【インタビュー】アイリスチトセ株式会社「WELL認証取得がもたらす社内への好影響とは」
インタビュー
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2022年9月にアイリスグループの東京アンテナオフィス(東京都港区、日本生命浜松町クレアタワー19階)は、人々の健康やウェルネス※1に着目した国際的なビル評価指標である「WELL Building Standard™(WELL認証)」の最高ランク「プラチナ」取得しました。
取得にあたり実務責任者として取りまとめたアイリスチトセ株式会社 代表取締役社長 大山紘平氏と、同社 Work Space Design マネージャー 藤田幸介氏にお話を伺いました。
※1 ウェルネスとは、健康を身体の側面だけでなくより広義に総合的に捉えた概念。
WELL認証取得に至ったきっかけ
はじめに、WELL認証を取得することになった経緯についてお話いただけますか。
大山:ウェルビーイングや健康経営といった言葉をよく聞くようになりましたが、それまでオフィス環境を構築する中で、あまり従業員や働いている社員の健康について考えたり、デザインされたりしていないなということをずっと感じていて、何かしっかりとした形として残すことはできないかと考えていました。
またコロナ禍において、アイリスグループのメインの拠点でもあるアイリスグループ東京アンテナオフィス(以下、東京オフィス)でのWELL認証の取得は、働いている社員の心の健康や身体の健康について、しっかりと取り組んでいるということを社員に伝えることができ、安心して働ける環境を整えられるのではないか、更には働き甲斐を感じてもらい、それによって生産性の向上も実現できるのではないか、そういった想いから認証取得を目指すことになりました。
WELL認証には上からプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズとあるのですが、できる限りいい認証を取得したいという思いからプラチナを目指そうとなったのがきっかけでした。
※アイリスチトセ株式会社 大山紘平代表取締役社長
WELL認証プラチナに取得する為に行ったこと、新たに取り組んだことなどがあれば教えてください。
藤田:今回のWELL認証プラチナ取得の中で大きく加点できたポイントとしては、当社が什器メーカーとして、什器自体を作れる強みがあったというのがまずひとつと、アイリスグループのLED照明や業務用電化製品のそれぞれが効果を発揮していることです。
更にそれらの商品が国内の工場にあって、必要に応じてすぐにオフィスに整備できるというスピード感と、あとは今回実務を担当して一番思ったのは、アイリスグループの人事制度や福利厚生などがかなり充実していて、それが今回の認証項目の中に当てはまったものが多数ありました。
以上のことが総合的に加点されて、今回のプラチナ取得に至ったのだと思います。
WELL認証の取得を目指して実務を行う中で、就業規則やメンタルヘルスケアなど、以前より我々が取り組んでいたことが客観的に改めて評価されたということは、今回とてもいい気づきでした。
※アイリスチトセ株式会社 Works space design マネージャー 藤田幸介氏
大山:什器メーカーとして、アイリスチトセとして寄与できる点も多くて、例えば具体的に何ができるのかという話をするとしたら、席数全体の50%のデスクを昇降できるタイプにして、心身の健康に寄与できるよ什器の選定や適正な配置を計画したのがひとつ。
ほかにオフィスチェアの高さのストローク幅も大きくして、男女問わず小柄な方でも大柄な方でも正しい姿勢で仕事ができるようにする点などですね。
藤田:WELL認証では、ワークステーション(執務室)で働く人たちの75%以上の方が、自然の見える環境でありなさいという項目があるのですが、東京オフィスの設計はほぼ全ての席から窓がよく見えるレイアウトとなっていて、誰しもが「空や緑」といった自然が目に入る環境になっています。そのため、私たちは75%ではなく100%で提出しています。
大山:朝、自然光が入って来る、そして自然光を浴びることはメンタル的な改善効果や体調を整える効果があり、自然光をしっかり浴びられる環境をレイアウトに組み込んだというところもありますし、間仕切りを多く立ててしまうと見通しが悪くなり、閉鎖的な空間で人とのつながりを欠くなど心理的安全性を担保しにくいですけど、フルオープンのオフィスにすることによってそういった環境を作ることなく、常にアイリスグループの社員としての一体感みたいなものを醸成できるような、そういうオフィスの設計になっています。
