十文字高等学校「学校をより豊かにするデザインプロジェクト」
インタビュー
目次
プロジェクトの概要
アイリスチトセ株式会社が、株式会社CURIO SCHOOLのご協力のもと、2023年5-7月にかけて十文字高等学校の2年生223名(7クラス)が、情報Ⅰの一環で実施した授業プロジェクト「学校をより豊かにするデザインプロジェクト」についてご紹介します。
生徒の皆さんには、アイリスチトセが出したテーマ(課題)「学校生活をより豊かにするモノ」に対して、探究学習プロセスであるデザイン思考を活かし、自ら問題を見いだし、解決するための構想を立て、実践するといった一連の流れを経験いただき、探究活動を通して、企業におけるモノづくりの思考方法について触れていただきました。
各クラス内で予選ピッチを実施した後、選抜された10班 計40名の生徒が、アイリスグループ東京アンテナオフィス(浜松町)に来社。アイリスチトセの社員(教育事業部長、支店長、営業、広報室長)へ最終プレゼンを実施しました。
プロジェクトの流れ
⑴ 基礎編 授業1-4回目 デザイン思考の基礎を習得
⑵ 実践編 授業1回目 オリエンテーション
⑶ 実践編 授業2-3回目 インサイトを考え、解決するアイデアを出す
⑷ 実践編 授業4-5回目 アイデアを形にしてテストする
⑸ 実践編 授業6-7回目 ショートピッチでアイデアを整理する
⑹ 実践編 8-9回目 アイデアをプレゼンテーションする
⑺ 実践編 授業第10回目 アイリスチトセにアイデアを提案する
グランプリを受賞した生徒のアイディア「らくらくカッサー君」
メンバーの「雨の日に濡れた折り畳み傘を置く場所が欲しい」というインサイトから、折り畳み傘を手間なく置ける傘立て「らくらくカッサー君」を提案。
生徒へのインタビュー
今回は情報科の黒田雅幸教諭、グランプリを受賞された有本凛さん 川面心望さん 阿部真奈美さん 堺はなきさん、にお話しを伺いました。
左から有本凛さん 川面心望さん 阿部真奈美さん 堺はなきさん
学校での学びと実社会との結びつきや、働くことを身近に感じさせたい情報教諭の想い
今回のプロジェクトを始めたきっかけを教えていただけますか。
黒田教諭:情報の授業では、通常、座学が中心で基本的なプログラミングやネットリテラシーといった授業が大半です。「課題解決」という単元でデザイン思考を取り入れた実践的な学びができないかと考え、CURIO SCHOOL様に相談をしました。
普段、学校外での社会や企業との接点も少ない学生生活では、できることが限定的で、生徒自身、自分たちの学びが実社会にどう活きるのか、働くということがどのようなものなのかなど、実感が抱きづらいものです。なので、今回のような企業と一緒に取り組めるプロジェクトは、学生にとって、とても良い経験になるのではないか、と考えお願いをしました。お願いしてから初動までとても早く、スピーディーに対応くださったアイリスチトセ様とCURIO SCHOOL様には感謝でしかないですね。
ありがとうございます。そういった背景や課題があったのですね。
では、改めまして皆さん、グランプリ獲得おめでとうございます!
