【商品開発ストーリー】海洋プラスチック再生樹脂を活用したオフィスチェア「VIGOR-OBP」

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【商品開発ストーリー】海洋プラスチック再生樹脂を活用したオフィスチェア「VIGOR-OBP」

環境問題への取り組みは、今や企業活動の中で切り離せない課題となっています。

その中でオフィス家具を製造販売するアイリスチトセは、海洋プラスチック再生樹脂を利用したオフィスチェア「VIGOR-OBP」を2022年5月に発売し、現在多くの企業から問合せをいただき、採用されています。

その開発背景について、アイリスチトセ株式会社 代表取締役社長の大山 紘平氏にインタビューを行いました。

海洋プラスチックごみ問題へのアプローチ

本日は国内家具メーカー初、海洋プラスチック再生樹脂を活用したオフィスチェア「VIGOR-OBP」の開発背景についてお伺いします。よろしくお願いします。

早速ですが、今回このVIGOR-OBPの開発に至った経緯について教えていただけますか。

ご存じの通り2015年に国連サミットで採択されたSDGsですが、ここ数年で一段と認知され、企業はこれに対して真剣に取り組まなければならないという現状に置かれています。

SDGsで定められている17のゴールの中には「14海の豊かさを守ろう」が一つの大きなテーマとしてあり、その他「15陸の豊かさも守ろう」では「生物多様性」が重要な要素の一つとなっています。

その中でも近年、プラスチックごみが社会問題、地球環境問題として大きく取り上げられるようになってきました。

ウミガメの鼻にストローがささっている写真が世界で出回って衝撃を与えました。

これは非常に問題だよねという問題提起はあるものの、企業としてこの問題に対して直接的に取り組んでいる例があまりない状況です。

そこで当社としては「海洋ゴミを活用できる方法はないか。」という着眼点を持ち、実現できるか調べてみると、ゴミを分別し洗浄、ペレット化することで、マテリアルとして再資源化できることがわかりました。

この海洋プラスチック再生樹脂を利用した商品を開発できないか、当社のようなオフィス家具メーカーが最も多く再生樹脂を利用できる商品は何かと考えた結果、「オフィスチェア」にいきついたことが、今回開発に至った経緯です。

海洋プラスチック再生樹脂を使うといっても、たくさんの量を使わないと貢献度が低くなってしまいます。

オフィスチェアは耐過重などが求められるその性質から、重くしっかりとした作りなのですが、それによって必然的に使用する樹脂量も多く、そこに海洋プラスチック再生樹脂を使用することができれば、沢山の海洋プラスチックゴミが再度製品として使われることになります。

そして私たちがこの製品をお客様にお届けできればできるほど、地球環境問題に取り組む活動につながっていくのではないか。

また、アイリスグループは創業時の大山ブロー工業時代から、樹脂成型品の製造・販売で業績を伸ばしてきた企業です。

今回のプロジェクトは樹脂を通して社会貢献できる、私たちが取り組むべき課題と感じたこともあり、意義のある活動ということでこの製品の開発がスタートしました。

ありがとうございます。商品開発の過程について質問がございます。

原材料の調達から製品の加工までのフローでこだわったポイントを教えていただけますか。

調達に関してはトレーサビリティという言葉でまとめられると思います。

フローとしてはまず海岸から50キロ圏内のごみを一次業者に回収してもらい、集めたごみを分別。

そしてプラスチック再生業者が分別したゴミを洗浄、加工しペレットとして再資源化した後に、製品パーツを生産する樹脂成形の工程に入るわけですが、本当に回収した海洋プラスチックゴミを使用しているかどうかということをチェックする体制がないと、トレーサビリティが崩れてしまいます。

そこでトレーサビリティを確保するために、しっかりとした認証プログラムに沿って、回収から再生樹脂化するという点にずっとこだわりを持って開発を進めていました。製品に対して、安全性や機能の有効性が認められたことを認証するTUV認証()というものがあるのですが、そういった厳格な認証プログラムに基づいて、間違いのないものとしての海洋プラスチックを使用する、認証を取るということに我々はこだわりました。

具体的には今回のプロジェクトでトレーサビリティを確保するために、海洋プラスチックゴミをペレットに再資源化する工場においてTUV認証を取得しております。

※TUV認証とは機械・電子機器や医療製品などあらゆる製品に対して、安全性や機能の有効性が認められたことを認証するもの。TUVとは、ドイツ語の一般名詞「技術検査協会(Technischer Überwachungs-Verein)」の頭文字を取った略称で、第三者的な立場より、機械・電子機器などあらゆる製品の安全規格への適合性について検査・認証を行う第三者認証機関を指す。

 

トレーサビリティをしっかり確保するという取組みの中で大変だったこと、あるいは開発全体を通して思うようにいかなかったところはありましたか。

「色」ですね。

どうしても海洋ゴミを集めていくと色が濃くなっていくので、ブラック一色ならできますが、これよりも浅い色を作りたいとなったときには、そこからまた使用する海洋プラスチックゴミを色ごとに選別をしなければいけません。

これは結構回収から製造過程において労力もかかりますし、色の安定性といった面でも難しい。ブラック色から発売を開始しましたが、色展開に関しては今も開発中です。

企業のSDGsやサステナブル活動を数値化

今回のオフィスチェアシリーズの販売後の反応についてお聞きしたいのですが、例えばどういった企業に採用いただきたいであるとか、どのような企業に求められていると感じますか?

