原状回復工事とは│費用相場・期間と費用を抑えるコツを解説
オフィス移転

業務拡大やコスト削減など、さまざまな理由でオフィスを移転する企業があります。移転の際に課題となるのが原状回復工事です。
原状回復工事は契約書に記載されており、賃貸契約においては借主の義務でもあります。しかし、費用相場や進め方の情報は意外と少なく、見積もりの妥当性やオーナー・近隣テナントとの調整に不安を感じる方も多いのが実情です。
そこで、本記事では原状回復工事の基本やかかる費用、費用を抑えるコツと進める上での注意点までわかりやすく解説します。オフィスの移転業務を担当される方はぜひ参考にしてください。
目次
原状回復工事とは

オフィスの原状回復とはオフィスから退去する際に、入居時の状態に戻すための工事を指します。借主の義務として借地借家法や民法において定められているものでもあります。
原状回復の範囲は契約内容によって異なり、経年劣化による損耗は原則として対象外ですが、特約がある場合は対応が必要になることもあります。まずは、オフィスの原状回復の基本をご紹介します。
◾️オフィスの原状回復が必要な範囲
オフィスの原状回復は契約内容によって異なりますが、基本的に次のような範囲で必要になります。
- 壁や天井、床の汚れなどのクリーニング
- 持ち込んだ家具や備品などの撤去
- 入居の際に施工したカーペットやパーテーションの撤去
- 電気・電話配線の撤去
- 増設・造作物の撤去
- 看板などの撤去
- 天井ボード・壁紙の張り替え
オフィスを入居時の状態に戻すため、クリーニングや持ち込んだものの撤去が必要です。
◾️経年劣化への対応は契約内容によって異なる
オフィスの経年劣化に対し原状回復が必要かどうかは、賃貸の契約内容によって異なります。
オフィスにおける経年劣化とは、年数が経過することで生じる建物の変化を指します。例えばゴムや金属、木材などが、空気や太陽光によって劣化・変色することです。
民法621条によれば、借主の側に原状回復義務は発生しません。しかし621条は任意規定と考えられているため、当事者間での契約により変更が可能と広く解釈されています。原状回復の対象に経年劣化を含めた特約の定めがある場合、借主は対応しなければなりません。
参考:e-Gov法令検索「民法第六百二十一条(賃借人の原状回復義務)」
オフィスの原状回復工事の主な内容