心理的な効果がでるようにオフィス内に緑を取り入れるバイオフィリックデザインも行っていて、こちらも結果として加点対象となっています。
藤田:必須項目の中にもありまして、グリーンが寄与する項目が2つほどあります。
大山:植栽、グリーンを適正な量でオフィス設計の中に入れることによって緑視率を上げて、更には窓を通して外を見られることが加わり、この東京のど真ん中のオフィスビル空間でありながらも自然を感じることができる環境を整えています。
自然を近くに感じることで心理的安全性や集中力が高まって、リラックス効果が得られるといった点も、オフィス設計を行う上でとても重要になっていると感じています。
実はWELL認証のプラチナ取得に先駆けて、2020年10月に、当時日本で二番目となるウェルヘルスセーフティレーティング(WELL Health-Safety Rating)を取得しています。
新型コロナウイルスによりオフィス運営の先行きが不透明な中、アイリスグループの総力で感染症対策に関する様々なソリューションを東京オフィスの随所に取り入れたことで、かなり早い段階で安心して働ける環境を整えられたと思っています。
その際にオフィスレイアウトとしては3つのS(Social distance:対面での利用を避ける、距離を置く、Secured contact:個室ではなくセミクローズドな空間で3密を避ける、Separation:物理的な接触を避ける)を独自のソリューションと定義づけて、積極的に取り入れています。
これからのオフィスに求める条件は様々あると思いますが、まずはテレワークが普及した今だからこそ「行きたいオフィス」にすることが重要で、その為の不可欠な要素としてやはり心理的安全性の確保が上位にあると思います。
そのためにも感染症対策をしっかりしていることは、これからのオフィスづくりにおいても第一ステップであり、その上で心身ともに健康でいられるウェルビーイングを感じてもらえる、このような序列になるのではと考えています。
そういう意味でもウェルヘルスセーフティレーティング(WELL Health-Safety Rating)をかなり早い段階で取得して心理的安全性を担保しつつ、今回WELL認証のプラチナ取得までできたことは働く社員にとっても良かったと思います。
WELL認証の取得は社員に好影響を与える
藤田:WELL認証の項目には心の健康に関する部分もたくさんあるんですけど、同時に企業としての継続性みたいなものを求められるところがあります。それは社員のメンタルヘルスに対してどのくらいの仕組みをもっているのか、そういうところもあり、今回整理して見ると結構当社は継続性においてもしっかりとしているなと感じました。
大山:確かにWELL認証のプラチナを取得するということは、会社がそういったところをしっかりと考えているんだという、企業としての姿勢を社員に対して見せることができるので、とてもいいことだと思っています。
それがこの東京オフィスで体験できるようになっていること、そこで実際に働くことによって何もしていないオフィスと比べたときに間違いなく、社員のエンゲージメントが着々と上がっていくと感じています。
退職率であったり、採用面であったり、そういったところにも今後いい影響を与えるでしょう。
このようなポジティブな面もWELL認証取得による効果だと思います。
藤田:今の新卒の社員も就職活動の時に、採用面接で当社のオフィスに来てテンション上がったと言っていますし、恐らく何かしらいい影響をもたらしているのではないかと思います。
大山:そうですね、そのあたりは本能的な部分かなと。バイオフィリックデザインでも言えることですが、本来、人間がもともと持っている本能みたいな部分で、こういうところで仕事したいなと。その雰囲気を感じ取ってもらえるっていうのは、結構重要なポイントかなと思います。
藤田:オフィスで働く人たちの導線のところには必ずグリーンがあったり、アートがあったり、会社の企業文化や歴史が随所で触れられるようになっています。ウェルビーイングに加えてアイリスらしさもしっかり取り入れることで、オフィスで働く社員の帰属意識を生むことができているのではないかと思います。