自分たちの班がグランプリに選ばれたときどんな心境でしたか。
有本:すごくうれしかったです。自分たちが選ばれると思っていませんでした。
川面:呼ばれた瞬間、状況が把握できなくて「私たち何班だったっけ?」って確認し合いました。(笑)
堺:信じられなかったよね。まさか!って。
阿部:少し時差があったけど、状況が理解できたときには涙が出るくらい喜び合いました。
こういった企業との取り組みは初めてだったかと思いますが、最初プロジェクトについて聞いたときどう感じましたか。
川面:普段、企業の方とお話する機会もないので、十文字すごいこと始めちゃったなあって(笑)
有本:こんなことするんだーって、ぼんやりこれからの流れをイメージしていました。
阿部:最初の段階ではどんなことするのかまだ全然イメージしきれていませんでした。
堺:学年集会の時に講堂に集まって、企業の方がわざわざ来てくださって規模の大きさにすごいなあって思いました。
インサイトの見直しと原点に戻る大切さ
「らくらくカッサー君」はすごく斬新で、ありそうで今までなかった、面白いアイディアだなと感じました。どうやってアイディアがひらめいたのですか。
阿部:実は最初は傘ではなく、全然違う机に関するインサイトを考えていました。しかし、他の班でも似たようなアイディアが出ていたことや、班のメンバー全員が共感してユーザーになってしまったことが重なり、これといったオリジナルのアイディアが出なくて困っていました。
川面:あとはあれほしいこれほしいと足し算してしまい、机にほしい要素を詰め込みすぎてうまくまとまらなくて。
有本:なので本当のインサイトって何なんだろう?と考えることにしました。
堺:方向性が分からなくなった時、黒田先生からのアドバイスもあり、机に関するインサイトは辞めようという話に落ち着きました。
黒田教諭:アドバイスした内容は詳しく覚えていないけれど、「メンバー同士が周囲を気遣うことができたからこそ、みんなの意見を少しずつ盛り込み、結果インサイトがぼやけてしまっているよね。原点に立ち戻ってみよう!」といった話は確かにしたかな。
全員がユーザーとしてアイディアを出し合った結果、本質的なインサイトがわからなくなり、原点に立ち戻ったということですね。その時はどんな心境でしたか。
全員:(お互いを見ながら)焦ったよね!!!
阿部:周りのみんなが横で段ボールとか使ってプロトタイプを作っている段階なのに、私たちは最初に戻って話し合い。
堺:中間試験も迫っていたし…
川面:新たなインサイトを見つけ出すために、最初に立ち戻ってアイディアシート(全部で9マスあり1人9個のアイディアを書きだせる)をそれぞれ書きました。
阿部:アイディア出しの後、自分以外のアイディアで共感したものにお互いマークをつけあったんだよね。
堺:目的はユーザーを一人に絞ることだったので、誰からの共感も得られなかったアイディアを選ぼうという話になり、それが今回採用された阿部さんの折り畳み傘のアイディアでした。
黒田教諭:唯一、誰からの共感も得られなったアイディアを選んだことにびっくりしたんだけど、阿部さん以外の人はなんで納得できたの?だって共感できなかったからマークを付けなかったわけだよね?
堺:よくよくそのアイディアを深掘りしていく過程で共感できました。
阿部:おおむねそうだね。
有本:この話し合いをするのが2回目だったので、1回目(机の時)よりうまく掘り下げることができたのかもしれません。
細部にこだわりつつ、アイディアをよりブラッシュアップ
黒田教諭:もう一つ、中間試験が終わってアイリスでのプレゼン発表までの期間、可動式になるよう改善していたよね。あれはどういう意図だったの?
阿部:最近、新しくなった昇降口の傘立てを見て、傘立てにもいろんな大きさや形状のものがあり、前のプロトタイプだと対応できないと思い改善しました。
クラス内のピッチではどうやって解決するか思いつかなかったのですが、アイリスでの発表前に川面さんが可動式にする仕組みを提案してくれました。
川面:本当は学校でのクラス内発表が終わった後に気づいたけれど、中間試験があったので終わった後に作り直そうって相談しました。
黒田教諭:改善はアイリスでの発表当日の朝までしていたよね。
そもそもなぜ傘立て本体を作ろうとせず、今ある傘立てに付属させることで完結させようとしたのでしょうか。
有本:現実的に考え、コストをなるべくかけないために付属タイプにしました。十文字学園は1~6年生までいて、各学年クラスが6・7クラスあるので全クラス分の傘立てを買い替えるとコストがかかってしまうし、ちょうど買い替えたばかりだったので。
