【インタビュー】学校法人東駿学園 御殿場西高等学校 「生徒が主体となって取り組む学校改革」

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【インタビュー】学校法人東駿学園 御殿場西高等学校 「生徒が主体となって取り組む学校改革」

生徒が自ら課題を見つけて解決する授業「Project Based Learning」での生徒の意見をきっかけに、学内にラーニングコモンズの設置を実現させた学校法人東駿学園 御殿場西高等学校 校長 勝間田 貴宏様にお話を伺いました。

PBL(Project Based Learning)から生まれた学びの場

早速ですが、今回ラーニングコモンズを導入したきっかけを教えていただけますか?

きっかけは英語の授業でした。私が副校長のときに担当していた英語の授業の中で、生徒が行うプレゼンテーションのテーマを「学校改善計画プロジェクト」にしようと思いついたことがきっかけです。

在学する御殿場西高校の現状について考えてもらい、学校をよくするためのアイデアを生徒たちに出してもらうことにしました。

すべて英語でのプレゼンテーションでしたが、ざっくばらんな意見がでました。
中には「学校の中にカラオケボックスを作りたい。」「全教室に冷蔵庫を完備してほしい。」などの無理難題もありましたが、生徒たちが出してくれたアイデアの中で、実際に実現可能なアイデアがないか厳選していきました。

最終的には今回実施したように、新しい机や椅子を取り入れて学習環境をよくするといった施設面についての案にまとまりました。
そこでまとまった案を職員会議や管理職会議、そこから理事長に上げて最終的に実行することになりました。

授業で出たものを実現させるにあたって、意見を出した生徒はミーティング等にも携わったのでしょうか?

今回は授業まででしたが、今後はもっと深く生徒にも携わってもらいたいと考えています。

どこにどう入れるかといったところは学校側で決めたのですが、ラーニングコモンズを作ろうとなったきっかけは、カーディニアインターナショナルカレッジという系列校の実践例でした。
そこはオーストラリアのメルボルン郊外ジロング市にある学校で、御殿場西高等学校の創設者がオーストラリアに建てた学校です。

ここが教育的に非常に進んでいて、施設もそうですが国際バカロレア(IB)※など、先進的な取り組みを行っており、校舎を新しくしたタイミングでラーニングコモンズを作っていました。

生徒たちが個別で学習ができ、図書室ともつながっているので、本や文献にアクセスしやすい。
更にはインターネットにも接続できて、グループワークができるスペースもある。そうした実践例が身近にあったので、当校にも導入しよう!となりました。

私もその学校の理事なので情報交換は密にやっていて、日本にはまだあまりない他国の事例をたくさん知ることができるため、そこは私たちの強みのひとつかなと思います。

生徒の意見を実現化させることは学校側からするとハードルが高いように感じるのですが、なぜ今回実行しようと思われたのでしょうか?

やはり先生だけで決めたことを生徒に押し付けていると、生徒自身が受け身になるじゃないですか。
受け身になると当事者意識が低くなり、人や学校のせいにする、言い訳につながってしまう。

そうではなく、生徒にはできれば自分ごととして捉えてもらいたい。生徒のみんなで決めたことが学校生活に反映されるということを実際に体験してもらいたいという想いからです。

先生たちが主導で物事を決めて、生徒はそれに従う。今まではそうでしたが、ずっとこのままだと型にはまってしまい、先生の指示を守り、意見に同調する生徒が「学校に合う生徒」や「学校にとっていい生徒」になってしまいます。
そうじゃないよ。真逆だよっていうのを体感してもらいたいと考えています。

私のこの生徒指導の考え方についてもオーストラリアの学びの在り方とかそういったところに影響を受けているところがあります。

現在も定期的に生徒の意見を聞く機会を設けられているのでしょうか?

