女性活躍推進法とは|企業が積極的に取り組むメリットや企業の施策例を紹介
働き方

近年女性活躍推進に向けた動きが活発化しつつあります。国が女性の活躍を推進していることもあり、積極的に取り組む企業が増えています。
社会が女性活躍を推進する目的のなかには、女性が抱える課題を解消することも含まれています。
この記事では女性活躍推進法とは何か、企業が積極的に取り組むメリットは何かなどを解説します。現状と背景、具体的な取り組み例も併せて紹介するので、自社で女性活躍推進の施策内容を検討する際に役立ててください。
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目次
女性活躍推進法とは

政府を中心に女性の活躍推進が叫ばれるようになった理由の一つとしては、女性活躍推進法と呼ばれる法律の存在が大きく関係しています。女性活躍推進法とは、労働意欲がある女性の個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために定められた法律です。
法律は2015年4月に制定され、2016年4月から施行されています。これを受け、301人以上の従業員を常時雇用する企業には、一般事業主行動計画の策定と届出、情報公表が義務づけられることになりました。
その後、2019年の法改正では義務の範囲が拡大され、101人以上300人以下の従業員を常時雇用する企業も含まれることになりました。
社会で女性の活躍が推進されている背景

企業に女性の活躍推進が求められるようになった背景には、労働力不足や性差による格差などが深く関係しています。
■少子高齢化による労働力の減少
日本は少子高齢化が進んでいることにより、年々労働力不足が深刻化しています。すでに、多くの業界が人手不足になっている状況です。総務省が公表した「令和4年版情報通信白書」では、2050年には生産年齢人口が2021年の29.2%まで減少すると予測されています。
※出典元:厚生労働省「令和4年版情報通信白書」
今後も労働力の減少が予測されている中で、労働力として期待されているのが女性です。時代の流れとともに働く女性も増えていますが、パートやアルバイトなどの非正規で雇用されているケースも少なくありません。
これまでの慣習や環境などの影響により、能力を活かしきれていない女性の不利益を解消するためにも、女性の活躍が推進されています。
■性別による賃金格差の影響
1985年には性別に関わらず、雇用における均等な機会や待遇の確保を目的に、男女雇用機会均等法が制定されました。しかし、翌年の施行から30年以上経過した今でも、男女間に賃金格差があるのが現状です。
男女共同参画局が公表した「男女間賃金格差(我が国の現状)」によると、2021年の男性の給与水準を100とした場合の女性の給与水準は75.2だったことがわかっています。
男性に比べて女性の方が賃金が低い理由としては、日本の性役割に関する慣習が大きく影響していると考えられています。女性の活躍を推進するためには、性差による賃金格差をなくすことも必要です。
このような状況を受け、女性活躍推進法が改正され、2022年からは301人以上の従業員を常時雇用する企業に対し、男女の賃金差異を公表することが義務づけられました。
■再就職しづらい環境
政府が主導して女性の活躍を推進する背景には、労働意欲があるにも関わらず、再就職できない女性が多いことも関係しています。厚生労働省が公表した「女性の活躍推進が求められる日本社会の背景」では、女性の就業率と潜在労働力率の差が大きいことがわかっています。
就業率は、実際に就業した女性の割合です。一方の潜在労働力率は労働意欲があるものの、実際に就業できていない女性の割合です。就業率と潜在労働力率の差が大きいほど、女性が就業しづらい状況であることを指しています。
【女性の年齢別就業率と潜在労働力率 】
年齢 | 就業率 | 潜在労働力率 |
15~19歳 | 14.9% | 25.2% |
20~24歳 | 66.0% | 79.2% |
25~29歳 | 74.0% | 87.7% |
30~34歳 | 67.2% | 82.2% |
35~39歳 | 66.9% | 81.6% |
40~44歳 | 70.2% | 81.9% |
45~49歳 | 70.7% | 83.1% |
50~54歳 | 72.8% | 80.1% |
55~59歳 | 64.7% | 70.6% |
60~64歳 | 46.0% | 51.3% |
60歳以上 | 13.7% | 14.8% |
※出典元:厚生労働省「女性の活躍推進が求められる日本社会の背景」
労働力不足を解消するためには、女性が再就職しやすい環境を整備することも大切です。政府には女性の活躍を推進することで再就職しづらい環境を改善し、労働力不足を補おうとする狙いがあります。
女性の活躍を阻んでいる現状と課題

