【インタビュー】株式会社ファイアープレイス「つながりをデザインする会社が考えるこれからの働き方とは?」

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【インタビュー】株式会社ファイアープレイス「つながりをデザインする会社が考えるこれからの働き方とは?」

近年、テレワークやWEBでの商談が普及するなど、働き方が変化・多様化しています。今回は、「場づくり」を推進する会社でありながら、オフィスという場所を持たず、バーチャルオフィスなどのオンラインツールを使いながら自由な働き方を実践する、株式会社ファイアープレイス代表の​​渡邉知さんとコーポレートデザイナーの蓮池めぐみさんに、お話をお伺いしました。

ファイアープレイスの成り立ちと働き方

左)渡邉知様:FIREPLACE 代表 / IGNITER (点火役)
つながりを創出するための一連のメソッド・アクションを「点火(IGNITION)」と称する イグニッション・カンパニー、ファイアープレイスのCEO。 つながり=「共感と共働」と置き、つながりから生まれる「共創」に伴走する点火役。

右)蓮池めぐみ様:FIREPLACE コーポレートデザイナー
愛知県長久手市生まれ。宮古島にてグランピングリゾート開発事業、コワーキングスペース「Point0 marunouchi」コミュニティマネージャーを経て、現在はファイアープレイスにてコーポレートデザイナーとして、主にバックオフィス業務、社長秘書業務に従事。

本日はよろしくお願い致します。
早速ですが、御社の事業について教えていただけますか?

渡邉ファイアープレイスは一言でいうと「つながりをデザインする会社」です。

恐らく、「場所」と「場」の違いを初めて言語化した会社だと自負しており、場所の価値は機能、場の価値はつながり、と定義しています。場所を場に変容させていくコミュニティデザイン、場に伴走するコミュニティマネジメント、以上2つが弊社の主要事業です。

具体的な事業として、主に「不動産価値向上事業」「地方創生事業」「ネイバーシップ事業」の3つを推進しています。「不動産価値向上事業」は、大手不動産デベロッパーがクライアントです。今の時代、ホテルでもオフィスでも商業施設でも、場所を機能で差別化することは難しくなっています。そこで、そういった場所を、つながりが生まれる「場」に変容させていくことで、不動産という場所の価値向上を図る、そんなお手伝いをしています。

「地方創生事業」は、自治体や内閣府から依頼を受け、ローカルを起点につながりを増やしていく事業です。地域に関わる人を増やすことで、産業振興や事業創出を目指しています。

最後の「ネイバーシップ事業」は、法人企業を対象に、社員同士のつながりを育み、ウェルビーイングやイノベーションを醸成するための研修などを行っています。

全ての事業に共通するキーワードはつながりで、「不動産」「地方」「企業」それぞれの起点でつながりを深めていくことを生業としています。

ありがとうございます。今お伺いしたように御社は場づくりを行い、リアルなつながりを大切にしている会社かと思いますが、働き方としてはオンラインツールを駆使して、バーチャルオフィスをプラットフォームに仕事をされているとお聞きしています。そこに至った経緯や、具体的にどのように働いているのかというのをまずお聞きしても良いですか?

蓮池:働き方としては、いつどこで働いてもOKで、かつフレックス制を採用しています。プロジェクトをご一緒させていただいている大手不動産会社のシェアオフィスを活用し、SlackとZoomなどのオンライン会議ツールや、Gatherというバーチャルオフィスサービスを組み合わせて仕事をしています。
会社の方針ありきでこのような働き方になったというよりは、社員に合わせていったら自然と今の働き方のスタイルになっていったというのが正しいかもしれません。

設立から数年間、社員は渡邉のみで、他は業務委託メンバーで構成されていました。その後、第一号社員である私が入ったタイミングでコロナ禍となり、業務委託のメンバーが全員抜けてしまいました。チームやルールを一から構築していく過程で徐々に社員や仕事が増えていき、メンバーの働きやすさや効率化を考慮した結果、今の形に至っています。
今は社員が5名。アルバイトや業務委託メンバーも増えましたが、未だに自社オフィスというものを保有していません。

