オフィスレイアウトの基準寸法や適切な通路幅は?
オフィスレイアウト・デザイン・設計
オフィスをレイアウトする際は家具の配置だけでなく、通路幅も考慮する必要があります。狭すぎる通路幅では人の行き来がしづらく、広すぎる通路幅ではスペース効率が悪くなります。
通路幅に限らず「狭い」「広い」の定義は主観にもとづくケースが往々にしてあるため、通路幅を考慮したオフィスレイアウトを導入する前に、目安となる通路幅を理解する必要があるでしょう。
この記事では通路幅の決め方や目安、法律による制限に加えて、通路幅を考慮したオフィスレイアウトをご紹介します。働きやすいオフィスレイアウトの導入を実現させるため、ぜひ最後までお読みください。
目次
オフィスレイアウトの基準寸法
快適なオフィス環境を作る際には、オフィスレイアウトの基準となる寸法を把握しておきましょう。オフィスレイアウトを考えるときに重要となるのは、1人あたりのデスク面積・通路幅の寸法です。
■1人あたりのデスク面積
従業員1人あたりのデスク面積は、法律で定められているわけではありません。一般的には従業員1人あたり幅1000~1200ミリ、奥行き700ミリ程度のスペースが必要とされています。
標準サイズのオフィスデスクは奥行き700ミリのケースが多く、パソコンを設置しても別の作業を同時にできる程度の余裕があります。ただし、これはあくまでも一般的な目安なので、必要なデスク面積は作業内容や状況によって異なります。
たとえば、デスクサイドに収納を設置する場合やソーシャルディスタンスを確保する場合は、デスク面積を広めにとったほうが良いでしょう。一方でパソコン作業以外に資料を見たり書類を扱ったりすることがない場合は、デスク面積が多少狭くても問題ないでしょう。
■通路幅
従業員の快適性と安全性を確保するためには、適切な通路幅を設定する必要があります。一般的なオフィスの通路幅は、従業員1人あたり600ミリです。通路で従業員がすれ違うことを想定すると、1200ミリの通路幅が必要です。
適切な通路幅は、オフィスのレイアウトによって異なります。たとえば対向式レイアウトの場合、900ミリの通路幅が基準となります。通路幅を1200ミリ確保すると、通路にゆとりを持たせることが可能です。
背面式レイアウトは座席と座席の間が通路になるため、対向式レイアウトよりも広い1800ミリの通路幅が必要です。幅が狭いと横向きでしか通れない可能性もあるため、レイアウトに応じて通路幅を設定するようにしましょう。
適切な寸法を考慮する2つのメリット
オフィスレイアウトを考える際には、適切な寸法を心がけることが大切です。基準よりも狭い寸法の場合、従業員が働きにくくなる、災害時に避難しにくくなるなどが懸念されます。適切な寸法のレイアウトに仕上げれば、従業員の快適性や安全性を高められる可能性があります。
■業務効率が上がる
適切な寸法のオフィスレイアウトは、従業員の業務効率の向上が期待できます。人通りが多い場所では、思うように移動できないこともあるでしょう。通路幅を広くとるとオフィス内を行き来しやすくなるため、従業員の移動時間を削減できます。
デスク面積が不十分な場合、思うように作業できず、業務効率の低下も懸念されます。作業内容に適したデスク面積を確保することで、従業員が業務に集中しやすい環境を構築できるでしょう。
また、労働環境が快適になると従業員同士の雑談が生まれやすくなり、社内コミュニケーションが活性化や良好な人間関係の構築につながる可能性もあります。何気ない会話から新たなアイデアが生まれ、社内にイノベーションを起こすきっかけになるかもしれません。
■安全性が確保できる
オフィスのレイアウトを適切な寸法にすることは、従業員の安全性の向上にもつながります。オフィスビルをはじめとした建物は、建築基準法に沿って建てられています。建築基準法の基準は、地震や火事などの災害時の安全性が考慮されたものです。
しかし、従業員の人数やレイアウトによっては、建築基準法の要件を満たしていても、安全性に対する懸念が残るケースもあるのが現状です。たとえば通路にオブジェを置いている場合、避難時の妨げになる可能性があります。
企業には安全配慮義務があるため、従業員の安全を確保しなければなりません。従業員の安全性を確保するという観点では、オフィスレイアウトを考える際に、オフィス内の整理整頓を徹底する、通路に邪魔なものを置かないなど、通路幅以外のことも注意する必要があります。