1番は大手企業、中小企業関係なく、SDGsに積極的に取り組んでいる企業ですね。

企業によってはサステナビリティ推進部であるとかSDGs経営本部が設立されていて、特に大手になればなるほどSDGsやサステナブルというキーワードが入った専門部署や推進室のようなプロジェクトチームがあって、具体的なアクションを起こしていくという活動を行っています。

そういった企業は非常に環境問題に対しての意識も高く、親和性が高いのではないかと思っています。

しかし実態としてはSDGsへの取り組みというものはかなりぼやっとしていて、具体的に活動を数値で見える化することはなかなか難しいのが現状です。

そこで今回のチェアの一つであるVIGOR-OBPは、1脚あたり2.35㎏の海洋プラスチックゴミを使用していて、採用する数量によって「海洋プラスチックごみを〇〇kg削減できる」というSDGsの取り組みを明確な数値として打ち出すことができます。

100脚であれば235㎏になりますし、1000脚であれば2,35tの海洋ゴミをアップサイクルできましたというように、活動報告を数字できっちり示すことができるというのは、ステークホルダーに対してもわかりやすく伝えられるので、「SDGsの取り組みをしていて何かしら成果を数値化したい。」という会社のニーズとマッチしているのではないかと考えています。

大手企業向けの家具かなと勝手ながら認識していましたが、そうではなくサステナブルやSDGsに真剣に取り組んでいる企業にベストなチェアという認識が正しいですね。

そうです。ESG投資などを考えたときに大義名分ではないですが、SDGsに関して取り組んでいることを定量的に表せられるという点は、魅力的であり大きなポイントだと思います。

今後のアイリスチトセのサステナブルな取組み

今後の環境問題に対する取組みやビジョン等ございましたら教えていただけますか。

一番はカーボンニュートラルに向けた動きをもっと加速度的に進めていきたいということです。

その1つの活動として、森の管理も行っていきたいと思っています。

当社の本社を構える宮城県の森を何haか実際にFSC認証の取れるようなかたちで森をきれいに管理し、植樹活動等も行いながら、そこで生まれるJクレジットをもとにカーボンオフセットをしていくという事業を立ち上げたいと思っています。

それとは別にもう1つ、VIGOR-OBPのような海洋由来のチェアに対して、海洋由来のクレジットをつけていきたいと考えています。藻場をつくっていくことで藻がCO2を吸収する、それに対して発生するJブルークレジットでオフセットする、そういったことができるとゴミの解決にもなり、カーボンニュートラルの取り組みにもなるので。

単純にJクレジットを購入してカーボンオフセットをするだけでなく、自社で二酸化炭素を減らすようなことを「持続可能な環境配慮型の取組み」として推進していきたいと考えております。

最後に、今回のインタビューはアイリスグループの新しい拠点、目黒オフィスで取材させていただいていますが、同オフィスには海洋プラスチック再生樹脂を活用したチェアを採用したほか、FSC認証取得の木材をした什器など、木材を多用しています。

FSC認証の木材や、そもそも木材を使うことについてのメリットはなんでしょうか?

持続可能な資源であり、リサイクルしやすいという点です。

一度使用した木でも粉砕して加工すると、パーチクルボードのように木材として使用できて、バイオマスにもなります。

林野庁や日経新聞等でも取り上げられていますが、日本の今の問題は、FSC認証で管理された木、またはそうでない木に関して、最終的にその木(間伐材)の使い道が不足しているというところにあります。

伸びていく木は成木よりもCO2を吸収しやすく、炭素を蓄えていきます。しかし周辺全ての木が成長を終えると高い木々に覆われて地面に光が届きにくくなり、新しい木が成長しにくい環境となってしまいます。

よって間伐といって間引いて木を伐採することで地面まで光を届きやすくする、また伐採した後に木を植えるという作業を続けていくことが重要なのですが、切った木をどうするかということに対して、現状は一部バイオマス発電等発電の材料などとして使用されていたりしますが、当社としてはオフィス家具を製造・販売するというBtoBプラットフォームの中で、オフィス家具として間伐材を使用することで、持続可能な木材の使用量を増やすという点でサステナビリティにつなげたいと考えています。

木を植樹する、育てる、切る、そしてしっかり使ってあげる。日本は「使う」の部分でまだまだ活路が不足しているので、ここを私たちがオフィス家具メーカーとして、スチールを使う比率を減らしていきながら、CO2を吸収した木をたくさん使うことで環境サイクルがまわるように、私たちが主体性をもって取り組んでいく。

ここが一つ大きなポイントかなと思います。

 

スポット的に環境問題に取り組むのではなく、経済活動のサイクル全体を見た中で適正な仕組みを作ることで、当社の商品を企業が購入して消費する活動が、結果として環境に配慮したサイクルとなっていく。

そのサイクルを主体的に作るという大山社長の想いを感じることのできたインタビューでした。今後の新たなサステナブル商品や活動が発表されることを楽しみにしています。

本日はありがとうございました。

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