オフィスを退去する際には、入居前の状態に戻すための「原状回復工事」が必要です。住居用の賃貸物件とは異なり、オフィスでは経年劣化や通常使用による損耗も含めて借主が負担するケースが一般的となっています。そのため工事の範囲は広く、費用も高額になりやすいのが特徴です。
原状回復工事の内容を事前に把握しておくことは、退去スケジュールの管理や予算計画に直結します。ここでは、オフィスの原状回復工事で発生する代表的な6つの作業を順に見ていきましょう。
内装(壁紙・床・塗装)の張り替え・補修
原状回復工事のなかでも基本となるのが、壁紙(クロス)や床材の張り替え、天井・建具の塗装です。オフィスの賃貸借契約では「退去時に壁紙を全面張り替えとする」といった特約が設けられていることが多く、賃貸期間の長さに関わらず全面交換を求められるのが一般的です。
床についてはタイルカーペットの全面交換が中心で、デスクの設置跡や日焼けによる変色があれば部分補修では対応しきれません。天井やドア枠などの塗装も対象となり、ヤニ汚れや雨漏り跡がある場合は重ね塗りが必要になることもあります。近年は臭いの少ない塗料も普及しているため、同じビル内の他テナントへの影響を抑えながら施工できるケースが増えています。
参考:国土交通省住宅局参事官「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(令和5年3月)
間仕切り・造作壁(LGS/パーテーション)の解体・撤去
入居時に設置した間仕切りや造作壁は、原状回復の際に解体・撤去が必要となるのが一般的ですが、その範囲は賃貸借契約書や特約の内容によって決まります。契約書に原状回復の範囲として明記されている場合は撤去義務が生じますが、貸主との協議により残置が認められるケースや、特約に記載がない箇所は除外できる場合もあります。
多くのオフィスで採用されているLGS(Light Gauge Steel=軽量鉄骨)造作壁は、骨組みに石膏ボードを貼って仕上げる構造で、遮音性やデザイン性に優れる一方、天井と床にしっかり固定されているため解体に時間とコストがかかります。
アルミやスチールの施工型パーテーションは比較的撤去しやすく、状態がよければ移転先での再利用や中古買取が可能です。いずれの場合も解体後にはビス穴や設置跡が残るため、パテ埋めや塗装による補修が別途必要になります。解体時は大きな音が出るので、ビル管理会社への事前調整も忘れずに行いましょう。
空調・照明・防災など設備の撤去・復旧
間仕切りの設置に伴い増設・移動した空調機器や照明器具、スプリンクラー・誘導灯などの防災設備も、入居前の配置に戻さなければなりません。たとえば会議室を新設した際にエアコンの吹き出し口やリモコンを追加していれば、それらをすべて撤去します。照明の管球が寿命を迎えている場合は、新品への交換が求められることもあります。
配線(LAN・電話・OAフロア)の撤去
入居中に増設したLANケーブルや電話回線、OAタップなどの配線もすべて撤去対象です。OAフロアを導入しているオフィスでは床下に大量のケーブルが張り巡らされているため、タイルカーペットを剥がしてパネルを開け、盤(配電盤やパッチパネル)からの引き込み部分まで含めて撤去します。
什器・備品の撤去と産業廃棄物処理
デスクや椅子、キャビネット、コピー機といった什器・備品も退去前にすべて搬出します。処分方法としては、移転先での再利用、中古買取業者への売却、そして廃棄処分の3つが主な選択肢です。
原状回復工事で発生するLGSの廃材やタイルカーペット、石膏ボードなどは産業廃棄物に該当し、法令に基づいた適正処理が義務づけられています。処理後に発行される「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」は、適正処理の証明となる重要な書類ですので、必ず受領・保管しておきましょう。不法投棄が判明した場合は排出事業者にも責任が及ぶため、信頼できる工事業者の選定が欠かせません。
クリーニング
原状回復工事の最終仕上げとして、オフィス全体のクリーニングを行います。窓ガラスやサッシ、ブラインド、照明器具の清掃に加え、トイレや給湯室の水回りも対象です。デスクや棚を長期間置いていた床面は想像以上に汚れが溜まっているため、専門業者による本格的な清掃が欠かせません。
エアコンの分解洗浄をオプションで実施する業者もあり、内部に蓄積したホコリやカビを除去しておくと次のテナントへの引き渡しがスムーズです。なお、短期間の入居で内装にほとんど手を加えていない場合は、クリーニングのみで原状回復が認められるケースもあります。退去が決まったら早めにオーナーや管理会社へ相談し、工事範囲を確認しておきましょう。
原状回復工事の区分と費用負担

工事区分はA工事、B工事、C工事の3種類あります。工事の対象となる躯体(床や壁、梁など建物の構造を支える骨組)や設備によって異なるため、自社でおこなう工事はどの区分に当たるかどうかを確認しましょう。
A工事、B工事、C工事の違いは次のとおりです。
| 項目 | A工事 | B工事 | C工事 |
| 対象範囲 | 【共有部分で建物の躯体がメイン】
|
【テナント内の専有部分で建物全体に影響を及ぼすもの】
|
【専有部分のうち建物全体に影響を及ぼさないもの】
|
| 業者を選定する者 | オーナー | オーナー | テナント |
| 業者に発注する者 | オーナー | テナント | テナント |
| 費用の負担者 | オーナー | テナント | テナント |
A工事、B工事、C工事のいずれに該当するかによって原状回復から退去までの重要なプロセスの責任の所在が異なるため、事前に自社の工事範囲を確認し、工事区分を明らかにしておきましょう。
工事区分については次の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
オフィスの原状回復工事の費用相場

原状回復工事は、オフィスの規模が大きくなるほどかかる費用も増える傾向にあります。費用の目安は次の表をご覧ください。
| オフィスの規模 | 坪単価 |
| 小規模オフィス(50坪以内): | 約3万円〜10万円 |
| 中規模オフィス(51〜100坪程度) | 約5万円〜15万円 |
| 大規模オフィス(101〜300坪程度) | 坪単価約5万円〜17万円 |
| 非常に大規模なオフィス(301坪以上) | 坪単価約5万円〜20万円 |
面積が広いほど電気の配線や空調など各種設備や工事が複雑になるため、坪単価も高くなりがちです。また、企業によっては従業員が使いやすいように、増設や改装をしているケースも少なくありません。手を加えた箇所が多ければ、工事箇所も増え、費用増につながります。
【関連記事】オフィス移転費用の相場と内訳は|4つの内訳とコストを抑えるコツを解説-IRISTORIES-アイリストーリーズ
オフィスの原状回復工事の期間

