【インタビュー】東海大学「全学的な改組改編により始まった、東海大学の働き方改革」

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【インタビュー】東海大学「全学的な改組改編により始まった、東海大学の働き方改革」

大学での働き方改革に取り組まれている東海大学 湘南キャンパス ビーワンオフィス(施設管財担当)片桐俊幸様、キャンパスサポートオフィス(調達・総務・設備担当)佐藤行祥様 土井裕也様に施設・設備を担当している視点からお話を伺いました。

学部、キャンパス、組織間を有機的につなげる大改革

早速ですが、大学職員の働き方を変えることになったきっかけを教えていただけますか?

片桐:まず、東海大学では建学80周年にあたる2022年4月に「日本まるごと学び改革実行プロジェクト」と題した全学的な改組改編を行いました。

このプロジェクトは、建学以来継承してきた文理融合の理念と、一貫教育を基軸とした教育・研究活動をさらに推進するため既存のキャンパス構成の見直しを行い、全国5キャンパス8校舎に整備する他、新学部の設置、学科の再編を行い、23学部62学科・専攻体制とする内容です。
これに合わせて事務組織についても大きく変えようということが、働き方の改革につながったきっかけでした。

改組改編を行う中で、一定の学部・学科を「カレッジ」としてまとめ、各カレッジに「カレッジオフィス」を置くこととなりました。
各カレッジオフィスでは従来の事務系業務に加え、入試、広報、キャリア就職といった機能をカレッジオフィスごとに配置、それらの業務を横断的に行なうことで、縦割りだった組織体制から脱却し、横の繋がりのあるより強い組織を作ろうということを狙いとしています。

特にこの湘南キャンパスについては、約50万平米(校地面積550,411平方メートル)の敷地があり、約2万人の学生が通うキャンパスのため、事務組織も巨大化してきていました。そして巨大化するにつれてどんどん縦割りの組織になってしまうことが予てからの課題でした。

「日本まるごと学び改革実行プロジェクト」はいつから計画されていたのでしょうか?
片桐:約2年前です。

現在の事務組織はカレッジという単位になって様々な業務担当の方々が混在するということでしょうか?
佐藤:そうですね。
これまではいわゆる総務、人事、会計、教務、入試、広報、キャリア就職などが部署としてきっちりと分かれていましたが、今回の取り組みで大幅な組織改編を行っています。その中で各カレッジオフィス等に収まらないキャンパス全体に関する業務を集約した組織が「キャンパスサポートオフィス」で、私と土井はここに所属しています。
佐藤:今回の改組改編、「日本まるごと学び改革実行プロジェクト」によって大きく変わる大学の組織に合った職場環境を構築する必要がありました。その為に現場として何をすべきなのか、何ができるのか、私たちはそうした部分を担いました。

職員や組織の在り方を改変するにあたって現場として対応される中で、重要視されたところを教えていただけますか?

片桐:一番重要視した部分は、「ワンストップサービス」です。
組織が大きくなるにつれて窓口の数も増えてきます。
そうすると何が起こるかというと、例えば、ひとつの用事を済まそうとしても、内容ごとに別の窓口へ行かなければならず、学生や教員も学内をぐるぐる移動しなければいけません。

土井:校舎内スタンプラリーのような感じですね…
片桐:窓口は受付時間が決まっているので夕方になると閉まります。
佐藤:ですがキャンパス自体が広いので、以前は4限の終わる16:50(現在は授業時間変更で17:00)に窓口に行ったら、「あっちですよ…」と本来の窓口を案内され、到着した時には窓口業務が終わっている…というようなこともあったようです。

片桐:「カレッジオフィス」に行けば、学生も教員もすべて一か所で用事を済ますことができる。こうしたワンストップサービスを提供することが大きな構想でした。

佐藤:湘南キャンパスでいうと6つのカレッジに分かれており、それぞれ管轄する学部があります。

それ以外にも、湘南キャンパス全体に関わることを取り扱う「キャンパスサポートオフィス」、体育関係のイベントや、強化指定クラブに特化する「スポーツプロモーションセンター」、教職資格者向けの「ティーチングクオリフィケーションセンター」、学生サービスを行う「スチューデントアチーブメントセンター」など機能を分けたいくつかの組織になっています。

佐藤:先ほど片桐の方から5キャンパス8校舎とお伝えしましたが、これらを大学として取りまとめているのがビーワンオフィスというところで、湘南に限らず、全国のキャンパスを取りまとめています。

コミュニケーションの活性化を目的に、フリーアドレスを導入

今回の取り組みによって様々な変化があったかと思いますが、変化させるにあたって苦労したことはありますか?