そうですね。現在は生徒会が中心となり「デジタル目安箱」というものを設置しています。
学校に対して何か意見があった時には、フォームを使って意見を投稿してもらう仕組みです。
その意見ももう100件近くの意見が寄せられています。逆に「こんなにあるんだ…。」と思うぐらいです。(笑)

そこで出た意見まとめて、職員会議で生徒会長がプレゼンをします。
そして生徒会長のプレゼンによって意見が通ったものを今度は生徒総会で「職員会議でこれが通ったので来年からこれを実現します。」と宣言をします。

こうして生徒間でも発表していくことによって、生徒にも当事者意識が生まれると考えています。
自分のアイデアが形になるという感覚を覚えて、本当に学校って動くんだという成功体験を積み重ねていって欲しいですね。

受け身ではいられない仕掛けづくり

生徒の意見が実現しましたが、生徒の皆さんに変化はありましたか?

すぐに夏休みに入ってしまったので、正直なところ変化はまだわからないですね。
ただ反応としては、生徒たちは非常に喜んでくれています。
自分たちでアイデアを出したものがこうやって形になったので「本当に実現したんだ…!」という反応です。

ここから一番期待していることは授業が変わっていくことです。
生徒の意見を反映してこれだけの空間ができたので、これからは能動的な学びを主体とするような授業デザインに変えていってもらいたい。

やはりどうしても黒板とチョークを使って先生が一方的に話す形式の授業になりがちなのですが、今回導入したラーニングコモンズは、そうした授業を行うための空間ではありません。
生徒ひとりひとりに対して最適化された学びと、協働的な学びというのは中身や手法が異なると思うのですが、ラーニングコモンズはその二つを実現できる空間だと考えているので、それを先生方がどこまで実践できるか、どう変化していくかを今後期待したいですね。

授業でも使用されるのでしょうか?

むしろ授業中心で使います。「授業は教室でやるもの」という固定観念があると思いますが、実際の学びは教室の外側に広がっていると私は考えています。

教室の中だけで勉強するものって結局は教科書の内容なんですよね。それであれば、「一人で勉強すればいいじゃん。」と、私は思っていて。そうではなくて、学校外の様々な人たちと関わり合いながら、様々な経験をしていくことで本当の学びって培われていくのではないかと思います。

そうした学びを経験するためには、むしろ教室の外側で勉強してもらいたいので、空間で仕切っていくというよりも授業でも授業外でも、誰でもそこを使っていろんな学びをしてもらいたい。そういう意図があります。

ラーニングコモンズは生徒、先生、保護者、地域の方とあとは企業の方などが出入りし、様々な人が交わる空間にしたいと考えています。

意図的にそういった方々が出入りするような事を仕掛けられているのでしょうか?

そうですね。これからは今よりも増やしていきたいと考えています。
現在は特進クラスで月に一回、大学生に来ていただいて探究学習を行っています。
大学生と一緒に研究会活動のようなことをしていて、大学で言うゼミのようなイメージですね。それをこのラーニングコモンズで行ってもらう予定です。こうした取り組みを行うことで、今までの学びから大きく変わってくると思います。

その他にも先日、オープンスクールを行いましたが、このオープンスクールの運営は生徒がメインで行いました。
学校側がいくら「この学校はいいですよ。」といっても、なかなか相手には響きません。
そこで今回は生徒主体で実施し、司会進行も生徒が行いました。当日は先生が出る機会はほとんどありませんでしたね。
リアルな声を届けるという点では生徒だけでなく、オープンスクールに来た生徒の保護者と在校生の保護者が交流する機会も設けました。

それだけ色んな方々と交流する機会があると、先程おっしゃっていたように生徒たちも受け身ではいられないですね。

確かにそうですね。一般企業だと「フリーアドレス」を導入されているところも多いですよね。
少し異なるかも知れませんが、そういう感覚をもって欲しいなと思いますね。
教室にある自分の机でただただ受け身で勉強するという感覚ではなく、スターバックスのように能動的に自分で好きなところを選んで、好きなものに触れる。そういった感覚です。

ラーニングコモンズの設置が7月の初めで、その後すぐに夏休みに入ったのでまだまだ浸透していない部分はありますが、早速そこでお昼ご飯を食べたり、放課後は勉強したりする生徒たちは増えて来ています。

あとは先生にも固定概念を取り払ってもらい、色んな使い方をして欲しいですね。
特にこういう時に使って下さいと指定はしていないので、例えば生徒と一緒に昼食をとったり、また面談したりするのもいいですし、保護者の方と一緒に話をしたり、研修したり。場所は用意したのでシーンを限定させずにどう活用するかも先生たち自身でも考えて欲しいです。

生徒と先生で学校を変えていく

今後もっとこうしていきたいというような展望はありますか?