オフィスにおける通路幅の目安
オフィスにおける通路幅は、人やモノ自体の寸法を把握したうえで考慮することが大切です。本章では実際のオフィスを想定して、通路幅の目安となる数値をご紹介します。
■メイン通路の幅
- 一人通るための通路幅…60〜80cm
- 2人通るための通路幅…120〜160cm
- 車椅子が通るための通路幅…90cm〜
一般的にメイン通路は人の通りが多く災害時の避難通路としても使用されるため、できる限り広めに幅を取るのが理想的です。人が一人通れる幅として最低でも60cmは必要とされていますが、広さに余裕を持たせるのであれば80cmの幅を取りたいところです。
多くの場合、メイン通路は人がすれ違うことも想定されます。一人が歩くのに60cmの幅が必要となるため、2人が同じ通路を歩くことを考えると最低120cmの幅が必要となります。さらに余裕を持たせるならば、140〜160cmは確保したいところです。
車椅子はそれ自体で70cmほどの幅があります。そのため、通路は90cm以上、他の社員とすれ違うことを考えて150cm以上を確保すると通過しやすくなるでしょう。
■座席と座席の間の通路幅
- 座席と座席の間の通路幅…160〜210cm
仕事をしている状態の座席幅の目安は40cmです。人が歩く通路幅80cmを考慮して、デスクの座席間で40cmの幅が必要となります。そのため、背面に座っている人との座席の間は最低160cm欲しいところです。
広い動線を意識した通路幅を考慮するなら、180〜210cmの確保を目指しましょう。他の座席の人とぶつかることなく、動線としても使いやすいため快適さを維持できます。
■デスクとデスクの間の通路幅
- デスクとデスクの間の通路幅…160〜210cm
デスクとデスク間の通路幅は、最低でも80cm確保すれば良いでしょう。90cmを超える幅があれば、人がすれ違う場合でも横向きで通過できます。
デスクは種類によって幅や奥行きが異なるため、選ぶ際は設置場所にどのくらいのスペースがあるのかも考慮しましょう。通路幅を検討する際は、配置するデスクのサイズも把握しておくことが大切です。
種類別の寸法目安は次のとおりです。
デスクの種類 | 幅の目安 | 奥行きの目安 |
コンパクトタイプ | 100cm | 60cmから65cm |
標準タイプ | 120cm | 70cmほど |
左右にワゴンが付いたタイプ | 140cm | 70cmほど |
重役クラスが使うタイプ | 150cm以上 | 75cm以上 |
デスクについて、奥行きは標準的なもので70cm、コンパクトなもので60〜65cm、大きめなものだと75cm程度となります。使用する人の業種や作業内容で選ぶと良いでしょう。資料や書類を広げて作業する機会が多いのであれば、幅や奥行きに余裕のあるデスクが向いています。
標準的なデスクの幅は120cmですが、外回りが多い営業職が使うコンパクトなデスクであれば幅100cm、左右にワゴンがついているデスクであれば幅140cm、重役クラスが使うデスクであれば幅150cm以上が目安となります。
■座席背面が壁の場合の通路幅
座席の背面が壁の場合、座席の後ろを他の社員が通路として使用するかどうかで幅の目安が変わります。
- 座席背面が壁の場合…85cm
- 座席背面が動線の場合…120cm
まずは座席背面が壁の場合、座席の幅40cmと人が横向きで通れる幅45cmを足して、85cm程度を確保すれば良いでしょう。
次に、座席の後ろが他の人の動線になっている場合は、人が歩く幅80cmと座席の幅も考慮して、120cm程度を確保するのがポイントです。出入り口付近で人の通りが多い場合は160cmほど確保されているとすれ違いやすくなります。
■書棚や収納庫がある壁面とデスクの通路幅
- デスクの座席側と壁面が面している場合…145cm
- デスクの側面と壁面が面している場合…105cm
壁面収納庫や壁際に書棚を設置しているオフィスも多く見られます。基本的に人が一人通れる幅として60cm、収納棚の開閉には45cmの幅が必要です。
デスクの座席側と壁面が面している場合は、人と収納棚の開閉に必要な距離に座席の幅40cmを追加して、合計145cmの幅が必要です。
