オフィスの防災体制を万全に整えよう!9つの防災対策から最新情報の入手方法まで解説
オフィスレイアウト・デザイン・設計
火災や地震などの災害は、いつ発生するかわかりません。業務中に災害が発生した場合、きちんと対策していなければ被害が拡大する恐れがあります。被害を最小限におさえるためには、日頃から万が一の事態に備えておくことが大切です。
しかし、防災訓練への参加経験はあっても、どのような防災対策を施せば良いのか悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では初めてオフィスの防災対策に関わる方に向けて、必要性やすべきことを中心に解説します。
オフィスの防災対策におすすめのグッズも合わせて紹介するので、万全を期すように努めましょう。
目次
オフィスの防災体制を万全にすべき理由
オフィスには、パソコンやコピー機などのさまざまな電気機器があります。電気機器を使用している限り、常に火災のリスクはつきまといます。
実際に、建物火災では電気機器が原因の火災は多く発生しています。総務省消防庁が公表した「令和3年(1~9月)における火災の概要(概数)」によると、すべての火災のうち電気機器が原因で出荷した件数は1,307件でした。
順位 | 全火災 | 建物火災 |
1位 | 煙草:2,291件 | コンロ:1,922件 |
2位 | 焚火:2,184件 | 煙草:1,230件 |
3位 | コンロ:1,970件 | 電気機器:1,006件 |
4位 | 放火:1,704件 | 配線器具:891件 |
5位 | 火入れ:1,352件 | 放火:775件 |
6位 | 電気機器:1,307件 | ストーブ:709件 |
出典:総務省消防庁「令和3年(1~9月)における火災の概要(概数)」
オフィスでは火災への対策は必須と言えるでしょう。しかし、防災対策が必要なのは火災だけではありません。地震や水害などのさまざまなリスクがあるため、日頃からあらゆる事態を想定した防災対策が必要です。
本章では、オフィスの防災体制を万全にすべき理由を解説します。
■人的被害を最小限にするため
何らかの災害が発生した場合、最も避けるべきなのは人的被害です。デスクワークが中心のオフィスでも、窓ガラスが割れたり照明が落下したりなどの被害が発生する可能性があります。
幸い直接的な災害を免れても、避難の途中に転倒したり階段から転落したりなどのリスクもゼロではありません。企業は、どのような状況に陥っても従業員の命と安全を優先し守る必要があります。
人的被害を最小限におさえるためには、日頃からリスクに備えた防災対策が大切です。
■物的被害を最小限にするため
災害の状況によっては、人的被害だけでなく物的被害を引き起こすリスクがあります。物的被害とは、業務に必要不可欠な設備が何らかのダメージを受けることです。
たとえば、パソコンが故障するとデータの復旧が必要になるため、定期的に増分バックアップやフルバックアップを取るなどの対策をしておきましょう。
通常の業務状況に戻すためには、被害を受けた機器の買替えや修理などが必要です。立て直しにかかるコストは、物的被害が大きいほど多額になります。
■法律・条例で定められているため
オフィスの防災対策を万全にすべき理由は、前述した人的被害や物的被害を最小限におさえることだけではありません。防災対策は、法律や条例で定められているためです。
【労働契約法】
労働契約法とは労働契約に関する事項をまとめた法律で、使用者と労働者の良好な関係を実現するために制定されました。第5条には「安全配慮義務」があり、使用者は労働者の命や身体の安全確保に努めなければならないとされています。
従来の安全配慮義務と言えば、従業員の健康管理や労働災害にフォーカスされるケースがほとんどでした。しかし、近年は地震や台風などの自然災害も重要視されています。
過去には災害で被害を被った従業員が起こした裁判で、企業が安全配慮義務を怠ったと判決した事例もあります。また、自治体の中には災害に備えた備蓄品や一人あたりの量の目安などを条例で定めているところも多いです。
おもな自治体の条例と企業に定められた備蓄状況は、次のとおりです。
自治体名 | 条例名 | おもな備蓄品 | 備蓄日数 | 一人あたりの備蓄量の目安 |
東京都 | 東京都帰宅困難者対策条例 |
|
3日分 |
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大阪府 | 事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン |
|
最低3日分 |
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福岡県 | 福岡県備蓄基本計画 |
