【インタビュー】株式会社イーキューブ「社員ファースト:オフィスに投資する目的とは」
インタビュー
イベントの設営・運営を手がける株式会社イーキューブ。今回は2年に1回ほど移転を繰り返すという同社にオフィス移転の目的や社員を大切にする経営者の想いを幅広くお話を伺いました。
~インタビューメンバー紹介~
代表取締役 畑 裕哉様 / 阿部 加奈子様
移転の理由とオフィス設計のねらい
本日はよろしくお願いします。
まず、御社の事業内容を教えていただけますか。
イベントの制作・運営をしております。
もともとはアーティストのリアルイベントをメインに行っていたのですが、ここ数年はコロナの影響でイベントが開催されない時期が続きました。他方で、元々は多くのお客様が来場するイベントを得意としていたので、そのノウハウを活かしたワクチンの接種会場の運営など、コロナ関連イベントを請け負うことが多かったです。
他には大きな会場でのeスポーツのイベントなど、会場の手配から運営まで、まるごと一式当社で手掛ける、といったことも行っております。
ありがとうございます。
では早速本題に入りますが、御社がオフィス移転に至った経緯を教えてください。
社員の増員でオフィスが手狭になったことが理由です。それが理由で2年に1度ほどの頻度で移転をしています。
オフィスの賃貸を2年契約のような短いスパンでやってらっしゃるのですか。
そうですね。契約は2年更新が多いです。ただ必ず契約満了のタイミングで引っ越すわけではなく、途中でも出ていきます。実はもともとはこのビルをオフィスとして、そして目の前のビルを倉庫として借りていたんですが、倉庫が地上げに遭い立ち退きになったため、オフィスも一緒に移転しました。どうしてもイベントの資材があるので倉庫がないと不便なんですよね。
それで移転したんですが、移転先のオフィスが狭くなってきたのと、このオフィスの1、2階が空いたことから、再度借りることになり今にいたります。
ここの立地(ビル)に戻ってきた大きな要因は何でしょうか。
価格と利便性です。駅が2つあって東京駅からも10分で来ることができます。
阿部さん)全国でイベントがあるので東京駅に近いのと羽田までが行きやすいのがよいですね。
ありがとうございます。
オフィス移転のタイミングとしては増員が理由とのことでしたが、今回の新オフィスでのテーマや、何か実現されたかったことがあればぜひお伺いさせてください。
社員が会社に勤め続けてもらうようにすることです。全て社員ファーストの考えです。どうすればコミュニケーションが取れるか、辞められないためにどういったオフィスにしようかなと常に考えています。
今回の移転を機に変えたいと思っていた点はありますか。
空間としてはおしゃれにしようとは思っていました。大手企業には及ばなくても、それなりに仕事環境に投資をして社員がオフィスに来やすい環境をつくろうと考えていました。
社員様のメンバー構成はどのようになっていますか。
阿部さん)うちは部署というものはありません。仕事によってチームがあるだけです。
それはユニークですね。
ということは多能工という表現がいいかはわかりませんが、いろんな方がいろんな仕事ができるという感じでしょうか。
そうですね。あるのは管理部に経理が2人いるだけです。
クライアントの属性や、案件の難易度やボリュームなどでチーム編成をその都度しているのですか。
そうです。30人もいないので他の会社の一部署といえばそのくらいの人数でしょう。格好つけて分ける必要もありません。
実は名刺を見て部署が書かれてないので不思議に思っていました。
阿部さん)社員はいろんな案件を回るのでその都度違う上司や先輩と仕事をしています。
そのような働きをされているということは、ここのオフィスは特に固定された席はないということでしょうか。
10人くらいは固定席であとは全てフリーアドレスです。
普段はこちらのオフィスでお仕事なさる人が多いのですか。
日によりますね。土日は当然現場に行きますし、月曜日は休みの人が多いので。
人が辞めない会社を目指して
そうなんですね。
イベント業界に普段あまり触れることの少ない私からすると、わからないことが多いです。
見えづらい部分が多くて特殊だからですね。
ただ、建築業界と同じで人手不足な上に離職も多い。楽しいところには集まるけど、楽しくする会社を作っていかないとみんな辞めていく。そんな中でもうちの会社は基本的に人があまり辞めません。
人が辞めないための秘策が何かあるのでしょうか。
固定したチームを作らないことです。
阿部さん)全社員とコミュニケーションが取りやすい環境になっていますね。
毎回あえてばらけたチーム編成を行うのですか。