今の日本は、女性が十分に活躍できる環境が整備されているとは言えないのが現状です。これから自社で女性の活躍推進に取り組む際には、現状と課題を把握しておくことも大切です。
■男性中心の企業風土の定着
女性の活躍推進を阻んでいる原因の一つは、日本に男性中心の企業風土が浸透していることです。例えば女性よりも男性の方が出世しやすい、責任のある業務は男性に配分するなどです。
男性中心の企業風土のままでは、女性が努力しても報われない、キャリアアップを望めないといった事態になりかねません。自社に男性中心の企業風土が根付いている場合は、何らかの対策を講じて改善する必要があるでしょう。
■女性が働きやすい環境の整備が不十分
現状では、女性が働きやすい環境整備が十分だとは言えない状況です。時代の流れとともに共働き世帯が増えているものの、結婚や出産、育児、介護などのライフイベントにより、離職する女性は少なくありません。
離職理由としては、プライベートと仕事を両立できる環境が整備されていないケースが多いことも考えられます。育児や介護をしながら仕事を続けても、残業が難しく、突発的な休暇の発生も想定されるため、管理職へのキャリアアップをあきらめる女性もいます。
■ロールモデルが存在しない
社会で女性が活躍しづらい状況が生まれている理由としては、社内にロールモデルが存在しないことも考えられます。政府は企業に女性管理職の積極起用を推進しているものの、男性に比べればまだ少ない状況です。
厚生労働省の企業調査によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.4%だったことがわかっています。
※出典元:厚生労働省「令和2年企業調査結果概要」
過去に政府は、2020年までに指導的地位の女性を少なくとも30%と目標に掲げていました。しかし、現状は目標の半分以下です。
また、女性管理職が少ない背景には、男性中心の企業風土のほかに、女性管理職に対するイメージがネガティブであることも考えられます。例えば残業が多い、緊急時の対応を迫られるなどです。
このようにネガティブなイメージが強いため、女性管理職がいても同じようになりたいと思えない状況が発生しています。企業はロールモデルとなる女性管理職を配置し、女性従業員に今後のキャリアをイメージしてもらうとともに、ネガティブなイメージを払拭させることも必要です。
企業が女性の活躍を推進するメリット

女性活躍推進法では義務化された内容もあるため、企業として対応する必要があります。義務に関わらず、女性の活躍を推進すると、企業にさまざまなメリットをもたらします。
■優秀な人材の確保が期待できる
女性を積極的に採用すると、人手不足の解消だけでなく、優秀な人材の確保が期待できます。人材市場には労働意欲が高く、優秀な人材も多く存在しています。女性が働きやすい環境を整備すれば、優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。
近年は女性が働きやすい環境を整備するために、積極的に取り組んでいる企業も増えています。また、求職者側も、企業を選ぶ際に働きやすい環境であるかを重視する傾向にあります。優秀な人材を逃さないためにも、今すぐ女性活躍の推進に取り組みましょう。
■企業イメージの向上につながる
女性の活躍に向けて企業が積極的に取り組むと、企業イメージの向上が期待できます。
多くの女性が活躍している企業は、社会から「女性が働きやすい環境」と捉えられます。
企業が厚生労働省が認定している「えるぼし」や「くるみん」を取得すると、女性の活躍を推進している企業というイメージを社内外に持ってもらえるでしょう。
詳細は「女性活躍推進に向けた企業の取り組み例」で解説します。
■イノベーション創出や企業の成長につながる
女性の活躍を推進すると新たな視点が加わるため、イノベーションの創出や企業の成長が期待できます。男性が中心の企業では、消費者のニーズに対応した商品やサービスを上手く生み出せないこともあります。
消費者は男性だけとは限らないため、女性のニーズを反映させることも大切です。女性を積極的に起用して「女性目線」を加えることで、男性だけでは気づかなかった課題を発見し、より良い商品やサービスを生み出せる可能性があります。
■ダイバーシティを実現できる
企業による女性の活躍に関する取り組みは、多様性を受け入れるという意味で、ダイバーシティ実現の一環となります。政府が主導して取り組んでいる働き方改革では、ダイバーシティも注目されています。
これを受け、多くの企業では性別や国籍などのさまざまな属性を持った人材を採用し、積極的に活用しようという動きが活発化している状況です。企業が女性の採用や起用を増やすことで、従来の企業風土を払拭でき、新たな企業文化を生み出せる可能性もあります。
女性活躍推進に向けた企業の取り組み例

