてもらいます。そして、なぜそう思ったのかを、自分のこれまでの知識や経験から回答してもらいます。この議論に参加しているメンバーが全員の回答が見えるので、自分と同じ見解の人に「いいね」で賛同したり、自分とは異なる意見の人に「コメント」で質問したりします。また、関連する動画を見ることで内容が深まり、自分の意見を変化させていったりもします。

ここでポイントなのは、他の人の意見を読んだり、動画で学んだりすることで、はじめに考えた意見から変わっても構わないということです。
ワオ高校では、このような過程を通じて、自分なりの意見をまとめていくことを学んでいきます。本を読むときもそうですが、自分でその本に向き合う時間も必要ですし、同じ本を読んだ人と意見を交換して「そういうとらえ方もある」ということを知ることで、さらに学びが深まります。

このように他の人の考えを知る方法は、同じ時間や場所にいなくてもできます。むしろ、オンラインで事前に自分の考えを表明したり、他の意見を知ることで頭の中が整理されたりしている方が、リアルでの議論もより深まるのではないでしょうか。オンラインでのコミュニケーションは、必ずしも同じ時間を過ごす必要はないので、時間をずらしてコミュニケーションをとれることは、オンラインによる学びの強みの1つとしてとらえています。

もちろん、テキストによるコミュニケーションだけだといけません。
その後、ビデオ電話をリアルタイムにつないで議論したり、通信制高校でいうとスクーリングの機会に意見交換をしたりする学びをします。こうしたオンラインでのコミュニケーションを取り入れるために、先生も生徒もオンライン上のエチケット含めITリテラシーを高めていく必要はあります。

コロナ渦によって、あらゆる教育の現場でオンライン授業が導入され、取り上げられています。
その多くは、知識を確認するだけの授業になっていたり、事前に自分なりの意見を考える場がないまま参加させられるためリアルタイムでつないでも意見が出てこなかったりと、様々なことが起きています。事前学習として、どのような学びをするのかを、きちんと工夫することが重要で、そうすることでオンラインを使ったリアルタイムの議論がより充実したものになります。

これらの学びって、社会人の仕事の様子と同じように見えますね。

そうですね。コロナ禍によって、働き方を変えざるを得ない状況になり、在宅勤務やリモートワーク、時差出勤などが増えてきたかと思います。そうした時に世の中の企業が取った行動は、まさに私たちが教育の世界で進めている「時間と場所」からの解放でした。

どういうことかと言うと、在宅勤務やリモートワークが増えたときに、課題として出てきたのは同じ場所、同じ時間に仕事ができなくなったことによるコミュニケーション不足と生産性の低下です。こうした課題を解決するために、あらゆる企業がWEB会議の導入やチャットツールの導入を進め、この1年で急速に浸透していきました。

WEB会議では、遠距離の人を同じ時間に集めることができ、チャットツールでは、時間差があってもコミュニケーションを取ることができます。オンラインファーストにコミュニケーションの在り方をデザインすることによって、学びも仕事も生産性を上げることができると考えています。

リアルな空間に必要なもの

学びも仕事もオンラインベースに変わる中、学校の教室やオフィスは、どのような環境を整備していけばよいのでしょうか。

教室の場合は、黒板に向かってスクール形式で座って講義型の授業を受ける、という形式が一般的ですが、オンラインベースで考えると、講義形式のものは映像コンテンツで個々に見ることが可能になるので、講義を教室で行う機会が少なくなり、議論やワークショップを行う機会が増えてきます。つまり、黒板に向かって話を聞くというような空間よりは、議論のしやすさを重視し、机やイスが移動しやすい空間づくりが大切だと考えています。場合によっては、マットなどを敷いて、地べたに座って目線をあわせるという方法でもいいのかもしれません。

オフィスの場合は、「固定席」というものは、人数分の座席数が必要となり固定費を増やすだけなので不要だと考えています。少なくとも、オフィスによくみられるキャビネットは不要で、個別ロッカーで充分事足りると思います。

固定席をなくす、いわゆるフリーアドレス導入のメリットは、その日の業務によって座席を選択できることにあります。例えば、チームで働くにあたって、前日にどのメンバーで意見をすり合わせながら進めると決まっていれば、出勤したときに、そのメンバーの近くに座ります。そうすることで、会議室を使って打ち合わせをしなくとも、その場ですぐに話をして、決めることができますよね。

