【インタビュー】今治造船株式会社「設備投資から人的投資へ_造船工場の新棟建築プロジェクトとは」
インタビュー

愛媛県今治市に本社を置く日本最大手の造船メーカーである同社。設備投資から人的投資にシフトチェンジした同社の新棟建築プロジェクトについて取材しました。
~インタビュイー紹介~
今治造船株式会社 丸亀工場
生産管理グループ 生産管理チーム
主任 今井 裕士 / 主任 中村 由可莉
人的投資の一環でスタートした新棟建築プロジェクト
それでは本日はよろしくお願いいたします。
では早速ですが、御社の主な事業内容と、こちらの丸亀事業本部の役割を教えていただけますか。
今井)当社の事業内容は船舶の建造です。
今治造船グループは瀬戸内海沿岸に10か所の工場があり、各工場の強みを生かして大型船から小型船まで多種多様な船舶を建造しています。中でも丸亀工場では、ばら積み貨物船、コンテナ運搬船、自動車運搬船等の大型船の建造を得意としており、特に、「ゴライアスクレーン」と呼ばれる3機の門型クレーンを備えた大型ドックでは、メガコンテナとよばれる大きな船の建造を行っています。また、丸亀工場の西に西多度津事業部、東に蓬莱事業部という支援工場があり、丸亀工場だけでなくグループ全体の支援工場としての役割も担っています。
ありがとうございます。
続いて今回のプロジェクトのお話についてお伺いできればと思うのですが、プロジェクトのきっかけといいますか、丸亀事業本部の新社屋建設に至った経緯をお聞きしたいです。

中村)旧社屋が建設から50年以上経っていた建物になりますが、老朽化に加え、耐震性の問題もあって新しく建て直す必要がある、というのが今回のプロジェクトの発端です。
これまでは会社全体として工場設備への投資が進んでおりました。「これからは人への投資を」という社長の考えのもと、設計部門の社屋だけでなく、現場の工場を支える工作部門の社屋も建て替える計画が実行され、完成しました。
計画の話があがったのはいつ頃のお話でしょうか。
中村)最初の話は2019年ごろの話だったかと思います。
その時にプロジェクトが立ち上がり、社長にどのような社屋がいいのかをプレゼンまでしましたが、コロナの影響等もありいったんストップしてしまいました。
その後2022年に設計部門と工作部門でそれぞれの建替えプロジェクトが再度立ち上がり、スピードを重視してプロジェクトを推進した結果、この工作オフィスが短期間で完成し運用開始できました。


旧食堂の様子
リクルート強化や社員の定着も意識したメンバー選定
新社屋プロジェクト自体は社長の直轄ということでしょうか。
今井)そうですね。
この新社屋プロジェクトは社長に直接お伺いできる体制だったことで、意思決定が迅速に行われ、スピード感を持ってプロジェクトを進めることができました。通常のように各部門の役員や責任者を通すと意見が分かれがちですが、今回は一貫した方針のもとで進行できました。
プロジェクトメンバーの選定は社長が行ったのでしょうか。
出来上がった御社のパンフレットを拝見しましたが、若手の方もプロジェクトに参加されていたようでしたので、何か意図があるのか気になりました。
中村)そうですね。プロジェクトメンバーは上長に依頼があり、そこから各チーム若手中心に声をかけられていたと思いますね。本プロジェクトはなるべく若手でという話を聞いたことがあります。
リクルート強化や社員の定着も意識したプロジェクトでしたので、働き方や風土に関して意見がもてるフレッシュな社員が求められていたのかと思います。

食堂を心やすらぐ空間に
続いての質問ですが、以前の厚生棟・食堂で感じられていた課題や今回特に実現させたかったことはありますか。
中村)以前の食堂は本当にただ長机をずらっと並べただけで、所々に老朽化がすすみ、よくあるレイアウトで殺伐とした食堂でした。
今回は椅子だったり、フェイクグリーンなどで食堂に色味を入れていただいたり、社員が心やすらぐような空間になるようにというのを意識して、設計会社や御社などにお願いしました。
何か運用面での変更はありましたか。
中村)前は社員と協力会社の方が食べる場所は別の棟でした。しかし、協力会社の旧食堂もかなり古く、新しくするのであれば協力会社の事務所に近い場所で、食堂の運営設備や人員面でも同じフロアの方がいいのではということになり、今回はエリアを分けてはいますが、同じフロアに組み込んでいます。
また、写真付きで当日メニューを見て事前に食事を選ぶことができるので社員の食欲を刺激してくれています。その他、ロケーション面では照明だったり机のレイアウトを工夫したり、壁面に絵を描いていただいたり、ガラス張りのエリアがあったり、リラックスできる空間づくりにこだわりました。

社員の方の満足感を実感することはありますか。
従来とは違う給仕方法だったり、食器等の変更もあり、当初は給仕のスピードが遅く大人数が並んでしまうような状況がありました。どうやったら並びを解消できるか試行錯誤し1~2週間で対策し、今は食堂の満足度は上がっているような感じがします。
現在、運用を初めて3ヵ月になりますが、経営層の要望もあり、近々アンケート調査を予定しています。
他の工場でも社屋全体でなく食堂だけを建て替えるような話もあるので、今後の為にも意見を募ってほしいと会社側からも要求されています。

