【インタビュー】~創業145年のはかりメーカーに「新しい風を」 ~設計事務所新築プロジェクト_鎌長製衡株式会社

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【インタビュー】~創業145年のはかりメーカーに「新しい風を」 ~設計事務所新築プロジェクト_鎌長製衡株式会社

創業145年を迎えたはかりメーカーである鎌長製衡株式会社。
同社の「新しい風」をコンセプトにした新築オフィスのプロジェクトについてインタビューしました。

 

~インタビュイー紹介~

生産本部 石橋様 / 総務部企画課 木曽様

環境改善と採用強化を目的にプロジェクトが始動

本日はよろしくお願いいたします。

早速ですが、主な事業内容と会社の沿革について教えていただけますでしょうか。

木曽)産業用のはかりを製造している会社になります。

香川県で1880年に創業しており、初期のころは分銅などを製造しておりましたが、そこから幅を広げて、分銅の技術を活かしてはかりなどを製造するようになっていきました。

現在ははかりの中でも、何十t単位を量る大型のものをメインで取り扱っております。その延長線でトラックスケールと呼ばれるものをメインで製造していて、産廃業者や自治体の処理場で、ゴミや有価物の搬入量を量るのに使用されています。ごみ処理施設(リサイクル施設、中間処分場、最終処分場など)をはじめ、古紙金属回収業、砂利砕石業、電力ガス水道業、化学工業、食品製造業など、幅広い業界で、入庫・出荷管理、在庫管理、配車管理などに使用されています。また高速道路や国道に過積載防止の用途で設置されることもあります。

あとは大型のはかりから派生して、容器をはかりにしたようなホッパースケールの製造も行っており、こちらは飼料工場などで原料を量る時ですとか、配合をする際などに使用されています。

一般消費者からは見えにくい部分かと思いますが、このような産業用のはかりを中心に製造しており、トラックスケール、ホッパースケールは業界の中ではトップクラスの納入実績を誇っています。

ありがとうございます。

続いて本題に入っていきますが、今回のプロジェクトの経緯など教えていただけますか。

石橋)旧社屋が建築から50年以上経過しており、お恥ずかしい話ではありますが雨漏りやひび割れ、断熱性能、耐震性などの様々な問題があったというのが1点。

また社員が増加しており手狭になってきたということから、営業・設計・調達機能の連携を強め、コミュニケーションの質を上げること、また、時代に合わせた職場環境に整えることで、採用を強化したいという思いがありました。

若手が中心になりプロジェクトを推進

プロジェクトのスタートはどのようなものでしたか。

石橋)2020年の1224日のクリスマスイブに、プロジェクトメンバーが社長から招集されました。小回りが利くように最小限で、20代後半から40代前半までの、社内のことが大体わかってきた若手から中堅くらいの男女社員5人で構成されていました。

とんだクリスマスプレゼントをいただきましたね()

社長が若手をプロジェクトメンバーに選出した理由はなんでしょうか。

石橋)当社は幅広い年齢の方が集まっておりまして、上は70歳を超えた技術者さんもいらっしゃいます。旧態依然のところを新しくしたいという思いがあったことと、また、より長く使う人が使いやすいようにする方が良いだろうという意図でもあったと思います。

ありがとうございます。プロジェクトメンバーの5名でそれぞれ役割分担等はありましたか。

石橋)ある程度の役割分担がありつつ、同じこともしつつといった感じでした。

何かを決める時は全員で集まって話をして、その内容をそれぞれが各部署の上層部に情報を流していったり、逆に情報を収集したりしていました。

途中で追加メンバーも入りまして、実は木曽が社内の情報関係担当で、プロジェクトを進める上でDX担当者が必要だということで途中から参加となりました。

オフィスのリニューアルを通して社員の働き方も抜本的に変えていきたかったので。

2020年のクリスマスイブの招集から今までとなると5年くらいの長期プロジェクトですよね。当初は建て替え予定だったと伺っているのですが、新築に舵をきった時期はいつ頃でしょうか。

