【インタビュー】三井不動産株式会社-ワークスタイリング-「コロナで変わるワークプレイスの今後」

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【インタビュー】三井不動産株式会社-ワークスタイリング-「コロナで変わるワークプレイスの今後」

コロナ禍で働き方は大きく変革しました。テレワークや在宅勤務が当たり前になり、働き方の自由度が高まる一方で、生産効率やコミュニケーションに関する課題が表面化され、多くの企業が今後の働き方を模索しています。そんな中、企業に働く場を提供するサテライトオフィスの運営企業は、コロナの影響をどのように捉え、ワークプレイスの今後についてどのような見解を持っているのでしょうか。

コロナ以前より多拠点型サテライトオフィスのサービスを開始し、現在契約企業約800社、会員数24万人、全国約150拠点という日本最大級のサテライトオフィス「ワークスタイリング」を展開する、三井不動産 ビルディング本部 ワークスタイル推進部 ワークスタイリンググループの日高あゆみさんに、お話をお伺いしました。

「働く場所」ではなく、「新しい働き方」を提供する

本日はよろしくお願い致します。

まずはワークスタイリングについて教えいただけますか。ワークスタイリングはどのようなコンセプトでどのように始まったのでしょうか。

ワークスタイリングは20174月にオープンしました。その頃はちょうど働き方改革という言葉が流行っていた時期かと思います。各社が対応を検討する中で「生産性の高い働き方をしよう」とか「効率的な働き方をして長時間労働はなくそう」などの想いはあるものの、具体的に何をしたら良いのか悩んでいたと思います。サテライトオフィスは、そういった働き方改革のソリューションの一つとして注目されていました。

当時は、どちらかというと各社がそれぞれサテライトオフィスを準備しようという動きもありましたが、場所の選定や拠点数の確保、運営のコストなど課題は多く、どの企業でも自力でできる訳ではありません。そこで私たちが場所を提供して皆様にご利用いただくのが良いのではないか、というところから構想が始まりました。

当初イメージしていたのは、営業など外出が多い職種の方が移動時間の削減を目的として、取引先の近く、あるいは会社から自宅までの帰り道に、わざわざ会社に戻らなくても仕事ができる場所を提供することで、便利にご利用いただくというものでした。テレワークといった働き方がまだまだ確立されていない時代でしたので、場所を提供することで、皆さんの働き方自体も新しくしてもらおう、というのが我々のコンセプトでした。

初めはどのような業種・職種の方がどのように使っていたのでしょうか。

当初はリモートワークを可能にするツールを率先して取り入れていたという点で、IT系企業などが多かった印象です。

職種については、社外に出かけることの多い営業の方に多くご利用いただいていましたが、テレワークが浸透したことで、現在は本当に多様な業種、職種の方にもご利用いただいています。

利用のされ方に関しては、取引先や外出先の近くで、アポイントの前後の時間に利用することが多かったかと思いますが、現在は「会社よりもっと生産性が高くなる場所で働きたい」や、「在宅で働いていても集中できないのでワークスタイリングで働こう」など、目的に合った働く場所の選択肢としてワークスタイリングを選んでいただいている方も多いようです。

オープン当初、どのような広告やマーケティング戦略で進めて展開していましたか。

移動時間が削減できるという点のほか、内装や空間についてもかなりこだわっていますので、働くことで気持ちがリフレッシュできたり、クリエイティブな発想も生まれやすいといったことをPRしていました。また、管理者目線として、ワークスタイリングではQRコードでの入退室をする仕組みがあるので、従業員の勤怠管理をすることができるという点もお伝えしていました。

知り合いたい、学びたいという願いをサポートする

世の中には多くのサテライトオフィスがある中で、ワークスタイリングの魅力はどこにあると思いますか。

ハード面とソフト面の両方に魅力があると思います。

ハード面については、全国約150拠点に展開していることに加え、拠点ごとにコンセプトの異なるこだわった空間を提供している点も挙げられます。オープンスペース・会議室・個室など様々な働き方に対応したワークスペースをご用意しているところも大きな魅力かなと思っています。会議室一つとっても、今回インタビューに使っていただいているような来客向けのものから、カジュアルなアイデア出しに最適な部屋、ブランコがあるような遊び心に溢れた部屋など、自分の仕事内容と働き方に合わせて選択する事が出来るように多様な空間設計をしている点がハード面の魅力だと思います。