大山:小会議室、ミーティングルームのひとつにWell-Beingとネーミングした部屋があり、あえて作ることによって社員やご来社いただく人たちに対してウェルビーイングっていう考え方を知ってもらう、そういったきっかけ作りになることを意図しています。働いている社員の人たちが当たり前のようにウェルビーイングを知っていて、そこの理解が深まるというのも大きな点ですね。
アイリスグループ全体での取り組み
藤田:更にアイリスグループで言うとLED照明などもありますね。
大山:ワンフロアすべてにおいて、サーカディアンリズムに対応した照明設備「ライコネックス」を導入しています。簡単に説明すると自然光と同じように、朝からお昼になるにつれて昼白色になり照度が上がり、夕方になるにつれて照度が徐々に落ちて暖色系に変わっていくといった照明です。自然に近い照明計画にすることで、人間本来持っているバイオリズム・サーカディアンリズムを整えます。今の日本の現状は、始業時間から終業時間まで常に明るい昼白色の光の中で仕事をしていて、そのせいで夜になっても脳が昼と同じ活発な状態になってしまいます。そうなると夜の眠りが浅くなり、リラックスした状態になりにくいばかりか仕事の生産性まで落ちかねません。このようにオフィス設計を行う上でも照明設計は、ウェルビーイングの観点からも大切なことと言えます。それをこの東京オフィスで実践できている点は重要なポイントです。
また、3密になりがちな商談室にはヘパフィルターがついている空気清浄機を設置していたり、「AIお掃除ロボWhiz-i」が定期的に均等に床に舞い落ちたウイルスなどを除去したりと、自社製品でソリューションできているのもアイリスグループの強みだと思います。
その他、アイリスオーヤマで今年立ち上がったエアソリューション事業で扱う「プラズマガードpro」は、今回のWELL認証取得には直接関わることはありませんでしたが、空気中に安定的にイオンを送り続ける機器を空調ダクトに取り付け、または置型タイプを設置することで、室内の空気全体に加えて物体表面の菌やウイルスをイオンの酸化反応により99.9%抑制することができる装置です。
これを導入すれば、出社する社員全員が安心して働ける環境を更にバックアップしてくれることでしょう。
このようにアイリスチトセのオフィス設計及び什器、アイリスグループとしてのLED照明、エアソリューションなど、グループ全体で複合的にウェルビーイングに貢献することができています。
社員の安全・安心の確保のためにWELL認証取得に向けて動いたこと、その結果当社の働き方は非常に健康的な会社運営をしていたことがよく理解できました。さらにアイリスグループが持っている商材それぞれがウェルビーイングに寄与できるものというのが再認識できたということですね。
大山:認証取得による一番の魅力は、取得を目指す中でもっと社内のここを変えていったら、より従業員にとってもよくなるよねというところが見えてきて、そこからまた改善することで社員の意識が高まり、更に良くしようという好循環が生まれることだと思っています。
藤田:認証項目には基準を満たすオペレーションがしっかりと行える仕組みがあるかどうかを評価する項目もあります。その点を考えると認証する対象のプロジェクトには、一過性ではなく、しっかりと継続性があると評価しているのもWELL認証の重要なポイントなのかなと。
大山:その場だけじゃないってことですね。
では、最後にこのインタビューをご覧頂いている方々へ一言お願いします。
大山:この記事を読んでいただいている方の中には、ウェルビーイングや健康経営に対して「何かやらなくては」であるとか、はたまたまトップダウンでそういったことをやっていきたいとか、そのように思ってはいるけど、具体的に何をやっていけばいいのかわからない。そのように悩んでいる方がとても多いと思います。
今回当社がWELL認証プラチナを取得したことで、実体験として得たノウハウはたくさんあります。そこは包み隠すことなく、もしご相談いただけるのであれば、オフィスを構築していく上で社員の健康のための様々なアドバイスができると思います。少しでも多くの企業が「健康」の重要さに気付いていただくことで、働く全ての人が社会的、心理的にも健康で、快適な生活を過ごせる社会を築いていけることを願っています。
本日はありがとうございました。