【インタビュー】株式会社アトリウム「セットアップオフィスという選択肢」
インタビュー
所在地 | 東京都千代田区 |
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クライアント | 株式会社アトリウム |
業種 | 不動産 |
完成年月 | 3階:2019年11月 4~5階:2020年8月 8階:2021年11月 |
東京都を中心に不動産業を展開する株式会社アトリウム様。
新たな取り組みとしてセットアップオフィス(内装造作・家具付き賃貸オフィス)を展開されている同社へ、そのビジネスのきっかけや今後のオフィスはどう変化していくのかなど、オフィスにまつわるお話をプロジェクトメインメンバーである開発二部運用チーム リーダー 一級建築士 亀田竜生様、後藤 進様に伺いしました。
今回は、株式会社アトリウム様からのご希望もあり弊社デザイナー 佐藤と営業担当 横田とのグループトーク形式でご紹介いたします。
※感染対策を行った上で取材を行っています。
セットアップオフィスの運用に至ったきっかけ
亀田:まず弊社は不動産会社として「中古ビルを買って価値を上げて売却をする」という事業を展開しています。その「価値を上げる」というのは具体的に言うと、そのビルから得る収益効率を上げることになるのですが、どういう手法を持ってお客様に価値を届けるのかと色々考えた中の一つに「セットアップオフィス」がありました。
「カーニープレイス五反田」にセットアップオフィスを構えられたのは、五反田という土地にニーズがあったということでしょうか?
亀田:エリア性というより、セットアップオフィスの企画がまずあって、弊社の保有しているオフィスビルで空室がある物件において、テストマーケティングを行ったという流れです。
後藤:結果的に、「五反田バレー」と呼ばれるほど、ターゲットに据えていたスタートアップ企業のニーズがある場所であったということですね。
亀田:実はセットアップオフィス物件のうち、「カーニープレイス五反田」だけをアイリスチトセさんにお願していることには理由があります。
セットアップオフィス自体が不動産の価値を上げていく手法の一つとして効果的ではないかという仮説を立てた上で、いくつかの物件でテストマーケティングを実施するワーキンググループを立ち上げました。当然弊社としても手探り状態なので、アイリスチトセさんのような「オフィス家具メーカーに設計施工でお願いする」やり方と、「社内でデザインをして内装業者へお願いする」というやり方など効果的な手法はどれなのかを試す必要がありました。
その手法のひとつとして、アイリスチトセさんにしようという決定がありました。
初めに空きの出た1フロアをセットアップオフィスとして一緒に改修してうまくいったので、じゃあこの物件はそのまま引き続きお願いしようということで今に至っています。
セットアップオフィスのデザインの方向性を決めるにあたって、イメージされたターゲット層はあったのでしょうか?
亀田:セットアップオフィスの位置づけから業種ではなく、スタートアップから始まり徐々に成長する過程の、あるフェーズに該当する企業をターゲットにしています。
カーニープレイス五反田のフロアは約40坪なのですが、その約40坪から割り出す従業員の人数を考えるとやはり成長途中の企業にニーズがあるだろうと。
これがどういったことかというと、1~2人から起業したベンチャー企業が成長して100人規模の企業になるまでの「過程」があるじゃないですか。
例えば1~2人から起業した企業が波に乗って5人、更に増えて10人になる。
そうするとレンタルオフィスだと手狭だし、割高になって来ます。出資を受けて成長計画を出すにあたっても、2年後には5人が20人になるような成長曲線を描くことが殆どです。
そこの間にフィットするのではないかということで、「セットアップオフィス」を始めました。
施主が使わないオフィスのデザイン
※感染対策を行った上で取材を行っています。
亀田:そうですね。よく施工やデザインの方に申し上げていたのですが、「入りやすくて出やすい」というスキームを重要視しています。後藤:「2年後には手狭になってしまうから出て行く必要がある」というような企業に入っていただいて、比較的短期間での利用を想定していただくイメージです。
短期間での利用を想定するということは、色んな企業に入っていただくことになるので、最終的にデザインにどう落とし込んでいくのか、そこには少し難しさは感じました。
後藤:そうですね。そこまで外れてはいないですね。想定していた企業が入っているというイメージです。
想定から外れるとまではいいませんが、過去に立ち退きの案件で出ないといけないので、近場ですぐ入れるところを探しているという問い合わせはありました。後藤:今いるオフィスビルから立ち退きする必要があって、すぐに出て行かないといけないけれども、普通のオフィスだと入るまでに時間がかかる。しかし弊社のセットアップオフィスの場合は、内装も家具もそろっているので契約後すぐに入ることができる。そこのニーズがフィットしたということでしょうね。
立ち退きでお問い合わせいただいた企業も大枠で行けばIT企業なので、ある程度は想定通りにハマっているのかなと思っています。
亀田:ベンチャー企業の社長にお話を伺ったことがあるのですが、従業員規模が数人~十数人の会社だと意思決定はすべてその企業の社長がされるんですよね。でも社長は色々なことをしなければいけないので忙しい。
それもあって家具を選んだり、内装を選んだりなんてやっていられない、だからと言って前時代的なオフィスに入るのは嫌だということで、選定する必要がなく、デザイン性も考慮されているということでそのニーズにもフィットすると思います。
そこについては、御社のデザイナーの佐藤さんに全部カバーしてもらいましたね(笑)
佐藤:「間口の広いデザイン」というコンセプトの中で、デザイン性を求められるのは結構難しいところがありましたね…。