|
3日以上 | 水:1日3ℓ |
災害に関する条例が定められている都道府県の企業は、水や食料などの備蓄品の常備が必要です。ただし、現時点では努力義務という位置づけになるため、定められた備蓄を行わなかった場合でも罰則はありません。
オフィスが事前に対策すべき3つの災害
一口に災害と言っても、火災や地震だけではありません。
オフィスが対策すべき災害は、次のとおりです。
- 火災
- 地震
- 水害
ここでは、災害が発生しやすい原因や被害のリスクなどを解説します。
■1.火災
「オフィスの防災体制を万全にすべき理由」で解説したとおり、オフィスの火災は電気機器によるケースが多いです。電気機器の使い方を誤ると、火災につながるリスクが高まります。
オフィスの中で発生しやすい電気火災のおもな原因は、次のとおりです。
・OAタップの誤使用
たとえば一つのOAタップで複数の配線を確保できるタコ足配線は、誤った使い方をすると火災につながるので注意が必要です。
リスクが高いのは、OAタップの消費電力を上回った場合です。OAタップごとに最大容量が記載されているため、使い方を遵守しましょう。
・電気コードの劣化
電気コードは経年劣化で短絡や半断線が発生すると、火災の原因になることがあります。比較的新しい電気コードでも使い方次第では劣化を早め、火災につながる可能性があります。
次のような使い方をしている場合は、特に注意が必要です。
- 電気コードを束ねる
- 家具の下敷きにする
- 床や壁に強く打ち付ける
電気コードは一部が断線しても発火する可能性があるため、適切な使い方をするようにオフィス内で徹底しましょう。
・漏電
漏電は、一般家庭だけでなくオフィスでも発生する可能性があります。常に接続しているコンセントとプラグの間は掃除が行き届きにくく、ホコリが溜まりやすいためです。
ホコリが湿気を含んだ空気を吸うと、電気が本来通るべきルートを外れて漏電を引き起こします。これはトラッキング現象と呼ばれており、梅雨や冬などで建物内に湿気が溜まりやすい時期に注意が必要です。
■2.地震
1981年5月31日までに建築確認が行われた建物には、旧耐震基準が適用されていました。しかし、1978年に宮城県沖で発生した地震によって多くの家屋が倒壊し、甚大な被害を及ぼしました。
この地震をきっかけに建築基準法が見直され、1981年6月1日からは新耐震基準が適用されています。新耐震基準が適用された建物は、震度6強~7程度の地震が発生しても倒壊しないような構造です。
そのため、余程古い建物でない限りは倒壊の心配はありません。ただし、震度5強以上になると家具や機器が倒れるオフィス内の被害だけでなく、窓ガラスが割れたりブロック塀が崩れたりなどのオフィス外にも被害が及ぶ危険性があるため注意が必要です。
オフィスにおける地震対策に関する詳細はこちらの記事でも解説しています。
■3.水害
最近はこれまで被害が発生したことがなかったエリアでも、台風や集中豪雨などによる洪水に見舞われるケースも増えています。2019年に発生した台風19号では、東京都の武蔵小杉エリアのタワーマンションが浸水しました。
特にベイエリアにオフィスを構える企業は、台風が発生した際の高潮にも警戒が必要です。オフィスが洪水被害を受けた場合、水に浸かったパソコンやスキャナーなどの機器は使用できなくなります。
機器の電気回路に水が浸入すると、本来のルートとは異なるところに電流が流れてしまうためです。外からは乾いているように見えても、内部に浸水していれば電源を入れた瞬間に漏電や発火が発生するかもしれません。
真水の場合、状況次第では修理が可能なこともあります。一方で海水は塩分を含んだ不純物が残るため、基本的には修理不可能です。
オフィスで実施するべき9つの防災対策
万が一災害が発生したときには、人的被害と物的被害を最小限におさえる必要があります。被害をおさえるためには事前に防災対策を施し、万が一のときに備えることが大切です。
ここでは、オフィスで実施するべき9つの防災対策を解説します。
■1.インフラ停止を乗り切るための備蓄
電車やバスなどの交通機関が麻痺した場合、帰宅困難者となる社員も出てくるでしょう。そのため、さまざまな事態を想定してインフラ停止を乗り切るための備蓄をしておくことが必要です。
備蓄すべき水や食料品の一人あたりの目安は、次のとおりです。
備蓄品 | 具体例 | 一人あたりの目安 |
水 | ペットボトル入り飲料水 | 1日3ℓ |
食料品 |
|
1日3食 |
備蓄品の準備量は、一人あたり3日分が目安です。食料品の場合、一人あたり9食分を準備しておきましょう。たとえば従業員が100人のオフィスの場合、900食分の備蓄が必要です。