木曽)プロジェクトがスタートしてから大体1年後くらいだったような気がします。

プロジェクトは1年で一旦ストップ、再始動する際に建替えから、新たに購入した隣接する土地での新築となりました。

旧オフィス

新オフィス

リニューアルを起点に働き方が進化

続いて、以前のオフィスで感じていた課題と今回一番実現したかったことをお伺いできますか。

石橋)課題は山盛りにありました。

50年ということで建物のこともそうですし、長い年月が経ってくると物量も増えてくるので、それらをどうするかという問題もありました。

あとはスペース的な問題で、旧社屋では打合せするスペースが少なく、セキュリティ面も誰でも入れるような状態でしたので、物量、特に書類関係をどう減らすかというところと、打合せスペースや、集中できるスペースなどをどう確保するか、またセキュリティ面をしっかりさせたいと考えていました。

先ほど木曽様はDX関係でプロジェクトにアサインされたとのことでしたが、具体的に何か工夫されたことはありますか

木曽)まずは書類の電子化といったところを進めていました。具体的にいうと今まで勤怠関係は紙で運用していたのですが、そこを先ずはこちらへの移転に合わせて、勤怠関連のシステムをいれて電子化、DX化を図りました。

また、社内のコミュニケーションを図りやすくしたいという思いもあり、設計棟を移転に合わせて今回コミュニケーションツールとIP電話の導入を行いました。

スペースの問題があったということですが、今回の新しいオフィスの方が広くなったのでしょうか。

若干広くなっています。

さらに引越しに伴い書類を仕分けしましょうということで、御社からご提案いただいた、ファイルメーター(fm)という考え方を用いて、自分たちが何をどれだけ持っているか把握しようというところからスタートしました。実際に今回収納できる量と現状を見比べるような資料を作成し社内に掲示して、「みんなで頑張って減らしましょう!」というような呼びかけを行いました。

勤怠の他に電子化したものは何かありますか。

木曽)会議室の予約など細かな部分も電子化しました。

元々は会議室を予約する担当者がいて、その者が管理しているような状態だったのですが、そちらも電子化しました。

以前は当番制で人が管理していたということもあって、担当する人によっては融通がきかないなど困っていたのですが、電子化したことでそういったこともなくなりました。

一般社員から役職者まで自分の好きなタイミングで好きな場所をとれるようになったので好評です。

そのような課題もお持ちだったのですね。

環境を変える、それを若手が主導するとなると、従業員の意見を取りまとめて全員に納得していただく、その部分がとても大変だと思うのですが、どう推進したのかが気になります。

木曽)まさに難しいところでして、進めていくと様々な所から色んな意見が出てくるので、その都度、丁寧に対応していくということをやっておりました。

できるだけ社内の混乱を防ぐため、何かの導入前には先ずは必ず掲示ということもやって、「このようなことを計画しています」という情報を流しラップ期間を設けていました。

プロジェクトを進める中で、プロジェクトメンバー目線で大変だったことはなんですか。

木曽)私は引越し直前になって、設備関係が実際に使ってみると思ったような設定になっていなかった、というところが多く見受けられ、それを上手く使えるように設定を変更することが大変でした。

石橋)役員の方々との意見調整ですかね。

従来的な話し合いにおいて、役員の方々には役員なりの理想像というものがあったので、そことどう折衷していくかというのが、自分だけでなくプロジェクトメンバーはかなり苦労したかなと思います。

あとはここに移転する前に建物の内覧などを行って、これから働くところはこんなところですよ、と周知していたつもりではありましたが、うまく浸透しきれなかったなと感じています。ルール作りに関しては現在進行中です。

あとは、建築の制約上できないことがあったり、なんとか形にしてみたものの実際に使う人からは不満の声があがったりしたので、そういったところは苦労しました。

エントランスがブランディングの場に

リニューアル後の従業員の皆様の反応や、よかった点、改善できそうな点はありますか。

石橋)よかった点として3点ほどありまして、1つがロビーの雰囲気です。以前のオフィスでも一応当社製品の展示はしていたものの、このような美術館のように展示するようなスペースをご提案いただいたというところがすごくよかったです。自分たちの製品がこんな風に展示されて見られるということに感動しました。