あとは、フロアごとに差異をつけようと考えたので、毎回そのコンセプトを作りながら、亀田さんにチェックしていただいて、コミュニケーションをたくさん取りながら一緒に作り上げていったというイメージが強いです。
本件を担当したアイリスチトセ デザイナー 佐藤(左)営業 横田(右)
※感染対策を行った上で取材を行っています。
亀田:決して消極的な意味ではないのですが、「嫌われない」ということが大切だと考えました。かっこいいということは大前提なのですが、それ以上にあまりに特徴的で、せまい範囲にしかその良さが届かないデザインにならないよう、そういったところに対しては色々とオーダーはさせていただきました。
例えば、「象徴的な色」とか、「とがったデザイン」というものは意図的に避けています。それもありセットアップオフィスについては著名なデザイナーにお願いするものでもないと考えています。
あまり作家性が出てしまうと、間口が狭いオフィスデザインになってしまうので…。
そういう意味では「嫌われないデザイン」というか「間口の広いデザイン」というか、そこは意識して意思決定させていただいていますね。
亀田:最終的なデザインチェックは僕が行いましたが、初めに軸となるキーワードをいくつかお渡ししてあとは、そこからズレていないかだけを見るようにしました。
ある程度の軸を作るまでが僕らの仕事で、その範囲内で新しいアイデアだったり、面白みだったりを追加していただくという進め方が良いと思っています。佐藤:デザインする中で、主観的になってしまうこともあるのですが、そこに補助線を引いてもらうようなイメージですね。ズレたら直してもらって…というように。
亀田:僕らが使うのであれば、僕らの想いをお話すればいいですが、そうではなく、僕らは「こういった方が価値を感じるオフィスにしたい。それを実現してください。」というやり方なので、お二人とも一緒にお話が出来ればと思って今回アイリスチトセの佐藤さんと横田さんにも同席して欲しいと思っていました。
亀田:逆に僕が聞くのも少し変なのですが、普段はそこに入居する人からデザインを依頼されると思うのですが、やはり普段と違う進め方でしたか?
佐藤:だいぶ違いますね。ある程度のご要望があって、そこから組み立てていくというところが常なのですけれども、不特定多数に向けるとなるとデザインする上では骨の折れる作業が多くありました。
亀田:営業的な側面でも僕らが仮に入居するのであれば、何か迷ったときに僕らに聞くことができると思うのですが、僕らは入居しないので聞かれても「絶対コレが良い!」って言えないんですよね(笑)
横田:特殊な案件ではありましたが、営業として現場を回すことに関しては楽しくさせていただけました。
セットアップオフィスの床・家具・照明、家電もアイリスグループなので、入居されているお客様が自分たちのオフィスを構えるとなった時に私たちのブランドを認知していただいてお声がかかったら、営業としては一番嬉しいかなという想いがあります。
オフィス形態の多様化
今後のオフィスはどう変化していくと思われますか?
亀田:既によく言われている話だとは思いますが「多様化」はすると考えています。
なくなることは無いと思いますが、オフィスに出社しないと仕事ができないという時代ではありません。大企業がフレキシブルオフィスを兼用することもよく聞く話です。そうして働き方が変化している中で成長中のベンチャー企業にフィットするオフィス形態のひとつとして、セットアップオフィスへの需要があると思います。
それも含めて今後は、企業フェーズごと、業種ごとというようにコンセプチュアルなオフィスが出てくるのではないかなと思います。
中小大企業のサテライトオフィスのような位置づけでセットアップオフィスが使われる可能性もあるということでしょうか?
亀田:そう思いますね。
このセットアップオフィスのように新しいサービスを供給したときに、どういう使われ方をするのかが想定とは違うことってきっとあるじゃないですか。
個人的にはそこに面白さを感じますし、「そういう使い方もあるのか…!」という気付きをきっかけにもう少し枝葉を伸ばしてサービスの幅を広げたり、よりブラシュアップしたりしていけるような気がしています。
貴社でもそうした検証は行われたのでしょうか?
亀田:それでいうと今やっているセットアップオフィスは、そうしたオフィスとの差別化を図るためにやっています。
コワーキングなどほかのオフィス形態についても色々と検証はしましたが、
それこそ働き方の多様化によって様々なニーズが生まれている中で、もっと他に供給ができていないところがあるのではないか…?ということでセットアップオフィスを展開しています。例えばこれから成長していこうとしているベンチャー企業が、床・壁・天井しか仕上がっていないところに入居して、家具を買って、天井をスケルトンにしたいならスケルトンにして、時間とお金をかけて作ったのに2年後には手狭になってしまって、オフィス移転をするときには天井を戻さないといけないし、家具も捨てないといけない…!みたいなことって普通にあり得ると思うんですよ。
そこを払拭してあげることに価値があるのではないかと考えています。
セットアップオフィスについて色々とお話させていただきましたが、他社さんにお願いした物件も基本的に同じことしか言っていません。
デザインは「間口の広いもの」と伝えていますが、当然デザインする人が違えば「同じ依頼内容」でもアウトプットが異なります。
そういった少しのブレを楽しみながら、僕らもこのビジネスをブラッシュアップしていければいいかなと思っています。
企業として成長する「過程」で生まれる課題に対して見事にフィットするこのサービスは、新型コロナウィルス感染拡大によってオフィスの存在意義や働き方についての関心が高まり、多様化していく中で今後更に大きく展開していく可能性を感じるお話でした。
本日はありがとうございました!