最近では、保存期間が数年の食料品が数多く登場しています。災害の影響が長期間に及ぶ可能性もあるため、予算に余裕がある場合は多めに備蓄しておくと安心です。
このほかには一時的にオフィスで過ごすことを想定し、一人あたり毛布1枚を準備しておきましょう。
■2.安全に行動するための防犯グッズの用意
防災グッズは、災害時に従業員が安全に行動するために必要になります。
準備すべき防災グッズは次のとおりです。
停電対策 |
|
安全対策 |
|
救護対策 |
|
衛生対策 |
|
オフィス内に保育所がある場合、おむつや粉ミルクなどのベビー用品も準備しておきましょう。
■3.非常時における従業員との連絡体制の確保
災害が発生したときには、オフィス内で業務している従業員はもちろんのこと、外に出ている従業員の安否確認をおこなう必要があります。企業側は、万が一に備えて従業員との連絡体制を確保しておきましょう。
連絡手段は一つだけでは不十分です。災害が発生した後は一時的に通信障害に陥り、携帯電話が利用できなくなる可能性があるためです。また、従業員によってはメールアドレスの変更を申し出ていないケースもあります。
そのため、メールアドレスを変更した際の申し出を徹底するとともに、複数の連絡手段を確保し、確実にコンタクトが取れる体制を整えておくことが大切です。
連絡手段を確保する場合、デジタル無線を導入するのも選択肢の一つです。デジタル無線は電波をデジタル方式で発信するため、携帯電話が利用できなくなった際の代替手段となります。なお、アナログ無線は2024年12月1日以降に使用できなくなります。
■4.必要な感染症対策の徹底
日本では何らかの災害が発生した場合に備えて、各都道府県に1箇所以上の災害拠点病院が設置されています。しかし、災害で治療が必要な状態になった際、すぐに病院に行けるとは限りません。
そのため、できる予防は事前にしておきたいところです。たとえば、季節によってはインフルエンザが感染拡大する可能性もあるため、可能な限り予防接種を徹底しましょう。
また、感染症に備えて次の物を備蓄しておくと安心です。
- 体温計
- アルコール消毒液
- パーテーション
- 空気清浄器
- フェイスシールド など
感染症を防ぐためには、手洗いやアルコール消毒が必要です。オフィスに数日留まる可能性を考慮し、感染症対策で必要な物は十分に備えておきましょう。
■5.災害に強いオフィスレイアウトへの変更
被害を最小限におさえるためには、十分な通路幅を確保することが大切です。建築基準法では、万が一に備えて通路幅の基準が設けられています。
両側に部屋がある場合 | 1.6m |
片側に部屋がある場合 | 1.2m |
出典:建築基準法施行令
また、消防隊進入口マークや排煙窓がある場所には、家具や荷物で塞がないようにしましょう。
火災の原因の一つには、太陽光が物を通して可燃物を発火させる収れん火災があります。収れん火災対策として、ペットボトルや水槽などの太陽光が反射しやすいものを置かないようにしましょう。
■6.オフィス家具の固定
地震が発生したときには、オフィス内の家具が倒れて従業員が怪我を負うリスクがあります。揺れの程度は地震が発生しないとわからないため、事前に家具を固定する耐震器具を取り付けておきましょう。
おもな耐震器具は次のとおりです。
耐震器具 | 使い方 |
L字金具 | ボルトとネジで家具を固定 |
突っ張り棒 | ネジを使用せずに天井や壁と家具を押し当てて固定 |
ストッパー | 家具の前面下部に挟み込んで転倒を防止 |
ベルト式金具 | キャスター付きの家具同士を繋げて移動を防止 |
キャスター下皿 | キャスター付家具の下部に設置して移動を防止 |
粘着マット | 電子機器の下部に設置して落下を防止 |
キャスター付きの家具は、地震の揺れで思わぬ場所に移動する可能性があります。キャスターの下に下皿を取り付けておくと、地震の際に移動しないので怪我のリスクを軽減できます。
■7.社内の避難経路・防災体制の周知を確認
過去に発生したオフィス火災の中には、天井が吹き抜け構造だったことが原因で被害が拡大した事例があります。この事例では入口付近で発生した火災が短時間で拡大し、避難経路を確保できない状態に陥りました。
人的被害を最小限におさえるためには、万が一に備えてオフィス内の避難経路と防災体制を社員に周知しておくことが大切です。
また、防災体制を強化するためには、ハザードマップが有効です。ハザードマップには、被害が予測されるエリアや避難場所などが詳細に記載されているためです。ハザードマップは、自治体の窓口や公式ホームページなどで入手できます。
■8.定期的な避難訓練の実施
災害への対策は日頃から意識することが大切です。優れた防災対策を施しても、万が一のときに機能しなければ意味がありません。
