【インタビュー】町民に親しまれる食の施設に。~寒川学校給食センターの取組み~

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【インタビュー】町民に親しまれる食の施設に。~寒川学校給食センターの取組み~

2023年9月より稼働を開始した、寒川町立小学校および中学校において給食を提供する施設、「寒川学校給食センター」。今回はその立ち上げプロセスや設計における工夫、運用の今後の展望等について、寒川町教育委員会の井上貴律さんにお話を伺いました。

効率化を目的に給食センターを集約

本日はよろしくお願いします。

早速ですが、今まで寒川町では中学校は給食ではなく、小学校は各学校の給食室で給食を作られていたと伺っています。それに対して今回新設された本施設は町内全ての小・中学校に配給する給食センターとのことですが、本施設の誕生に至った経緯を教えていただけますか。

経緯としてはそうですね、以前から小学校の給食室が築50年ほど経ち老朽化してきていて、そのまま続けていくのか、それとも改修するのかという課題がありました。他方で神奈川県は検討当時の中学校の完全給食実施状況で全国最下位、約30%(現在は横浜市川崎市相模原市等の政令市が実施したため90%を超えている)しか実施されておらず、それは寒川の課題でもありました。

改修か集約か、総合的に検討を重ねた結果、給食センターを一元化し、効率化させようということに決まりました。

その際、小学校ではその場で作られていたものを食べていたのが給食センターからの配送に変わる、それに対する意見はありましたか。

非常に多くの方々から様々な意見があがりました。給食センター建設の意義を理解してもらうまでに約2年半かかりましたが、その道半ばで自分が呼ばれました(笑)

その頃は一部の団体が、学校の自校給食を残して欲しいという署名を何千件と用意して持ってくるなど、町民の理解を得るための課題が山ほどありました。と同時に、中学校で給食を用意して欲しいという意見もありました。

センター方針の説明を行うときは、反対意見だけでなく声なき声という賛成者がいると伝えてきました。そう考えると本当は中学校で給食を出してほしいという人は潜在的に多くいる、そのためにも給食センターを実現すべきと判断して推進してきました。

逆にいうと給食センターという形で集約したからこそ、中学校にも学校給食を提供できるような体制が整えられたということでしょうか。

そうですね。やはり各中学校に給食室を作るにはそれ相応のスペースが必要になるなど難しい面が多く、中学校に完全給食を提供するためにはどうするかという問題を、給食センターという形で解決したということです。

設計の工夫「工場らしさをなくす」

ありがとうございます。

中学校の生徒にも給食を実現するという点以外に、この給食センターによって解決させたかったことや実現させたかったことはありますか。

構想から建設が進んでいく中でもやはり反対される方が多かったので、いかに反対の意見を越えていくかということに注力しました。

例えば小学校で出している給食と同等のものをどのようにすれば提供できるのか、そのために必要な設備や仕組みをどうしていくのか、などですね。

併せて反対意見を聞いていくと給食センターって工場じゃないかと。校内の給食室も実質的には工場のようなものですが、今まで学校ごとに作られたものが、「工場」から出てくるものになってしまうという話をされたので、工場感を無くすことを意識しました。

「工場感をなくす」というのは具体的にどういったことなのでしょうか。

例えば外観を見て頂くと、色合いが工場らしくなかったり、あとは中の通路も木目を多用することで無機質さを無くしたりしています。

教育施設って割と決まったものが定型的に入るという傾向がある中で、いかにして費用面は抑えながら、見た目にもみなさまに親しんでいただけるかというところを意識してやりました。

ありがとうございます。それから私がちょっと気になったのが、こちらのお部屋です。このお部屋も工場らしくないと感じましたが意図や狙いはなんでしょうか。

まず、給食センターに最低限必要な部屋として、子どもや見学者等が来た時に施設見学をした際にここで給食を食べられることが条件になります。席が約120席あるのも寒川の町立学校の児童生徒が見学した後に座って給食を食べるためです。後ろのキッチンについては、食育の視点から実習台を用意することを想定していたことに加え、これまで使用していた町の食育実習室が老朽化してきたので、そういった機能も兼ねられるような施設にしなければならないと考え、講師卓プラス6卓のキッチンを作りました。