また、セキュリティの面についても非常に力を入れています。日本テレワーク協会が提供するセキュリティ認証ではトリプルスターを取得しました。サテライトオフィスは様々な企業が集まる場所ですので、他の企業の方と同じ場所で仕事することは情報漏洩リスクにもなりかねません。そのため、個室・会議室の防音性や知らない方が入ってこないようにQRコードで入室管理を行うなどセキュリティ面で高いサービスを提供することで、安心してご利用いただける環境を整えています。

ソフト面に関しては、「ワークスタイリングコミュニティ」というサービスを展開しています。会員の皆様が、自分の会社だけでは叶えられないような願い(Will)を叶えることをミッションとして、コミュニティマネージャーを中心に、様々なイベントの企画や、会員様同士、もしくは会員様と専門家の方をお繋ぎするなど、交流や新しい出会いや学びの場を創出しています。

場を作るだけでは偶然の出会いや繋がりは、なかなか生まれません。例え隣の人に興味を持っていたり、新しい学びや社外の交流を求めたりしていても、自分から積極的に動ける方ばかりではないと思います。

そこでそのような潜在ニーズを媒介する仕組みや、いわゆる「おせっかいな」媒介者は必要だと思っています。

毎日本当に多様なマッチングが生まれていて、「こんなニーズがあるのか」「ワークスタイリングでこんな願いが叶えられるのか」と私自身も日々驚きがあります。今後このサービスをより良い仕組みにしていくことで、もっと多くの方にご利用いただきたいと思っています。

急増する個室需要から生まれた新サービス

コロナ禍によってどのような影響がありましたでしょうか。また、コロナ前から変化した点があれば教えてくれますか。

コロナの影響については良い点と悪い点、両方あります。

悪い点については、単純に皆様が外出できなくなり利用が減少したことに加え、他の企業と同じ場所で働くことが感染リスクと捉えられて、利用を控える動きがあった点です。コミュニティサービスに関しても、オープンスペースに人が出て来なくなったことでコミュニケーションが減りましたし、接触を控える必要がある中でオフラインでのイベントができなくなりました。

一方で良かった点としては、テレワークが一般的になったことでワークスタイリングを使う層が広がったことです。会社以外の場所で働くことが当たり前になり、多くの方にとって働き方の選択肢が広がりました。

ご利用方法にも変化があり、個室利用が非常に増えました。感染対策はもちろん、Web会議の増加やセキュリティ確保の面で個室需要が高くなり、コロナの感染が蔓延した当初は個室や会議室が埋まり会員様からも予約が取れないという声が頻繁にあがりました。

対策として拠点に個室を増やすだけでなく、グループ会社のホテルと連携し、客室を個室として利用していただくサービスを始めました。元々ホテルはリラックスできるように作られた空間ですし、広々としているので、今でもとても人気があり、ホテルばかり使うという方もいらっしゃるくらいです。

その他に、コロナ後のニーズに対応した個室特化型サービスとして「ワークスタイリングSOLO」があります。個室需要に対応する形で提供を始めましたが、会員様からは「家での在宅勤務が環境的に難しい」とか、「お子さんを保育園に預けたついでに、住宅の近くのエリアで働きたい」といった声をいただきましたので、SOLOは主に住宅エリアを中心に展開をしています。

SOLOは開始以来高稼働を維持していて、個室ニーズの高さを感じる一方で、私たちとしてはオープンスペースや会議室で気分を変えながら働いていただきたいという気持ちもあります。最近では少し感染が落ち着いてきたのでオープンスペースや会議室にも人が戻りつつあり、個室、オープンスペース、会議室と様々にワークスタイリングをご利用いただけています。

働く場所の多様化が生んだ新たな課題

多くの企業が場所から解放され、多様な場所で働けるようになったことで働き方の選択肢が増えました。今後どういった形の働く場が生まれるか、ワークスタイリングとしての取り組みなどあれば教えてくれますか。

今まさに模索中ではあるのですが、今はどんな働き方もできるように、あらゆるサービスが企業や個人向けに提供されていると思います。一方で「オンラインでも会議はできるけど、この場合はオフラインが良いよね」「こういう目的の会議はどんな場所でやるとより効果が出るのか」など、状況や目的による働き方の選択は個人の裁量に任されており、多くのビジネスパーソンが悩んでいる点だと思います。

これは個人的な意見も含みますが、皆さんがより良い選択ができるように、働き方に合わせて場所や働き方の選択をサポートし、アドバイスできるような役割も私たちが担っていけたらと思っています。