佐藤:今回、大きな変革として大学の事務としてはあまり例を見ないフリーアドレス制を導入しています。フリーアドレス化にあたっての環境として、数年前に職員が使用する業務用のパソコンをデスクトップからノートパソコンへ移行されていました。また、一般的にフリーアドレス制では全員に席があってはその効果が発揮できないということで、各所属の在籍者数よりも執務席数を少なくすることになりました。

一般企業や、営業職の方が多い職場の場合だと「在籍者数の7割程度の座席を用意」することも多く、執行部もその認識でした。
ただ大学の事務は自席に座って仕事をする時間が多い職種であるのも事実なので、執行部の意向に対してどう落としどころを付けるかというところについては、調整が必要でした。
現場の職員からするとこれまでの勤務環境から大きく異なるので、席数の設定についてはかなり苦労しました。

最終的には新型コロナウィルスの感染拡大による在宅勤務が始まったことなどもあり、在籍者数に対して9割の座席数設定にいきつきました。
現状は、その設定数で運用できていると考えています。

フリーアドレスを導入するとなった理由は?

佐藤:フリーアドレスの導入は、執行部からの指示でしたが、横のつながりを強くしたいという考えがあったのではないでしょうか。

今回の改組改編で実現したカレッジオフィス制では、他の部署や担当同士で打ち合わせをする時間が多くなります。そうすることによってコミュニケーションの機会が増え、更に座りっぱなしの時間も短くすることができます。

そうした理由からフリーアドレスを導入し、事務職員の座席数は減らしましたが、その代わりに共有スペースや打ち合わせスペースは各オフィスに多めに設けました。
座って事務仕事をするのではなく、多様な人とコミュニケーションを取りながら、やっていこうということですね。

片桐:この4号館の4階にはプロジェクトルームという個室の部屋を設けていて、様々なプロジェクトのミーティングが行われています。私たち3人も所属する組織の仕事以外に個別のプロジェクトのようなものがあり、そこではプロジェクト単位で複数人のチームを組んで様々な業務をやっています。

片桐:例えば私の場合は、建物建設や工事が主担当ですが、新規事業や入試運営などに関する業務も行っています。

片桐:以前の組織体制ではどちらかというと縦割りだったため、この部署の仕事はここまで。と、きっちりと線引きがされていましたが、現在の組織ではひとりでいくつかの業務を兼任するようになっています。
ここにいる佐藤と土井も調達関係をやったり、施設・設備関係をやったり、総務もやっているので3つの業務を兼務しています。

業務が多岐にわたることによって、様々な部署とのコミュニケーションをとる必要が生まれるため、フリーアドレス導入についても、コミュニケーションの促進が意図のひとつだと考えています。

佐藤:先ほど片桐が申し上げたプロジェクトもそうですが、自身の所属するオフィスだけでは完結できない場合には、他のオフィスにも声をかけて担当者を選出し、横のつながりを作りながら議論を進めて行くというやり方もできるようになってきました。

フリーアドレスの導入以外でも変わった部分があれば教えていただけますでしょうか。

佐藤:そうですね…
大学の事務というと灰色の机が並んでいて、そこに向かって仕事をするというイメージが定着していると思いますが、そのイメージを変えることに対してアプローチをしていく必要がありました。
その為に、まずはその変化を教職員の中で共有するところが一番大きなポイントでした。

組織の形が変わっていくと、やはり働く場所も、働き方も変えていかないといけない。
そうしたギャップがあるので、新しいオフィスを作っていく中でフリーアドレスの導入と併せて、書棚の数を極力減す取り組みを行いました。「自分」の書類を固定された書棚に仕舞うと、自ずと座席も固定化され、フリーアドレス化の効果が薄れてしまいます。

職務上、書類が必要な業務が多くありましたが、まずはそこを減らすためにオフィスをデザインし、レイアウトの中から設置する書棚の数を制限していきました。

もちろん、職員からは「これでどうやって仕事するんだ。」という意見がたくさんありました。それらの意見に対する説明にも多くの労力が必要でした。

片桐:かくいう私も、以前は工事関係業務を担当していたため、図面等を扱うものですからひとりで1.5キャビネットぐらい使っていました。

それが今回、書棚が制限されることになったので、率先してデジタル化に取り組み、パソコンとiPadにすべて集約しました。

いわゆるペーパーレス化だと思いますが、それを実行する上で何か仕組み自体変えられましたか?