食事以外で食堂を利用する工夫
工場がたくさんあると伺いましたが、こちらの丸亀事業本部が皮切りになるのでしょうか。
そうですね。
ここで得た知見や状況を他の拠点に展開させていければと考えています。
丸亀事業本部は社員としては600名程度で、協力事業所の従業員を含めると丸亀工場に関わる人員は2000人くらいでしょうか。そのうち食堂を利用される社員は全体の3割程度です。
一度に全員は入りきらないので、12時スタートの休憩と12時半からの休憩の2回転させる形をとっています。
となるとお昼の時間以外は食堂が空になりますね。
空いている時間帯は気軽に打ち合わせができるようにwifi環境を整備して来客対応やブランディングに使用しています。
リクルートでも活用していて高校生や大学生を案内することもあります。造作の階段状の座席でスクリーンに動画を映して説明を聞くという形式で使ったり、お昼を挟む場合は実際に食堂で食事をとっていただいたりしています。やはり造船のイメージとして、3K(きつい、汚い、危険)のような良くないイメージがどうしてもあるので、こういったところで良いイメージをもってもらって「ここで働きたい」と思ってもらえたらいいなと考えています。
働く場所がきれいになることで人材雇用にも大きく寄与しそうですね。
やはり若手社員の雇用の確保において課題があり、業務的にきついというイメージもありますし、夏場は仕事場である外はすごく暑くて、社屋に帰ってきても殺伐とした風景が広がっている、という従来の職場だったのですが、完全に気分を一新できるような空間、外から戻ってきて安心できるような空間を心がけてつくりました。


変化したオフィスと働き方
食堂以外の事務所の環境も随分と変わりましたか?
中村)大きく変わりました…デスク等のレイアウトも大幅に変わりましたが、交流スポットを増やしたり、打合せできる場所も多く点在させて気軽にちょっと立ち話をしたりできるスペースや家具が増えたので、コミュニケーションが取りやすくなったと思います。
私は比較的事務所にいることが多い部署に所属していますが、オフィスの雰囲気事体が明るくなって働きやすい会社になったと感じでいます。
いい意味で製造業の事務所らしくない雰囲気だと思います。
中村)就職を希望する学生さん側の視点でみても、近隣の製造業と比べた時にこういった雰囲気はアピールになりますよね。働く環境が違うと同じような仕事内容でも随分違って感じますからね。
お話をお伺いしていると施設の更新というよりは社員への投資のように感じたのですが、プロジェクト全体で力を入れた部分はありますか。
今井)旧社屋との比較でいきますと、個人のロッカーでしょうか。以前はロッカーがある人と無い人がいましたが、今回は1人につき1つのロッカーを役職等関係なく全員に与え、業務のオン・オフを切り替える場所として提供しました。そこは個人への投資というところである程度お金をかけた部分ではありますね。
業務のオン・オフを切り替える…というのは具体的には?

従来の働き方として、一部のロッカーがある方を除いて、作業着を着て出社し、仕事が終わったらそのまま退社するという状態でした。そこがなんとなくダラっと働き出す、退勤するということに繋がると考えたので、出社前と後でロッカーに立ち寄ることで切り替えの場所をつくり気分をリフレッシュする目的です。
別プロジェクトですがたまたまタイミングがあって制服も変わったので、より変化が生まれてちょうどよかったです(笑)
より切り変わった!という感じがしますね。
他にも何か変えたことはありますか。

今井)以前、他社の新しいオフィスを見学させていただいたことがありました。
その中でも特にいいなと思って導入させてもらったのが、「現場装具置き場」で、美観を保つために安全ベルトやヘルメットを外に置くようにしました。
せっかく事務所を新しくするからには、綺麗な状態を維持しようということで。
最初はやはり抵抗があったみたいで面倒だという意見もありましたが、やれば慣れるもので、今はもう定着しており、ルールを変更してよかったなと思っています。
そういったルールは最初が肝心だと思うのですが、運用進めるにあたって困難でしたり、大変だったことはありますか。
今井)働き方が変わるのでプロジェクトメンバーで協議して、社屋の使い方のマニュアルをつくりました。執務空間の中で安全靴を履くのを禁止したのですが、どこまで土足を禁止にするかなど意見が分かれたりして、程度や加減が難しかったです。
社員全体の意識の統一やルール定着のために行ったことはありますか。
今井)現状実施しているのは毎月のパトロールです。プロジェクトメンバーは社屋完成で解散するのではなく、逆にこれから維持・向上していくために活動していこうと考えています。

これからの施策について
「働くということの価値」や「働きがい」の向上に向けて現在取り組まれていることや重要視していることがあれば教えてください。
今井)どうしても若手の職場離れが課題としてあるので、そこをなるべく解消できるようにコミュニケーションする場所を増やす、というところですかね。
あとは従来でしたら上長や役員が前にずらっと並んでいました。今のレイアウトは工場長と副工場長、あとは専務や常務などの役員のみを独立席としています。それ以外の方はチームに入っていただいてコミュニケーションを取ることに力を入れていただいています。
ありがとうございます。
最後に今後、今回のリニューアルを通して期待している会社の変化でしたり、今後の展望はありますか。
今井)それこそ最近は新しく会社見学会も行っているのですが、その中で当社内でも他工場で改装プロジェクトを進めたいという意見を聞いたりします。その際に、今回の案件でどういったことがネックになったであったり、どのようにプロジェクトメンバーを集めたであったりですとか、そういうことをよく聞かれるので今後は本件を事例に当社の他のオフィスも同様に横展開していければと考えています。
今回と同じようにすることが正解なのかは私たちにもまだ分からないですが、きれいなオフィスで働けていいなと思いつづけてもらえるようにしたいです。
綺麗な状態を維持することで社員のエンゲージメントを高め、維持していきたいということですね。
本日はありがとうございました。