まずは防災対策の内容を従業員に周知徹底し、定期的に避難訓練を行いましょう。企業には、消防法によって年1回以上の避難訓練の実施が義務づけられています。
テレワーク中の従業員も含めた全員が参加し、想定された災害が発生したときに適切な行動が取れているか、社内の対策に不備はないかなどを確認しましょう。
■9.業務で必要なデータの定期的なバックアップ
災害による被害状況によっては、パソコンやタブレットなどの電子機器が使用できなくなる可能性があります。
早期復旧を目指すためには、業務で必要なデータは定期的にバックアップを取っておくことが大切です。バックアップを取る際には、次の指標を決めておきましょう。事前に指標を定めておくと手間がかからないため、スムーズな復旧が可能です。
BPO(目標復旧時点) |
|
RTO(目標復旧時間) |
|
RLO(目標復旧レベル) |
|
たとえばRTOを1日で設定した場合、災害の発生から1日以内でのデータ復旧を目指します。一度にすべてのデータをバックアップする場合、余分なコストや時間がかかります。
オフィスの防災対策における確認事項
ここでは、オフィスの防災対策における確認事項を解説します。
■備蓄・防災グッズは定期的に更新する
備蓄品や防災グッズの準備は、オフィスの防災対策の一つです。しかし、いざ災害が発生したときに食料品が食べられなかったり、防災グッズが使用できなかったりする恐れがあるので注意しましょう。
備蓄向けの食料品は、通常のものより賞味期限が長いのが一般的です。賞味期限の目安は2~5年程度なので、買い替えるべき日程を事前にチェックしておきましょう。
また、懐中電灯やラジオは電池を入れたままにしておくと、電池切れや液漏れの状態になる可能性があります。防災グッズが使用できるかを10年ごとを目途に確認し、必要に応じて絶縁体を挟むなどの工夫を施しましょう。
■防災体制は適宜見直し最適化する
現在は、数年にわたって新型コロナウイルスの感染対策が必要な状況です。当初はワクチンもなく、濃厚接触者の定義も現在ほど緩和されていませんでした。防災対策が必要なのは、火事や地震などの災害だけではありません。
これから新たに備えるべき災害が生まれる可能性があるため、オフィスの防災対策は適宜見直しをおこなうことが大切です。日々防災の常識も変化していくため、体制を整えただけで満足せずに最適化を図りましょう。
オフィスの最新の防災情報を入手する方法
最後に、オフィスが最新の防災情報を入手する方法を解説します。
■オフィス防災EXPOに参加する
最新の防災情報は、毎年開催されているオフィス防災EXPOで入手可能です。オフィス防災EXPOはオフィスの危機管理や災害対策の課題を学べるイベントで、専門家によるセミナーも開催されています。
防災関連の商品やサービスを提供する企業と商談もできるため、オフィスの防災対策に役立ちます。
気になる商品やサービスがあれば、その場で発注も可能です。会場では、感染対策や備蓄品の見直しなどの企業が抱える課題に合わせたアドバイスが受けられます。
■無料の防災セミナーを受講する
オフィス防災EXPOは入場料がかかりますが、無料でも最新の防災情報は入手できます。一般企業や公益財団法人の中には無料防災セミナーを開催しているため、気になるテーマがあれば参加してみましょう。一例をご紹介します。
【公益財団法人全国防災協会】
気象庁や国土交通省の専門家による防災セミナーです。水害や風害などのあらゆる災害の防災対策が学べます。
詳細はこちら:公益財団法人全国防災協会
【株式会社ウェザーニューズ】
気象専門の企業ならではの観点からさまざまな防災対策が学べます。最新技術を用いたセミナーでは、活用事例やディスカッションが行われました。
詳細はこちら:株式会社ウェザーニューズ
【日本赤十字社】
日本赤十字社のセミナーでは、自助と共助の力を高めるための知識や技術が学べます。避難所運営をゲーム感覚で模擬体験できるセミナーもあります。
詳細はこちら:日本赤十字社
日頃からオフィス内で防災意識を高めて万が一に備えよう
オフィスの防災対策は、人的被害や物的被害を最小限におさえるために必要です。オフィスがあるエリアによっては、法律や条例で一定の防災対策を求められるケースもあります。
火事や地震などの災害は、いつ発生するかわかりません。日頃から十分な防災対策を施し、万が一に備えておくことが大切です。災害による被害状況によっては、復旧が難しく倒産に追い込まれる恐れもあります。
早期復旧して事業を継続させるためには、防災対策とともにBCP対策にも目を向けておきましょう。BCP対策については、次の記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。
関連記事:BCP対策、どこまで進んでいますか?