オフィスの退去を計画するうえで、原状回復工事にどれくらいの期間がかかるかを正しく把握しておくことは非常に重要です。工事期間の見通しが甘いと、契約満了日までに工事が完了せず、追加の賃料が発生してしまうリスクがあります。
以下に、オフィスの規模別の工事期間の目安をまとめました。
| オフィスの規模 | 工事期間の目安 |
| 小規模(30坪未満) | 1〜2週間程度 |
| 中規模(30坪〜100坪未満) | 2週間〜1ヶ月程度 |
| 大規模(100坪以上) | 1ヶ月〜2ヶ月程度 |
ここで注意しておきたいのが、工事の開始タイミングです。住居用の賃貸では退去後に原状回復工事を行うのが一般的ですが、オフィスや店舗の場合は契約期間中に工事を完了させなければならないケースがほとんどです。この違いを知らずに住宅と同じ感覚でいると、退去直前になって慌てることになりかねません。
準備を始めるタイミングとしては、オフィスの場合は契約内容によって異なりますが、退去予定日の3〜6ヶ月前から動き出すのが理想的です。まずは賃貸借契約書で解約予告期間を確認し、解約通知の提出と並行して施工業者への相談を開始してください。契約満了日の6ヶ月前を目安に施工業者へ連絡を取り、3ヶ月前を目安に現地調査と見積もりの取得を進めるのがスムーズです。
また、工事期間が想定以上に長引く要因として、繁忙期の影響も見逃せません。オフィス移転が集中する1〜3月や9〜12月の時期は施工業者も忙しくなるため、予定していたスケジュールで工事を進められないこともあります。こうした時期に退去を予定している場合は、通常よりも余裕のあるスケジュールを組むことが大切です。
ビルの管理規約による制約も、工期を左右する大きな要素です。作業可能な曜日・時間帯が限られていると工期が延びやすくなるため、事前にビル管理会社へ条件を確認し、工程に反映させておきましょう。詳しくは後述の「工事可能な曜日・時間帯を確認する」もあわせてご確認ください。
万が一、契約期間内に原状回復が完了できなかった場合は、工事が終わりオーナーへ明け渡すまでの間も賃料が発生し続けるほか、高額なペナルティを課される恐れもあります。退去日から逆算したスケジュール管理を徹底し、余裕を持って工事に着手することが、トラブルのないスムーズな退去への第一歩です。
オフィスの原状回復工事の流れ