2点目は執務室でして、こちらは以前のレイアウトとは大幅に変えております。特に大きなななめの導線のレイアウトでしたり、上長の席を真ん中にして左右に分かれるようなレイアウトは、当初は賛否あったものの、使ってみると死角なくオフィスを見渡すことができ、所々若干の籠ることができるスペースがあったりして、そのメリハリつけたレイアウト設計が非常に好評です。

あとは不足していた打合せスペースも、デスク横に設置したテーブルで打合せを行うなど効率よく活用できています。業務上どうしても自席では賄いきれない量の書類が発生しますので、そういった書類をそのスペースで処理するなど、多くの場面で活用しています。

社員自ら環境にフィットさせてご活用いただいているようですね。

エントランスを拝見して御社の製品や歴史に触れることができ、ブランディングになっている空間だと感じたのですが、社員のマインドの向上にも寄与していると感じますか。

石橋)そうですね。長年勤めている社員でも、特に開発や設計以外の事務員の方々は意外と自分たちの製品を見る機会がありませんでした。当社のカタログなどでは見ていても、実際のものを見て「このような製品を扱っているのか」と誇らしく思っていただきたいと考えておりまして、従業員のエンゲージメント向上に繋がって欲しいですね。

 

鉄下駄や分銅も置いてありましたが、そういった会社の歴史を知ることでさらに会社に愛着が湧く、とてもいい演出だと思いました。

他には採用活動への影響も期待しています。

エントランスは当社のロゴが見える位置で記念撮影ができるようにしていただきたいというのが今回のコンペティションの要望のうちの1つでした。エントランスに入って「鎌長のオフィスに来た」というのがわかるようになってよかったです。

採用についてお伺いしてもいいですか。

石橋)キャリア採用、新卒採用ともに注力しています。

当社は県内で有名かと言われると残念ながらそういうわけでもありません。BtoB(法人向け)のはかりメーカーということで、普段人の目に触れない自社品をアピールしたいという思いがあって、このようなエントランスの設計になりました。

特に新卒採用の場合、学生のエントリーは知っている企業に偏りがちなので、そういった状況の中でしっかり作り込んで魅せる空間があるというのは、非常に大きいのではないかと思っています。ですので、エントランスはキャリア採用の方にも新卒の方にもどちらにも宣伝効果といいますか、見ていただきたいスペースになります。

技術や知識の継承を目指して

面接でこちらに訪問した際、エントランスを見ただけでも志望度が上がりそうですね。

続いて、従業員の「働くことへの価値の向上」に向けて取り組まれていること、大切にされていることはありますか。

石橋)今回のプロジェクトでハード面の環境が整ったので、今後はソフト面 – 仕組みですとかDXなど、今はそちらに舵を切って推進しているところです。

そのために心がけていることですが、社員の年齢層が非常に幅広く、使用するツールなどに全員が慣れていただくこともとても大事ですので、丁寧かつわかりやすい説明ができるように心がけています。

まだ不十分なところも多いですが、イラストですとか写真を多用して、誰にでも理解しやすい周知文を作成したりなど、色々試行錯誤しながら進めていきたいと思います。

最後の質問になりますが、プロジェクトを通して社員の皆さんの変化や、今後の施策などありましたらお聞かせいただけますでしょうか。

 

木曽)そうですね、ここに移転したことによって現場との物理的な移動が必要になったりするので、若干連携などが取りにくくなっています。まずはそこに向けて色々改善をしていきたいのと、新工場もできるので、そちらとの連携もしやすいような形で設備やDXも考えていかなければならないと考えています。

石橋)期待する会社の変化で言いますと、私たちが最初に設定したプロジェクトのテーマ「新しい風を」と、サブテーマ、「明るく、協調性あって、生産性の向上ができるような空間」を作りたいというものがあります。今回のリニューアルでそういったことができるベースは整ったのかなと考えています。次は木曽が言っていたような連携といいますか、そこを強化していくこと。そして、技術や知識の継承が難しい、足りていない部分と考えておりますので、それができるような環境を現況の働き方を維持しつつも、徐々にではありますが変化させていきたいと考えています。

 

ノウハウの蓄積や技術の継承、製造業においてとても重要な課題ですね。

本日はありがとうございました。

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