一方で、必要なのはオンラインで会議するための複数の「個室」です。いわゆる役員室のような個室ではなく、一般社員がオンライン会議をする際に自由に使える個室です。我々の場合、この個室で「オンライン授業」もするので、効率よく空間を使うことができています。

その他にも、ノートパソコンやWi-Fi環境が必須です。また、予算によると思いますが、画面を共有するための27インチくらいのモニターが各机に1つくらいあると、画面共有をその場でできるため、わざわざ別室で打合せをしなくてすむので、うれしいかもしれません。

更に我々の場合は、映像コンテンツを制作する業務があるので、そういった業務で使用できる部屋が必要でした。しかし、その為だけに部屋をつくるのは効率が悪いので、今回のオフィス兼撮影スタジオの事務所では、複数の用途にも対応できるようサイズの違う部屋を作りました。

6人程度の部屋であれば、会議室として使用するだけでなくグリーンバックを引くとそのまま収録スタジオになったり、20人ほどのオープンスペースでは、普段は簡単なミーティングや議論する空間ですが、机を並び替えることで、そのまま公開収録型のイベントルームに変わったりします。そういった意味では、移動したり配置を変形したりできない机やイスは不要なのかもしれません。

オンラインファーストになると、学び方、働き方変ってくるのですね。
オンラインでのコミュニケーションを円滑に行うために、注意すべきことなどがありましたら教えてください。

我々もいろいろ試しました。業務中、ずっとzoomにつないで仕事をすることも試してみました。ですが、「カメラをオフにしてもいいですか?」からはじまり、色々な意見が出てきたことを考えるとそれなりのストレスになるようです。(笑)
だからといって、1週間ずっと誰ともつながらないのは、それはそれでさみしいものです。

最近、我々が導入しているのは「パーチャルオフィス(学校としてはバーチャルキャンパス)」です。zoomだと、画面オフにするのかどうか、画面オフにすると双方に何をしているのかがわかりにくかったりします。実際のオフィスや学校空間のように、会議や授業のようにしっかり参加しないまでも、その場にいることがわかるような空間、つまり、程よい距離をおきながら参加できる空間が、オンライン上でも求められています。

これは、イベントなどを実施する際も有効です。
zoomだとちょっと参加しにくいときってありませんか。なので、ワオ高校では、バーチャルキャンパスでオープンスクールを実施しています。

このオープンスクールでは、バーチャル空間でスタッフと参加者の動きを可視化することができます。リアルな教室と同じようにエリア分けされた空間で、授業やセミナーを開催しています。参加者は自由に移動することができるので、参加しているセミナーを途中で抜けてバーチャル空間内で行われている別の授業へ参加しても大丈夫です。また、イベントでは、バーチャルキャンパス内に書かれている選択肢に移動できるのでクイズ大会のような参加型のイベントも開催できます。

※バーチャルオープンスクールのスクリーンショットです

取材陣:なんだか、どうぶつの森※1みたいですね。(笑) 
(※1:任天堂が発売しているシミュレーションゲーム)

まさにそうですね。(笑)
スタッフ同士は、インカムの代わりにチャットツールを使って連絡をとりあってイベントを運営していました。

当日は、東京や大阪だけでなく秋田からの参加者もいましたし、スタッフも岡山本校だけでなく東京や大阪などバラバラの場所から参加していましたが、特に大きな問題もなく無事に終えることができました。
つまり、この取り組みで何がわかるかというと、参加者も、スタッフも参加するにあたって「それぞれの場所」は必要ですが、「一か所に集まる」必要はないということです。

このようにして、元々の創業の趣旨である「切磋琢磨する場づくり」というのは、学びにおいても働く環境においても必要で、この大阪のオフィスもこれからの新しい働き方、つまりオンラインファーストで考えた結果、生まれたものになります。

こうしてお話を伺うまでは、通信制高校ということで、学びの為に用意された場所と仕事の為に用意された場所について、それぞれどういった意図で出来たものなのかを伺おうと考えていました。ですが、そもそも学びかどうか、仕事かどうかということは関係なく、オンラインを主軸にすることによって、場所の作り方が変わって来る。分けて考えるということではなく、オンラインへの可能性を感じ、リアル空間をサブとして事業を進めて行く中でリアル空間の在り方についてお話を伺うことができました。

本日はありがとうございました!

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