そんなわけでもなく、毎年行うような同じ案件もあるので、その場合はルーティンのチームで組んだりしますよ。
あとは売上の考え方として、誰も数字を追っていません。追う必要性もない。給料は能力に対して払います。なぜなら能力があれば仕事は必ず入ってくるので。
セールスはよくノルマがあって、それを達成するかどうかで対価が支払われると言ったイメージというかマインドが一般的ですよね。
それは言えているかもしれませんね。
イベント業界のことは勉強不足ですが、イベントにおける御社の強みはなんでしょうか。
スピード感はどこにも負けません。他が3ヵ月かけるものをうちは1週間でやるというようなスピード感です。
それはすごいです。それもノウハウあってこそですね。
現在、新しいアイドルグループの立ち上げをお手伝いさせていただいていて、週に1~2本イベントを立ち上げ、毎週末行っていますが、普通はなかなかできないと思います。人の数で勝負しなきゃいけないところを、ノウハウとコミュニケーションの取り方とかでカバーしています。
我々は「クライアント」とはあまり言わず、「パートナー」として「当社と一緒にやっていただけませんか。」という考え方のもとにやっています。そうすると自分たちのノウハウも溜まりますし。
音楽会社との契約もたくさんありますが、レコード会社は大手なので3,4年で人がどんどん変わっていきます。そこでレコード会社ではなく当社にノウハウが溜まるようになっているのです。
そうなると御社にお願いせざるを得ない状況になっていく・・
そうやって得たノウハウとコミュニケーションでそのスピード感が生まれ、そういった表に見えない強みが御社の中にあるので、今の働き方が実現できているのですね。
一つ例に挙げると、とにかく現場が失敗しないようにどのようにやるのかが重要です。ワクチン接種、ワークショップ等でもそうですが、他の会社ではたくさん事故が起きています。当社は今まで蓄積してきたノウハウをもって現場に臨むので事故は起きません。
案件の最中で担当者が変わったり、次の年同じ案件でも担当者が変わって、もう一度最初から説明やすり合わせが必要だったりしますが、お客様からしたらそれって大変ですよね。御社はそれがないということですね。
当社もボリュームが多すぎると担当者を変えなければいけないこともありますが、変わる時にはお客様には迷惑がかからないようにすごく丁寧に引継ぎをします。例えば通常1人で行くところを2人で現場に行かせて対応したり。
それからうちの会社は会議がとても少ないです。2.3ヵ月に1回の全体会議しかやらない。あとは個々でミーティングをやればいいという考えです。無駄なものは全部削ぎ落して、その分、自分の能力を現場に行って上げられるようにしています。
今のお話を聞く限りノウハウが無いとできないかなと思いましたが、社員さんの平均年齢やボリュームゾーンはどのくらいですか。
阿部さん)平均年齢は30代前半なんです。ただ上が結構年齢高いので…ですので平均年齢でいうと30代前半でも、構成的には20代後半くらいがメインでしょうか。
僕らは人を大事にしたい、大事にしていかないと会社が大きくなりません。他を見ているとどんどん人を入れるけど、どんどん辞めていきますよね。
そうするとノウハウも溜まりませんしね。
なぜ社員が辞めてしまったのかは本来は上が責任を取るべきなのに、数字ばかりを見て組織はなぜ辞めたのか理由を追いません。そっちの方が実は会社を運営するうえでは大切だと思っていて、チームワークをしっかり見て、どうしたら辞めない、辞めさせないかを考える必要があります。適材適所の考えで、その人1人1人に合う仕事を与えています。辞めさせたら会社の負けです。そこに注力しなければいけません。
何か合わない、他が楽しそう、もっと給料のいいところってみんな転職していきますよね。でも実は転職する側もかわいそうで、転職組の3分の1くらいは合わなくて失敗します。だったらうちにいて良い環境を提供していくことが大切。
5年、10年続く社員を作った方が会社にとってもメリットですし、本人にとっても絶対的メリットになる。なぜなら他の会社に行くと1~10あるうち5年で3までしかレベルアップしない。でもうちは5年で7~8までレベルアップさせます。他の会社の倍以上の早さで能力をつけさせる自信があります。
新しく入って来られた方も成長というキャリアプランを描ける人が周りにチームメイトとしているので、先が見えるんでしょうね。