土井:物理的にコピー機の数を制限しました。
コピーをするスペースとしてコアゾーンを設けて、基本的にひとカレッジオフィスに1台という制限をした上でレイアウトを検討するようにしています。実際に運用していますが、少しずつペーパーレスが進んでいるのかなと感じています。

あとは単純にオンライン会議が増えて来たということもあり、できるだけ資料を印刷しないという意識は
出てきたのでは無いかなと思います。

片桐:これまで部署ごとにコピー機が数台あり、その数台がいつも稼働していて、いつも誰かがコピー機のそばに立っている状況でした。
現在は5~60名に対して、1~2台ですがコピー機前には殆ど誰もいません。そこについては自然と慣れてきてくれたのかなと思います。印刷をしても片付ける場所がないということもあるかもしれないですね。

運用とは別途、書庫を減らしていることから改修のタイミングで資料を減らす必要があったかと思いますが、どのように対応されましたか?

片桐:この点については、正直なところまだ課題だと考えています…。
佐藤:これまであった書類をすべてデジタル化しようとすると、サーバーの容量を確保していかなければいけません。
そういった議論もあったのですが、中々並行しては進んでおらず…
個々で自分の書類をデータ化して、共有フォルダに保存している人もいますが、そうすると共有フォルダもすぐにいっぱいになってしまいます。その為、私も現在は個人に割当られたフォルダ領域を使いながら整理を行っている状況です。

片桐:だいたいこのキャンパスだけでも約60年と、半世紀を超える歴史があります。この約60年分の歴史の資料や書類が残っています。
ペーパーレス化を進めたいという考えもありますが、歴史を重んじる中ではすべては捨てられない側面もあるので、そこはバランスを見ながら減らしています。

コロナによって働き方改革が更に促進

コロナによって働き方が変わったり、当初計画していたものから変わったりしたことはありましたか?
佐藤:想定していたよりもWEB会議の活用が推進されたところですね。

片桐:私たちはコロナの前までは必ず対面の打ち合わせをしていました。
学校にお越しいただくか、私たちがお伺いしていましたが、新型コロナウイルスの蔓延でWEB会議を活用できる職員が一気に増え、旧来では考えられないぐらい進みました。

それこそ以前はネズミ色のキャビネットが並んでいて、昔ながらのオフィスという状況だったので、あの働き方から変われたことは大きかったと思います。

必然的に働き方の移行ができたということですね。

佐藤:それこそ、ペーパーレスの促進にもなったと思います。
WEB会議の浸透によって画面共有ができるため、会議資料もプリントアウトして配る必要がなくなりました。必要な人だけ、自分で準備すればいいですしね。

時間的なロスも減りましたか?

片桐:そうですね。かなり減りました。
以前は、打ち合わせや現場周りでキャンパス内を歩くだけで1日10,000歩超えていました。

土井:新型コロナウイルスの蔓延によって、学生の入校制限をしていた時期もあったので、問い合わせ関係が電話であったり、メールであったりと、これまでの実際に学校に来て「書類をください」ということができない状況がよく発生しました。そこでやはり職員の意識も、やらざる得ない状況に変わっていったかと思います。

新しくなったオフィスでの働く環境は、働く職員の行動に変化をもたらしましたか。

片桐:まずはこの第一歩を踏み出すことによって、ペーパーレスを進めることができたと思います。
フリーアドレスの導入によって書棚を減らすことになり、そうすると片付ける場所がなくなってしまう。
じゃあどうしよう。じゃあこれ全部データ化しよう!という意識づけは本当に進んできていると感じています。

佐藤:環境を先に整えて、それに合わせた運用を考えていくということですね。

更なる利便性の向上と今後に向けて

今後の展望や課題があれば教えていただけますか?

片桐:大学の業務は多分野に渡るため、どうしてもフリーアドレスをしにくい環境です。これから先、異なる分野の職員をどう混ぜて、ベストな化学反応を起こしていくか、これが自然とできるようにする環境づくりというのは、今後取り組んでいきたい課題です。

まだその為の仕掛けというのは作れていないので、これからの課題ですね。

何かそうした企画をお持ちなのでしょうか?

片桐:もう少しフリーアドレスやABWなどの考え方や、それによって起こり得る様々な化学反応について、教職員向けの研修のようなものをもっと増やすことができればと思っています。
まずはやることの意義や、どう組織や個人が成長できるかなどを理解してもらえれば、強い組織づくりになるのではと考えています。

どうしてもできない理由を考えてしまうことが多いので、やることでわかること、やってみないとわからないことから旧来の業務体制を残すべきところと、新たに変えていくべきところも見えてくると思います。

佐藤:ABWやフリーアドレスの説明や導入の意図については、改組改編の実行前に書類で学内発信されていましたが、それがどこまで浸透しているかというのを検証しながら、今後の取り組みについて考えて行く必要がありますね。

一般企業ですとフリーアドレスの導入を行った場合、違う部署間で、例えば営業が開発者と接点を持つことによって商品知識がより深くなるなどメリットが生まれると聞きますが、そういった良さはありますか?