次は職員室など職員の環境も変えていきたいと考えています。
リラックスも出来て、雑談も出来るけども集中もできるような空間を作れないかな…と。

一般企業のオフィスのようですね。

そうですね。今お話したような空間を取り入れることによって、今までに無いようなアイデアも出てくるんじゃないかなと考えています。
雑談からアイデアって生まれると思いますし、校長室のように重厚感のある机や椅子がある場所だとどうしてもみんなピシっと畏まった雰囲気になるじゃないですか。これではいいアイデアってなかなか生まれないと思うんです。

生徒だけでなく先生方にとってもお互いに意見をいいやすい雰囲気が生まれそうですね。
今はまだ先生同士の上下関係が成り立っている状況なのですが、今後はそれも崩していきたいです。
上も下もない。対等に意見を言い合える、そんな空気感が理想です。
そうすると学校の雰囲気もかなり変わってくるかなと考えています。

学校全体が話しやすい雰囲気になると、今まで以上に先生と生徒の距離も近くなってくるのではないでしょうか?

そうですね。うちの学校は元々距離感が結構近い方だと思います。近いけれど生徒が先生を信頼していない。
私がこの学校に来た当初、そうした雰囲気をとても感じました。

その一つの例が、去年まで行っていた「チェックカード」という生活指導方法です。

どういった内容かというと、生徒が頭髪等の何かしらの校則違反をしていると先生がチェックカードを渡す。そのチェックカードが溜まった人に対し、何枚で保護者呼び出し、何枚で停学といった形で、警察が切符を切るような感覚で指導を行っていました。これは生徒をとても雁字搦めにしているものでした。

そうした方法だと生徒にとって先生って警察みたいな感覚になってしまうんですよ。
生徒にとっての先生が「チェックカードを切る人」「自分に嫌なことをしてくる人」そういう感覚があったんですよ。だから生徒は先生を信頼しないし、本当の心の繋がりがなかった。

これではだめだということで、今年からチェックカードの制度を廃止しました。
先生はもう指導者という考えをやめて、私たちは生徒を指導する立場ではなく、生徒を支えたり、一緒に走ったりする。そういう感覚で生徒と向き合っていこうと、今年からガラッと変えました。
今もまだなかなか浸透できていない部分はありますが、それでも学校の雰囲気は変わりましたね。

ソフト面とハード面の両方から環境を整えられたということですね。

浸透するまでにはまだあと数年はかかると思いますが、ソフト面としてまず学校側の制度や先生の意識を変えました。学びを支えるハード面については、もう少し仕掛けを増やしながら少しずつ取り組むことで、みんなで変わっていくことができると思います。

同じように生徒の意見を取り入れるプロジェクトや、ラーニングコモンズの導入を検討されている他の学校に対して伝えたいことはありますか?

御殿場西高等学校を見に来ていただきたい。実際にご覧いただき、アドバイスが欲しいです。
確かにラーニングコモンズを作りましたし、新しい取り組みにチャレンジしているとは思いますが、「これもっとこうした方がいいんじゃない?」という気づきを第三者の目線から教えて欲しいですね。

もし、この記事を見かけていただいた先生や関係者の方がいらっしゃったら、是非当校にお越しいただき、アドバイスをいただけると嬉しいです。

同じような考え方を持っている人同士の交流で生まれるアイデアがあると思いますし、それを持ち帰っていただいて更に広がっていくと、面白い学校づくりができるのではないかと思います。

ラーニングコモンズを作るというのはあくまでも手段のひとつであって、目的になってはいけないですが、授業から出た生徒の意見をしっかりと学校側で反映できたことは、生徒に主体性を持ってもらうとてもいいきっかけになりました。
これからも生徒、先生双方の意見を取り入れながら、よりよい学びの環境を作っていきたいと考えています。

生徒自身の思いを尊重し形に結ぶことで、新たな気付きを与えて生徒の成長に導く。そのための仕組み作りに全力で取り組む勝間田校長の熱意を感じた、そんな時間でした。
本日はありがとうございました。

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