オフィスの原状回復の流れと、それぞれの段階でおこなうべきタスクを見ていきましょう。
◾️オフィスの賃貸契約書を確認する
まずは賃貸契約書を確認しましょう。賃貸契約書には原状回復の範囲や条件、経年劣化などへの対応の要不要が記載されているため、具体的にどのような工事をおこなうのかを決めるために欠かせません。明確に把握しておかないと、工事発注後に変更が必要になったり、想定より工事範囲が増えて予算をオーバーしてしまったりする可能性もあります。
また、解約予告期間も賃貸契約書で確認しましょう。解約予告期間とは、借主が賃貸物件を解約・退去する際の事前報告(解約予告)をおこなうための期間です。解約予告期間は、急な退去で貸主の賃貸収入が突然途絶えるような事態自体を防ぐために設けられているもので、一般的には退去日の6ヶ月前とされています。
賃貸契約書には解約に際して必要な条件や義務が記載されています。原状回復を実施し、トラブルなくスムーズに実施するためにも、まずは賃貸契約書をよく確認することが大切です。
◾️工事業者による調査・見積もり
賃貸契約書に沿って必要な工事を把握したら、実際に工事業者を選定します。賃貸契約書で業者が指定されている場合はその業者へ問い合わせましょう。もし、特に指定されていなければ自社で選定して構いません。
オフィス規模や時期によっては、実際の工事が想定より長くかかる可能性もあるため、業者の選定や問い合わせは早めにすると良いでしょう。
業者に問い合わせをしたあとは、現地調査に訪れた業者に立ち会い、正確な見積もりを出してもらいます。調査をしやすいように、間取りや内部の状態について、詳細に伝えられるよう準備しておきましょう。
業者と相談のうえ、工事範囲の決定もおこないます。原状回復の義務がない部分まで工事してしまうと余計な費用がかかり、オーナーとのトラブルになる懸念もあります。賃貸契約書や原状回復のガイドラインをもとに、どこまで工事をするかの擦り合わせが必要です。
最後に、スケジュールの確認も忘れてはいけません。特に、テナントビルでは他の企業が営業している時間は工事ができないケースもあるため、業者とスケジュールをよく確認しておきましょう。
◾️原状回復工事の発注・着工
費用や工事範囲、スケジュールなどを業者と確認し、問題がなければ正式に原状回復工事を発注します。オフィスを移転し、テナントの内部を空にしたら工事開始です。
着工後~工事完了までの間は、定期的に状況を確認しに行きましょう。工事状況を確認しておくと、発注内容と実際の工事内容が異なるといったトラブルの防止につながります。
また、電気や電話および空調の配線、水回りなど、工事が完了すると隠れてしまい、外からでは確認できなくなる場所もあります。間違いを起こさないためにも、工事中にこれらの場所をチェックしておきましょう。
もし余裕があれば、完了直前に念のためオーナーに立ち会いを依頼するのも良い方法です。工事が完了してからミスが発覚すると、大きなトラブルになる可能性や追加費用がかかることもあるため、完了前の段階でオーナーにも確認してもらいましょう。
◾️原状回復工事の完了後に引き渡し
原状回復工事が完了したあとは、引き渡しの前に最終チェックをおこないましょう。工事に不足のある部分が発生する、工事内容に相違があるといったリスクに対応するため、物件の貸主や管理会社が立ち合いのうえでチェックすることが大切です。
原状回復工事の成果に対し貸主や管理会社の了承が得られない場合、追加工事が発生する可能性があります。「原状回復工事ができていない」といったトラブルを防ぐためにも、物件は引き渡し前に貸主と管理会社が納得できる状態にしておきましょう。
物件の原状回復が、貸主・管理会社の納得のうえで完了したのち、引き渡しをおこないます。カギなどの返却や書面の手続きなどをおこない、オフィス退去に関するタスクを完了させましょう。
オフィスの原状回復工事の費用を抑えるポイント