特に公共施設の実習室ではなく、多くの人に利用してほしいということから「ABCクッキングスタジオ」のような部屋を目指していきたいとずっと言っていました。

商品の提案を依頼すると所謂、家庭科室のキッチンが提案されましたが、施設関係のものは30年くらい使うと思うのでせめて10年15年後にある程度その時でも周りに見劣りしない設備にしたい。そうなったときを考え、例えば紙媒体のボードではなくてPC等から画像を映すことができるモニターを付けたり、キッチンにしても今の時点で最新のものにしておけば、いきなりそれが急に古くはならないと思うので…。先を考えたなかでどう動けばいいのかというのにはこだわっていましたね。

単なる食育を兼ねた給食センターというよりは、公共施設の集約といいますか、別々にあった施設を将来的にこちらで一か所に集めて効率の良い運営を行いつつ、さらに工場感をなくしていったのですね。

やはり役場関係で新しい箱ものは建てづらいです。当センターの隣地には町営のテニスコートもプールもあることから、それらを一体と捉えた上で1つのシンボルタワーとして、このセンターを町の発信基地にしたいと考えています。

設計をしている段階から、公共建築は最初だけよくてあとは目的以外での利用が行われない、「死んだ建築物」になってしまうとよく言われてきました。要は1年に数回だけの視察と夏場の何回かの授業だけであとはずっと空きっぱなし。そうならないためにも、いかにして利用し続けてもらえるかということは常に考えていました。

町民への還元の場としての利用を想定

その他での使途としてはどんなものを想定していますか。

そうですね。単純に夢の世界で話していきますと、ここ一体のプール、テニスコート、施設全体でイベントを行いたいです。その時はここを休憩兼食事処にすることもできるでしょうし、食の発信基地ということで広い駐車場にキッチンカーを出すなどもできるかなと考えています。

公民館ではないですが町民が使えるような公共の場としての利用を想定しているのですね。

そうですね。3階はどちらかというと町民への還元の場という感じです。要は役場の施設は町民の方の施設と言いながら、なかなか町民が使えないと意味がないので。

他の給食センターでは衛生面等の兼ね合いもあり、入るのに上履きに履き替えなければいけないところも多く、見学の敷居が高くなってしまうと思い、あえて全て下足にしています。

また、より広く認知いただくためにも、インフルエンサーになるような方にここのキッチンを使用していただき、情報を流してもらうことで、町の情報を発信してもらい、さらに利用を促進できるのではないかなと考えています。

家族連れで使ってもらうとか、町民の方に関してはそういうのも含めて考えていきたいですね。

コミュニティーセンターじゃないですけど‥「食育ホール」という名前で浸透させていきたいなと考えています。

それも工場感を無くすための仕掛けでしょうか。

あとは誰でも使えるというところですね。公共施設は、なかなか入りにくいというのがあると思います。入ってトイレを利用したいとか、そのレベルでもいいので使っていただきたく、入口のハードルを下げ入りやすくしています。

今は昔よりも食育そのものを重要視して注力されていると思うのですが、見学エリアの特徴はありますか。

そうですね、給食施設管理の関係でHACCPという工程管理の概念があります。実は100台近いカメラが調理エリアに入っており、それをこの部屋で全部見られるようになっています。そういった形で通常は見ることのできない調理室中をくまなく見られるということと、食育ホールに普通の給食センターと同じように1つ下の調理エリアを見ることができるのぞき窓があるのですが、さらにこの給食センターでは1つ下の階についてはアイレベルで見られる回廊を外に設けており、直接調理作業が調理員と同じ目線で見られるようにしています。

実際自分たちが食べるものがどのように作られているのか、その工程のほぼすべてを見て確認ができます。

一般的な給食センターに行くと、のぞき窓だけであとはパンフレットやセンターの事前撮りとかしかないのですが、それをカメラ映像、回廊からアイレベルで見られることによって、より近くに感じることができるようにしたのです。

あとは施設側で食育発信となるとやはりこの食育実習室でしょうね。少し独特な形にしたのも発信を前提にしていて、机の形状もそうですし、シンクの水栓にもこだわりました。他には人工大理石の天板を付けてみたりして…。

そうなると従来的には給食センターを超えた使い方となりますね。

基本的に1・2階の給食センターは当然機能重視で作ってありますが、この3階については完全に独立、ここだけで機能するような施設にしたいなという話はしています。

仰る通りABCクッキングスタジオのように使い、SNSに載せたりして発信地として使えそうですね。

綺麗ですからね。今はこのセンター整備に協力していただいた方々に視察等してもらうよう営業しています。アイリスチトセさん経由で見たい方がいらっしゃれば視察OKですので(笑)

他の自治体の方が来られると意見交換にもなりそうですね。

ちなみにこの向かい側は従業員の休憩スペースですか?