堺:あとは黒田先生からお金で解決するのではなく、アイディアで解決しようってアドバイスをもらったので、コストをかけない方向性にしました。
そんな「らくらくカッサー君」の特にこだわった部分を教えてください。
川面:立ったままでもかけやすい高さと可動式です。前のプロトタイプは寸劇でも表現しましたが、下の部分に傘の柄をかけるフックをつけていたこと、しゃがまなきゃいけないストレスがありました。なので、立ったままでもかけやすい高さに改善しました。
プロジェクトを通して感じたチームワークの重要性
ありがとうございます。今回のプロジェクトを通して学んだことなど、何かありますか。
川面:真のインサイトを見つける経験は初めてでした。今まではこうしたいって思ったらそれに近いものを買ったり作ればいいと思っていたので…インサイトを見つける過程が新鮮で楽しかったです。
阿部:楽しかった反面、すごく苦労したけどね。
直接的な問題解決ではなく、本質的に問題深く掘りさげるっていうことですね。
堺:初めてデザイン思考を経験して、モノづくりをする企業の大変さやむずかしさに少し触れることができた気がします。
今回、プロジェクトに参加してどうでしたか?楽しかったですか。
有本:特にプロトタイプを作る過程が楽しかったです。
堺:メンバーの仲が良くて、中間試験前の時間がない焦り、他の班との進み具合の違いに対する焦り、少しずつ出来上がっていく楽しさ、いろんな感情が入り混じってたくさん笑っていたよね。
黒田教諭:それはきっとお互いに誰かに任せきりにするとかではなく、4人ともが班の一員として意見を出し合い、コミュニケーションが密に取れた結果だよね。
阿部:そう!みんな参加していました。
堺:あなたがプレゼンの原稿考えといて~といった役割を押し付け合うのではなく、みんなでアイディアを出し合う、ここ直さない?て主体的に話し合いをしていました。
川面:学校が終わって自宅に帰ってからも、スケジュールを合わせてグループ通話を使って連絡し、コミュニケーションを密に取っていました。
有本:すごく楽しかったのはもちろんですが、この企画に時間をかけ、こだわっていくうちにだんだんグランプリを獲りたいとも思うようになりました。
川面:本当にそうで、メンバーに恵まれていて最初からアイディアを出しあって話し合いができる班だったので、最後までやり切りたいなってずっと感じていました。
堺:私も一緒でみんなと一緒に作り上げたもので結果を残したいって。
阿部:全員楽しかっただけで終わらせたくないって気持ちだったよね。
良いチームワークを築き、熱量を持って取り組んだからこそグランプリを獲りたいといった目標に向かって努力し、その結果、今回のグランプリを受賞できたのですね。
有川:私一人だったら、絶対ここまで突き詰めることが出来なかったと思う。
川面:少し恥ずかしいセリフになっちゃうけど、みんながいたからここまでで突き詰めて考えることができました。
最後に、今興味があるお仕事や、将来やりたいことを教えてくれますか。
川面:小学生の時は文房具の開発がしたくて。でもずっとその夢を追っていたわけではなくて、看護師とかほかの職業も考えたことがありました。今はマーケティングに興味あって(文房具含め)商品開発楽しそうだなって思っています。
堺:私はまだ迷っていますが、小学生の時から舞台美術に興味があります。ただ、前は純粋に職業のいいところばかり調べていたけれど、高校生になってよりリアルな部分、例えば受験方法が特殊とか…もわかってきてまだ迷っています。今回アイディアを出し合ってプロトタイプを作ることがすごく楽しかったので、舞台美術に限らずモノづくり全般に興味を持ちました。
阿部:私は具体的に将来何になりたいとかまだ決まっていませんが、アニメを見ることが好きなのでアニメに携わる職業に就きたいです。
有本:私は将来の夢とか、大学に入って何を学びたいとかも全く決まっていません。だけど、今回経験したような、チームワークを活かして何かを解決する仕事も選択視の一つに入れていきたいです。
今回のプロジェクトを通して、たくさんの生徒が主体的に生き生きと取り組んでいる姿勢がとても印象的でした。
生徒たちにものづくりにおける思考方法について体験してもらうことができましたし、プロジェクトを通して少しでも働くことの楽しさや達成感、社会とのつながりを実感し、将来やりたいことや進路選択について考えるきっかけになれたら、当社としては嬉しい限りです。
それと同時に、生徒(ユーザー)の発表を通して学校にはまだまだ潜在的なニーズ(インサイト)が溢れていて、今後の商品開発の原石が沢山あることを再認識できる時間でした。
皆さんのこれからを楽しみにしています!
本日はありがとうございました。