オフィスを退去する際に避けて通れない原状回復工事ですが、見積もりを受け取って「こんなに高いのか」と驚く担当者は少なくありません。
しかし、適切な対策をとれば原状回復工事の費用は大幅に削減できます。重要なのは、提示された金額をそのまま受け入れるのではなく、複数の視点からコストを見直すことです。
◾️複数の工事業者で相見積もりをとる
原状回復工事の費用を適正化するうえで、最も基本的かつ効果的な方法が相見積もりです。1社だけの見積もりでは、その金額が高いのか安いのかを客観的に判断することができません。最低でも2〜3社から見積もりを取得し、金額や工事内容をしっかり比較しましょう。
相見積もりが重要な理由は、原状回復工事には明確な「定価」が存在しないからです。初回に出された見積もりは、現地調査などのリサーチを行っていない段階のものであることが多く、基本的に高めに設定されています。そのため、再見積もりを依頼するだけでも初回金額から2〜5割程度安くなることも珍しくありません。
見積もりを比較するときは、総額だけを見るのではなく、内訳の細かさに注目してください。「内装工事一式」のような曖昧な項目ではなく、工事内容・数量・単価が詳細に記載されているかどうかを確認することが大切です。詳細な内訳が明示されていない業者には注意が必要です。
また、項目を揃えて比較すると、過剰な「一式」計上や相場外の単価を見抜くことができます。価格だけでなく、数量の根拠まで確認するようにしましょう。なお、費用が極端に安すぎる場合は、や、見落としている工事内容が存在する可能性も考えられるため、相場から著しく離れた見積もりには慎重に対応することをおすすめします。
■原状回復工事の範囲をオーナーと交渉する
A工事は共有部分など建物全体に関わる工事で、業者選定も費用負担もオーナーがおこないます。B工事はオーナーが業者を選びますが、費用は借主が負担します。そしてC工事は、他の入居者や建物に影響しない比較的簡単な工事で、業者選定も費用負担も借主がおこないます。
ここでポイントになるのが、B工事をC工事に変更できないか、オーナーに交渉することです。B工事ではオーナーが業者を指定するため、借主側で費用を比較・選定することができません。しかしC工事に変更できれば、複数の業者から見積もりを取って安いところを自分で選べるので、工事費用を抑えられる可能性があります。
もうひとつ、交渉の際に確認しておきたいのが、工事範囲が正しく区分されているかという点です。本来オーナーが負担すべき共有部分の工事(A工事にあたるもの)が、B工事に含まれてしまっているケースがあります。こうなると、本来オーナーが払うべき費用まで借主が負担することになってしまいます。
このようなトラブルを防ぐために、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に、どこまで工事すべきかについてオーナーや業者と交渉し、明確にしておきましょう。
参考:国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
◾️工事業者の閑散期に移転をおこなう
原状回復工事の費用は、依頼するタイミングによっても変動します。繁忙期を避け、業者に余裕がある時期に移転や原状回復工事を済ませると、費用をおさえられるだけでなく、トラブルのリスクも下げられます。
一般的な工事業者の閑散期は5〜8月です。1〜4月は3月の決算や4月の新年度に向けてオフィス移転が集中しやすく、工事業者にとって繁忙期にあたります。同様に、9〜12月も半期決算や年末の時期と重なるため、依頼が増える傾向にあります。
閑散期に工事を行えば、見積もり金額が10〜20%程度安くなる可能性があるとも言われています。業務上の都合が許すのであれば、移転時期の調整を検討してみてください。どうしても繁忙期に退去せざるを得ない場合は、通常よりも早めに業者選定と見積もり取得を進めておくことが大切です。
◾️入居時に支払った保証金を活用する
原状回復工事の費用負担を軽減するには、入居時に支払った保証金(敷金)を原状回復費用に充てる方法が有効です。
オフィスの賃貸借契約では、入居時にまとまった金額の保証金を預けるのが一般的です。退去時にはこの保証金から原状回復工事の費用や未払い賃料などが差し引かれ、残額がテナントに返還されます。つまり、保証金を原状回復費用の原資として計画的に活用すれば、退去時に新たな資金を調達する必要がなくなり、キャッシュフローへの影響を最小限に抑えられます。
ここで大切なのは、保証金の返還条件を事前にしっかり把握しておくことです。賃貸借契約書には、保証金からどのような費用が差し引かれるのか、返還時期はいつなのかといった条件が記載されています。契約によっては、保証金の一部が「償却」として返還されない条項が含まれている場合もあるため、内容を十分に確認しておきましょう。
また、原状回復工事の見積もり金額が保証金の範囲内に収まるかどうかを事前にシミュレーションしておくことも重要です。保証金を超える費用が発生する場合は、前述の相見積もりや工事区分の見直しといった方法を併用し、できるだけ保証金の範囲内で収まるよう工夫してみてください。退去の計画段階から保証金の金額と原状回復費用の目安を照らし合わせておくことが、スムーズな退去につながります。
参考:国土交通省「住宅の賃貸借契約に関連する民法改正の概要」
原状回復工事をする際の注意点