土井:私は昨年、半年間カレッジオフィスに所属していて、調達関係の仕事をやりながらカレッジで総務関係の仕事をしていたのですが、実際に職員同士の距離が近くなったと感じています。

これまで全く別の業務を行っており、中々関わる機会がなかった人も今ではすぐに「これどうすればいいの?」というように気軽にコミュニケーションが取れるようになりました。距離感はやはりすごく近くなりましたし、同じフロアにいるので、お互いすぐに聞けるし、他の業務に興味・関心を持ちやすい環境になったことが良いですね。

佐藤:学生一人が大学に入学してから卒業するまで、入試に始まり、日々の授業や研究、課外活動があり、最終的には卒業、就職があります。
これまではそれぞれのセクションがあり、縦割りだったので、学生は様々な内容を自分から積極的に色々なところで情報を入手し、把握する必要がありました。

カレッジオフィスではワンストップサービスとして、教務で授業指導の方と話した後、就職指導をしてくれる方が同じカレッジにいることで、同じ窓口でやってもらえると、学生にとっても「ここのオフィスにいけば解決できる」という信頼をも持ってもらえると思います。

職員同士も同様に、組織の改編、フリーアドレスの導入によってキャリア担当と教務担当が、キャリア形成していく中でどのような修学をしていけばいいか等の話がしやすくなったため、より繋がりを強くできるのかなと思います。

土井:教員もやはり頻繁に来て、「ここに来ればなんとかなる」ということで信頼していただくことができ、相談事があった時にすぐ来てくれるようになりました。

学校の働き方改革は一般企業と比較して進めにくいという話を聞くことがありますが、理由はどこにあると思いますか?

片桐:学校と一般企業だと、フットワークの軽さに違いがあると考えています。
一般企業の場合は、進めないと売上に直結してしまうので、足踏みしている暇があればある程度検証したのちに進めて、想定していた効果や結果が得られない場合は撤退しようというスタンスもできると思います。

一方で大学の場合は、学生にやはり撤退しますとは簡単には言えませんし、補助金をいただいている「責務」もあります。その為、様々な検証をしたいですし、堅実な考えの方向へ寄ってしまうのではないかと思います。

佐藤:今回の取り組みについては、執行部の判断でトップダウンだったからこそ、みんなでやろうとなった部分はあるとも思います。

土井:変えるときはネガティブな話がすごく多いですが、東海大学としてやったことが他の大学にもいい影響を与えて、職員、学生にとってよりよい環境を作っていくことができればいいなと思います。

最後に昨年度に改修をされて、今後さらに働く環境を良くしていくための想いや展望があればお聞かせください。

佐藤:組織改編、学部改編については22年度に完成しています。
ただ、まだまだ課題があります。
今まで約60年間培ってきた事務組織の形をそんなに急に変えられるものではないと考えています。組織や環境は変わりましたが、実際の運用面での完成まで少なくても5年程度はかかる想定をしています。

片桐:現在の運用が完成した際には、大学でも推進しているダイバシティに配慮したオフィス環境ができればと思います。
多様性のある様々な方がいらっしゃる中でそれぞれが働きやすい環境が違うと思うんですよ。
みんなでワイワイした方が良い方や、「個」が良い方などの人との距離間や照明が明るさの好みやトイレの問題など、全ての方々に配慮できるような環境を少しでも作ることができると良いなと思います。

佐藤:しばらくの間は、現場の意見や考えを聞きながら柔軟に対応していく中で、運用面の完成に向けて、新たな課題や展望が出てくると考えています。

我々もどのような形が大学の業務を変えていく上で適切なのかを勉強し、それを共有しながらやっていきたいと思います。

建学80周年を迎えるにあたり大規模な改革が行われた東海大学。改組改編を機に「現場として何を改善すべきか、どうすればよりよい大学組織になるのか。」という想いのもと、実際に学内の働き方改革を推進された方々にお話を伺いました。カレッジオフィスのワンストップサービスや、各職員が通常業務に加えて複数のプロジェクトを担う運用など、組織の活性化、BCPの観点からもとても将来性を感じられたお話でした。
本日はありがとうございました。

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