デスクの側面と壁面が面している場合は、座席分の幅は考慮しなくて済むため、最低限必要な通路幅は105cmと考えられます。
オフィスレイアウトに関わる法律と通路幅の規定
この章では、建築基準法、消防法、労働安全衛生規則の観点から、法律と通路幅の関係を解説します。
■建築基準法
建築基準法は、建物を建築する際に守るべき最低限の基準を定めた法律です。通路の両側に居室がある場合や廊下幅に関する規定はありますが、オフィス内の通路幅に限定した規制はありません。
前述した通り、一人分の幅で良い場合は80cmほど、人がすれ違うことを想定するなら最低120cmは確保しておくと良いでしょう。
出典元:建築基準法施行令
■消防法
消防法は火事が起きた場合に備えた法律です。オフィスの通路幅に対する規定はありません。
ただし、消防法では避難経路の確保が求められています。火事が起きた際の避難を想定した場合、オフィスのメイン通路は避難経路として通行しやすいことが望まれます。そのため、家具や大きな荷物などでメイン通路を狭くしないように周知徹底も大切です。
また、消防隊進入口マークのある窓の付近へ家具を置く際も注意しましょう。消防隊進入口マークとは、オフィスの窓に貼付されている赤い逆三角形マークのことです。有事の際に消防隊員が進入口として使用するため、家具や荷物で塞いでしまうと救助活動に支障が出てしまいます。進入口前はスペースを空けておくとともに、そこからの動線はある程度通路として確保しておくと良いでしょう。
出典元:消防法
■労働安全衛生規則
労働安全衛生規則は、労働の安全衛生に対しての基準を定めた厚生労働省の省令ですが、通路の最低幅に関した規則はありません。そのため、通路幅を考慮する際にはあまり気にしなくて良いでしょう。
ただし、照明に関しての規則が設けられています。労働安全衛生規則に抵触しないためには、通行の妨げにならないよう適当な照明が必要です。また、通路面から高さ180cm以内には障害物を置いていけないと定められているため注意しましょう。
※出典元:労働安全衛生規則
オフィスレイアウトのパターン5選
通路幅の観点から、オフィスレイアウトの種類をご紹介します。それぞれどのような業務に適しているのか、通路幅を確保しやすくなるポイントにも触れながら解説します。
■対向型レイアウト
対向型は、対面するようにデスクを向かい合わせに設置した島型のレイアウトです。コミュニケーションが取りやすく幅広い職種に適している形態として、多くの企業で採用されています。
デスクをまとめて設置するため省スペースでの運用が可能で、通路の幅や棚などを設置する場所も確保しやすいのが特徴です。室内の広さにあまり余裕がない場合にも向いています。
フリーアドレスを導入する際は、対向型を採用する企業が多く見られます。人によっては視線が気になる場合があるため、デザイナーや設計など一人で集中して作業する業種の場合はほかのレイアウトを検討してみても良いでしょう。
■背面型レイアウト
背面型は、背中合わせになるような状態でデスクを設置した形態です。隣席や背後の席に座っている人に声をかけやすく、協同作業が必要になる場面が多い企画や開発系の部署に適しています。
スペースの利用効率がよく通路幅を確保しやすいため、狭いオフィスでレイアウトする場合や人員が増えてきたときにも活用しやすいのが特徴です。
■同向型レイアウト
同向型は、全員が同じ方向を向くようにデスクを並列に設置する形態です。会議室や研修室で採用されることも多く、スクール式レイアウトとも呼ばれます。電話オペレーターのように、おもな業務が個人のデスクワークとなる部署に向いているレイアウトです。
通路が多い分、必要となるスペースは多くなります。
■クラスター型レイアウト
クラスター型は、列ごとに向きを変えたデスクを互い違いに配置するレイアウトです。列の間を収納棚やパーテーションで区切ると、よりプライバシーや個々のワークスペースを確保しやすくなります。
一人で集中して作業しやすいため、個人の作業を重視する設計部門やデザイン部門などに向いているレイアウトです。また、外資系のオフィスにも多く採用されています。その一方、デスクの側面を通路にするため、面積の使用効率はあまり良くありません。