オフィスの原状回復を滞りなく進めるために、おさえておくべきポイントをご紹介します。
◾️原状回復の範囲は契約内容に従う
先述のとおり、原状回復の範囲は契約書の内容に従うのが基本です。ただし、マンションオフィスや※1の場合は、居住用賃貸住宅と同等の原状回復で良いケースもあります。オフィス用途と居住用途では費用も大きく変わるため、自社の物件がどちらに該当するのかを契約書で必ず確認しておきましょう。
※1 SOHO(Small Office Home Office)とは、日本SOHO協会(一般財団法人日本SOHO協会など)の定義によると、「企業などから委託された仕事を、情報通信を活用して自宅や小規模事務所等で個人事業主として請け負う労働形態」のことです。そのため、SOHO物件は自宅や小さな事務所を仕事場にして働くこと、またはその場所や物件のことです。
◾️工事可能な曜日・時間帯を確認する
原状回復工事では、作業できる曜日や時間帯がビルごとに制限されている場合があります。塗装時のニオイや解体作業の騒音が周囲に影響を及ぼすため、作業可能な時間帯が限定されているケースは珍しくありません。
賃貸借契約書に工事日程の記載がない場合でも、管理会社へ確認しておくと安心です。書面に明記されていなくても、ビル独自の運用ルールが存在することがあるため、退去を決めた段階で早めに問い合わせましょう。
◾️引き渡しまでの期間に余裕をもって工事を依頼する
工事に必要な期間は、100坪程度のオフィスで1ヶ月が目安です。引き渡しの時期から工事期間をふまえて逆算し、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。
工事期間は予定よりずれこむ可能性があります。例えば、工事が必要な範囲が広いケースや、オフィスビルで工事可能な時間帯や曜日に制限があるケースなどは、予定通りに進まず遅れやすいため注意が必要です。また、着工後に生じたトラブルへの対処が必要になる可能性も考慮した方が良いでしょう。
万が一、工期が延びて引き渡しが遅れてしまうと、新しい入居者が予定どおりに入居できず、遅延損害金を請求される恐れもあります。また、引き渡しまでは自社が借りているため、期間が延びると賃料が発生してしまうのもデメリットです。
ほかにも、工期に余裕がないと、人手や資材の調達のために追加の費用がかかることも考えられます。このようなリスクを回避するためにも、早めの業者選定や発注が大切です。
◾️信頼できる業者を選ぶ(実績・自社施工・見積の妥当性)
C工事で施工業者を自社で選定できる場合は、業者選びが工事の品質とコストを大きく左右します。自社施工を行う業者は中間コストが抑えられる傾向があるため、適正価格での工事が期待できるうえに、スケジュール調整もスムーズに進みやすいです。下請けに丸投げする業者と比べて、現場でのトラブル対応にも柔軟さが期待できます。
業者のホームページで自社と類似した物件での施工事例があるかを確認しましょう。口コミや実績を通じて工事の品質やコミュニケーションの取りやすさを見極めることが大切です。
見積書の内容も重要な判断材料になります。項目が「工事一式」と大まかに記載されている場合は注意が必要です。クロス単価や平米数、処分費などが明記されている業者を選びましょう。複数社から相見積もりを取れば、費用の相場感もつかめるため、不当に高い請求を防ぐことにつながります。
原状回復工事をスムーズに進めるには、オフィス移転全体を見据えた計画が欠かせません。アイリスチトセでは、原状回復工事をはじめ、物件紹介から内装・オフィス家具の提案、ITネットワーク環境の構築、引っ越しまでの業務をワンストップでサポートしています。相談や事例集のダウンロードは無料で利用可能です。オフィスの移転や改装をご検討中の方は、ぜひ下記ページをご覧ください。
原状回復工事をする際の疑問

最後に、原状回復工事にあたり事前に知っておきたいポイントや、よくある疑問について解説します。
◾️原状回復工事の支払いタイミングはいつ?
支払いのタイミングは業者によって異なるため、見積もり時点で業者に確認しておくと良いでしょう。工事前に全額支払いが必要なケースもあれば、工事前と工事完了後で半金ずつ支払うケースもあります。
また、発注時の契約書にも支払い時期が必ず記載されています。契約書に記載されている内容が正式になるため、契約前に問題ないか確認しておきましょう。
◾️原状回復工事の勘定科目は?
原状回復工事の会計処理の際、工事の目的が建物の維持管理や現状復帰であれば、勘定科目は「修繕費」として計上します。ただし、工事内容が建物の価値向上や耐用年数延長にあたる場合は「資本的支出」として資産計上し減価償却が必要です。
また、災害や大規模撤去等による場合は「特別損失」として処理するケースもあります。修繕費に該当する場合、借方にはかかった費用を、貸方には自社の普通預金や、相殺のための保証金あるいは敷金を記入しましょう。修繕費に該当する場合は一括で計上して構いません。
例として、原状回復工事に100万円がかかり、普通預金口座から費用を支払った場合の記載方法は次のとおりです。
| 借方 | 貸方 | 摘要 |
| <修繕費>100万円 | <普通預金>100万円 | 原状回復工事費用 |
オフィス移転や原状回復工事に伴う不用品の処分や引越し費用は、雑費として計上できます。金額が大きいときは、支払手数料として処理しましょう。
参考:参考:国税庁「No.5402修繕費とならないものの判定」
まとめ:オフィスの原状回復には事前の計画と知識が必要

オフィスを入居時の状態に戻して貸主に返す原状回復は、法律で義務付けられています。原状回復が必要な範囲は契約内容により異なりますが、持ち込みをしたものの撤去やクリーニングは必須となっていることが多いです。
こうしたオフィスの原状回復にかかる費用相場は、オフィスの規模によります。坪数の広いオフィスや損傷が大きい場合は、高くなる傾向にあります。
オフィスの原状回復を進める際には、余裕のあるスケジュールで工事を依頼したり、専門家に相談したりすることが重要です。特に、トラブル回避のため、不安な点がある場合は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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オフィス移転に関する詳細はこちらの記事でも解説しています。