渡邉オフラインの価値はこのコロナ禍で一気に変わるよね、ということが色々なところで言われていた2020年頃、オンとオフの価値を自分なりに整理しました。

具体的には法人視点のオンラインとオフラインのメリットデメリットと、社員視点のメリットデメリットを洗い出し、その上で、オフラインでやるべきことだけをオフラインに集中させて、それ以外は全てオンラインで良いよね、と舵を切りました。

渡邉氏の整理した、オンライン、オフラインのメリット・デメリット

オフラインの価値とはどのようなことですか?
渡邉:具体的には、次の5つです。
①カルチャー

②感性

③チームビルディング

④ケア

⑤イノベーション

カルチャーとは、ファイアープレイスっぽさ=自社の社風を共有することと捉えています。
また、「今日は空が青いね」とか「金木犀の香りがしてきたね」といった社員一人一人の感性や感受性を共有すること、チームビルディングとしてチームや仲間との時間を大切にすること、さらに「今日は元気がないね」とか「心が病んでいるかもしれない」といったことに気づくケアの部分、最後に、新しい価値を生み出すイノベーション、この5つは、オンラインには不向きだなと。よって、その5つを目的とする場合のみ、オフラインで集まるようにしています。

そういった働き方は社員の皆さんにもだいぶ定着しているのでしょうか?

蓮池:浸透していると思います。弊社が一社目というメンバーも多く、毎日電車に乗って会社にいくのが当たり前、という感覚がある社員の方が少ないというのはあるかもしれません。

 

渡邉ベンチャーで若い会社なので、メンバーそれぞれ組織に固定概念がなかった点や、社員が増えるタイミングでコロナ禍になったので、働き方を再定義しやすかった点はプラスだったと思います。バーチャルオフィスに切り替えるとか、出社を辞めるとか、そういった働き方をカルチャーとして浸透させることは難しくありませんでした。ただ、歴史のある会社や組織では、なかなかこうはいかないと思います。

リアルな場の分断とオンラインコミュニケーションの意外なメリット

そうですね、多くの歴史ある企業や大企業はコロナで初めてオンラインワークが普及したことで、コミュニケーションのあり方をどのように再定義するかという点で問題を抱えています。
一方で、オフラインでも、意外と誰が何をしているかわからなかったり、実はオンラインの方が一緒に働いている感覚を作れたり顔を見ながら話ができたりと、実は便利なこともありますよね。

渡邉:それはありますね。
リアルなオフィスでいうと、例えば部署や職種が違うと物理的にフロアやビルが違ったりしますよね。3階は営業で、4階は経理みたいに。そうすると経理部は経理の話しかしないし、営業部は営業の話しかしなくなります。大きな会社であればあるほどそういった分断は起こりがちです。
バーチャルオフィスやオンラインというのはそういった、物理的な境界を越えやすい、という点でメリットが大きいように思います。

バーチャルオフィス上では、みんなが何をやっているかが俯瞰して見える点が面白いです。会議室、個人で集中するワークスペース、1on1ルーム、いつでも話しかけていい雑談スペースなど、バーチャル内をゾーニングしており、今誰が何をしているのか、どんな状態か、わかりやすくなっています。画面上にアバターが集まっていると、それだけで一体感を感じるのが不思議です笑。

弊社が経営しているバーベキュー場を切り盛りしてくれている学生アルバイトにもアカウントを発行し、バーチャルオフィスに参加してもらっています。

飲食店で働いている学生アルバイトと、クライアントワークをやっている社員は、プロジェクトが違うので本来はコミュニケーションや情報交換が起きません。大企業でいえば事業部も部署も職種も違う状態です。けれど、バーチャルオフィス上ではフラットに共存することができるため、今まで遠くに感じていたメンバーが席に座って作業をしていたり、会議をしたりしている様子を共有できたりする。不思議と仲間としての横のつながりが感じられるようになります。