そうです。給食調理員は基本的に立ち仕事なのと、4000食作るとなると調理する釜も400ℓとかで何百人分ずつとなるので、重さも体に負荷がかかります。

休憩の時くらいはゆっくり休める、椅子と机の休憩室でなく、足を伸ばして休憩できるように畳を用意しています。ご飯を食べたらそこでゆっくりしていただいて、腰かけてもよし、寝てもよし、というかたちで使っていただければと考えています。

ブランディングを取り入れたデザイン設計

施設のところどころにユニークな文字がありますが、これは何かしらの意図があるのでしょうか。

ブランディングの一つで積み木をモチーフにしています。積み木=創造性で子どもたちが作っていろんな形になり、形の構築も自由にできるし発想もできる、且つそれが繋がって文字になる。このような意味を込めて積み木というデザインをモチーフにしました。

施設全体でブランディングしているのでしょうか。

そうですね。ブランディングとトータルコンセプトをアイリスチトセさんとずっと話してきました。外壁の色とかも他の給食センターに多い白にしなかっただけでなく、町のブランディングカラーにしたりして。今の積み木もそのブランディングカラーを軸にしながら統一させて。施設内にも積み木のロゴが入っていて部屋のイメージを大きい文字でご案内しています。

そういった発想や取組みは今までの公共施設にはあまりないですよね。

寒川もブランディングを始めてちょうど3、4年くらいなんですよね。ブランディングに取り組んでいきたいという話になったものの、なかなか実現が進まない…という時に新しい施設となったので、町が依頼しているマーケティングのマネージャーを入れ、意見をもらいながら施設の打合せを行っていました。

何より施設内のコンセプトはバラバラになってはいけないというのがブランドの観点であったので、トータルコンセプトを維持することに注力しました。

あとは色合いのギャップも考えながら、1階は吹き抜けもあって抜け感が広がっていて明るいイメージ、3階に上がってくると少しトーンを落として調理場からの灯りを行燈のように使いうっすら暗くすることで何があるんだろうというようなワクワク感を演出したり、歩いてきて食サロン(会議室兼試食室)に入るとまた視界がどーんと広がってインパクトを高めたり…といったように変化をつけています。そのコーディネートをアイリスチトセさんにお願いしました。

あとは細かいことですが、配送車両にも積み木のデザインを入れています。トラックが学校に走って行く過程で片面で給食センターの広告をしながら、もう一方全部統一デザインで3色の色違いです。それをシャッフルさせながら同じ学校に同じトラックばかりいかないようにという遊び心も入れています。

想像以上にブランディング要素がしっかり入っていますね。

配送車両は3台並べたらそれだけで食育の案内になっていたり、車で走っているときは左の説明面を歩行者側から見えるようにしていたり。

考え抜かれていますね。

最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか。

そうですね。本業である給食センターが9月からが本稼働なので、今は少しバタバタしていますが、その後は食育施設としての機能だけでなく、町民の方が使えるような施設、食育というとどうしても勉強という意識が強いですが、単純に「食」にまつわる施設にしていきたいです。

料理施設でもいいですし、地域の方々の食事会を、「みんなでご飯を作ってしませんか」でもいいですし、そういった様々な形でこの施設を広く使っていただけるように周知をかけていきたいです。

さらには立地のメリットを活かして、現実的には厳しいかもしれませんがナイトプールのような夜イベントを開催してみるとか、あとは、給食センターは夏休みに学校が休みで稼働しないので、夏祭りや自治体主催の夏フェスを行ってみたい、今はまだ具体化はできていないものの、色々なイメージは持っています。

初見の方に「給食センターぽくないね」とおっしゃっていただくのが正解なのかなと思っています。これって役場の施設なの?と言われるくらいがちょうど良い。そういうイメージで作って、その通りに何人かから言われたのでよかったなと。

これから運用が始まる中で、様々なことが起こるとは思いますが、こういった思いを少しずつ実現できるように、できるところから実現していきたいと考えています。

効率化を図るために小・中学校の給食センターを一元化した「寒川学校給食センター」。単に給食を提供するためだけの施設ではなく、町民の皆さんにご利用いただき親しみやすい施設にするための様々な工夫や今後の展望をお伺いすることができました。

本日はありがとうございました。

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