そうですね。現場はきついし覚えることは山ほどあるけれど、つまらない会社こそ辞めていく人が多い気がします。大変だけどそれを乗り越えることによって人は充実感と満足とが生まれます。瞬間的に苦しいけど乗り越えた後は幸せしかない。また次頑張ろうと思える。その繰り返しです。当社の管理職は飴と鞭がすごいですよ。鞭も打ちますが、かといってそれだけではなくて飴もばんばんあげていろんなことに一生懸命チャレンジしてもらっています。そうすると能力がどんどんついてくる。それが会社の財産になるし、本人の財産にもなるので、そういう循環が生まれるようなオフィスを作ってこうということで今回はオフィスに投資をしました。
具体的にどのように空間に落とし込んでいったのでしょうか。
先ず1つはコミュニケーションを取れる環境を作ってあげないといけない。そのために何が必要か考えるとフリーアドレスというのは結構重要だと考えました。部署が無いから会社全体がチームになる。そうすると常に席替えが行える状態でないといけませんので。あとはこういったフリースペースが結構重要かなというのはあります。
みなさんどのスペースも自由に使われているのでしょうか。
人それぞれ好きに使っています。
移転の時の社員さんの反応はどうでしたか。
それなりに凝ったので喜んでいましたよ。移転のたびに少しずつおしゃれにしていっています。社員のモチベーションを上げる、それが目的です。
阿部さん)社員にとって使い勝手がいいオフィスだと思います。働き方を加味しつつモチベーションがあがるような。
それから反応がよかったのが壁面2面のホワイトボードです。最初はこんなにいるかな?という感じでしたが今は結構びっしりと、これしなきゃあれしなきゃと書き込んだり、そこの前で話したりしているのを見ますね。
業務の漏れがないかを可視化できるので重宝しています。オンラインやデジタルでどこかのクラウドサービスなどを使ってやってもいいけど、オフィスに来て「あ、これできてる?できてない?」というのが意外と重要です。サーバー上のフォルダ探してくださいって言っても見に行かないしコミュニケーションが生まれません。
僕らはコロナの時でも基本的に出社でした。自宅でオンラインですとコミュニケーションが難しいのと、教育ができないので。
チーム感が生まれない状態でオンラインになると、そこからチームを作っていくのは難しいですよね。
チームもそうですし、個人の能力も対面で会って話さないと上がりません。表情や仕草を見て何を考えているのか大体察しますよね。良くも悪くもオンラインはそれができません。
声かけも難しいですよね。今の相手の状況もわかりませんし。
あとは家で1人で仕事をしていると病みそうですよね(笑)
とはいえイベント仕事が多ければ、外でも仕事ができる環境ではありますよね。
自由にしています。外でやってもいいし、家でやってもいい。ただ基本的に全員オフィスに来ています。強制はしていませんが。
それはやはりオフィスでしか得られないものがあると、皆が感じているのでしょうね。
社員ファーストの考えでオフィスに投資
先ほど「なぜ私たちを取材したの?」と聞かれましたが、スタートアップから始まって社員が増えていく過程って結構スパンが短い場合が多くて、内装にお金をかけるというのがあまり見たことがないんです。次を見越しているといいますか。その中で御社はしっかりと作りこまれていたので、何か意図があるのではないか、という疑問に思ったのがきっかけでした。
社員ファーストの考えでオフィス環境も社員に還元したまでです。
それってすごく大事ですよね。
いろんな意味で社員が他の会社と比べたときに「絶対こっちの方がいいよね」と思える環境を目指しています。このオフィス環境も給料も、個人の能力をアップさせるのもそうです。全てにおいて他と比べて当社の方が上であるようにしたいとは思っています。
そうですね。人材は流動していきますからね。
辞めさせたら負けですからね。どんな理由でも。
当然辞めていく人はいてゼロではないけど、年間5人辞めるのと1人辞めるのでは差が全然違う。
すごく大事なことですね。
大手企業で社員が沢山辞めていくのは仕方ないかもしれないけど、中堅の100人未満の会社は新卒でも中途でも絶対的に人の採用に力をいれないと勝てません。ブランドがあるからみんな大手に行ってしまう。
来てもらうためにはどうするか。それの1つで当然「オフィス」も出てきます。スタートアップで現在は3,40人、次は50人となっていくそのフェーズで絶対的に必要になってくるのが、魅力あるオフィス環境であり、どこにも負けない仕組みといったところだと思っています。
今回はそこに手を打ったということですね。
ひとまずそうですね。
企業活動の成果を働く社員に還元することで、社員にとって魅力ある会社であり続ける―。
社員をとても大切にする代表取締役 畑様の想いと、株式会社イーキューブの良さに触れられたインタビューでした。
本日はありがとうございました。