コロナ禍でのテレワークの弊害として社内コミュニケーションが問題になっていると思います。それに対してのお考えがありますか。

この問題は弊社社内でも大きな課題になっています。元々は縦横斜めの関係が成り立っていて、誰がどこにいるかみんな知っているし、新入社員にはみんな関心を寄せているといういわゆる仲の良い会社でしたが、コロナ禍でコミュニケーション自体が減ってしまいました。多くの会社が同じ課題を抱えている中で、実際に会って話をするであるとか食事をするというリアルな繋がりは、社内外問わず重要だということは再認識されています。

集まる機会が減ったからこそ、集まる時にはその時の価値を最大化すること、例えばブレストをやるのであればその成果が最大化するような場所を提供する、ということを意識しています。

また、先日、コミュニティマネージャーが同じ会社の他部署の会員様同士をつなげるという事例があったのですが、同じ会社の中でもお互いに知り合えない、もしくは知り合いたいというニーズがあるのだなと感じました。ワークスタイリングが各社の社内コミュニケーションを担うというのは、コロナ前にはあまり考えられませんでした。今後はワークスタイリングが提供できる価値はこういった点にもあるのではないかと思います。

新たな働き方の模索とワークスタイリングが目指すもの

コロナを経て、大きな社会や働き方の変化がありましたが、今後三井不動産が描く、アフターコロナの働き方やワークスタイリングのビジョンについて教えてくれますか。

ワークスタイリングは、新しい働き方を提供したい、そのために場所を提供するというコンセプトでこれまでやってきましたが、元々新しい働き方だと思っていたテレワークは一般的になったため、「次の新しい働き方」はなんだろうと模索しています。

たとえば、先日東京ドームで働いてみようというトライアル企画を行いました。

観覧席とラウンジがセットになっているエリアで働いていただきました。

東京ドームは決して働くために作られた空間ではないので、集中できないかもしれないという懸念はありましたが、実際には今まで働いたことがない場所で働くことで、リフレッシュできたであるとか、クリエイティブな発想が生まれたといった声をいただき、好評でした。非日常で働くことの面白さがあったのだと思います。朝はグラウンドでヨガをやる、というイベントも開催して、私も体験したのですが、選手はグラウンドからいつもこういう景色を見ているんだといった楽しい発見があって新鮮な気持ちになれました。

東京ドームで働くのもそうですけど、商業施設で働いたりホテルで働いたりとそれぞれが色々な場所で多様な働き方をするようになってきているので、今度はどんな場所で働けるかなというのは私たちも常に考えています。皆さんが自由に働く場を選ぶようになっている中で、求められることに答える事ももちろんですが、その先を見据えて潜在的なニーズ、まだ具体化されていない新しいものを提供していくことが、私たちがやっていくべきことだと思います。

今後、リアルな場の価値はどのようになっていくと思いますか。

今までは多くの人が当たり前のように朝は会社に行きデスクに座っていました。しかし、今はオフィスも目的を持って行く場所になりつつあり、その目的に対する感度は人によって異なります。管理者目線では、社員がオフィスに出社してくれた方が効率的かもしれませんが、在宅を好む方もいて、個人レベルではオフィスに行く理由がそこまで明確ではないのかもしれません。そこで、これからはその出社する動機を如何につくるかということが重要だと思います。

「会議が効率的になるから来た方がいいよ」だけでなく、「美味しいご飯が食べられるから来た方がいいよ」「雑談しにオフィスにおいで」といった動機でもいいと思います。在宅の良さは認めつつ、オフィスへ出社することの意義や価値は再定義していく必要があると思っています。

 

ワークスタイリングは内装も気分が上がる設計になっていることも一つの動機付けになる可能性があり、家にいるよりリフレッシュできたり、ミーティングするならワークスタイリングでやろう、ということに繋がったりもします。会員様によっては、ミーティングを参加者の家の近くの拠点で行っているという方もいて、そういった利用方法に貢献できていることは面白い点だなと思います。

 

最後に一言メッセージをお願いします。

私たちのミッションは、新しい働き方や働く意味・価値を提供することです。世の中にまだ認知されていない働き方や、既存の概念にとらわれない働き方をご提案し、皆様に新鮮な気づきや発見をご提供していければと思っています。

 

サテライトオフィスを運営する同社は、「働く」を取り巻く環境の変化に常に敏感で、その中から新しい働くスタイル、働く価値の創造を常に試行錯誤している企業であることを、改めて感じたインタビューでした。

本日はありがとうございました。

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