実際に使用しているバーチャルオフィス

ファイアープレイス的組織づくりとコミュニケーション

リアルとオンラインの中間ということですね。面白いですね。
少し質問を変えますが、横の繋がりや会社の上司部下の信頼関係などは出社してこそ伝えられる、と信じてきた企業では、オンラインワークになった後に新しく入ってきた社員とコロナ以前に働いていた社員の間の信頼関係構築や、カルチャーの浸透に課題を抱えている会社が多くあります。
新しく入ってきた社員とのコミュニケーションや会社としての一体感の作り方はどのようにしていますか。

渡邉:新しく会社に入社したけれど、オンラインでしか会えていないメンバーや上司、触ったことも匂いをかいだこともないオフィスなど、物理的な関係を切り離したままオンラインで共有できることは、情報くらいしかないのではと思っています。
オンラインだけでは、グループにはなれてもチームにはなれなくて、プロジェクトチームの一員としてみんなのために何かを捧げることで相手からも助けられているという感覚や信頼関係は、オフラインでのみ築かれると思っています。

そのため、弊社では、みんなで合宿に行き、一緒にカレーを作って一緒に食べて・・といった時間を非常に大切にしています。チームにさえなっていれば、どこでどのように働いていても信頼できます。まずはグループからチームにする、この順番が重要かなと。
新しく新入社員が入っても中途社員が入っても、まずはチームの一員になってもらうための時間を最優先事項としてはじめに取り組み、オフラインでやるべきこと5つを共有しています。そうするとその後の働き方は各自が自然と考え始めるようになるので、管理をしなくても回り始めます。

チームや組織として特徴的な点や良い部分などをあげるとしたらどういった点ですか?

蓮池:違いとして感じるのが、働く場の選択肢があることです。
例えば大企業に勤めている友人の中にはリモートでずっと自宅にいる状況だと、オンオフの切り替えが難しいと言っています。働く選択肢が家と会社しかなく、家だけ、もしくは会社だけとなるとみんな辛いですよね。

渡邉:リモートワークが一般化されているようですが今は意外と選択肢がない。「全部リモートで自宅ね」とか「必ず出社してね」とか決められていることが多く、オンラインでもオフラインでも気分次第で決めても良いよ、とは中々認められていない。

蓮池:選択肢があることは、仕事のやる気や満足度に繋がっているのは確かにその通りです。
自由を与えられていることと、社員の人数が少ないことで、一人一人が自分がやらないと、という責任感を持ってやれていると感じています。そして人数が少ないからこそ、お互いがお互いを気にし合うというカルチャーがあって、「今日Slack出てこないけど大丈夫かな」と気に掛けたり、バーチャルオフィスで声を掛けたり、といった時間を大事にしています。

渡邉:バーチャルオフィス、Slack、メール・・。昔と比べて、相手の息遣いというか、状態を把握する手段が増えているというのは、実はコミュニケーションにおいてプラスだと思います。Slackのスタンプひとつでも相手に気持ちは伝えられますし、「今日はあいつ反応ないな」とか「バーチャルオフィスで顔見ないな」など、見える化されます。
誰といつミーティングをしているかは共有のカレンダーで可視化できますし、バーチャルオフィス上で社員同士が話していると吹き出しマークが出るので、「今会議中なんだな」とわかったりします。
コミュニケーションツールが増えたことで、情報や気持ちの伝達方法はとても多様になっており、昔より相手の状態を把握しやすくなることで、ある意味つながっている感覚は増しているとも言えるかもしれません。

リアルなオフィスの価値とは

御社にとってリアルな場の価値、もっというとリアルなオフィスの価値ってなんだと思いますか?