クラスター型のオフィスで十分な通路幅を確保するためには、一人ひとりのスペースの大きさが重要です。一人分のスペースはそれぞれ仕事をするのに必要最低限の大きさで配置するのが望ましいです。
■ベンゼン型レイアウト
ベンゼン型は、120度角のデスクを組み合わせてY字型に並べる形態で、コミュニケーションを取りやすいのが特徴です。ワークスペースを広く取れるため、資料や図面を大きく広げる業務に適しています。
その反面スペース効率はあまり高くなく、配置できるデスクの数は限られます。他のレイアウトと比較して、人員収容の効率も高くはありません。ベンゼン型は、壁向きにデスクを配置するのが一般的です。そのため、オフィスの中心部を動線として確保できます。
また、どのレイアウトでも人の出入りがしやすいように入口ドア付近のスペースを広めに取る必要があります。地震や火事で避難する際、出入口で人が詰まらないようにするためには、入口ドア付近の通路幅は最低でも120cmは確保したいところです。
レイアウトで寸法を考える際の注意点
オフィスのレイアウトで寸法を考えるときには、次の3つの点に注意が必要です。
- 寸法に関する法令を遵守する
- 転倒防止対策をする
- プライバシーを考慮する
それでは、各注意点を詳しく解説します。
◾️寸法に関する法令を遵守する
「オフィスレイアウトに関わる法律と通路幅の規定」で紹介したとおり、オフィスのレイアウトにはさまざまな法律が関係します。違反すると罰則が科せられるだけでなく、従業員の安全性を確保できなくなるため、寸法に関する法令は遵守するようにしましょう。
オフィスレイアウトの寸法に関するおもな法令は、建築基準法と労働安全衛生規則です。建築基準法では、次のように通路幅と廊下幅の基準を定めています。
- 通路の両側に居室がある場合:1600ミリ以上
- 通路の片側のみに居室がある場合:1200ミリ以上
労働安全衛生規則では正常な通行を妨げない程度に、採光や照明の方法を講じなければならないとしています。照明を複数設置する場合、800ミリ以上の間隔を空けなければなりません。
◾️転倒防止対策をする
レイアウトで寸法を考える際には、従業員の安全性を確保するために、転倒防止対策をしておく必要があります。パーテーションや大型のホワイトボードなどの背の高い設備は、地震が起きたときに転倒し、従業員が怪我をする可能性があります。
背の高い設備は万が一のときでも転倒しないよう、壁や床に固定しておきましょう。このほかには、設備の脚部分に転倒防止金具を取り付けて防止策を講じる方法もあります。転倒防止アイテムの中には、壁や床に穴を開けなければならないものもあるため、賃貸オフィスの場合は管理会社に確認しておきましょう。
また、各種設備の転倒防止に関するノウハウは、業者が豊富に持ち合わせているケースも少なくありません。オフィスのレイアウトを業者に依頼する際には、設備の転倒対策も踏まえてサポートしてもらうようにしましょう。
◾️プライバシー配慮を考慮する
オフィスレイアウトの寸法は、業務に必要なスペースや不便のない通路幅であることが大切です。このほかにも、寸法を考える際には企業の機密情報や従業員のプライバシーにも配慮する必要があります。
たとえばトイレは、通路や共有スペースに近い場所に設置しないようにしましょう。人通りが多い場所にトイレを設置すれば、利便性は高まるでしょう。しかし、トイレに入る姿を他人に見られやすい場所にあると、プライバシーが守られません。
また、機密情報が漏洩すると、企業に大きなダメージを与えます。そのため、機密情報を扱う従業員は、できるだけ人通りが少ない場所に配置できるようなレイアウトを考えましょう。
まとめ:オフィスの通路幅は余裕を持って確保しよう
快適なオフィスを実現するためには、通路幅の考慮も大切です。必要とされる幅は、通路の場所や設置されている家具などによって異なります。
オフィスの広さに余裕がない、室内に設置するものが多いなどの理由で十分な通路幅が確保できない場合は、オフィス家具をまとめて配置したり、ペーパーレス化で収納棚を減らしたりしてスペースを作るのが効果的です。フリーアドレス制を導入して、オフィスのレイアウトを根本的に見直すことも考えられます。
ぜひこの記事を参考にして、十分な幅を持った通路を確保した働きやすいオフィスを実現してください。