一口に「女性の活躍推進に関する取り組み」といっても、方法はさまざまです。これから取り組む場合は、他社の事例を参考にするのも手段の一つです。ここからは、女性活躍推進に向けた取り組みと事例をご紹介します。
■仕事と家庭を両立できる環境を整備する
女性の活躍を推進するためには、仕事と家庭を両立できる環境を整備することが重要です。育児休暇や介護休暇が取得しやすい職場環境であれば、従業員が離職せずに仕事を続けられます。各種休暇の取得を推進する際には、代替要員の確保も必要です。
また、女性がさまざまなライフイベントに直面しても、働き続けられる環境を実現するためには、周囲の従業員のサポートが不可欠です。引き継がスムーズに進むよう、ツールの導入やマニュアル作成などで業務を見える化しておくようにしましょう。
取り組み例
従業員のワーク・ライフ・バランスを促進すると、女性が長く働ける職場を実現できます。例えば次のような施策例が考えられます。
- 多様な働き方の導入
- 小学校3年生修了まで短時間勤務を拡大
- 慣らし保育期間も育児休暇として取り扱う
柔軟な働き方を実現するために、短時間勤務やフレックスタイム制度、テレワークなどを導入する方法もあります。短時間勤務の対象を小学校3年生修了まで拡大すると、子どもの学校行事や通院などにも対応できる期間を長くすることが可能です。
また、法廷の育休制度だけでは慣らし保育に対応しきれないケースもあるため、慣らし保育期間も育児休暇として取り扱うのも手段の一つです。
フルフレックス、フルリモートの働き方で子育て世代の社員が働きやすい環境を整備した企業「株式会社Helpfeel」へのインタビュー記事もご覧ください。
【インタビュー】株式会社Helpfeel「フルリモート・フルフレックス:働き方の実態とその魅力」
■多様な働き方を導入する
働き方をオフィス出社に限定している場合は、ほかの働き方を導入することで、女性の働きやすい職場環境を実現できます。オフィスに出社する働き方だけでは、家庭の事情によって離職を余儀なくされる女性が増える可能性もあります。
また、労働意欲が高いにも関わらず、働き方の選択肢が狭いことで応募を控える女性もいるかもしれません。企業が多様な働き方を提供することは、女性の活躍だけでなく、男性を含めたすべての従業員の働き方改革にもつながります。
取り組み例
性別を問わず、仕事とプライベートの両立を支援するために、多様な働き方を導入する方法もあります。具体的な取り組み例は、次のとおりです。
- コアタイムのないスーパーフレックス制度の導入
- 在宅勤務制度の導入
- 1時間単位で取得可能な看護休暇の設定
- 男性社員向け次世代育成支援社内制度の説明会の実施
- こども参観日の実施 など
一般的なフレックスタイム制度の場合、必ずオフィスでの勤務が必要になる「コアタイム」が存在するため、対応できない従業員が離職してしまう可能性もあります。より柔軟性の高い働き方を実現するには、スーパーフレックス制度の導入が有効です。
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また、子どもの病気やケガにより、親の看護が必要になるケースを考慮し、看護休暇の新設を検討するのも良いでしょう。看護休暇を1時間単位で取得できるようにすれば、女性だけでなく男性従業員も利用しやすくなります。
■能力を発揮しやすい組織体制をつくる
女性従業員が能力を発揮しやすい環境を整備するためには、精神面とスキル面をサポートすることも大切です。具体的には、次のような取り組みがあげられます。
- 管理職へのネガティブなイメージを払拭する
- 管理職に向けたスキルアップサポート
- 資格取得サポートなど
管理職に対してネガティブなイメージが定着している場合は、定期的な面談で不安点をヒアリングし、徐々に管理職キャリアへのイメージアップを図る方法もあります。また、管理職になるためには、一定のスキルが必要です。企業が管理職に向けた研修を実施することで、女性従業員のスキルアップをサポートすることが可能です。
取り組み例
女性従業員の活躍を期待し、「男性の職場」というイメージを払拭する方法もあります。具体的な取り組み例は、次のとおりです。
- 営業時間短縮
- 定休日の新設
- 複数担当制
- 資格取得サポート
- キャリア面談 など
営業時間が長い場合は、拘束時間も長くなります。営業時間の短縮や定休日の新設などにより、仕事とプライベートを両立させやすい環境を整備することが可能です。
また、女性従業員のニーズを把握するために、女性管理職が要望やキャリアアップへの不安などを聞く交流会も開催すると、女性管理職に対するネガティブなイメージの払拭につながるでしょう。
■厚生労働省の認定を受ける
企業が女性の活躍を推進していることで、イメージアップを図るためには、厚生労働省の認定を受ける方法もあります。厚生労働省では、女性の活躍を推進した企業に「えるぼし」、子育てをサポートする企業に「くるみん」と呼ばれる認定制度を設けています。
認定を受けることで、社内外に女性が働きやすい環境であることを印象づけることが可能です。「えるぼし」は、採用・継続就業・管理職比率の3つの評価項目が設けられており、平均値が一定基準を満たせば認定を受けられます。
「くるみん」には、行動計画の策定や法令遵守などの9つの認定基準が設けられています。詳しい内容や申請方法については、厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
まとめ:女性の活躍を推進して優秀な人材を確保しよう

年々少子高齢化が深刻化しており、新たな人材の採用が難しくなってきています。企業が女性の採用を強化すると、社内に新たな企業風土が醸成される可能性もあります。女性の求職者は働きやすさも重視する傾向にあるため、労働条件や職場環境が整備されていなければ、優秀な人材を逃してしまいかねません。
また、共働き世帯が増える中、男性の家事・育児参加も求められているため、女性の活躍の推進は男性の働きやすい環境の実現にもつながります。
女性の活躍を推進する方法は数多くあるため、自社に適した取り組みを検討しましょう。