渡邉先ほども説明した通り、オフラインで共有すべき価値5つの中で、特にオフィスの価値として重要なのは、カルチャーなのかなと思っています。

先ほど弊社は自社保有のオフィスがない、という話をしましたが、店舗は3つ所有しています。

独立した当初は、パートナーや昔の同僚をなるべく自分のお店に呼んでいました。なぜかというと自分が何をやりたいのか、どんな会社をどういった思いでつくったのか、わかってもらうのには、自分がつくった場に来てもらうのが一番説明しやすかったからです。

今後、オフィスは企業にとって、より自己紹介ツールの意味合いが強くなっていくのではないでしょうか。「こういうことを事業としてやっていて、こういう文化を大事にしていて、こういった人が働いているから、こういうオフィスなんです」、というように今後はオフィスが名刺がわりになる時代が来ているように感じます。社員も、自分たちのカルチャーが表現された、「来てくれればウチの会社がどんな会社かわかるよ」と説明できる場を求めるようになっていくと思っています。

一方で、例えば今突然一億円を渡されて、あなたらしさに溢れる家を作って良いよ、と言われたとしても、自分らしい自宅を表現、言語化できる人って多くはないはずです。働き方の選択肢がこれだけ多様になった時代、自分や自社らしさ、自分たちのカルチャーや働き方をどんな形で表現していくか。

会社に出社しなくても良い時代、これからのオフィスは、自分たちのアイデンティティの拠り所、集積地になっていく気がします。

オフィスをつくる会社として今後どういった軸で空間をつくっていくべきか大きなヒントをいただいた気がします。
最後に少し抽象的な質問をさせてください。働き方が多様化する中で、なぜオフィスに出社しなくてはいけないのか?

オンオフの切り替えができないなど、キャリアが浅い若手社員を中心に「働くとは?」であるとか、「働くことの魅力」をうまく説明できないと、様々な企業からお聞きします。
お二人にとって「働くことの魅力」とは何だと思いますか?

渡邉:どんな働き方が自分にとって心地よいか、人それぞれ違いますよね。
「働く」と「暮らす」を分けないとメリハリがつかないという人もいて、「月金働いて土日はプライベート」とか、「プライベートでは会社の人とは会いたくない」とか、そういう人もいると思います。一方で、全て公私混同させて、「働くように暮らし、暮らすように働く」という思考を持つ人も増えている。私の周囲では、経営者や個人事業主は混じり合っているケースが多い気がします。

 

蓮池私は「働く」と「暮らす」は完全に分けたいタイプです。

というのも自分が所属するコミュニティを複数持ちたいという気持ちがあるからです。会社は一つのコミュニティであり、家族や飲み友達というように、それぞれを分けて独立させたい。自分はいろんな面を持っていて、一つの側面だけが自分ではないのでそれぞれのコミュニティを回遊することで自分を保っているところがあります。

そういう人は意外と多いのではと思います。

 

渡邉:その意味では、先ほども言った通り選択肢があることが大事ですね。

一つの働き方とかオフィスしかないというよりはバランスが保たれていることが大切で、どの状態が心地よいか、バランスが取れているかは人それぞれ、もしくは状況によって変わるので、選択肢があること、選択できることが必要です。

 

少しカッコつけて言うと、働くとは「社会との接点を自覚すること」だと思っています。例えば無人島に一人だとしたら、ヤシの実をたくさんとっても魚をたくさんとっても誰も反応してくれないから、働き甲斐を感じられない。

 

働くことは社会との接点を持つことで自分の存在意義を確かめることだと思うので、「ヤシの実たくさん取れてすごいね」と認められる。そういった「関わりしろ」で存在意義を自覚すると考えると、自宅で一日中一人で仕事をしていても、中々接点を自覚することは難しい。

働く選択肢が増えたことで、オンラインで接点を自覚する方法は多様化しています。

バーチャルオフィスで話しかける、議事録をSlackにあげたらスタンプでありがとうと言われる、Zoomで手を振る、など色々な関わりしろが増えました。そういう意味では、リアルでの関わりしろというのも改めてリデザインすることで、オフィスの価値を再定義できるのではないでしょうか。

—場を大事にしてつながりを作る会社だからこそ、「働き方」や「働く場」を整理されていて、こちらも気づきの多い有意義な時間でした。

皆様の、これからのオフィスづくりや働くに必要なもののヒントが得られたのではないでしょうか。

本日はありがとうございました。

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